桃花物怪怪異奇譚 裸足童子とたぬきの姫君1 序
よろしくお願いいたします。
京都の大学生、田中光顕は、ある夜、狛犬を連れた平安装束の少年に出会う。
1序章①
今は昔、一人の少年が山中を彷徨っておりました。一条戻り橋を北へ北へ、賀茂川を越えてずんずん東へ東へ、数多の渓谷、峠を越えた辺りの人里離れた山奥です。太陽が中天に座する頃合いですが、絡み合った枝が自ら陽の恵みを拒み、深い湿気を帯びた闇に覆われていました。
童水干という軽装で、伸ばし掛けの御髪を垂れ髪にした齢にして十二、三、元服前の少年です。きつく絞った指貫の裾からは白く張りのある脹ら脛がすらりと伸びておりますが、絲鞋も履かず、裸足で落ち葉の積もる山中を徘徊しております。いくら土を踏みしめても、その足の裏は不思議と真白いままで、一切の汚れをはね除けておりました。少年の足取りは軽やかで、彷徨っている不安など毫もありません。その辺に落ちていた木の枝を威勢良く振り回しながら、切れ長で優美な目の奥にある瞳は好奇心に輝き、形の整った薄い唇から今にも歌がもれ聞こえてきそうでした。
行けば行くほど闇は濃くなるばかりです。少年は人ならざるモノの気配を察し、ふと足を止めました。背中で一括りにした黒い垂れ髪がざわりと不穏に揺れました。
ここは、もしや、その昔、京随一の陰陽師安倍晴明の命を受けた源頼光が討伐したという酒呑童子が塒としていた山ではあるまいか。斬首された後、かっと目を見開き、永劫の呪いの言葉を吐いて、首だけで飛び去ったというが、やはり、かの鬼の呪詛が未だこの山に残っているのであろうか。いや、あれはもっと西のはずれにある御山だったはず。
少年がむむむと眉間に力を入れておりますと、どこからか、しくしくとすすり泣くような声が聞こえて参りました。その声は子供にしては野太く、女にしては低すぎる、有り体に言ってしまえば大の男がさめざめと泣いている声でございます。その声は山中の一番闇の深い場所から聞こえておりました。
何者かの罠かもしれない。
と思いつつ、そもそも彷徨い歩く少年は目指すべき処もございません。手にしていた木の棒をぽいと捨てやり、声のする方へと足を向けたのでございます。
藪をかき分け木の股をくぐり、道無き道を進んで参りますと、足下に小さな湧き水が現れて参りました。暫し立ち止まり、その湧き水から飲み水を汲もうと腰に下げていた竹筒を取り出していたところ、その僅かな間に、ちょろちょろと流れ出ていた水が小さな川ほどの流れにまでなっております。これは異なことと思い、一口その水を舐めてみますと、驚くことに塩辛い。
これはますますもって化生の類いの仕業に相違ない。
少年は、口に含んだ塩辛い水を吐き出し、小川に添って再び足を進めました。数十歩も行かぬうちに小川は大きな流れとなり、少年は避けきれずに川の流れに膝まで浸かる羽目になりました。水が指貫の裾を舐め、少年はさも不愉快そうに白い顔を曇らせ、苛立たしく川底をつま先で蹴りますと、童水干の長く垂れた袖がふわりと風を孕み、その痩躯が宙を舞ったかと思えば、次の瞬間には、一三尺はあるおおきな杉の木から突き出た太い枝の上にちょこんと座っておりました。水に浸かっていたはずの少年の足は、少しも濡れておらず、汚れも寄せ付けずに真白いままでした。枝の上で一息吐いた少年は眼下に流れる川を眺めます。
泣き濡れる声はどんどん大きくなり、川が流れる音とも相まって、ごうんごうんと当たりの山々を揺るがすほどになっております。水嵩は更に増し、周囲の木々や岩をも巻き込み濁流と化しておりました。
このままでは麓の集落にまで危険がおよぶ。
少年は木の上から水源らしき場所に目を向けました。すると水の向こうにちらりと何かの姿が見えます。よくよく目を凝らせば、それは色も剥げ落ち、朽ち果てかけた鳥居でした。鳥居の両脇には木製の狛犬二頭が鎮座しております。少年はその狛犬たちに向かって大声を張り上げたのです。
「申す、申す。そこな狛犬殿、これほどの川を作り出すその神力、さぞかし名のある山神様のご眷属とお見受けする。尊き神のご眷属が何故このような所業に及ばれるか。このままでは、麓の民に大いなる災いをもたらすは明白。疾く、止められよ」
少年がそう叫んだところ、山々が一度大きく鳴動した後、山麓を飲み込まんとしていた濁流が一瞬にして消え去りました。後に残るはもとの精気を失った木々のみです。少年はしばし呆然となりました。
「はて、狐にでも化かされたか」
そう呟くと、鳥居の右脇から手加減のない怒声が飛んで参りました。
「この戯け者が。我ら誇り高き山神様の眷属を浅ましい狐の類いと間違えるなど不敬にも程がある」
すると今度は左側からのんびりとした声が聞こえて参ります。
「まあ、そう怒るでない。ちょうど良い、そこな人間、見たところ、貴様もまた只人ではあるまい。貴様が斯様な山奥に迷い込んできたのも何かの縁じゃ。ここまで来るがいい」
少年は木からするりと滑り降り、慎重に地面に足を下ろしました。濁流に呑まれていたはずの地面はそんな様子を露ほどもみせず、乾いた落ち葉のかさつく感触が足の裏に心地よく残りました。
1序章②
少年は垂れ髪を翻すと、言われたとおり鳥居を目指しました。暫くいくと、所々崩れ落ちた石段の上に色褪せた鳥居が確かにありました。少年が典雅な所作で衣の袖を払い、その石段を上っていきますと、鳥居の両脇に阿吽の口を模った狛犬たちが大きなぎょろ目をこちらに向けております。
「よう来た、人間。恥ずかしながらこのように古びた神社ゆえ大したもてなしも出来ぬが急場を凌ぐ休息所とでも思うてゆるりとしていかれよ」
こう話しかけてまいりましたのは向かって左側、吽形の狛犬です。堅く引き結んだ口元から立派な二本の牙が覗いておりますが、狛犬の常ならず、目つきはどこか穏やかでした。
「こら吽狛、この者は我らを狐の類いなどと罵ったのだぞ。歓待してどうする」
雷鳴の如き重い声で唸るのは右に座した阿形の狛犬でした。かっと開いた口の中には鋭い牙が何本も揃っておりました。
「しかしな、阿狛。おぬしの大落涙が山麓の民を脅かしたのは事実であろう。この者の声で、おぬしの涙も止まったんじゃからの。みればまだ童ではないか。そう憤ることもあるまいて」
「我らを狐と間違うとはあるまじき。我らが山神姫を愚弄したも同じじゃ。それを、お前は……」
言いながら阿狛は見開いた両眼からまたもやボロボロと涙を流し始めました。目からだけでなく、太い牙が覗く口や、大きく膨らんだ鼻腔からも決壊した河川のように大量に液体を放出し、それが大きな奔流へと変わってゆきます。
「待て待て、阿狛。お前は感情を激し過ぎる。さっさとその水を止めんか」
慌てて、吽狛が制します。
そのやり取りが何だか長閑で、少年は思わず笑ってしまいました。
「わはは、まさか山奥で、こんなにおもしろい神の眷属に会えるとは」
「貴様、またも我らを愚弄するかっ」
阿狛がくわっと口を開けて威嚇のうなり声を上げました。しかし、少年は恐れる様子もなく、興味深げにマジマジと阿狛を眺めました。そして、鎮座する一対の狛犬達の真ん中にふわりと座ると、柔らかな仕草で頭を下げました。
「私は鹿王と申す。狛犬殿の怒らせてしもうたようだな。日々山中で修行に明け暮れておるゆえ、人からは世間知らずとわれておる。他意はないのだ。すまぬ。」
鹿王と名乗った少年はおっとりとした口調でそう言います。身なりのよい少年が、何の躊躇もなく容易に頭を下げたため、狛犬達はぎょろ目をさらに大きく見開き、無言で鹿王を台座の上から見下ろしました。
「で、狛犬殿。貴方達はどうしてそんなに悲しんでおるのか。こうして出会ったのも何かの縁。私に話してみてくれぬか」
鹿王はやんわり話しかけます。懐より蝙蝠扇を取り出し、口元を隠す所作は優雅そのものでした。狛犬達は気まずそうに暫し無言で顔を見合わせ、やがて頷くと、
「ならば」
と吽狛が重々しく話し始めました。
「我らのお仕えする山神姫は古き都の時代より松山は久万山の岩屋におわす隠神刑部の眷属八○八匹に数えられる由緒正しきタヌキ神であらせられる」
続いて阿狛が大きく開いた口を綻ばせながら、浮かれた調子で言い募ります。
「松山は古来より麗しき湯泉に恵まれた土地。我らが姫は名湯の産湯に浸かり、その肌は珠のように白く美しく、御髪は豊にて烏の濡れ羽色であった。唇は紅など指さずともアオハダの実のように赤く、鈴の音のように澄んだお声で、我らの名前を呼んでくださった。この御山にお移りになったのも、先の山神である樹齢五○○年の老木がついに立ち枯れをおこし、御山が荒れ果てたことに心を痛めてのこと。心根のお優しい姫神様なのじゃ」
鹿王は、口々に己の主君を褒める狛犬達に、ほうほうと愛想よく相づちを打っておりました。
「つまり、狛犬殿の主は、この山を守る美しき山神にして、もとを辿れば伊予の国のタヌキ姫であらせられると」
狛犬たちは、がくんがくんと何度も嬉しげに頷きました。
「姫のおかげで御山は、緑が繁り、清き水の流れる姿を取り戻していたのじゃ」
言われてみれば、この山は、今は荒れ果てているものの、木々の枝ははりめぐらされ、確かにかつては伸び伸びと成長してきた跡が見てとれました。木々が茂れば、そこに身を寄せる虫や小動物達が増えます。そうなればその虫や小動物達を糧とする生き物もまた生きやすくなるというものです。
鹿王は、なるほどと膝を打ちました。
「山神姫は、この御山を慈しみ大切にしておられるのだな」
「その通り。そなた幼いながら、なかなか利発ではないか」
調子よく声を上げたのは阿狛でした。鹿王はそこで僅かに目を細め、蝙蝠扇でまた口元を隠しました。
「では、なぜその山神姫の御座すお社がこんなにも寂れたのであろうか」
二頭の狛犬はむむっと唸り、ぎょろ目を見合わせます。しばしの沈黙の後、口をへの字に曲げた吽狛が、再び声を落として話し始めました
「そうであった。大事なのはここからじゃ。実はな。姫は今このお社に御座さぬ」
ふむふむ、と鹿王は頷きました。お社の荒れ具合を見ればそれは容易に想像できました。
「というのも、麗しくも慈悲深い姫は酒造りがお得意でな。酒がこんこんと尽きることなく湧き出でるタヌキの徳利をお持ちだったのじゃ。その酒は、ただの酒ではないぞ。一度口にすれば万病を瞬く間に治すという妙薬。姫は慈悲深いゆえに、御山のタヌキのみならず、傷を負った鳥、病を患った木々・・・と分け隔てなくこの酒をお与えになっておった」
「それをじゃ!」
急に割って入ったのは、かっと口を開いてどう猛な牙を晒した阿狛でした。
「こともあろうに、その噂を聞きつけた都の人間が姫を欺き、徳利を奪って逃げたのじゃ。神力の込められた徳利を奪われた姫は嘆き悲しまれた。このままでは、御山を守ることも叶わぬとのたまうて、徳利を追って都に下られたのが今より三月ほど前のこと。始めは毎日ほど届いていた姫からのたよりもいつしか減り、今では何の音沙汰もなく」
「同時にこの御山を守る姫の神力も費えてしまい、我らの力では御山の結界を守るのが精一杯。お社も御山も見ての通りじゃ。」
「我ら御山に括られた神使ゆえ、探しに行こうにもこの御山を離れる事ができぬ。姫は一体いかがされたのか。それを思うと心配で心配で…」
阿狛も吽狛も深く項垂れ、ギョロリと見開いた目からほとほとと大粒の涙が流れました。
続きです
1序章③
鹿王は、なるほどねえとおっとり呟き、すぐさま、はっ、と狛犬達の涙の結末を思い出し、
「いかん、いかん、泣いてはならぬ」
ひらりひらり右へ左へ、狛犬達の肩をなでて慰めました。
「ところで、狛犬殿、万病に効くという山神姫の造られる酒は旨いのかな」
「無論」
狛犬達は声をそろえて吠えました。
「姫の造る酒は、貴様ら只人などが口にする白く濁った下劣な酒などではない。水の如く透き通った神の酒じゃ」
「貴様は崑崙にて三千年に一度実を結ぶという蟠桃を知っているか。姫の酒はこの蟠桃の流れを汲む果実と清い水で造られている。仙人すらも酔わしめる。こんなにも陶酔させる桃の花を栽培できるのは姫のみぞ」
「ほう、仙人すらも。それは旨そうだ」
「旨いもなにも、果実のように甘く、それでいて爽やか、冬の凍えた朝の空気のように凜とした、まさに山神姫そのものの美酒!とうかがっておる。我らは口にしたことはないのじゃがな。」
飲みもしないのに、口々に山神姫の酒を讃える言葉をまくし立てる狛犬達に、鹿王は些か閉口しました。しかし、「神の美酒」という単語に、鹿王のあどけない唇はにんまりと綻びました。
「なるほど、山神姫の酒か」
そう言うと鹿王は、大きな音を立てて蝙蝠扇を閉じ、勢いよく立ち上がりました。
「では、私が代わりに山神姫を探しに行って参ろう」
言うが早いか、いそいそと蝙蝠扇を懐に仕舞い始めました。
「なんと、愚かな」
「姫は人の身に化けておられる。そもそも姫は狐よりも一つ多い八つの変化の力を持つタヌキ神。お前如きに見破ることができるはずもない」
「タヌキ姫の変化の術か。なるほど、それは厄介」
鹿王は、暫し思案するように朽ちかけた鳥居を見上げました。
「よしっ、まだ大丈夫そうだ。ちょっとだけ力を貸してもらうこととしよう」
そう呟くと、色褪せた鳥居に手を当て、口の中で何やら呪文のように、もそもそ唱えます。すると、朽ちかけていた鳥居が見事な朱色を取り戻し、半ば廃墟と化していたお社は真新しく杉の香りも清々しい佇まいに変貌したのです。荒れ果てていた敷地内には四季の花々が咲き乱れ、崑崙山の西王母の庭もかくやといった具合の見事な庭が現れました。辺りには甘い香りが漂い、御池には清水がこんこんと湧き出で、その御池の周りを青い低木が枝葉を伸ばし、その枝には薄紅色の花弁が楚々とした風情で甘い風にそよいでおります。
「な、なんとこれは」
狛犬達はあっけにとられ、食い入るようにその様を見つめました。これは在りし日のお社の姿。山神姫が御座し、この神社が華やいでいたころの姿でした。
狛犬達は轟々と喉を鳴らし、嬉しい涙を流します。
「これこれ、泣いてはならぬと言ったであろう。あれは桃の花か。甘やかないい香りがするのう」
御池の周りを可愛らしく彩っている花を指して鹿王が尋ねます。狛犬達は言葉もないと言った態で、嗚咽しながら、しかし涙は堪えて頷きました。続いて鹿王は、おもむろに古木で出来た狛犬達の頭を一撫でしました。すると、今度は、古木の年輪ばかりが目立っていた狛犬達の身体が黄金色に輝く見事な毛並みへと変化したのです。これには、狛犬達自身も驚き、お互いの姿を見合わせて目を白黒させました。
「狛犬殿らはその昔遠き天竺か西域辺りの土地の獅子だったようだな。これは驚いた」
鹿王は、その言葉とは裏腹に、さして驚いた様子もなく、立派な獅子へと変身した狛犬達の背中を撫で、その心地よい手触りを楽しんでおりました。
「我ら永きに渡り姫に仕える身。生まれ出でた頃の記憶など霞の彼方であるが」
阿狛が大きく開いた口の間からそう漏らしましたが、その大きな目には隠しきれない驚嘆が有り有りと映し出されていました。
「しかしまあ、阿狛、お前、見事な巻き毛じゃないか」
正直な感想を口にしたのは吽狛でした。褒められた阿狛もまんざらでもない様子です。互いを繁々と物珍しそうに眺め合う一対の獅子。とそのとき、狛犬達のそのふわふわとした一番巻きがきつい髭付近の毛を鹿王が左右の指で力任せに引き抜きました。
鋭い痛みに、阿狛が思わず悲鳴をあげ、吽狛は口をへの字にして耐えたところで二頭の身体は元の古木に戻っていました。見れば、美しい庭は枯れ果て、お社も鳥居も元の朽ちかけた姿に戻っています。
「何をするっ」
怒る阿狛には目もくれず、鹿王は手の中にある、二頭の巻き毛を見ながらふふふと笑いました。
「これが欲しかったのだ」
そう言うや、黄金色の巻き毛にふっと息を吹きかけました。すると、巻き毛がくるくる宙を舞い、鹿王の手の戻ったときには二匹の小さな狛犬の姿になっていました。
「なんと」
木に戻った二頭の狛犬達はぎょろ目をさらに丸めました。それは二頭の生き写しだったのです。
「私は山神姫のお顔すら存じ上げぬのだから、お側に仕えておる狛犬殿らと探すのが一番効率よい。狛犬殿らはこの御山に縛られているから動けまい。けれど、この分身の二頭なら、私について来られる」
小さな狛犬達はきゅうきゅうと高い声で鳴いたかと思うと、鹿王の左右の肩に陣取って、ちょこんと座りました。
「おお、なるほどな」
と頷く吽狛に、
「しかし小僧、貴様、一体何者なのじゃ」
訝る阿狛。
鹿王は鳥居を指し示し、
「私はとある神格の縁者。このお社に残る僅かな山神姫の神力を分けていただいたんだ」
そう言うと、鹿王は再び蝙蝠扇を取り出し、すらりと広げて優雅に笑いました。
「さて、ではまずは山神姫を探しに参ろうか。それから山神姫と徳利をお探しいたす。もちろん、探し当てたあかつきには、その神の美酒がいただけるのだなあ。ああ待ち遠し」
「ああ、ああ、浴びるほど呑むがいい。神籍に身を連ねているのであれば、大事なかろう。貴様からは変わった匂いがする。ヒトのような神のような」
阿狛は大きな鼻腔を鳴らしました。鹿王は困ったように眉を八の字に下げます。
「それが、私にもよくわからないのだよ。ヒトではない。さりとて神でもない。まあ、酒が呑めるならどちらでもかまわんよ」
「では、くれぐれもよろしくお頼み申す」
最初とは態度がころりと変わって殊勝な声音の吽狛の頭を、安心させるように一撫でして、鹿王は小さな狛犬達を伴い、一路、都へと向かったのでした。
桃花物怪怪異奇譚 裸足童子とたぬきの姫君1 序