どしゃぶりの夜に

僕らが出会ったのはどしゃぶりの夜だった。

その女の人は雨が降っているのに、傘もささないで歩いていた。

周りの人はその女の人を避けるようにせわしなく歩いていく。

その女の人がふと立ち止まった。

同じようにびしょびしょに濡れている僕に気づいて、ゆっくり近づいて来た。

僕を見下ろしながら

「アンタも捨てられたの?」

って言った。

僕がきょとんとしていると、その女の人は屈んできて僕を抱き締めてくれた。

「ウチへいらっしゃい」

その声が思いの外優しくて泣きそうになった。

そうして僕はこの女の人にもらわれる事になった。

その女の人は香澄さんって名前で、今まで名前のなかった僕に公太郎って名前をつけてくれた。

公太郎って優しい声で香澄さんは僕を呼んでくれる。

とても嬉しかった。

一緒にご飯食べたり、お出かけしたり。

全てが初めての事ばかりで僕は幸せな日々を過ごしていた。

なのに。

なのに、香澄さんはもう僕の名前を呼んでくれない。

知らんぷりしないでよ!

香澄さん返事してよ!

何度も何度も名前を呼びながら香澄さんの身体を揺らし続けた。

いつも温かい香澄さんの身体が冷たいよ。

怖いよ。

僕が泣きながら香澄さんの名前を呼んでると、少しだけ香澄さんは目を開けてくれた。

「公太郎、ごめんなさい。またアンタを一人にさせちゃう」

香澄さん!

「私はアンタの事、犬だなんて思った事一度もなかったわよ。ありがと、公太郎」

この日もどしゃぶりの夜だった。

どしゃぶりの夜に

どしゃぶりの夜に

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-24

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