ため息の海

秋のひやりとした月とともに

いつからだろう。君の不幸がおいしく感じられるようになったのは。


いつからだろう。君の不幸がおいしく感じられるようになったのは。
人の不幸は蜜の味というけれど、僕にとってのそれはチョコレートのように甘ったるくて、鼻に抜ける何とも言えない苦みが気持ち悪い、癖になるものになってしまった。

ため息が溶けていく夜は、なんにもないようであった。ほんとに。なんにも。

ふと考えた。
この星の広い広い海に一滴の毒物を垂らしても、大事にはならないだろう。
この広い海に、タンカー一隻分の劇薬をたれ流したら、少しは影響が出てくるかもしれない。
この海に、世界の真水と同量の毒が流入したら多くの生き物が死ぬだろう。
この海に、いったいいくらの毒をたれ流したら、海は毒薬と同じものになるのだろう。

じゃあこの空気は、と僕は思った。
僕らはいつも誰かのため息を吸っているのだ。

70億人という人間が、ほぼ毎日吐き出すため息は、
もはや空気を汚し、幸せを殺し、何もかもを失くして、ため息に変わっていくんだ。

きっとこれが、誰もが本当に幸せになれない理由なんだと思った。
君の不幸がくれる、君のため息は、僕の空気なのだから。

さぁもっと、ため息を。

ため息の海

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

読み終わったあと、皆さんも気づかないうちに
毒を吐いてしまっていたらこっちのものです

ため息の海

「ため息が溶けた。」 この友人の表現があまりにもきれいだったので 夜の勢いに任せて書いてしまいました。 どうしても長いお話は時間がかかってしまうので、 こんな短いお話で間を持たせておこうと思います。 なお、他のサイト(小説家になろう)にも掲載しています。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted