ふたり

ふたり

「……静か、だね」
「そうだな」
緩やかに風が流れていく。
動くものは、なにもない。
さわさわと、葉擦れの音が聞こえる。
まだ、聴覚は生きている。
よかった。まだ、もっと……最期まで声を聞いていたい。
「この戦いが終わったら、二人でどこかに行こうって、一緒に空を飛ぼうって言ってたのに、叶えてやれなくて悪かったな」
優しい、声音。
僕だけに話しかけてくれるその声が愛しくて、微笑みかえす。
「いいよそんなこと。……こうやって一緒にいられてよかったって思うから」
かろうじてまだ動く片手で、ジェットの頬に触れる。
「君に会えてよかった」
頬を撫でて、首から胸元へと手を滑らせて、腕を背に回す。
それだけでも酷く疲れて、ふうと息を漏らす。
何度も何度もギルモア博士に直してもらった腕。
でも、それもおしまい。
もう誰もいないから。
「俺も、お前に会えてよかった」
ジェットが僕の肩を抱いていた腕に力を入れて抱き寄せてくれる。
額に息がかかる。
少しくすぐったくって、ジェットの顔を見上げる。
ちょっと安定が悪くて、首の向きを変えて落ち着くところを探す。
うまく、樹の根っこを枕にしてジェットの顔が見えやすい角度におさまる。
もう自分で身体を動かせなくなっても、抱き合ってお互いの顔を見つめたままでいられる姿勢になるように。
酷い顔していると思う。僕も。
僕の右半身とジェットの左半身と。地面に接している身体の半分近くはもうあまり原型を留めていないけれど。
でもそれでも、その姿も愛しくて、胸が熱くなる。
僕も君も、自分の持てるすべての力を出し切って、守るべきものを守れたんだから。
僕たちはそうやって生きるって決めたんだから。
――もう、遠い記憶だけど。
そうやって誓った仲間たちも、残っている人がいるかどうか確認することは出来ないけれど。
「……」
ジェットが、何か言った気がする。
「……ジェット?」
返事がない。
僕の耳が駄目になっちゃったのかもしれない。
ばち、と、どこかで何か光った気がする。
視界がブレ出してきてジェットの唇が動いているかどうかがよく判らない。
でも、もういいや。
ここに僕とジェットがいるから。
それが判っているからそれでいい。
「……愛してるよ。ずっと」
――この命尽きても、ずっと。

一陣の強い風が、樹を揺らしてばらばらと葉を落とす。
ギルモア邸があったはずの瓦礫の残る地にほど近い、小高い丘の上に立つ一本の巨木。
その根元に眠るように横たわる二人の姿。
風が去り静かになっても、ぱらりぱらりと葉は二人に降りかかる。
ゆっくりと時間をかけて、覆い尽くそうとしているかのように。
誰にも邪魔されることない二人の眠りを守ろうとするかのように。
はらりと、葉がおちる。


20150929_どこ落ちDay。HARUKA ITO

ふたり

ふたり

2015年9月29日どこおちDayで29です。 やっぱり「死ぬときは一緒だ」のイメージが強いからかな。状況はさらっとしか書かれていないのでグロ表現はないですが、死にネタですので、苦手な方はご注意ください。 表紙絵は平のイメージで描いてますが、内容的には特にどのバージョン限定とかにはなっていないです。 とにかく、なにがなんでも29!ということで。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-29

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