謀られし者と歪む世界

 お話とは言えないようなものですが……。

(※謀られし=たばかられし)

 当時、その世界では、商売をする者たちが余りに利益目当てのことばかりするので、世界の枠組みが歪みかけているとして、問題になっていました。

 「困ったものですね」
 と、とある国の上流階級の者たちは言い合いました。
 「これは、国を守るために、私たちが実権を握って、世界がこのようになるより前の、昔ながらの国に戻すしかないのではありませんか?」

 それはなかなかに難しいことでしたが、しかし、彼らの思いに賛同して知恵を出してくれる者がいたために、ことは意外と、とんとん拍子で進みました。

 ただ――彼らがしっかりと分かっていないことが、ひとつ、ありました。

 知恵を出してくれる者、彼らの言い分を通すために有効な策を授けてくれる者――その者たちは実は、悪質な商売のやり方によって世界の枠組みを歪めかけていた者たちと同じ系統の者だったのです。

 その者たちのやり方が評判が悪くなったために、これまでの稼ぎ方を続けられなくなって、上流階級の者たちに賛同するふりで、新しい稼ぎ口を探しに来ただけだったのでした。

 そう、賛同する『ふり』なのです、商売をやっていた時と同様。そういったことは彼らにはお手の物なのですから。

 上流階級の者たちの言い分を通すために授けた策も、全て、商売をやっていたときに世界の枠組みを歪ませ始めてしまったのと同じ系統の手口ばかりでした。

 ですから、上流階級の者たちの言い分が通れば通るほど、その国はますます歪み、不幸へとまっしぐらに進んでいったのです。

 謀った者たちも者たちですが、自らの言い分を通すことばかり考えて、そのための手口がどのようなものであろうとも全く気にかけなかった上流階級の者たちにも、果てしなく大きな責任があったことは言うまでもありません。

 人を見抜く目を持たぬことは罪であると、そういう話でもありました。

 その国がそれからどうなったのか……。
 全てはもう、風の彼方です。

     <了>

謀られし者と歪む世界

謀られし者と歪む世界

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-02

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