宇宙の風に吹かれて

 最初に東京上空を飛行するUFOらしき物体を発見したのは、交通事故を取材に行く途中のテレビ局のヘリだった。UFOの形はいわゆるアダムスキー型で、物理法則を無視したかのような急停止・急発進を繰り返していた。ヘリの乗組員はとりあえず警察と自衛隊に通報したが、UFOがレーダーに映らないため、イタズラ電話扱いをされた。
 通報したレポーターは、思わず舌打ちした。
「チックショー、どうして信じてくれないんだよ。目の前に見えてるっていうのに。あっ、そうか!」
 レポーターは横にいるカメラマンの肩を叩いた。
「おい、あれを映して局に中継してくれ!」
「ええっ、そんなことして、後で怒られないか?」
「かまわん、おれが責任を持つ。今スタジオにいるキャスターとは長い付き合いだ。とりあえず、映してしまえば、こっちのもんだ」
 カメラからの映像は、レポーターのコメント付きで、本当にオンエアされた。だが、ちょうど昼のワイドショーの時間帯だったため、視聴者の多くは映画の宣伝か、UFO特番の予告と思った。
 そのままUFOが飛び去ってしまえば、インチキ映像ということになりかねないところだったが、UFOはどんどん低空に降りて来て、ついに肉眼でも見えるようになった。たちまち街はパニックとなったため、政府から外出禁止令が出された。

 首相官邸では、政府の首脳が協議を重ねていた。
「総理、また米軍から協力の申し出が来ています。いかがしましょう?」
 秘書官の報告に、首相は首を振った。
「当分必要ないと断ってくれ。どうせ、UFOの進んだ技術が目的だ。彼らには前歴があるからな。こんなチャンスをみすみす渡す必要はない」
 官房長官が心配そうな顔で口を開いた。
「ですが総理、国民に危険が及ぶのではありませんか?」
 その質問には、首相の代わりに国防大臣が答えた。
「いや、それはないでしょう。もし、危害を加える気があるなら、とっくに何かやっているはずです。何しろ、レーダーに映らない上に、あんな飛び方をされては、世界中のどんな戦闘機だってかないませんよ」
 首相はうなずきながら、黙ったままの文部科学大臣の方を向いた。
「大臣、相手とコンタクトを取る方法は、まだ見つかりませんか?」
「申し訳ありません。あらゆる周波数に乗せ、様々な言語で語りかけているのですが、未だに」
 その時、別の秘書官が駆け込んで来た。
「テ、テレビをご覧ください!」

 宇宙人らしき相手の前でしゃべっているのは、あの第一発見者のレポーターだった。場所はテレビ局の屋上のヘリポートのようだ。ヘリと並んで、UFOも着陸している。
「さあ、みなさん。わたしはこの宇宙からのゲストに直接無線で話しかけ、このヘリポートに着陸してくれるようお願いし、見事に成功しました。これより、突撃インタビューを試みます。こんにちは!」
 無謀極まりない行為と思われたが、ほっそりして目の大きい、典型的なグレイタイプの宇宙人は、くだけた日本語で返事をした。
「こんちは」
「おお、やっぱり日本語が通じるんですね!」
「まあね。アニメはよく見てるんで」
「ええっ、アニメを見るんですか!」
「ああ、お願いだから、いちいち大げさに驚くのはやめてよ。日本のアニメは宇宙標準だからさ」
「ええーっ、あ、失礼。そうなんですね。ところで、直球の質問で恐縮ですが、地球には何の目的で来られたんですか?」
「目的かあ。そう来ると思ったよ。まあ、しいて言えば、自分探しかな」
「はあ?」
「旅をしたら、本当の自分が見つかるかなって、思ってさ」
「へええ、あ、すみません。で、本当の自分は見つかりましたか?」
「いや。残念だけど、まだだ。もう少し宇宙の風に吹かれてみるよ。じゃあ」
 そう言うと、宇宙人はUFOに乗り込み、アッという間に飛んで行ってしまった。
(おわり)

宇宙の風に吹かれて

宇宙の風に吹かれて

最初に東京上空を飛行するUFOらしき物体を発見したのは、交通事故を取材に行く途中のテレビ局のヘリだった。UFOの形はいわゆるアダムスキー型で、物理法則を無視したかのような急停止・急発進を繰り返していた。ヘリの乗組員はとりあえず警察と自衛隊に…

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  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-08

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