コーヒーいっぱいの愛を

「コーヒー1杯で手を打ちましょう」俺の誘いに後輩はそう応じた。

「コーヒー1杯で手を打ちましょう」
このセリフは後輩が俺に言い放った言葉だ。大学祭の準備で遅くなり駅まで送る途中、後輩は俺の誘いにそう応じた。
今時、コーヒーはコンビニで100円で本格的なものが飲める。自販機でも120円あれば色んな種類がある。
俺の価値ってその程度か。落ち込む。
 翌日、後輩はカジュアルすぎるくらいカジュアルな格好で待ち合わせ場所までやってきた。服装の気合の度合いなんて人それぞれだが、デニムにTシャツは少なくとも「気合の入った」格好ではない。と思う。
「こんにちは。本日はお誘い頂き、ありがとうございます」
「うん、いや来てくれてありがとう」
低空飛行並みの低姿勢で応える。
「でさ、コーヒーおいしいお店行こうと思うんだ」
「いいですね、わたし好きです」
後輩はむじゃきに笑った。こういうとき、とても大学生にはみえない。いい意味で。
 友人からそうでない人、ネットから雑誌まで調べまくって見つけた専門店。前調べは完璧だった。ただ問題は不定休だったことと、たまたまこの日が休みだったことだ。電話すべきだった。むしろなぜしなかった。
「ごめん」情けない。死にたい。穴があったら、という気持ちがイヤほど分かる。
「いえお気にせず」スマホをポチポチいじりながら小声で言う。
これはまずい。焦る気持ちがどんどん募る。
「じゃあ、あのお店に行きますか?」
後輩はすぐ近くの喫茶店を指差した。このまま立ちっぱなしの状態よりは。おれは1にも2にもなくうなづいた。

 1杯350円のコーヒーは美味しかった。セットのケーキも最高だった。
「美味しいですね、これ」
後輩は目を細めて舌鼓をうつ。
 初めてのデートで爽やかにエスコート。そんなものはケーキの甘さと一緒に飲み干した。
次はないかもしれない。でも、もし、次があるとするならばもっと上手くやろう。後輩をもっと喜ばせるようにやるんだ。・・・次があればね。
後輩の美味しいコーヒーを飲んで、ほっとしたような表情を見ながらそんな決意を固めた。





 いきなりのお誘い、びっくりしました。でも嬉しかったです。冗談はあんまり受けなかったみたいですけど。それは当日挽回です。
当日までにしっかりいいお店をチョイスしておいて、スマホにブックマークしておきました。服装はなるべき気を張らないような格好で親しみやすさを演出してみました。先輩はいつもより少しオシャレしてるみたいでした。ちょっと反省です。でもでも、下調べのおかげでちょっとしたトラブルも乗り越えられました。
次は先輩のおすすめのお店にも是非行ってみたいです。もちろん先輩と一緒に。

コーヒーいっぱいの愛を

コーヒーいっぱいの愛を

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-23

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