夜の
部屋の窓を開けると、外には暗闇の中にわずかな月の明かりが見え、雲がゆっくりと風に乗って空を移動していた。こんな光景はよく見る景色だけれど、健斗にとってはまるで初めて空を見た時のような、実際にはそんなことはありえないが、そんな気がしていた。体に吹き付ける風は冷たく、体から熱を奪っていくようだった。健斗の着ているシャツは風になびいていて、少し寒さを感じたので、ボタンを首の方まで掛けた。この高台まで来たのは初めてではなかった。昔、とても仲の良かった友達と一緒に夜までここで語り合ったことがあった。それ以来、健斗は何度もこの場所を訪れていた。それでも空の景色を見た時にそれが初めての光景のように感じたのは、今の精神状態を反映しているのかもしれない。辺りは風の吹く音や木々の葉が擦れ合う音がしていた。向かいの草むらからは虫の鳴く声も聴こえてきた。
健斗が恋人の綾を亡くしたのは先月のことだった。死ぬ間際の綾は健康だった時とは考えられないほどやせ細っていた。健斗はそんな綾の姿を見るたびに心の底から悲しみを感じた。それは耐えようのない、すぐにでも消えてほしいと願うような苦しい気持ちだった。どうして綾が死ななければならないのか、他に死ぬべき人間はいくらでもいるはずなのに、どうして綾なのか。何度も心の中で自問したけれど、答えは見つからなかった。それが偶然ならあまりに現実は残酷だと思った。
夜の