うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(1)

一 おしっこ王子の登場

「ごちそうさま」
 僕は朝ごはんを食べ終えると、手を合わせ、席を立つ。
「もう、行くの?」
「うん。学校に行くよ」
「忘れ物はないの。ハンカチに、ティッシュは持った?」
 ママが僕の背中から声を掛ける。
「大丈夫だよ。昨日から、ちゃんとチェックしているよ」
 僕はズボンに右ポケットにハンカチを、左ポケットにティッシュを確認した。そして、ランドセルを背負うと、「じゃあ、行ってきます」とパパとママに声を掛け、リビングルームをでた。靴を履いて、玄関のドアを開ける。急に、おしっこに行きたくなった。やっぱり忘れ物があった。僕は靴を脱ぎ捨て、トイレに駆け込んだ。
 ジョー、ジョー、ジョー、ジョボ、ジョボ、チョン。ああ、気持ちよかった。僕はおちんちんをパンツにしまい、タンクのレバーを回そうとした。その時だ。
 ジャジャジャジャーン。
 たまり水に小さな人形が現れた。おしっこ王子だ。久しぶりに会った。僕は親しみをこめて声を掛けた。
「どうだい、僕の体の調子は。おしっこ王子」
「そうだな。色は黄色だし、量も適当だから、ちょうどいいんじゃないか」
 おしっこ王子はまるで僕のかかりつけ医のように診断した。でも、さすがに白衣は着ていない。体は黄色だ。
「じゃあ、流すよ」僕は学校に遅れては困るので、おしっこ王子との会話を切り上げて、タンクのレバーを回そうとした。
「ちょっと待った」
 おしっこ王子が水の中から大きな声を出した。
「どうしたんだい。僕の体に異常があるのかい」
「いいや。君の体は健康だよ。特に異常はないよ」
「じゃあ、流すよ」
 僕は学校に遅れないかと心配になった。それでも、おしっこ王子は会話を続ける。
「ちょっと待ってくれ」
「何を待つの」
 おしっこ王子は腕を組んで目をつぶっている。急いでいるんだけどなあ。僕は心の中で思ったけれど、口には出さなかった。おしっこ王子は、目を開くとおもむろにしゃべり始めた。
「僕はこれまで、君の体の中で、君の成長のために、いろいろと働いてきた」
「うん。それはわかっている。君のお父さんのうんこ大王と一緒に、僕の成長のために、食べ物から栄養素を吸収してくれているんだろ」
「そうだよ」
「君たちには大変感謝しているよ」
 僕は早く話を終わらせかったので、早口でしゃべる。それでも、おしっこ王子の話が続く。
「確かに、僕やうんこ大王は君を体の中から守っている。だけど、それでは十分じゃないんだ」
「十分じゃないって?
「だってそうだろ。お腹の中に入ってきたものは消化したり、いらないものは排出したりしているけれど、それじゃあ遅いんだ」
「何が遅いの?」
「そう、遅いんだ。君の口に入る前に、その食べ物が大丈夫かどうかを選ばないといけないし、食べ方も指導しなくちゃいけない。それに、君が住んでいる世界は、車や多くの人がいるだろ。それらからも、君を守らないといけないんだ」
「それはわかるけれど。でも、どうやって僕を守るの?」
「いい考えがあるんだ」
 おしっこ王子はザザザザザーと水中から飛び上がると、僕の胸ポケットの中に飛び込んだ。
「ええ!」僕は驚いた。濡れるじゃないか。それにおしっこの臭いがするんじゃないのか。ばっちい。でも、自分のおしっこだ。自分のおしっこをばっちいと思うことは、僕自身もばっちいということになる。ここは、ガマン、ガマン。
 僕の驚く顔を見て、おしっこ王子は
「まさか、ばっちいと思っているんじゃないだろうね」
と、顔のすぐ横でにらみつける。
「まさか。おしっこ王子と僕は一心同体だよ。ばっちいだなんてとんでもないよ」
 僕は表面上、首を振るものの、内心は自分の考えが当てられたので、心の中では舌を出している。
「君の心配は無用だよ。表面張力のおかげで、君のポケットは濡れることないし、臭いも拡散することはないよ。閉じ込めているんだ」
 僕はおしっこ王子に気付かれないように臭いを嗅ぐ。クンクン。確かに臭くもないし、胸ポケットは濡れていない。これなら、おしっこ王子が言うように大丈夫なのだろう。
「わかったよ。じゃあ、学校に行こう」
 あれこれ考えていると学校に遅れてしまう。なんとかなるだろう。僕はおしっこ王子と一緒に玄関を出た。

 その頃、お腹の中では。
「隊長。朝食の栄養は全部、吸収しました」
 リキッド班の隊員が報告する。
「ご苦労」
 仕事が完了したにも関わらず、隊長は浮かない顔だ。
「隊長、どうかしたんですか。何か心配ごとでもあるんですか」
 副隊長が隊長の側にやってきた。
「うん。王子がいないんだよ」
「王子がいないって、どこへ行ったんですか」
「わからない。お腹の中を全て探したんだけど、いないんだ。大王には仕事が完了したことを報告しないといけないんだが。どうしたものかなあ」
 隊長は腕組をしたままだ。
「おい。王子を知らないか」
 副隊長が隊員に尋ねた。
「王子なら、さっき、お腹から出て行かれましたけど」
「どこへ行くと言っていた?」
「ちょっと、主人に会いに行くとおっしゃってました」
「そうか。出ていったか。仕方がないな」
 隊長はその話を聞くと、
「わかった。今から大王に仕事が完了したこと報告するよ」
「王子がいなくなったことは?」
「言わないわけにはいかないだろう」
 隊長はゴーヤとにが瓜を同時に消化したような顔で大王の所に向かった。

うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(1)

うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(1)

おしっこ王子が僕と一緒に学校に行くことになった。一 おしっこ王子の登場

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-10

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