ステージスーサイド

ステージスーサイド

長い長い夢でした。
長い長い、嫉妬でした。

成功者が「諦めずに続ければ、夢は必ず叶う。」と云うのは
諦めずに続けたから叶うのではなく、
叶えるだけの才能があったから諦めずに続けられたのです。
途中で自分には才能が無いと思い知った何十人、何百人もの人が、
諦めて舞台から飛び降りるのです。
大人が夢を持て無いのではない。
こうして飛び降りる事が、大人に成ると云う事です。

其の事に漸く気付いた私はたった今、
最後の舞台から飛び降りました。

幾ら好きで居ようとも
幾ら努力して居ようとも
人は出来の良い方を選ぶのです。
気持ちが大事だ、何て云いながら
思いの強さだけで選ばれる事なんて無い。

好きで好きで堪ら無い。
然し肝心な才能が無い。
そんな私の横を何喰わぬ顔で追い越して行った人々が居ました。
私は憎みました。
彼女等が居るから、私の夢が叶わない、と。

其れが間違って居る事など、判り切って居ました。
其れでも諦めたく無かったのでしょう。
怒りだけをエネルギーにして舞台に立ち続けました。

然し、どれだけ踊ろうと、歌おうと、
彼女等は一段、二段、いや十数段高い舞台に立ち、
私を見下ろしながら踊り、歌い続けるのです。

私は思いました。

此の侭、此の舞台に立ち続けて何に成る?
私は何者にも成れ無い。
私が舞台の最上段に立つ日など来ないのだ。
ならば苦しみ続ける必要は無い。
一層、此の舞台から飛び降りれば良い。

皆、こうして順々に飛び降りて行くのです。
そして私たちがこうして舞台から飛び降り、
今度は舞台を下から眺めるから
客席がどんどん埋まって行く。

舞台で照明を浴びる人など、初めから決まって居るのです。
其れが世界と云う舞台のキャスティングなのです。

そして私が舞台上に残した靴もマイクも
ゴミ同様に捨てられるのです。

其れでも私は判りました。
舞台から飛び降りて初めて判った。

客席から眺める舞台が一番美しい。
そして私の居場所は紛れも無く
このビロードの椅子の上なのです。

ステージスーサイド

ステージスーサイド

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-24

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