大盗賊は今日も射(い)る ~行先は伝説達の魂だった~
第一話 「現代の射手」
(目標まで 90 m、南寄りの風、微風.........心拍、整え)
シュッ.....ストンッ
放たれた矢は正確に的の中心に吸い込まれていく。
(10点...10点...10点...10点...10点...)
シュッ......ヒュイッ......
キンッ
「あ」
思わず声が出る。
(先程の矢に当たってしまったか)
そう、彼の放った矢は全て中心の最高点のエリアを射貫いており、
さらにその中心に当てていたため先ほど刺さった矢に当ててしまったのだ。
最後の矢の弾道は極めて不自然であったが。
しかし今しがた放った矢もまた的に刺さっている。
(これ以上は無駄か)
彼は構えていた弓をゆっくりと下す。
力なく肩を落とし、一言。
「(明日は、何を当てようか。)」
そんな|呟(つぶや)きは、秋の寒空に寂しく消えていった。
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彼の名前は榊 弓人(さかき ゆみひと)
極一般的な高校生である。
身長は180ぎりぎりないほどの
比較的長身で、筋肉はそれなりについている。
弓人には生きがいがある。
それは何に分類すべきか。
分類が難しいそれはいわゆる「射的」である。
球技でもいいし、アーチェリーでもいい。ゴルフでも、
それこそ紙を丸めてゴミ箱に投げ捨てる行為でもいい。
彼にとってそれらは“何か”で“何か”を狙う時点で「射的」なのである。
弓人は物心ついたころから何かを投げては狙ったものに当てていた。
それこそおもちゃをおもちゃ箱に投げ入れていたものだ。
今では何かを外すことを知らない。
そう、それこそ異常な程何も”外さない”のだ。
先程のアーチェリーでも出来る限り的から”外そう”とした。
流石に明後日の方向を向いていれば矢は的に当たらないだろう。
しかし中心を狙おうとすれば、たちまち矢は的の中心に吸い込まれていく。
|終(しま)いには直前に当たった矢に当ててしまった。
こんな異常な能力を持ってはいるが、
とりあえず何かを自らから打ち出して何かに命中させることを
こよなく愛しているのである。
そんな弓人は現在帰宅途中だ。
先程まで練習していたアーチェリーの道具を片付け、
帰路につく。
それはいつもの、本当にいつもの日常だった。
”だった”のだ。
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アーチェリー場から帰宅途中、弓人は最近よくくる眩暈に襲われた。
弓人自身、なんと言ったらいいのか、何かに意識を引っ張られるのだ。
自宅からアーチェリー場まではバスと電車を乗り継いでいる。
今は駅のホームだ。
弓人も今思えば本当に”引っ張られて”いたのだろう。
弓人は何かに誘われるかのようにどんどんホームの線路側に千鳥足で歩いて行き、
なんの抵抗もなく線路に落ちた。
「な!?」
「おい、人が堕ちたぞ!」
「駅員はどこだ!」
「誰か緊急.........ボタンだ!とにかくボタンを押せ!」
頭から落ちたからだろうか、より一層曖昧になる意識の中、弓人の眼前に電車が迫っていた。
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ザ―――――――
(水の音......)
ムクリと体を起こす。頭が痛くなるようなことは......無い。
(電車のホーム.....俺、死んだんだよな?)
弓人は確かにあそこで死んだ。いや自分から飛び込んでいった様にも感じている。
確かあの時間は一本通過の電車があったはずだ。
あのタイミング、速度、どう考えても助からないだろう。
(しかし俺は生きていて......ここは?.....ん? ”俺”?)
確か弓人は、自分の心証を良くするため一人称は普通レベルの男子高校生では珍しい”私”にしていたはずだ。
(どうして”俺”になっているんだ?)
そしてこの恰好。動きやすいが、薄い、とても防具とは思えない革の鎧?覚えのない自分の恰好に驚きを隠せない。
(それにこの神殿、いや石造りの洞窟か?)
およそ日本ではお目にかかれないような光景が弓人の目の前に広がっていた。。
(にしても、なんで祭壇の上に寝てるんだ?)
そう今起きた場所は祭壇(?)の上。厳かな雰囲気の石像が並ぶ石造りの空間。祭殿の両脇から澄んだ水が水路を流れていて、それ以外の音は聞こえない。
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(まずは現状を確認しないと。)
ここは何処だろうか?死んでいないとしたら
つれてこられたのだろうか? だが犯人の姿が見えない。
拘束されているわけでもないし、出入口らしきものも見える。
弓人はそんな多くの事を考えてしまう。
(それにしてもなんか体に違和感があるな。心なしか筋肉が引き締まって?ついている気がするし。)
(あれ?でもなんか体縮んでね?)
目線が低くなったような感覚を覚える。否比較対象が無くとも分かるくらいには。
それよりも弓人が一番驚いたのは、感覚がすごく鋭敏になっていることだ。
これだけは確実だ。目を瞑れば水の音がどこから来て、何処に反射しているか。壁や石像の位置、出入り口などあらゆる情報が音だけでわかる。
鼻もそうだ。ここでは空気も大変澄んでいて匂いはほとんどしないが、出入口の位置は匂いで分かる。多分外の空気が流れてきているのだろう。
目はさらに凄く、望遠レンズでも入っているのではないかと疑うほど遠くのものを見ることができる。この空間にいるからわからないが外に出ればもっと遠くのものを見ることができるだろう。
(触覚と味覚は試しようがないが、この調子だと人間離れしているに違いない。)
弓人はだんだんと興奮してきた!
(...さて、そろそろ祭壇から降りて周囲を見てみますか。)
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(ナイフ、ロープ、糸、何かの道具、何かの道具...何かの道具?...)
今弓人は祭壇の横に置かれていた粗末なバッグを調べている。何故か自分のもののような感覚に陥ったし、もしかしたら誘拐の可能性だってあるのだから助かるために何でもしなければ、という考えに則ったものだ。
ガサッ
「ッ...」
理由は不明だが自分でも驚く程の速さで祭壇の出入口とは反対側に隠れてしまった弓人。
誘拐犯が来る可能性もあるから当然ではあるが。
「.........うん.....以上なし」
あれは、兵士だろうか? 中性ヨーロッパの甲冑のようなものを来ている。
弓人が聞いたことの無い言葉だがニュアンスだけは伝わってきた。
(おかしい、非常におかしい。ニュースとかでたまに聞く海外の言葉でもなかったような...)
そして弓人は今の自分の隠れるまでの動きを思い出す。それこそ映画とかでみるとても見栄えのある動きというよりは、洗練された全く無駄の無い素早い動きであった。
(今のはここの見回りってことでいいのか?)
普通に考えるならばそうだろう。
(ここは何か神聖な場所みたいだし、儀式?にでも使うのだろうか。)
生贄にでもされたらたまったものではないと、弓人はとりあえずここから出る方法を探すことにした。
第二話 「洞窟前の難所」
ひとまず祭壇から離れた弓人は先程の見回りらしき人物の足音が離れてから
入口の方に近づいていった。
(よし足音はどんどん遠くなるな。200メートルってとこか)
このやたら高性能な感覚のせいで回りのあらゆる状況が手に取るようにわかる。
(それにしても目線も明らか下がってるし、自分の体とは思わない方がいいな)
行けども行けども洞窟の壁。本当にここは何処なのだろうと思う。
(人を乗せる祭壇?があったのだから、っていうか私自身乗っていたのだから
儀式は|呪い(まじない)をするための場所なのは間違いないが...)
疑問は尽きない。それらを一旦頭から切り離した弓人はただひたすら洞窟を歩いて行く。
(ん?人の匂いが強くなってきた)
洞窟を1.5キロメートルほど進むと人の気配が強くなってきた。随分と長い洞窟であった。
(先程の空間の神聖さを露程感じさせない洞窟ももうすぐ終わりか。)
(...ん?あれ?今更だが灯りも無いのにどうやってここまで来たんだっけ?)
先程の見回りらしき人物は松明を持って祭壇の空間まで来た。
弓人は何を道標にここまで来れたのだろう。
(自分自身。目で見ているのか耳で聞いているのか、その他の感覚を使っているのかわからんぞ)
そう、今弓人には洞窟がどんな形でどこが足の躓きやすい場所で、どこに危ない突起があるかが分かる。
しかし、弓人自身どうやって把握しているのかが曖昧だ。
こうして実際役立つ感覚も使ってみると強力で、何かうすら寒いものを感じさせるのである。
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そんな事を考えていううちに気が付けば出口である。
(人の気配が多い。7人か。)
さて、ここからが正念場である。見つからずにどうやって突破するか。
洞窟の入り口はとても人工的とは言えず、入り口から少し離れたところにある
大きな鉄格子の檻から向こうは完全に人工の床だ。
檻のこちら側に3人、向こう側に4人の見張りがいるが。
(さて、どうやって突破したものか。)
しばらく思案する。しかし元純正培養の現代人の弓人にはこんな状況の解決策などすぐに思いつく筈もなく.........
(普通に出してくれと頼む?いやいや、ここ絶対入っちゃいけない場所だし.........そんな事したら確実に、)
確実にお縄になるだろう。しかしここで一生祭壇暮らしというのも弓人にとって避けたい事だ。
(ん?でもなんかいける気がしてきた。そう、気がしてきた。どこからこんな自信が湧いてくるんだ?誰か教えてくれ!!)
(...・.....・・..____・・___..)
(ハッ なんだこれ!? 敵の視線?天井?他にも...これが打開策だと?こんなの絶対に見つかるわ!!)
今しがた弓人が自分で思いついた、いやありもしない経験から導き出された解決策。
どうにも自分で考えた様に感じるのが逆に不気味な感覚に陥る。
(明らかに天啓的な何かだったんだが...)
(はぁ...やるしか...ないよな)
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見張りは7人。全ての人間の状況を完全に把握する。多分この体にのみ許された
能力だろう。全ての目線が洞窟の入り口から離れる機会は極めて少ない。
当然だ。入り口を守っているのだから。
(しかし緊張はしないな。まるでもっと難しい状況に何度も遭遇しているようだ。)
全ての目線が離れるのを待つ。この体やたら我慢強く出来ているようだ。
生き物全般に言えるが、動静の静、そう静が苦手だ。動かないことほど辛いものはない。
よくいうところのスナイパーは標的をひたすら動かず、静かに待ち続けるようだが、
弓人はその標的が来るまで音楽を聴きながら肩でリズムをとっていることだろう。
そのうち『標的?ああ、さっき怪しげな取引が終わってどっか行ったよ。』みたいに.........
ただの軍法会議ものである。
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体感時間で(たぶん極めて正確)3時間と4分後
(よしっ、今だ!!)
弓日人は目にもとまらぬダッシュで洞窟の入り口を抜け、音も無く上に跳躍した。
檻のこちら側は自然の洞窟である。つまり天井も凸凹していて掴むところも多い。
スッ...
なんとか天井に取りついた。だれも弓人に気付いていない。今は見張りの真上。
さて、次の問題だ。大問題だ。
(いつ檻を開けてくれるのだろう?)
(ずっと天井にとりついていろと?握力がもつのか?)
今弓人は両手で天井の突起を掴み、足の裏を他に突起に押し付けて体を貼り付けている状態だ。
いつまでもつかわからず冷や汗が...出ない。
この体、やはり便利である。
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体感時間で(正確だと思います)4時間34分後
「よし!交代の時間だ。あがる前に警備レポートを書いておくように。」
見張り7人の内1人が隊長のようであり、部下に交代を告げた。
洞窟側の見張りの1人が鍵を手に檻に近づく。
(どうする?どうするっ?流石にあそこは抜けられないぞ。見張りが通る檻の入り口に一緒に通るのか?いや、無理だろう。)
しかし頭がまた何かを訴えている。
(・.・..・__.・・・_・_____.:・・)
(うっそぉ、それこそそんなこと出来るか!!)
檻の人工物側の見張りは天井の一部を剥がして檻を通してそれを投げて、落下音で向こうを向かせる。洞窟側であるこちらの見張りは、洞窟に近い2人にだけギリギリ聞こえるように洞窟側に天井を剥がして投げ、最後の檻を開けている1人は小突いてよろめきながら後ろを振り向かせ、後ろの見張り仲間がやったのかと疑っている内にその死角から檻を抜ける。頭?が訴えているのは一般人からしたら戯言にすら聞こえない。
本当に出来るのか?という疑問が弓人の頭を|過(よぎ)る。
(いやいや、やらなきゃ始まんないでしょ。ほら、ここで冒険終わりますよ?
冒険?いつから冒険することになったんだ?とりあえずこの任務:不可能を可能にしなければ!!なんだこの圧倒的使命感!!)
見張りの1人が鍵を開けた。すかさず片手で洞窟の天井を少し剥がして、石ころのようなものを檻の向こうに投げる。
コンッ、コロロ
「「「なんだ?」」」
「ん?何かあったか?」
(よし!4人ともあちらを向いたぞ。それにして3人同じ反応とは仲が良いな!)
よし、次!と言わんばかりに もう一つ石ころを|つくって(剥がして)洞窟の奥の方に投げる。
コォーーーン...ォォォォン.....
その小さな音は洞窟で反響する。
「ん?」
「なんだ?」
(お前らは仲が良くないな。...ああっ今はそんなことはどうでもいい。)
天井を掴んでいる手を支点に体を天井から離す。振り子のように体をふって往復はせずに
そのまま手を放して斜めに落下。音も無く今鍵を開けた見張りの頭上の鉄格子に取りつく。
足を格子にからめて体を上下反転させ上半身で見張りに近づく。
ゴスッ
「いって!なんだ?」
見張りが振り返った。体を少し上方へ戻して視界に入らないようにして見張りが少し洞窟側に寄ったのを見計らって次は鉄格子の出入口の縁を掴んで足を体によせる。丸くなった体は手を支点に入口を振り子のように通り抜ける。体と足を伸ばして人工物側から格子を挟んでそのままの勢いで背筋も使い体を起こす。背中に来た格子を掴んで腹筋を使って足を振り上げ、格子に足の裏が付いたら手を放して天井まで跳躍だ。
スッ
「おい、今のは?」
「洞窟のほうで...」
「石ころ?」
下は混乱しているようだ。うまく天井に張り付けた弓人は少し安堵する。
(ここまで来れたが、俺の体は本当にどうなってるんだ? また“俺”でてるし。それはさておき、ふぅ、第一関門は突破だ。いやここで関門は終わりがいいのだが。)
(終わり.........だよね?)
第三話 「王城深部を抜けて」
(今私は天井の梁に掴まっています。というか抱きかかえて張り付いてます。)
さて、弓人は早くここを離れたいがどうしたものかと思案する。
あの7人はあからさまに周りを警戒しだし、何度も視線が弓人を通りそうになった。
(いや、実際何度も通った気がするのだが。でも一向に気付かれ......ない?)
たまにこちらを向く眼球を良く見てみる。すると.........
(微妙に焦点?視点?がこちらに定まっていない?)
そう何度かこちらを見ていても弓人自体を見ていないようだ。
何かに阻害されているのか? と疑問は尽きない。
(とりあえず天井を移動してここを出よう。幸いこの天井、梁が多くて掴み所が多くある。いい天井だ。)
シュッ スッ、シュッ スッ、シュッシュッ スッ
(洞窟からずいぶん離れた。でも天井から降りる気にはならないな。)
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しばらく天井を移動すると階段が見えてくる。
(昇りか、ここはやはり地下なのか?)
人の気配が無いのを確認して渋々天井から降りる。
実に5時間ぶりの地面だ。 床だー
(まてよ、さっきの洞窟の見張り達は私が天井に張り付く間を見計らってた時間から考えて8時間はあそこで見張ってたのか? ご苦労様です。)
それはそうだ。弓人という大怪盗(?)を逃がした時点で仕事は失敗しているのだからこんなにも無駄なご苦労は無い。
しかも入っていることも考えると2度取り逃がしている。
あの隊長、ピンチである。
(しかし、階段の先には何があるのやら。
いや、すまん。感覚が鋭すぎて大聖堂のような大きな空間ってことが分かっている。
すまんね。)
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扉の無い入口を抜けると人気のない大聖堂だった。しかし扉がないとは。
本来ここに来る人間は洞窟の前までは行けるのだろうか。
(まぁ考えても仕方ない。大聖堂から出よう。)
大聖堂はこれまたインターネットでも見たことがないような綺麗なもので、豪華さよりもあの祭壇のあった神殿のような厳かな雰囲気を醸し出していた。
壁沿いに移動して出入口までやってくると.........
「今日は御出で下さり誠↑↑に有難う御座います。」
なんか相手を必要以上に持ち上げる胡散臭い声が耳に入ってきた。弓人が不快に感じていると、
その途端、扉が開かれた。
スッ
「いや、今日は公務だからな。それよりも毎月来ているだろう。」
(また天井に隠れちゃった)
今度は大聖堂の吹き抜けの二階にあたる所謂キャットウォークの裏に張り付いた。
別に大量に並べてある長椅子の下に隠れても良かったのだが。
大物と小物のペアは2人で弓人が出てきた洞窟へとつづく階段を下りていく。
その隙に大聖堂から出たは出たが...
(広っ)
とても廊下とは思えないほどに何もないだだっ広い通路。柱は大理石なのか精巧な彫刻が施されていていつまでも見ていられるほどだ。見惚れないように廊下の端を進む。
向こーーーーの方にある出入口から誰か来るっ
すかさず柱に隠れて様子を見る。
コッコッコッコッコッコッ
(めいど?メイド?.........メイィド!???)
んっはーっ、そう、歩いてきたのはメイド姿の少女だった。十代前半?に戻された弓人くらいの身長だ。
(生きてるメイドなんて初めてみたぞ。興奮を隠せないゾ俺。)
メイドを見送り先を急ぐ。向こうは匂いから察するに外だ。
久しぶりの太陽を拝むぞー
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廊下を抜けた先は美しい庭園だった。
廊下からそのまま直線で伸びているこの通路は壁が片方取り払われ、そこに庭園があった。
(どれくらい金をかければこうなるんだ?)
まったくひねくれたものである。弓人は庭園を褒める前に掛かったであろう“金額”を褒めていた。
本当はこんな性格ではないはずなのだが。
本当だよ?
(あっ、太陽だ。庭園を見ていて忘れていた。すまん。)
弓人はその光景を眺めながら見るもの全てに興味を向ける。日本庭園ではないが、美しい草花と水の清らかなせせらぎが聞こえてくる。その風景に心奪われながら無防備に廊下を進んでいく。
(それにしてもきれいな中庭の庭園だ。花あり、木あり、小川あり、その横におしゃれで大きな石あり、その上に少女............あり。
あ、え?............あれ?)
スッ
素早く柱に隠れる。しかし圧倒的モロバレ!!
(まずい、見られた、見られたな!!)
まさかの初被弾があんな子供とは。不肖弓人、まさに不覚である。あの少女、庭園に溶け込んでいて全くわからなかったのである。
(私よりもよっぽど隠密してるよ!!)
あの少女に投げかけるように心の内で叫ぶ。
「???」
少女はその不確実な存在に驚き、いきなり掻き消えたことで周囲をキョロキョロ見渡している。
(ふう、すぐに隠れたし、庭園もとても広いせいでこちらの容姿を細かく見られたわけではないだろう。)
仕方なくまた天井に張り付く。
(チクショー、せっかく半分外に出られたのに。)
しかし弓人はこの時気づいていなかった。この少女の存在が後々思った以上に厄介になっていく事に。
「??.........誰か、いるのですか?」
いません。
大盗賊は今日も射(い)る ~行先は伝説達の魂だった~