夕焼けのベランダ
啓介と同棲を始めた部屋の窓の外からは橙色に辺りを照らしている赤い夕陽が白くて薄いレースのカーテンを通って部屋に射し込んでいた。由佳はまだ目覚めたばかりで視界がぼんやりとしていて頭がすこし重く、体を起こすと全身に倦怠感のようなものを感じたので、手を上に挙げて背筋を伸ばし、深く息を吸って吐いた。啓介といつもなら二人で寝ているはずのベッドは一人で寝るには少し広くて、由佳は無意識のうちにベッドの端の方に寝ていたのに気付いた。由佳はベッドから降りると立ったせいでより体の倦怠感を感じたが、そんなに疲れるようなことはしていないし、体がただなまっているだけかもしれない。由佳は部屋の奥へと行き、カーテンを開けて大きなガラス窓の鍵を外して横に引くと、体の中から浄化されていくような涼しくて心地の良い秋の風が部屋に吹き込んできた。ベランダに乱雑に置いてあった黒のサンダルに素足を通して、ベランダの上に出ると、さっきまでの倦怠感がなくなったような気がした。ベランダは二人で暮らすマンションにしては相応の広さで、ここに小さな花壇くらいなら作ることもできそうだったが、今は端の方にエアコンの室外機があるだけで、他には洗濯物を吊るす物干しやハンガーが掛けてあるだけだった。銀色の少し塗装のはがれた柵は築二十年のマンションの歴史を感じさせたが、部屋の中は数年前にリフォームをしたと聞いたので、普段は古さを感じなかった。
夕焼けのベランダ