早朝の訪問者
早朝の出来事
朝は好きだ、静かな朝は特に。
冬の朝は肌寒く布団が恋しくなるけれど、夏はとても心地好い。
真昼の暑さが嘘のように涼しく、蝉も煩く鳴いていない。
窓を開けて、朝の空気を大きく吸う。
「おはよう」
「……おはようございます!」
「え?」
誰に言うわけでもなく、独り言を呟いたつもりだった。けれど、どこからか私の独り言に答える声が聞こえた。
ふと下を見ると、見慣れない青年が立っていた。
「えっと……どちら様?」
「あ、通りすがりのランナーです」
確かに彼の姿は、半袖のシャツにジャージ、首に巻いたタオルと、ランニングをするには最適な格好だった。
ただ、この辺で見かけるのは珍しい。
私の家のもう少し離れたところにランニングにはちょうど良い公園と道路がある。そのため、この辺りまでランニングに来る人は少ない。
よく考えると、どうして彼はそこで立ち止まっているのか、私の独り言に返事をしたのか……どうしてそこにいるのか、さっぱりわからない。
「あの……どうしてそこにいるんですか」
「いや、今日はここの道を通るのがいいよって言われたから」
「誰にですか……?」
「んー……鳥に、かな?」
この人は私を馬鹿にしているのだろうか……。
それとも彼の頭が少々おかしいのだろうか。
どちらにしても、あまりいい気分ではないのでさっさと朝食の支度をしようと思って、お疲れさまです、と一言告げて窓を閉めようとした。
「あー!待って待って!ごめん!嘘!あー……本当だけど嘘!」
「……馬鹿にするのもいい加減にしてください」
「ごめんね」
「何なんですか、私忙しいんです」
「君、朝は好き?」
「さようなら」
「えぇ?!」
私はなるべく静かに素早く窓を閉めた。
青年は、残念そうにこちらを眺めていたが少し経つとどこかへ走っていった。
「変な人」
鳥は言葉を話せないし、ましてや“ここの道を通るのがいいよ”なんて、妄想だろう。
「はあ、最悪な朝だなあ」
コンコン
音の聞こえる方……窓を見ると一羽の鳥がいた。
いやいや、まさかそんな都合良く窓際に鳥が居てもしかして言葉を話したりして、彼の言ったことが本当だったなんてそんなことあるわけない。
「とりあえず開けろよ、窓」
と、信じていたかった、午前六時。
早朝の訪問者
続きません。