そらのなまえ。


今年も、桜が咲いた。



春になるまで桜の存在なんか忘れてたのに。
思い出して彼らをみると、みんな笑顔になる。



立ち止まり、その一瞬を少しでも目に留めようとする。



なぜだろう。



なんで笑顔になるんだろう。
あんなに、小さくて弱くてすぐに散ってしまうのに。
散ってしまうのも悲しいとは思わずにまた忘れてしまうのに。



どうしてだろう。



あ、ピンクだからかな。


前になんかのテレビで色は人の感情をも操るっていってた気がする。


ピンクって優しい色なんでしょ?
よくわかんないけどさ。


「歩、」



気配を感じさせずに机1個分くらいの距離まで来ていた彼女の声に
少しびくっとして、振り返るとちょっと微笑んでるようにみえた。



「…また桜みてたんだ」

「…うん」

「すきだね?」

「結衣は?」

「え? あー…。まあまあ、かな。あんたみたいにずっとみてられるほどじゃないから」

「うち別にそんなすきじゃないよ?」

「そうなの?!」




…そういえば、この子なにしにきたんだ?

なんか用事?



「…あ、もしかして苗字が 佐倉 だから変な親近感勝手に抱いちゃってるとか?」

「んなばかな、」

「だよね。」




ちょっと笑いながらいう彼女は、窓から差し込む日の光のせいか

ほんの少し、悲しそうにみえた。



「あの…さ。」

「うん?」

「…うん。なんでもない!」

「はあー?」

「ふふふ、なんでもないのー。じゃ、帰る!ばいばーいっ」



バタバタと走って廊下へと出てったら、入ろうして来た男子とぶつかりそうになって慌てて謝ってる


…なにしてんだかあいつは。


ペコペコと謝って恥ずかしかったのかさっきよりはゆっくりだけど駆け足で行ってしまった。


追いかけていた視線を戻そうとすると、
あいつがぶつかりそうになっていた男子と目があった。



「よ、」

「どーも。」

「また桜みてたの?」

「ふっ…」

「え、…なに?」

「さっき同じこと言われた」

「…あ、えと。大谷さん?」


風が吹いた窓の外がすごくあたたかそうで、

窓を開ければ風や花が入ってくるかな

と、窓に手を伸ばした。


「そ、大谷サン。あいつまじなにしに来たんだろ。」

「え?」

「なんか言いたそうだったのに、帰った」


思い出してちょっと笑ったら、今度はわかりやすく気配が近づいてくるのがわかったからゆっくりと振り返ると


「…え、なに?」


思いのほか顔が近くて、怖い。


なに、なんだろう。



「待っててくれたんだ?」

「…あんたが、待ってろって…」

「なんで待たされてたのか…わかってる?」

「…は?」


なんかした? うち。


ぐるぐると頭で巡らせてみたけど、なんも思いつかなくて。

考えててもやっぱり顔が近いことが気になって足で床を押して自分の座ってる椅子を動かそうとしたら。


「…え、なんすか。」

「…。」


ガシッと、背もたれを掴まれてしまって動けなくなった。

久々に感じる背筋にゾクゾクしたこの感じ。



…やばい。

逃げたい、重い、こわい…



「すきなんだけど、」

「…は、」

「付き合って、って言わないから。俺がすきなの忘れないでくれる?」

「…離して…」

「え?」

「椅子離してっ」

「やだ」

「なんで…」

「答え聞くまで逃げられたくない」

「聞くまで…って」



なにを答えるの?



『わかった。気持ちには答えられないけどすきでいて?』

『そんなこと言わないで。私もすきだよ、』

『ふざけないで。そんなの迷惑だから』



…できない。無理…やだ。



「…え、佐倉?」

「…どいてよ」



目の前がうるうるしてよく見えない。

ねえ、なんでうちなのさ。

そらのなまえ。

そらのなまえ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-09

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