占いスタジアムへようこそ
浦沢は悩んでいた。上司とどうしても反りが合わず、いっそ辞めて転職するべきか迷っているのだ。先日も、浦沢のとっさの判断が遅いと、散々上司に叱られた。辞めるなら、まだ若い今のうちだろう。
そんなとき、近所に新しい占いの館ができたと聞き、とりあえず一度行ってみようと思った。
次の休日に行ってみると、そこは占いの館などというレベルではなく、ビル丸ごとが占いの施設であった。気圧された浦沢は入口の前でためらっていたが、ちょうど出てきた客らしき女性がニコニコしているのを見て、意を決して中に入った。
中はホテルのロビーのように広かった。正面に『総合受付』と表示されたカウンターがあり、制服を着た案内係らしい中年男性が満面の笑顔で待っている。思い切って、尋ねてみるしかない。
「あのー、すみません」
「いらっしゃいませ!占いスタジアム『ノルニル』へようこそ!」
「えーっと、ぼくは、その」
もじもじしている浦沢に、案内係の方から話しかけてきた。
「大丈夫でございますよ。あなた様がどんなお悩みをお持ちでも、この占いスタジアム『ノルニル』が誇る百名の占い師が、必ずや解決いたします!」
「ええっ、百人もいるんですか」
「人の運命は千差万別、百人でも足りないぐらいでございます。基本的な手相・人相・星占いはもちろん、タロットカード・水晶玉・血液型は言うに及ばず、霊感・ヤマ勘・頓珍漢、筮竹・爆竹・こんちくしょう等々、ありとあらゆるタイプの占い師が待機しております」
お得意のギャグらしく、案内係はちょっとドヤ顔を見せて、続けた。
「ちなみに、ノルエルとは北欧神話の運命の女神ですが、当スタジアムの占い師が女性ばかりというわけではございません。相手の年齢性別によっては、お客様が相談しづらいこともありましょうから、老若男女そろっておりますよ。さあ、こちらの大パネルに顔写真とプロフィールが表示されております。お客様のお好みで、どうぞお選びください!」
「うーん」
パネルには百名の占い師が表示されており、一人をチョイスすると、詳細が全画面表示されるという。浦沢は激しく迷った。
見かねて、案内係が声をかけた。
「百人の中からお選びいただくのは大変でしょうね。条件を言っていただきましたら、絞込みいたしますよ。お悩みはどんなことですか?」
「えっと、まあ、仕事上の人間関係で、ちょっと」
「なるほど、なるほど」
案内係が何かキーボードから入力すると、パネルに表示されている人数が少し減った。だが、まだ八十人ぐらいいる。
「さあ、他に条件はありませんか。絞り込んで行きましょう」
「そうですね。仕事のことなので、逆に、女性の方が話しやすいかな」
「なるほど」
また人数が減ったが、それでも五十人ぐらいいる。
「どうぞ、お好みの占い師をお選びください」
「うーん、迷うなあ」
浦沢は頭をかかえたが、ハッとして、顔を上げた。
「そうだ!ぼくがどの占い師さんを選べばいいのか、占ってくれる人はいませんか?」
(おわり)
占いスタジアムへようこそ