必殺技評論家
深夜の高層ビルの屋上に、対峙する二つの人影。一人は白装束に翁の能面をした男。もう一人は黒い全身タイツに黒いマントをかけ、ドクロの顔をした怪人。
能面の男がドクロの怪人を指差しながら叫んだ。
「観念しろ、ドクロベーダ―!オゾン層破壊装置はすでに停止した!世界征服の野望など、天が許してもこの能面マンが許さんぞ!」
そう言いながら、能面マンは翁の面を般若の面に付け替えた。
ドクロベーダ―も負けじと声を張り上げる。
「笑止千万!やれるもんなら、やってみな!」
「喰らえ!超高速高笑い!カカカカカカカーッ!」
能面マンの高笑いに合わせ、般若の面の口からオレンジ色の光線が発射された。
だか、その攻撃はドクロベーダ―のマントの一振りでかわされてしまった。
「ふふふ、ワンパターンだな。いつもいつも、同じ手は喰わんわ」
と、その時。
「ああ、だめだだめだ。必殺技のタイミングが早すぎるよ。もっとパンチとかキックとか、地味だけど効果的な技で相手にダメージを与えてからじゃないと」
驚いた二人が声の方を見ると、長めの髪に大ぶりのサングラス、ポロシャツの上からセーターの袖を結んだ、いかにも業界人風の男が立っていた。
能面マンはその男を守るようにドクロベーダ―の横に回り込み、男に声をかけた。
「危険です。すぐにここから離れてください。これはテレビや映画の撮影ではありませんよ」
男は心外そうに口を尖らせた。
「そんなことわかってるよ。ぼくはリアルなヒーローにしか興味がないんだ。世間だってリアルなヒーローを求めていたからこそ、きみが初めてドクロベーダ―と闘った時には、テレビで特番が組まれるほど盛り上がった。それがどうだい。今じゃ、闘いの翌日の新聞に『昨日もいつもの必殺技で能面マンの勝利』というベタ記事が載るだけだ。何故だかわかるかい?さっきドクロちゃんも言ってたように、ワンパターンなんだよ。いつもいつも『超高速高笑い』じゃ、みんな飽きるさ」
男に文句を言ったのは能面マンではなく、意外にもドクロベーダ―だった。
「おい、素人は引っ込んでろ、ケガするぜ。まだ、闘いは始まったばっかりなんだ。これから攻めたり攻められたり、激しいバトルが続くんだ」
「うーん、それはどうかな。ドクロちゃんの方だって、必殺技は『風神雷神魔法陣』しかないじゃん」
「ドクロちゃんって言うな!それより、そもそもおまえは何者なんだよ!」
「名乗るほどの者じゃない。ただの通りすがりの必殺技評論家だよ」
「何じゃそれ。いいからもう、引っ込んでな。ここはおめえの出る幕じゃねえ」
能面マンもうなずいた。
「そうです。危険ですよ」
男はますます口を尖らした。
「二人ともぼくのアドバイスを聞いた方がいいと思うなあ。例えば、さっきも言ったけど、必殺技には出すタイミングというものがある。なんなら、ぼくが指示してもいい。それから、必殺技を宣言するときには、もっと声を張らないと。ボソボソ言われたんじゃ、必殺技のインパクトが半減しちまう。それに、敵味方共、必殺技一つずつじゃ淋しいよ。できれば、ビジュアル的にももっとカラフルで、派手な必殺技があった方がいいね」
すると、能面マスクとドクロベーダ―が、声をそろえて叫んだ。
「おまえが自分でやってみろ!」
(おわり)
必殺技評論家