いじめられっ子の男がチート能力を手に入れたらどうなるのか

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「おらおら!もう終わりか!?」
叫び声と共に振り下ろされる拳。
「っ…!」
ストレートが顔面にモロに入り、僕の体はあっけなく吹き飛ばされ
積まれてあったドラム缶を派手に倒す。

うぅ……痛みで体がピクリとも動かない…。

「んだよ、本当にくたばっちまったのか。しゃあねぇ、今日の所は勘弁してやらぁ」
僕が立ち上がらなかったからだろう、
男はそう吐き捨てると、目の前から去って行った。

うぅ…何で僕はこんなにも弱いんだ…。僕だって強くなりたいよ…
強くなったら僕…だっ…て…。


       僕の視界はブラックアウトし、ここで意識が途切れた。

第一話目! あっさりしすぎたチート能力授与

目を開くと、衝撃な光景が目に飛び込んできた。

「ここは…どこだ…?」

そう呟く僕の視界の先には、
白、白、白。四方八方どこを見ても真っ白な世界が広がっているのだ。
その広さは地平線まで広がっていて、とても肉眼では奥が見えない程。

いやいやいや、待てよ。
僕は確か、目つきが気に入らないとかで知らない人に
ボコボコにされてそのまま意識を失ったはず。

それなのにこんな場所に居るなんておかしいし…。
ああ。と言う事はこれは夢か。

その割には頬を伝う空気がやけに冷たい感じがするが…まあ気のせいだろう。

「君は…弱い」

「だ、誰!?」

突如として聞こえてきた声に僕は身構え、
声のした方へと振り返ると、そこには
金髪のストレートロングにワンピースを身にまとった
可愛らしい女の子がたたずんでいた。

「貴方は一体…」

ここは何処にも隠れるところなんてない。
それなのにどうやって僕に近づく事ができたんだろう。

まあ、夢だから基本的には何でもありって事なのかな…?
なんて言うか…いい加減だな僕の夢。

「私はレイア。人の不幸を食らう死神」

「…はい?」
平然とした顔で何を言ってるんだこの人。
ああ、そうか。これが今話題の厨二病って奴か。

「むぅ。その顔は全く信用してないって顔ですね」
と、物静かながらもぷくっと頬を膨らませるレイアと名乗る女の子。
いや、急にそんな事を言われて信用しろって言う方が難しい気がする。

「正直、かなり胡散臭いです」

「まあ、無理もないです。どうせ後に分かる事ですし、
今詳しい説明をするのはやめておきます」

「は、はぁ…。」
夢なんだから後にとかないんじゃぁ…と思ったけど口には出さないでおこう。

「それはそうと君は、よく虐めにあってるらしいですね」
レイアさんは優しく微笑むけど、これって馬鹿にされてるよね?

「あ、貴方には関係無いじゃないですか!それに、虐められるのは
僕が本気を出してないからであって…」

「本気…ですか?それっていつ出すんですか?本当は本気を出しても
勝てないから虐めにあうんじゃないですか?」

「そ、それは…」
レイアさんに次々と言葉を並べられ僕はたじろいだ。

……レイアさんが言ってる事は、正しい。
本気なんてとっくの昔に出してる。それでも僕は弱いままだから
仕方がないって過ごしてきた。
けど、それでもやっぱり僕は強くなりたい。

「君の強くなりたいって気持ちはよく分かります。
そこでどうでしょう。私なら貴方をすぐにでも強くすることが出来ますが」

               「え!?」

そ、そんな事できるの!?

って何期待してるんだ僕は…。これは夢なんだから。
期待した分現実に戻った時の悲しさはとても凄まじい物だから気を付けないとね。
でも、
まあ気休め程度にはなるか…。

「お願いしてもいいですか?」

「わかりました」
レイアさんは僕の反応を見るとニヤリと笑った。
な、なんか恐いな。一体何をされるんだろう。

ビクビクしているとレイアさんは両腕を僕の方向に向け、目を瞑った。

五秒程たつとレイアさんは再び目を開き両腕を下ろした。

「はい、終わりです」

「え?本当ですか…?」

これは拍子抜けだ。強くなった感じなんて一切ないし、
こんなにあっさりだと最早気休めにすらならないんだけど…。

「もしかしてもっとすごいのを期待してました?」

「それは…まあ」
はっきり言うと、夢と言う事もあり超サイヤ人ぐらいの変化は期待していた。

「でも現実に戻ったらきっと驚かれると思いますよ?」
ふふ、と笑いながらレイアさんは言った。

「?」

僕は意味が分からず首を傾げるとレイアさんは付け足した。

        「現実に戻ってからのお楽しみです」

第二話目! 現実

ふと瞬きをした瞬間、目の前の景色は真っ白の世界から
薄暗くてほこりくさい場所に切り替わった。

ここはどこなんだろうと思ったけど
サビだらけのトタンの屋根、壁が目に入る事からすると、
ここは僕がボコボコにされた廃工場で間違いない様だ。
って事は夢から覚めたって訳か。

「何だか、変わった夢だったな…」
一人呟き体を起こすと、ズキリと体に痛みが走った。
うぅ…痛い。
服に隠れて見えないけど、きっと体中アザだらけなんだろうなぁ。

それにしてもレイアさんって人、僕を強くしてあげるとか言ってたけど
本当に何か変わったのかな。

別にそこまで気になって無かったんだけど、
レイアさんの最後のセリフだけがとても気になる。

「現実に戻ってからのお楽しみです」
のほほんとした声が頭の中でリピートされ、それが僕の期待を膨らます。
もしかしたら、もしかするかも…。
よろよろと立ち上がり壁側の方に向かって歩く。

ここは廃工場。つまり基本的には何をやっても近辺の住民は黙認してくれる。

本当に強くなったのなら壁を大きく凹ます事だって可能かもしれないし、
駄目元で殴ってみよう。
「えい!」

ひょろひょろと繰り出される僕のパンチ。どうだ…!?
トタンの壁がガシャン!と心地よく響く。が、

「痛った…!」
思わず悶絶する程の衝撃が右腕に伝わる。

しかし、手に走る激痛に対し、壁は全くの無傷。
何だよ…所詮はただの夢だったって事か…。
なーにが私なら貴方をすぐにでも強くすることが出来ますが、だよ。
結局僕はいじめられっ子のままじゃないか。

「はぁ…」

大きく嘆息し、諦めて帰ろうとした瞬間、

             みしっ

何かがしなる音が壁側から聞こえた。

すぐさま振り返ると、衝撃の光景に僕は絶句した。

まるで強い何かに押さえつけられているかの様に、
壁がクレーター状に凹んでいるのだ。
驚きな事にそのクレーターはどんどん深くなっていく。

「はは、嘘だよね…?」

ダラダラと額から落ちる冷や汗。
………これって…僕がやったの?


刹那ーーー 圧力に耐え切れなくなった壁が、
まるで大砲をぶつけたかの様に破裂し、爆音が耳を刺激する。

そんな中僕は耳を塞ぐことすらせず、ただ、呆然としていた。

          「信じられない…」



    開いた穴から覗かせる満月がそう呟く僕を薄く照らした。

第三話目! 最強という実感

「ハァ…」
あれからチーターの如く廃工場から逃げ出して
帰宅した僕はベッドに倒れこみ、小さく嘆息した。

それにしても、全身傷だらけだって言うのに
猛ダッシュで走れたなんて我ながらビックリだ。
火事場の馬鹿力ってこういう事を言うんだろうけど、
今はそんな事どうでもいい。

問題なのは壁を破壊する程の力を僕が持っている事と、壁を壊してしまった事。

後者の方は取り壊しの際のアシストをしたんだと納得させるとしても、
前者の方は全く意味が分からない。
もしかしてレイアさんが言った通り本当に強くなったって言うのか…?

いやいやいや、そんな冗談やめてくれよ。

案外誰だって壁ぐらい粉砕できるかもしれないし、
実は発泡スチロール製の壁だったのかもしれないしね。

……うん。さすがにそれはないか。

いくら逃避してみても
壁なんてプロボクサーでも粉砕する事なんてできないし、
発泡スチロール製だったなんてドッキリもない。

う~ん…謎は深まるばかりだ。

「どう言う事なのか全然分からないや…」

最早お手上げ状態の僕は再び天井に向かい、今度は大きく嘆息する。

         ボコッ

それにつれて凹む天井。


「は?………って、えぇぇぇぇ!?」

な、ななな、何で!? ただ息を吐いただけじゃん!
恐い!もう恐いよ!
思わず布団に潜り込むと

「一輝!?何かあったの!?」

今まで聞いた事もない僕の叫び声を聞きつけてか、
一階から僕の名前を呼ぶ母さんの声が聞こえてきた。

「べ、別になんでもないよ!」

こんな状態を見せるわけにもいかないので
一度布団を剥ぎ取り母さんに返事をすると、
僕は再び布団をかぶった。

もう意味が分からない!工場の壁だけじゃなく
今度は自分の部屋の天井まで…!
や、やっぱりレイアさんが言ってた事って本当なんじゃあ…。

「現実に戻ってからのお楽しみです」
再び脳内でリピートされるレイアさんの声。
ウッ…!今では恐怖感を覚えるよ…!

でも、こうなってしまった以上、冗談だなんて言葉で片付ける事はもう不可能。

僕のパンチは紙を貫けれるかどうかも怪しい程だったのに、
今では壁すら粉砕する。
僕の吐息はロウソクの火を満足に消せるかどうかも分からない
軟弱な肺活量だったのに、今では天井を凹ませる。

確かにレイアさんが言った通り僕は強くなっているけど…。



      僕は宇宙一強くなりたいだなんて一言も言ってないよ?

第四話目! ハシの軟弱さと僕の力の強さ


             翌日



「う~ん…もう朝か…」
カーテンの隙間から入る日差しと、大音量で鳴る目覚まし時計の
活躍によって僕は目が覚めた。

うとうとしながらも目をなんとかこじ開けると、
目に飛び込んできたのは凹んでしまって凄く情けない形をした天井だった。


        僕の心地の良いまどろみを返せ。


おかげ様で瞬時に覚醒した僕は、ベッドから手を伸ばし、
床に置いてある目覚まし時計のボタンを
ポン、と優しく押した。

             グシャ


「……これだけで潰れるなんてやばくない…?」


手を離すと、バラバラになったボディーやら内部パーツやらが
山の様に固まって天に召されていた。

お気に入りの迷彩柄時計だったのに…。

ってか、こんなんじゃあ
普段の生活を過ごすことすら出来ないんじゃないの…!?
そういった意味ではむしろ弱くなってない!?

「って!そんな場合じゃなかった!」
最後に時計君が示してくれていた時間は七時四十分。
遅くても七時五十分までに出発しないと学校に間に合わない!!

僕は布団を蹴り飛ばしベッドから急いで降り、
(布団が天井の高さまで飛びあがった事は今は無視だ!)

迷彩柄時計、通称スーパーライデン君に合掌してから部屋を出ると
階段を二段飛ばしで駆け降りリビングに入った。

「あら?一輝、今日は遅いのね」

「うん、今日は特に時間がないんだよ!」
中に入ると僕と違って時間に余裕のある母さんが
声をかけてきたので時間に焦りながらも返答し、僕は食卓についた。
料理は何かな?なるべく早く食べれるものが良いんだけど…。

             物色中


ふむふむ。白ご飯に、お味噌汁、白身魚の三種類か。
凄くシンプルだけど意外と憧れてたりしてたんだよね~。
食べきるのに時間が多少かかるけど
ちょうどお腹もすいてるし良いバランスだと思う。

「いただきま~す!」

香ばしい匂いに我慢ができずハシに手を伸ばした瞬間、
              
            ポキリ      


「…ッ!!」

        
          折れやがりました。
うぅ…こんな時間がないって時に…!

「一輝?何の音?」

しまった…!母さんが怪しんでる!何としてでも逃れないと!

「嫌だなあ母さん。このハシ安物でしょ?
ヒビでも入ってたのか知らないけど折れちゃったよ」

「え?そのハシ買ってきたばかりなのよ?」

「あ、そうなの?でも素材が安いからじゃない?」

「劣化しにくい頑丈な作りです!って紙に書いてあったんだけど…
色も一輝の好きな緑色だし」

「へ、へ~。おかしい事もあるんだね…」

母さんの優しい心遣いに涙が止まらない。


「う~ん、まあ仕方ないし、別のハシを用意するから待ってて」

「うん分かった」

ふぅ。何とか助かった。でも、次はもう失敗は許されないぞ。
時間的にも、信頼的にも。

絶対にバレるもんか。




「はいどうぞ」
台所からすぐに取ってきたのか、母さんから
差し出される運命のハシ。

「ありがとう」

お礼を言いゆっくりと手に取った瞬間、


         ポキリ

はいアウト。


「行ってきます!!!!!!!」


脱兎のごとく僕はリビングから逃げ出した。

「あ、一輝!待ちなさい!」

後ろから母さんの声が聞こえたがそんなの知ったこっちゃない!
廊下に置いてあった鞄をエサを捕らえる鷹のように取り、
僕はまるで家出をするかの様に飛び出した。

     もう…どうしたらいいんだよ…。

いじめられっ子の男がチート能力を手に入れたらどうなるのか

ありがとうございました^^

いじめられっ子の男がチート能力を手に入れたらどうなるのか

常に誰かに虐められ、すっかりストレス解消マシーン化 していた僕はある日、力を手に入れた。 これで復讐ができる…! と思ったが僕に力をくれた娘、レイアに 肝心な所を邪魔されてしまい!? 奇妙な共同生活が始まり、僕の生活は大きく変わりました。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-09

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  1. 1
  2. 第一話目! あっさりしすぎたチート能力授与
  3. 第二話目! 現実
  4. 第三話目! 最強という実感
  5. 第四話目! ハシの軟弱さと僕の力の強さ