だって好きだから

 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ ガチャ
時刻は午前十時、あぁー今日も一日が始まるのか。
目覚まし時計をとめて思いっ切り背伸びをする。
十分前くらいに鳴る携帯のアラームで起きる予定なんだけど、なかなか出来ないんだよね。
だから二つ目のアラームでようやく起きる。
一人暮らしを始めてだいたい四ヶ月くらい経ったかな?
私は今、大学一年生。嘘、専門一年です。
一週間前くらいに授業が終わって今日もだらだらっと一日を過ごす予定。
あっ、でも今日はいつもと違う。だってなんと今日は、漫画の発売日なのです。
えーっと、まずはウォークマンの電源を入れてフレンチ・キスの「思い出せない花」を聞いてから、出かける準備開始!
この曲、朝聞いたら余計眠くなっちゃうけどなんか心が落ちつくっていうか……。
決めているの! 絶対結婚式でこの曲を流すって。
んータイミングはいつでもいいけど……ってか任せる。
 「こんなに君を愛しているのに その時気づかなかった
    失ってからかけがえのないもの ようやくわかった」
ここが私、一番好きなの! 
だったさ、もしいきなり手紙を渡されてその中にこんな文章が書かれてあったら、どんな男でも好きになれそうな気がする。青春好きの女子達なら共感できるよね?
「あー、あっ、漫画買いに行かなきゃ。」
急いで着替えて近くの本屋さんへ。フェールメールの手紙、最新刊! 
って言ってもまだ二巻だけどね。この話の内容は? 勿論教えないー。

だって気になるならお金だして買えばいいことでしょ?
漫画を買ったら家に帰ってすぐ読む、のではなく電車に乗る。
だって電車なら涼しいし、学校へ向かうつもりで行けば途中で読み終わっちゃうから交通費もかからないで一石二鳥でしょ?
家にいたら、クーラーか扇風機使うから電気代がかかるし、喫茶店は何か飲まなきゃいけないでしょ? そんなお金のかかることはしたくないの。
まぁ実家に行くのも一つの案だけど、なんかねぇ? 
家に帰りたくない時期って誰しもあるでしょ? 一人暮らしを始めた理由もそれ。
実家からも学校に通える距離だし、住んでいる家も実家から一駅だしね。
さぁて電車も来たところだし、この時間帯なら人が少ないから座ってのんびり読める。
電車に揺られて約三十分、
あぁやっぱり私みたいな独り身……彼氏いるから違うけど、少女漫画はときめくよね。
「えっ? これアニメ化されるの? あっ、別の漫画だった」
なんだ紛らわしい書き方しないでよ。本を閉じて、ふと外を見る。
主人公が好きな人の背中を押すって、あー涙こらえるの大変だよね。
本当はそばにいて欲しいのに彼を思って自分の感情押し殺すなんて、あー、えっ!
次巻新キャラ登場! 今度は可愛い系の男子かぁ。買わなきゃ。
あっ、ヤバイ。本に集中しすぎて乗り換えすること忘れてた。
大学行くわけじゃないし、そこら辺で降りて帰ってもいいんだけどね。
「あーこれ読んだから、翔太に会いたくなっちゃった」
翔太は彼の名前ね。もう聞いてよ。さっき私、専門に通っているって言ったじゃん?
よくね、年齢聞かれる時に
「大学一年です」
って答えちゃうの。ぶっちゃけさ、大学も専門もそんなに変わらないじゃん?
大きな違いは二年制か四年制かってことでしょ?
だから翔太と電話やメールする時も、癖で
「最近大学でさぁ……」
「大学生って……」
とかつい、使っちゃうの。そしたら
「お前は専門生! 大学って言葉使うな」
って毎回怒られるの。男のくせに細かいと思わない? どうでも良くない? そんなこと。
昨日もさ、
「専門と大学の夏休みはぜんぜん違う! それぐらいの常識何故知らない?」
LINEで説教始まってさ、もう聞きたくないから放置している。
で、朝起きた時そのトークを見ずに消してやったよ! えっへん。
まぁこれが電話じゃないだけまだましだよ。電話だったら私が出るまで何回もかけてきてはっきり言ってうざくない? 本当、何なのあの人は!
で、それが原因で喧嘩したの。
あーもうむかつくから執事喫茶にでも行ってときめいてこよ!
電車を乗り換えてぶらぶら揺れている間、翔太からのメール
「お前、既読無視するな!」
「夏だからってだらけんなよ」
「はぁー授業かったりー」
お前は母親かって、つっこみたくなるわ。
思ったけどさ、口悪いけど優しいよね。この人。
今に始まったことではないけどさ、なんか一人暮らし始めてから翔太の存在に何度も助けられたからさ。改めてお礼を心の中で言うよ。翔太、ありがとう。
身長が百八十センチぐらいで性格もいいのに、顔はイマイチで口悪い。変な所に細かくて基本、笑わない。照れると可愛いんだけど、それは彼女である私の特権だから皆は頑張って想像して。
さぁて、池袋に到着! 前回友達と行ったから場所はなんとなく覚えているけど、無事にたどり着けるかどうか心配だ。まず一人だからこの人混みに飲み込まれそうで怖いんだけど……。と内心思っているけど身長高いしヒールも履いているから全く問題ない。
えーっと、マックがあそこにあるからケンタッキーはまだ先か。
あれ、前回銀行を見たのは覚えているけど通ってはいないよね?
つまりここは曲がればいいのか。あーどうしよう? 一応ティッシュ貰っておくか。
あ、ケンタッキーあった。うーん、なんかのコンビニまでまっすぐで、その付近を曲がれば着いたよね? 前回は。コンビニに寄ってなんか買った記憶はあるけど、あれどこのコンビニだったけ?  えっーとコンビニ、コンビニ。
あっ、ローソン見っけ。でもコンビニまではまっすぐだったよね?
これ、曲がらないとコンビニの前通れないよね。
コンビニまでまっすぐと、視界に入るでは意味が違うってことにして、よし進もう。
それにしても、前こんなに歩いたっけ? 
人が多いせいか、うる覚えの記憶を辿って歩いているせいなのかなぁ。
翔太がいれば後どのぐらい歩くとか、どこを曲がるとかうざい程教えてくれるのに。
こういう時いないから使えないんだよ。
どうせ、逸れる私がいけないとかまた言うんでしょ?
だって女の子は洋服とか靴、可愛い小物があったらつい足を止めてみるでしょ?
翔太ってさ、最初ガード堅くて手も繋げなかったの。
それで隙をついてようやく繋げたと思ったら手汗酷くて、
でも初めて心臓の音がバクバクって聞こえてなんか幸せだった。
しかも慣れてないから凄く強く握られて、嬉しいけどちょっと痛かったわ。
あっ、コンビニ発見! ファミマ……うん、多分ここに寄ったね。
ここを曲がると、あれ? 行き止まり?
じゃあ戻ってもう少し先に行ったところを曲がってみよう。
そう思ったけど曲がる前に建物が見えたと同時に悲しい現実を私は見てしまった。
そこには、
「本日は臨時休業させていただきます」
と執事が謝罪している絵と共に書かれてあった。嘘でしょ? ここまで来てそれはないでしょ。はぁこれからどうしよう。
「……」
で、結局満喫で癒やしを求めようと決めた私。お金ないけど一人でカラオケ行ったらなんか自分が可哀想に見えるし、翔太に会いたくても今、授業中だから意味ないし……。
こんな暑い中イケメンの為に頑張って歩いたのに無駄足になるとは思わなかったよ。
満喫は地元の方が安いからはぁ戻るか。
人の少ない電車にまた揺られながらしばし仮眠をとって帰った。
満喫は駅の近くにあるので、一秒でも早く漫画が読みたいのと涼しい場所にいたい。
そしてポツポツと雨が降ってきた理由もあり、とにかく走った。
これが制服着た高校生とかだったらいい絵になるだろうけど、卒業したら同時に青春ともおさらばになりつつあるからなぁ。なぁんて、十代の私が言ったら皆ちょっと怒るよね。
携帯をふと見ると翔太から、今何やっているのとメールがきていた。
「執事喫茶でイケメンに囲まれている」
決して可愛くはないけど大事な彼女を一人ぼっちにさせた罪よ。
夏休みに入ってまだ誰とも遊んでないし、
まぁ来月に集中しすぎた私もいけないかもしれないけど、相手の都合にあわせた結果なの。
自分の都合言うのは翔太だけだよ? 私そんな自分勝手じゃないしー。
嘘だけどそうなる予定だったから、嫉妬してくれるかなって期待も込めて送ったのに
「で、本当は何しているの?」
だってさ。なんか俺はお前のことなんか全部知っているって言われているみたいでムカつかない?だから怒った絵文字送ってみたら
「もし本当にお前が行っていたら、違う文章送ってくるはずだから。
どうせ臨時休業とかで休みだったんだろ?」
ヤバイ、バレてる。しかも臨時休業のところまで。
分かったよ、本当のこと書けばいいんでしょ?
「今、どこにいるか知ってる?」
「興味ないけど一応聞いておく」
「じゃあ教えない」
「はぁ? 教えろよ。 まず誰といる」
うーん、今受付にいるから男と一緒って書いても嘘ではないよね。ま、いっか!
「男性だよ」
「そいつとはどういう関係だ」
どうしよう。何て返せばいいんだろう? あっ、そうだ。
「知り合いだよ」
「そんなの分かってる。俺が聞きたいのはそういうことじゃない」
はぁー、もうなんか疲れてきちゃった。無視しとこ。
携帯しばらく放置して昔の漫画を読み返していた。昔のって言ってもそんな五年とか十年前のじゃなくて、二・三年前くらい? 簡単に言うと実家においてきた漫画を読んでいるの。
 「思い出せない花が 寂しげに咲いている
   線路脇にそっと雑草の中 白いあの日の花」
今でもこんな女の子になりたいと思っている。翔太が身長高いおかげで見た目はあまり気にしなくなったけど、漫画に出てくるようなフリフリの洋服は着てみたい。
まぁ少し抵抗あるんだよな。それにさ、聞いたの。
「私がフリフリの洋服着たらどう思う?」
「似合わないって真顔で言ってやる」
これを彼氏に言われたらもうやる気もおきなくなるわ。しかも大学の……じゃなくて専門の文化祭? で、私をメイドにさせる派と男装させたい派で意見が分裂しちゃって。出来ればどっちもやらないで普通に過ごしたいのが本音だけど、そんなこと言える雰囲気じゃなかったから。これをあいつに言ったら
「俺は男装に一票だな。面白そうだし」
ダメだ、彼氏に同意を求めようとした私が悪かった。
なんとなく携帯に目を向けたら、何この電話の数!
びっくりした。約一時間の間にメールと電話がこんなに来ていたなんて。今、授業中のはずなのに何やっているの? なんか男女逆転しているようなきがするのは私だけ?男のくせにこんなまめに連絡されたら普通の人は別れたくなるわ。まぁ私は多めに見ているから別れたいとかあんまり思わないけどね。さて、電話……やっぱりやめてメールにしよ。
「何か用?」
「ん、明日授業サボる」
「はぁ。そこまでして会いたくない」
「嘘だよ。元々休み」
本当かよって突っ込みたいけどなんか疲れそうだからやめよう。
「で、今どこ?」
「満喫だけど」
「はぁ? そんな暇と金あるなら料理の勉強でもしろ」
何それ? じゃあ言うけど、前あった時よりかは上手くなっていますからね。
一人暮らししているんだからそんなの自然と出来るようになるの!
言っても無駄だから心の中にしまっておくけど、ね。
 明日、明日かぁ。どこに行こうかな?
カラオケはこの前行ったし、映画は来月友達と行くし……ディズニー、ディズニー行きたい。
翔太どうせお金はあるから問題ないよね。
あー、ホテル泊まれるぐらいのお金があったら朝早く起きて電車に乗らなくてもいいし、始まるちょっと前に入れるから並ぶ必要もないのに。
やっぱり会いたいなぁ。どうせ明日会えるけど満喫お金かかっているし、一応。
暇だから交通費、結構? 少し? かかるけど行こう。
翔太の大学、田舎だから一回帰って虫除けと日焼け止めつけなきゃ。
よし、いい感じのところで読み終わったしもう帰るか。
 でもいくつか問題がある。まずは大学までの行き方が分からない。翔太に聞けば早い話なんだけどちょっとお忍びで行って驚かせたいから絶対に聞けない。携帯あるからいつかは辿り着けるでしょう。その次に問題なのは、無地に到着したとして彼はどこにいるの?
授業中ならまだいいけど、最悪の場合、学校にいないってことも可能性としてありえる。
その時は明日なんか買ってもらうしかないでしょ。よし、じゃあ一回帰るよ。
家に帰った私は音楽を聞く暇もないほど大忙し。
まず、日焼け止め塗って化粧も直して、虫除けは少し匂いもついちゃうからなるべく離してからかけて最後に香水つけてバッチリ! あっ、ネックレス忘れるところだった。
これはね、お守りなんだ。でも、ずっとはつけないで翔太とあう時のみにしている。
なんか、卒業式の日に
「あんまり会えなくなるけど、これを俺だと思って」
って渡されたから、それ見ていると本当に会いたくなっちゃうの。
普通の安物なのに好きな人の言葉によって魔法がかけられたみたい。
玄関でヒールを履こうとした時はっと気づいた。
日傘を持っていくべきかどうか。私にとってはかなり大事なことだ。
夕方でも夜でも田舎はなめてはいけない。どこに敵がいるのか分からないからだ。
 私は田舎が大嫌いだ。テレビで見ているだけなら、綺麗とか行ってみたいとか誰しも思う。
実際は万全な準備をして行かないと後悔するからね、私みたく。
あれは夏だったからしょうがないことだけど、
たった一時間で腕と足が真っ赤になって(日焼けじゃないよ)
どこもかしこも虫、虫、虫が競争しているのかって言いたいくらいにうるさいし
確かに景色は綺麗だったし、私少しだけ目が悪いけど夜になったら星がこんなにはっきりと見れるものなんだと思うくらい本当に綺麗だった。
嘘じゃないよ、嘘だと思うなら行って確認してきてよ。
辺り一面の向日葵畑で写真撮って、スイカ割りも花火もして楽しかった。
虫の鳴き声と日焼け? 暑さ? と蚊さえここにいなければ、最高だったのに。
蚊なんて絶滅してくれればいいのに。ゴキブリや蜘蛛よりも嫌だよ。
はぁー海行くのか。友達との約束だし楽しみではあるけど、憂鬱。
胸のない人間が水着を着るのって、いくら友達同士でも気にはするよ。
周囲は胸の小さい人がいないし、水着が皆派手なんだ。
でも今はそんなこと考えない。翔太のことだけ考えればいいんだ。そうすれば絶対に会える。
じゃあ神様、私に力を。行ってきます!
駅に着いたのはいいけど、さてどうしよう? まぁsuicaにお金を入れないとね。
その間に携帯で路線を調べる。
早く着くけど乗り換えが多いのと、時間はかかるけど乗り換えが少ないのと
私はどちらを選ぶべきか。この選択を誤れば後々の出来事に影響が出る。
なんて、ちょっと言ってみたかっただけ。勿論彼に早く会いたいから前者を選ぶ。
ピッ。時刻は二時半、順調に進めば約二時間で到着する。
未知の世界ではないけど、とにかく出発!
まず電車に乗ろうとしたけど、早速問題が発生。
遅延していてまさかのここで足止めをくらってしまった。
これだと乗り換えする時、時刻表で判断している私にとって何かと不便だ。
「急病人救護の為、当駅で運転を見合わせていただきます。」
急病人かぁ。夏だし年々、平均気温が上昇しているって報道されていたし体調崩す気持ちは分かるけど何で今なの! 責める気持ちはあまりないけど早く運転再開して!
五分後……。
「安全の確認がとれましたので運転を再開いたします。
発車までもう少々お待ち下さいませ、電車おくれまして申し訳ございません。」
十分後……。
「〇〇駅におきまして緊急停止ボタンが押されました。
安全の確認がとれるまでもう少々お待ち下さいませ」
十五分後……。
「〇〇駅におきましてお客様が倒れていると通報がありました……」
イライライラ……。待っている間そこにある自動販売機で、カフェオレ買ったけどもう全部飲みほしちゃったよ。このままだと寝ちゃいそうだったから軽い眠気覚ましにって、なのにこれじゃあ軽い暇つぶしに変わっちゃうよ。
二十分後……。
「まもなく運転を再開いたします」
はぁーやっとか。これ、もう少し早く買っていたら確実にトイレも行けたな。
あっ、女子がトイレとか言っちゃいけない。お花摘みね、お花摘み。
こんな見た目の私にお花摘みなんて可愛い言葉、全く似合わないけど気持ちだけはね。
あっ、翔太からのメール無視していた。まぁ気づいていなかったってことで。
「で、行きたい場所決まった?」
別に返信しなくてもいいよね。これから会いに行くし、その時言えばいいことだから。
ようやく動き出した電車、私はネックレスをギュッと握りしめる。
翔太にどんどん近づいて嬉しいけど、同じぐらい緊張している。
この緊張はどちらなのだろうか?
好きな人に会えるからか、それともこのサプライズが無事成功するか。
どちらにしても私のニヤケは止めることができなかった。
 去年の二月十四日、バレンタインデー
大学の推薦組と専門学校へ進学する人にとっては退屈な日だ。
この期間は学校がない。受験組は言わなくても分かるけど、終わっている人は何もやることがなくて毎日をだらだらと過ごしている。私もその一人だ。
何日か登校日とか言うかったるい日があって、朝起きなければいけない。
で、少しだけ皆と喋ったらもう下校。
こんなのやる意味ある? と思うでしょ。生存確認だからしょうがないの。
でも今日は残念なことに何もない。
バレンタインと言われても友達には前回の登校日で既に渡してあるし
好きな人もいないから、この日もだらだらとぬいぐるみ抱きながら漫画を読んでいた。
ピンポーン、玄関のチャイムが家中に響く。
「雛―、どうせ暇なんでしょ? 出て」
「今、忙しい」
「それのどこが? いいから出なさい」
これを見て忙しくないなんてまた視力落としたんだよ、絶対。
周囲を見て、この漫画の量。これを一日で制覇するのが今日の目標なの!
その邪魔をするなんて、親ならそっと見守ってほしいよ。
「はーい」
嫌々扉を開けると翔太がいた。
本当はただのクラスネイトだし苗字で呼んでいるはずなんだけど、作者が考えるの面倒だから最初っから名前で呼び合っている設定になったの。許してあげて、ごめんなさい。
「雛子、久しぶり」
「翔太、受験は? 終わったの?」
彼は小さく頷いた。その表情からしてきっと合格したのだろう。
「今日用事ある?」
「うーん、漫画読む時間をさいてまで私が楽しめそう?」
「はぁ? 漫画ならどうせ毎日読んでいるだろ?」
「はいはい、準備するからちょっと待って」
渋々着替えて寒いからカイロもこっそりポケットに常備。
「はい、お待たせ」
私達はそのまま公園まで歩いた。そこまでの会話? ただの世間話だよ。
公園に着いたら私はブランコに座った。最近、運動不足だからちょっと歩いただけでもすぐに疲れてしまう。運動しなきゃとは思っているんだけどねぇー。
「カイロ貸して」
「持ってきてないの? こんな寒いのに」
あれ? こっそり入れたはずだけど、何で知っているの?
あー玄関にいたから見ていたのか。あそこ見えないはずなんだけど、まぁいいか。
カイロを受け取って隣のブランコに彼は座った。
「もうすぐで卒業だな」
「楽しかったね、この三年間」
なんだかんだで、翔太とはずっと同じクラスだった。
「着物さ、綺麗だったよ」
「えっ。うん、ありがとう」
毎年琴部は文化祭で発表をするらしいんだけど、急遽一人欠員が出て
授業で先生に上手いって褒められた私がヘルプで参加したの。
「演奏は良かったけど、なんか似合わなかったね」
友達じゃないよ、これ男子に言われたの。これはしょうがないの。
だって場所がまさかの一番前だよ? 
身長高くてしかも急遽参加した私を一番前に座らした琴部が悪いの。
「卒業したらもう皆会えなくなるな」
「同窓会までの辛抱でしょ」
「俺はそんな待てない」
「翔太って短期だっけ?」
私が聞くと彼は黙って立ち、歩きだした。でもすぐに振りかえって
「なんか飲む?」
と聞いてきた。その時はっと思いついたのは
「ミルクティーのホット」
だった。いつもはストレート飲むのに、バレンタインのせいかもね。
彼を待つ間ブランコでもこごうと一瞬思ったけど、もう高校も卒業する年齢だし座高があわないから恐怖しか感じない。昔は皆より小さくて早く追いつきたいって言っていたらこのザマだよ。これなら縮め、縮めって祈ればよかったよ。
「ヒャ!」
顔の左半分が急に冷たくなって何が起こったのかと思ったよ。
「えっ? こんな寒いのにカルピス?」
「あぁ。文句あるか」
ないけど……。カルピス飲む男子初めて見たわ。
「飲むか?」
少し戸惑いながらも頷きその缶を受け取った。ゴクリ、一口飲んだ感想は……
「痛っ!」
「あれ? お前炭酸ダメだっけ?」
「これ炭酸入っているの? それ、先に言ってよ」
手は冷たいし、口はヒリヒリして痛くて今は冬だよ! 夏じゃないからね!
口直しにミルクティーを一気に飲みほす。だって暖かい食べ物は温かいうちにって言うでしょ? 飲み物だって同じでしょ?
「なぁ」
「何?」
彼は何も言わずそっと後ろから私を抱きしめた。
「ごめん。寒いから温めさして」
「本当、こんなに冷えていたらカイロ持っていても意味ないね」
彼はとても冷たかった。まるで冷蔵庫に閉じ込められていた人みたいに……。
両手で一つのカイロを持っていたから、その上から温めた。手袋をつけた私の手で。
この時はまだ恋人ではないよ。ただのクラスメイトで、私は意識もしていなかった。
そう思っていたのに、彼が耳元で囁いた言葉に胸を締め付けられた。
「お前が好きだ。俺と付き合って」
この時まだ、彼の手も体も冷たかったのに私の耳元だけはカイロ以上に熱かった。
好きじゃない。好きでもないし嫌いでもない、なのに……。
「何で?」
「理由なんて必要ない。お前が欲しい、それだけだ」
翔太はずるかった。だってそれを全部耳元で囁かれたら、断れないじゃん。
何も答えられなかったけど、彼の手を放すことだけは出来た。でも、それがいけなかった。
彼はカイロを落として私の両肩を握りしめ、さりげなく首元にキスまでしてきた。
今日は女の子が勇気を出す日。私の勇気は彼を好きになること? 違う。
告白の返事を今、伝えること。彼の目を見てちゃんと。
「翔太、一回手離して」
私は彼の目を見て話す。
「翔太のことを私は好きじゃない、友達としてしか接していない。
だから少しずつ貴方を好きになる。どのくらいかかるか分からないけどそれでもいい?」
「お前は俺をすぐに好きになるよ、断言する」
彼の断言は正しかった。だって私はいつの間にかあの時の彼以上に愛しているのだから。
 景色を見ながらあの日のことを思い出していた。
電車通学だったからこの景色毎日見ていた。久しぶりに見るけど何も変わっていない。
学生のカップルが歩いているところを見るとなんだか羨ましくなる。
時期的に遅かったからしょうがないけど、あんな青春を私達はやっていない。
でも、たった一つだけやったことがある。
卒業式後、皆で打ち上げに行った時に私は、壁側で隣に翔太が座ってこっそり手を握っていた。二人だけの秘密みたいでちょっぴり嬉しかった。もしかしたら、この時から私は好きだったのかもしれない。でもそれは誰にも分からないことだ。
電車を乗り換えてゆらゆら揺れて何故かすぐに降りてしまった。
着いたと思ってみたら、ここは高校の最寄り駅。嘘でしょ? 何、コレ?
高校生活思い出していたら実際に来てみたくなったとか? ここに用はないし戻らなきゃ。
携帯で調べてはみたけど、なんかさっきより複雑になっていない?
「雛子何やっているの?」
「翔太!」
ややこしいけどこの人は私の彼氏ではない。
ついでに言うなら「翔太」と書いて「だい」と読む。
しかもこれが彼氏の親友なの。
別に困ったことは特にないけど、なんか漢字にするとややこしくてありゃしない。
「あー、道に迷っちゃって」
「ここ駅だけど。あー、あいつの学校に行きたいの?」
照れくさそうに私は頷いた。分かんないなら彼氏に聞けよって言われると思ったけど、彼はしょうがないなって顔して携帯を取り出した。
「あーもしもし俺、お前と同じ名前の人間」
なんか、変な会話。男子っていつもこんな会話するの? それともこの二人だから?
「でさ、お前の学校ってどうやって行けばいいの?
んぁ、なんとなく気になってさ。あー了解、暇だったらな」
ふぅーと溜息をついてから丁寧に教えてくれた。
「不安だから途中まで一緒にいきたいけど、バレたら俺殺されるし」
「翔太が? 意外」
「知らないの? あいつかなり嫉妬深い男だよ。俺の女に喋るな、触るな、見るなって感じ」
そんな姿、私は一度も見たことがないけどなぁ。でも、うん。なんか嬉しい。
翔太と別れてまた電車に私は乗った。あーこの「翔太」は彼氏じゃないほうね。
文章で表すとなんかややこしいわー。でもひらがなで表記したらなんか申し訳ないような気持ちがするっていうか……。うーん、うまく説明できないけど友達だからとか恋人だからって理由をつけて差別したくないの。うん、これでいいや。
ピッ。時刻はあっというまに四時、私の心は不安という言葉で埋め尽くされていた。
 「卒業おめでとう」
この言葉と同時にパンパンっとクラッカーの音が響きわたる。
次の瞬間ゲホゲホと咳こむ声。煙がすごくて私も我慢できなかった。
卒業式を無事に終え仲がいいのか全員で今、打ち上げをしている。
「雛子、やっと彼氏出来たね。おめでとう」
クラスの女子達が皆口をそろえて祝福してくれた。
「でも私みたく浮気されないでね」
「いい、遠距離は信じることが大事よ!」
「浮気されたら、その女呪い殺しちゃえ」
皆の助言は嬉しいけど素直に喜べない。このクラスの女子は彼氏が出来ても何故か長続きしない。朝学校に来ると月一で誰かが泣いているなんて光景も、もうなくなっちゃうのか。
なんか女子の硬い団結力は男と別れる度に強くなっていったような気がする。
でも男子は教室に入りづらくて、怒られてもいないのに廊下に立たされて担任まで一緒に立っていたなんて想像しただけで本当に笑っちゃうよ。
「はぁー、もうこの制服がコスプレになるんだよ」
「華のJKっていう肩書もなくなるし」
「私達の青春がもう終わっちゃうよ」
なんていいながらもご飯はガッツリ食べるのね。しかもコーラ飲みながら、さ。
こいつらはお酒飲んだらヤバそうだな。二年後の話だけど、誰かが同窓会やるよって皆を集めて酒飲みながら愚痴を永遠と言って慰め合うんだろうな。
その時、私達は付き合っているのかな? それとも別れているのかな?
そんなことを考えていたら翔太とふと、目があった。
私をじっと見つめて、何も言わずにまだコップの半分以上も入っているカルピスを一気に飲みほした。今のは何だったのだろうと思いながらご飯を食べていると、急に左手がヒンヤリとした。私の左手を彼が右手で掴んでいる。その手は冷たかったけどドクドクと心臓の音が聞こえたような気がした。制服で見えないけど、首元にはさっきもらったばかりのネックレスをこっそりつけている。これ、皆には内緒だよ。
「で、これって誰のおごりなの? 金ない人もいるし」
「それは……、じゃんけんで負けた人」
「えー」
皆が一斉にブーイング、約三十人ここにいるから相当な額になるのはバカでもわかる。
「じゃあくじびきにしようか?」
今度は一斉に黙りこむ。本当に面白いクラスだ。
「皆、手出して。後出しと参加しないはなしだからね」
「ジャンケン……」
こうして私達の高校生活は終わった。二人の翔太が自腹をきって……。
 今、私は停留所をウロウロしている。
高校から大学までは意外と近くて電車はスムーズに行けた。
まぁ終点で降りるからわかりやすくて間違い用がなかったってことだけど。
大学行きのバスは全部で四本ある。何でそんなにあるのかは知らない。逆に私が聞きたいよ。
どれに乗ればいいのか分からなかったから一番早く来たバスに乗った。
ピッ。時刻は五時、翔太がいることを祈ってバスは発車した。
バスの中はほとんど人がいなくて、右側の真ん中ぐらいにある一人席に私は座っていた。
同じ景色がずっと続くからいい加減飽きて携帯を見たら、翔太からの電話。
でも無視して私は眠りについた。だって疲れたし、携帯の電池がそろそろ無くなりそうだったから。
「次は終点、終点」
このアナウンスと共に目を覚ました。大学は私が寝ている間に通りすぎてしまった。
「はぁ」
もう、言葉も出ない。出てくるのは涙だけ、何で私泣いているの?
顔を伏せてバスを降り、そのままふらふらっと違うバスに乗った。
完全に無意識で違うバスに乗ったから、それに気づいたのは発車してしばらくしてからだった。
どこへ向かっているのかもよく分からないまま、只々バスに揺れる私がそこにいる。
でも次の瞬間、大きな建物が私の視界に写った。気づくのが遅くて名前までは確認出来なかったけど、大学という文字だけは確実に見えた。私は急いで近くにあったボタンをおもいっきり押してバスを降りた。その建物は大きいから見失うこともなく走って、走って、とにかく走った。多分そこを一周したぐらいに……。だって入り口は何箇所もあるけど、最後に見つけた場所以外は閉まっていたからどうしようもなかった。
ここで翔太が来るのを待つか建物に入って虱潰しに捜すか、待てば確実に会えるけどここにいたら蚊に刺されそうだからやっぱり中に入ろう。
一番近くにあった建物に入るけどほとんどの部屋の明かりは消されていて、付いている部屋も何かの実験みたいなのをしていて入りづらい。そっと中の様子を見るけれど、翔太の姿はなく本当にいないか確認してからまた違う部屋を見る。
それにしても大学だからかな? 部屋は十ぐらいあって、八階まであるから歩くだけでもかなりの体力を使う。
上へ行くごとに暗い部屋が増えていってまるで夜の学校にいるみたい。最初は皆でちょっとした冒険のつもりで来たのに、途中でふと後ろを見たら誰もいなくて一人ぼっちのままどんどん進んでいく。何かの罰ゲームじゃないんだから幽霊とか出てくるわけないし、季節が夏でよかった。まだ外はそんなに暗くない。これがもし冬だったらって……、考えただけでも背筋が凍る。全部見たけどこの建物に翔太はいないと判断して私は階段を降りた。
本当は明かりが付いているのに外から見えない部屋とかもあって、そこにいるかもしれないとも思ったけどあまりの恐怖に体がここから早く出たいと勝手に動いてしまうのだ。だから思考もそんな考えになってしまう。3階ぐらいまで降りたところで廊下を歩いた。
反対側の階段のほうが出口に近いし、明かりも多かった気がするからだ。
しばし休憩がてら窓の外を眺めていると、
「あっ!」
そこには二人の男性の姿。一人は分からないけどもう一人は、翔太だ。
私は急いで走る。もう足はパンパンで明日はきっと筋肉痛になっているんだろうな。
このヒール脱いで走りたいけど、プライドがそれを許さないし何しろ痛い。
そんなことを一瞬だけ考えて、階段は下りるより手すりに捕まって滑ったほうが早いからちょっと危ないけどとにかく滑った。こんな事、人の目が気になって高校でもやらなかったのに今はそれどころではない。建物を出て必死に翔太を捜す。
「翔太!」
もう間に合わなそうなので彼の名前を叫んだ。ミンミンミンうるさい程鳴いていたセミ達も一瞬にして静になる。あたりはとたんに静かになって私はまた走った。
木が邪魔で彼の姿が視界に入らなかっただけで、翔太はすぐ近くにいた。
ようやく彼に会えたと思った私は声を出して叫べばいいのに、走って彼に抱きついた。
「翔太、やっと会えた」
「お前……。お前、何でここにいるんだよ」
隣にいる男性は目が点になっている。
「どう? サプライズ、つい来ちゃった」
「どうせ明日会えるだろ? あ、それより既読無視するな! 電話も」
かなり怒っているようだけど、彼の手はちゃんと私の手を握っていた。
「あー、もしかしてあいつとの電話、お前もいたのか?」
私は頷きもせず彼のぬくもりを感じていた。
「はぁー。で、明日はどうすんだ?」
もう呆れて何も言えなくなってしまった翔太にこっそり耳打ちした。
「ディズニー行こう。今度は二人で」
ピッ。時刻は六時、二人の恋と青春はまだ始まったばかりかもしれない。
「帰るぞ、雛子」
「うん」

だって好きだから

小説書きたいのに会話文ばかりが思いついて少々困っている、今この頃です。
えー、何書きましょうか?
とりあえず、完結したことに拍手!
今までは途中で違う作品のアイディアが思いついて完結することが出来なかったので……。
ヒドイ作品ですね。はい、自分でも分かっています。
まぁ、こんなレベルです。……私は、どうせ……。
はぁー、頑張りまーす

だって好きだから

  • 小説
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  • 青年向け
更新日
登録日
2015-10-07

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