海と青空
「あんた、いつも泣いてるね」
そう言って声をかけたのは、そいつの後ろ姿がいつも消えそうでとても儚かったからだ。けれど、くるりと振り返った彼は、全然儚くなかった。むしろ、強い瞳をしていた。
「・・・?どうして泣いてるって分かる?」
言葉のキャッチボールを返してきた彼に、なんとなくかなと返して、会話が終わる。
・・・って、終わっちゃダメじゃん!せっかく話しかけたのに!!
彼が無口なのを忘れていた。こっちが話題を提供しなければ、会話が成り立たない。焦って必死に考えたすえにでた言葉はこれだった。
「海みたいだな、あんた。」
いきなりのことで、きょとんとしている顔を不覚にも可愛いなんて思ってしまったことは、内緒だ。
「うみ、?」
「海!涙の海っぽい!あと、それでも、あんた強そう!!」
と、まぁ、よくわからないことを口走った。
自分でも焦って何をいってるか分からなくなった。
すると、彼は、緩やかに笑って言った。
「じゃぁ、君は、青空だな。」
今度は俺がきょとんとする側で、首をかしげて、青空?と聞き返した。
「うん、青空。真っ青な雲一つない空。澄み切った空。」
さらに、首をひねるしかなかった。彼の言ってることがよく分からない。
「純粋で天然。・・・泣く強さではなく、笑顔でいれる強さ。僕が、涙の海ならば、なおさら君は澄み切った青空だ。」
そう言われてふいに泣きたくなった。
「えへへ、そうかなぁ」
「泣きたくても、笑顔だから。」
彼は、緩く笑ったままで、その笑みを崩そうとはしない。けれど、彼の瞳は泣いていた。
やっぱり海かなぁ・・・なんて思っていると、彼がどんどん海と同化していることに気づいた。
ああ、そろそろ時間だな。
お互いに俺たちは生きていなかった。彼の死因は知らない。ただ、海で死んだことは確かで、俺も空で死んだ。だから、その場所に還るだけだった。
何もかも正反対な俺たちは死に方も強さまでも正反対だった。
それでよかった。彼は、俺を青空だと言ってくれた。俺が彼を海だといったように。
海は空の色が溶けてできたもの・・・。だから、彼と俺もたとえ正反対でもつながっている。それがとても嬉しかった。
お互い知らないところで死んだ者同士だけれど、最期にたった一人の親友に会えてよかった。
それだけを想うと、まるで未練がなくなったように空に溶けていった。そして、彼も海へと還っていった。
「ここは、昔、戦いの場で、お互いのことを想う親友同士が、またここで会う約束をした場所なんだって。」
と、ここに住んでいる人たちに古い古い物語として語り継がれている。
海と青空
空と海って同じでつながってるんじゃないかなーと思って書いた小説です。想いが届いてよかったです。