儚く春に散る・・・生命

序章 ~運命~

早朝

―目覚まし時計のベルが鳴り響く―

悠夜「ん・・・」

僕は、(いち)()()(ゆう)()
この春、高校2年生になるのだ。
だけど、そんな僕にも弱点はある。

悠夜の母「悠夜、もう時間よ。いい加減起きなさい」

そう、僕は朝が一番苦手なのだ。
僕の家族は4人家族で、僕は長男で下は妹が居て、父さんと母さんが居る―。
いつもなら妹が起こしに来るのだけれど、妹は部活の合宿で3日間いないのだ。

悠夜の母「悠夜ッ」

母さんの怒鳴り声で僕は慌てて起きた。
悠夜「行ってきまーす」と、僕はパンをかじりながら学校まで急いで走った。

―高校2年にもなって朝が弱いなんて、情けないよなぁ―

と、そう一人で呟きながら学校まで走ったのだった。



教室

悠夜「ハァ・・・」

こんな毎日を続ける自分に溜息する僕。
しかし、そんな僕に声を掛ける一人の男が居た。

友人「何溜息ついてるんだよ、悠夜」

彼は(さい)(とう) (かず)()、中学からの親友だ。

悠夜「何でもないよ」

和樹「何だ?好きな女にでも振られたか?」

何でそうなるのか、僕は理解に苦しんだ。
そんな毎日を送る僕の学校生活―。


昼休み

そんなある時、僕はある事に気づいた。

悠夜「和樹、あの空席って誰のだ?」

その質問をしたのと同時に周りの空気が変わった。
和樹も、いつもなら遠慮無しに返答して来る筈が、この時ばかりは遅れて返答してきた。

和樹「あぁ、いるよ。ただ・・・ソイツは身体が弱くてさ」

僕は和樹の重々しい口調の意味が分からなかった。


放課後

結局、和樹はそれ以上の質問には答えず「ごめんな」と言い、話しはそこで打ち切られたのだ。

―あの空席、誰の席なんだろう―

僕は考えながら交差点を渡ろうとしていた。


そしてそれは、突然の出来事から始まった―。


男「おーい、大丈夫か」

―事故?―

僕は気になり、考えるのやめて事故現場へ向かった。
見渡せば車の破片やら部品等が散乱していた。
そして僕の目に映った光景の中に、一人の女の子が横断歩道の真ん中で倒れていた―。

僕は慌ててその子の前に行き、女の子の傍に駆け寄った。

悠夜「君、大丈夫?!だ、誰か救急車を・・・」

彼女は反応しなかった。

―どうしよ?こんな時どうすれば良いんだ?!―

何も出来ない自分に罪悪感を覚え始めた。
だが、女の子は意識があるようだった。

女の子「う・・・ん・・・」

悠夜「まだ、生きてる・・・」

僕は彼女が生きてる事に安堵したのと同時に、彼女を抱きかかえた。

―急がなきゃ・・・急いで病院に―

悠夜「もう少しの辛抱だから頑張って」

そして僕は、抱えている彼女を励ましながら病院へと急いだ―。


病院

少女「・・・ここは・・・」

少女は全体を見渡した後、自分の側にいる者に対し驚きが隠せなかった―。
そこには、疲れ果てて眠っている悠夜の姿だったのだ。

看護婦「彼が貴女をここ(病院)まで運んでくれたのよ」

看護婦はそう言って、その場を後にした。


―そして―


少女は、微笑みながら呟いた―。

少女「ありがとう」

1章 ~出会い~

朝の小鳥のさえずりが聞こえる。
そんな気持ちの良い朝を前に、僕は目を覚ました―。

悠夜「ん・・・」

僕がふと目を開けた。
そしてそこに居たのは、学校の帰り道の交差点で事故にあった一人の少女が、窓の外の景色を眺めている姿だった

悠夜「あ、あの・・・」

僕は声を掛ける事を、一瞬躊躇ってしまった。
それは彼女の外を眺める横顔が、どこか寂しげで綺麗だったからだ―。

少女「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか」

悠夜「え、あ、いや大丈夫だけど」

少女「良かった」

彼女はホッとしたかのように、そう笑顔で答えた―。

少女「えっと、昨日の事なんですけど、ありがとうございました」

突然のお礼に対して、僕は戸惑ってしまった。

悠夜「いや、対した怪我も無くて良かったよ。えっと・・・」

奈緒「あ・・・私、(やま)(むら)()()って言います。宜しくです」

彼女の前で、僕は余計な事を考えていた―。


―僕は、ここで一体何をしているんだろうか―


そんな事を考えながら、僕は彼女に自己紹介をした―。


1時間後


僕は時間を忘れて、彼女と雑談をしていた。

奈緒「え?一ノ瀬君って、政院学園の生徒だったの?」

悠夜「うん。まだ2年生だけどね。あ、悠夜で良いよ」

奈緒「あは、じゃあ私も奈緒で」

そろそろ学校に行かないと、先生に嫌味を言われてしまう―。

悠夜「それじゃ僕、そろそろ学校へ行くね」

その時・・・彼女の、雰囲気が少し変わった気がした。

奈緒「そっか、仕方ないね」

僕は「お大事にね」と言って、その場を去ろうとした―。

奈緒「また・・・」


―え?―


僕は、彼女の言葉が気になり振り返った。

奈緒「また、会ってくれますか」

彼女は、寂しげな顔を浮かべながら僕に言った。

悠夜「うん。僕で良かったら、いつでも会いに来るよ」

奈緒「あ、ありがとう・・・」

彼女は、涙しながら言ったのだ。


そして彼女は、少しずつ変わっていった―。

2章 ~桜~

春と言えば・・・そう桜の季節。
でも僕は、春と言う季節はあまり好きではないのだ。
それは・・・桜を見る度に、今までやってきた自分を思い出すからだ。

和樹「おい悠夜、聞いてんのか」

僕は和樹の呼ぶ声に驚き、椅子から落ちてしまった。

ガタンッ

悠夜「痛ッ・・・」

和樹「何で椅子から落ちるんだよ、ったく・・・」


―急に大声で呼ぶからだろ。僕だって、落ちたくて落ちたわけじゃないし―


和樹「悠夜、今日空いてる?」

悠夜「え?今日?」

和樹「何だ?何かあるのか?」

そう、今日は病院に入院している、山村奈緒の所へ行くからだ。
だけど、それを和樹に言ったら、どんな子かと着いて来るに違いない。

和樹「無理なら、別に良いけどよ。」

どうやら和樹は、花見パーティーのメンバーを集めていたらしい。

悠夜「うん、ごめん」

僕は、誘われて断るのが一番苦手だ。
周りからの視線や思い等、それが怖いからだ―。

和樹「悠夜、あまり気にするなよ」

僕の耳元で呟いた和樹の言葉は、僕にとって一番の励みだった。
そして僕は、学校からそのまま病院へと足を運んだ。


病院

コンコンッ

少女「どうぞ」

悠夜「お邪魔します」

奈緒「悠夜君、毎日来てくれるのは嬉しいけど、本当に大丈夫?」

悠夜「平気だよ。奈緒ちゃんの為なら、何処までも着いて行きますよ」

奈緒「ありがとう。でも「ちゃん」じゃなくて、呼び捨てで呼んで欲しいな」

悠夜「え?じゃ、じゃあ、奈緒・・・」


僕は照れ臭そうに、彼女の名前を初めて呼び捨てにしたのだ―。
だけど本当は、関わるつもりはなかった。
彼女が無事であれば、それだけで良いと思ったからだ。


僕と関われば、中学の時のように―。


中学時代の悠夜―。

男子「一ノ瀬~?お前、また振られたんだって?」

悠夜「・・・」

―もう良い・・・もう、死にたいよ―

そう思って自殺しかけた事、十数回―。

男子「ダッセー!やっぱお前は、要らないって事だ!ハハハッ」

悠夜「・・・・・・」

僕が何も、語る事の出来なかった中学時代―。


・・・・・・違う。


出来なかったんじゃなくて・・・逃げて居ただけだったんだ。
でも、そんな僕を救ってくれたのが、和樹だった―。

男「おい」

男子「ん?何だよ?」

彼が振り返った瞬間だった―。


ドカッ


顔面を思い切り殴ったのだ。

男子「・・・痛ッ・・・何しやがる」

男「自分のやってる行為が、周りにどれだけの迷惑を掛けてると思ってんだ」

彼は何も言い返さず、その場から立ち去った―。

和樹「大丈夫か?俺は和樹、斉藤和樹だ。よろしくな」

それからは、和樹が事ある毎に僕を助けてくれた。
そして、今の僕が居るのであった―。


現在

ゆう・・・や・・・君


奈緒「悠夜君ッ」

悠夜「え?え?う、うわぁ」


ドサッ


―僕は一体、何回椅子から落ちれば良いんだろう―


奈緒「だ、大丈夫?!悠夜君」


―大丈夫、ではないけど・・・痛い―


奈緒「ねぇ悠夜君」

急に奈緒の様子が変わった。
突然奈緒の顔が赤く、モジモジしながら何かを言おうとしていた。

悠夜「ん?どうしたの?顔が赤いよ」

奈緒「あ・・・赤くなってないもん」

僕から見たら、照れてるようにしか見えなかった。

悠夜「冗談だよ。でも、どうしたの」

改めて尋ねみた。

奈緒「お花見、一緒にどうかなって思って」

悠夜「ぼ、僕と?」

僕は突然の誘いに、驚きのあまり立ち上がってしまった。

奈緒「うん、嫌かな?」

嫌ではない・・・。
だけど、僕は女の子を楽しませる自信がないのだ。

悠夜「えっと、その・・・僕なんかで良いの?奈緒を楽しませる事なんて、多分出来ないよ・・・?」

僕は正直に話す自分に、少し寂しさを感じた―。

奈緒「ううん。私は悠夜君と一緒にお花見が出来れば、それだけで良いの」


―え?何で僕なんだ?知り合って日も浅いのに―


でも僕は、驚きはあったけど迷いはなかった。

悠夜「こ、こんな僕で良ければいいよ」

僕は奈緒の誘いを、照れながらも頷いた―。


―だけどどうして彼女は、花見を誘う相手が僕なんだろうか―


その事を聞いてはいけないと、この時の僕は心の底から感じていたのだ―。

3章 ~花見~

土曜の朝―。
今日は学校が休みだ。

でも今の僕に、学校よりもそれ以上に嬉しい事がある。
奈緒と、お花見をすると言う約束の日が今日だからだ。


某公園。

奈緒「あ、悠夜君。おはよう」

悠夜「おはよう。ごめん、待たせちゃったかな?」

奈緒「平気だよ」


病院側に外出許可を貰い・・・奈緒は今日だけ、外出を許されて居るのだ。
だけど何故、彼女は入院しているのか・・・。
僕には、それだけが今も謎のままだった―。


奈緒「桜、綺麗だね。あ?あそこでお昼にしよ」

彼女の無邪気で無垢な笑顔は、僕には勿体無いと思った。
だからこそ僕は、彼女に好意を寄せているのだ。
でも彼女自身、その事は知らない―。

奈緒「悠夜君!せっかく来たのに、もっと楽しもうよ。それとも私とじゃ楽しくないとか・・・」

悠夜「あ、ごめんごめん。十分楽しいよ」

でも今は、僕の気持ちよりも彼女との時間を充実したい。


悠夜「ところで奈緒、どうして僕を花見に誘ったの?」

奈緒「え?え、えーっと・・・」

この時の彼女は、戸惑いを必死に隠そうとしてるようにしか僕は思えてならなかった―。

奈緒「あ、ほら、私って友達少ないから」

悠夜「そうなの?奈緒の事だから、友達たくさん居ると思ったんだけどなぁ・・・」

奈緒は、苦笑いをしてるかのような微笑みで答えた。
僕は少しばかり疑問に思ったけど、今はこの時間を大切にしたいと思うばかりだった。


―気持ち良いなぁ。和樹が居たら、うるさいかも知れないけど―


奈緒「悠夜君、うぅぅ・・・」

悠夜「ん?ど、どうしたの?」

奈緒「蓋が開かない・・・」

悠夜「え?」

涙を浮かべて言った言葉が、どうやらペットボトルの蓋が開かない事に悔しがっていたらしい。
「困ったお姫様だな」と、僕は言おうとしたが敢えてここは言わない事を選んだ―。

悠夜「奈緒って、天然だな」

奈緒「ひどーい・・・私、天然じゃないよ」

悠夜「そう?何か性格が子供っぽいし、天然だと思うけど」

奈緒「じゃあ悠夜君は、イジメっ子だね」


―和樹が居なくて良かった―


悠夜「僕ってイジメっ子に見える?」

彼女は悩みながらも、首を横に振った―。

悠夜「僕は普通ですよ、お嬢さん」

奈緒「うぅぅ」

僕と彼女は、夕暮れ時まで花見を楽しんだ―。

そして、帰る直前・・・


ドサッ


悠夜「え・・・?」

僕の隣に居た彼女は、ゆっくりと前に倒れたのだった―。

4章 ~病気~

某公園―。

悠夜「な、奈緒」

彼女は倒れ、僕は何度も彼女の名を呼ぶ。

悠夜「奈緒・・・おい、目を開けろよ」

彼女からの返事は聞けず、ぐったりとしていた


悠夜の心。

一体どうして?
僕が居ながら一体何故?

彼女から「身体が弱いせいで入院生活を繰り返してきた」と聞いた事はある。

でも、倒れる程に重い病気なら何故僕を花見に誘ったんだ―。

―奈緒「私は悠夜君と一緒にお花見が出来れば、それだけで良いの」―

だからどうして僕なんだ?
教えてくれ、奈緒。


病院。

ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
隣で心電図の音が鳴り響く。
僕は彼女の前で、罪悪感に囚われていた―。

悠夜「・・・・・・。」

独りになるのは慣れてる、はずだった―。
色々な事を考えてる最中、担当医の先生に呼ばれた。

担当医「山村奈緒さんのご家族の方ですか?」

悠夜「いえ、友達です。」


更に僕は、聞いてはいけなかった事を聞いたのだ。

悠夜「先生。彼女の、奈緒の病気って何なんですか・・・?」

先生は僕の質問に対し、口ごもらせてから答えた―。

担当医「山村さんの病気は、脳の腫瘍による末期です。」


衝撃が走った―。
僕は医者が、冗談で言ってるように思えた。

悠夜「え、末期?」

担当医「ええ、非常に言い難いのですが・・山村さんは、悪性の腫瘍が脳の感情等を表す部分に付いていて・・・医師の判断で、これを手術して取り除く事は不可能なんです。申し訳ございません。」


僕は何も言えなかった。
後悔ではなく、無力な自分に苛立っていた。
唖然とした表情で病室の椅子に座った―。


そんな時、何かが呼んだ気がした。

奈緒「ゆ・・・夜くん・・・」


―え?!―


僕は思わず、彼女の方を向いた。

―気のせいか?疲れてるのかな―



奈緒「悠・・・夜君」

悠夜「な、奈緒?!い、今先生を・・・」


僕は無我夢中でナースコールを押し、先生を呼んだ―。


担当医「大丈夫です。ひとまず安定はしていますよ」

僕は、腰が抜けたようにその場に座り込んでしまった―。

奈緒「悠夜君。心配かけて、ごめんね」

僕はそんな彼女の言葉に、涙していた。

悠夜「全くだ、バカ」

泣きながら言った僕の言葉に、彼女は言った。

奈緒「悠夜君、ありがとう」


彼女自身が一番苦しいはずなのに。
僕は、そんな彼女に対して笑顔を送った。

外は既に夜―。
でも僕は、時間よりも彼女の側に居たい―。
それが彼女の病気を知った事への、僕なりの精一杯の支えだと思うから―。


奈緒「ねぇ、悠夜君」

悠夜「ん?」

奈緒「また一緒にお花見しようね。来年も再来年も・・・ずっと」


彼女の言葉に対し、僕は何も言えなかった。
でも、彼女の想いを無駄にしたくない―。


悠夜「ああ、勿論」

奈緒「ありがとう・・・」


彼女の笑顔は、僕を勇気つげてくれる。
だからこそ、僕は一つの決意をした―。


悠夜「奈緒、僕とデートしないか?」

奈緒「え・・・?私と?」

悠夜「駄目かな?」

奈緒「ううん、嬉しい。初めてだから、悠夜君から誘われたの」

悠夜「たまには、僕からも誘わないと。一応男だし、女の子をエスコートしないとさ」

奈緒「あはは。それでも、「一応」なんだ?」

悠夜「あ、そういう事言うのか?ひっでーなぁ。」



そう、僕はこれからの思い出を彼女と二人で作る為に―。

5章 ~夢~

一ノ瀬家の夜。

「お兄ちゃん」

何やら妹が怒りながら僕の部屋に来た。


―何だ?余計な事しちゃったかなぁ―


悠夜「どうした?優美」

優美「あたしが頼んでおいた本、買ってきてくれた?」

悠夜「あ、ごめん。忘れてた」

優美「やっぱり・・・」


彼女は僕の妹で一ノ瀬 優美。
2つ下なのに、兄の僕よりしっかりしていて良く説教される。
兄と言う面目が無い自分に、憤りと不安を感じていた。
それでも優美は、僕にとってかけがえの無い、大事な妹で家族だ―。
そんな妹を僕は、守ってやりたいと思っているのだ。


優美「ところで、最近のお兄ちゃん楽しそうだけど、何かあったの?」


―ドキッ―


悠夜「そ、そうか?普通だよ」


優美は誰に似たのか、時々勘が鋭いのだ―。


優美「ふーん。普通なら何で、ビックリしてるのよ?」


―何でお前は、一々突っ込むんだよ―


悠夜「び、ビックリなんかしてないさ。優美こそ、今日部活じゃないのか?」

優美「あ、そうだった。お兄ちゃんの相手してたら遅刻しちゃう」

妹とのいつもの会話。
変わらない毎日を送っている。

そして、僕は奈緒と約束をしていた。

━奈緒「来週の日曜だったら・・・先生も良いって言ってるし、日曜のお昼にあの公園で会おうよ!」━

来週、僕は待ちきれない程ワクワクしていた―。
同時に緊張のせいか、心臓の鼓動が早くなり、僕は知らぬ間に眠ってしまっていた。


翌日。

「お兄ちゃん、起きて」

―ん・・・優美の声?―


優美「お兄ちゃん、学校遅刻しちゃうよ」

悠夜「ありがとう、優美」


―そうか。夜、考え事したまま眠ってしまったんだ―


悠夜の母「悠夜、朝ご飯食べなさい」

悠夜「うん」


僕は、ベッドから立ち上がり背伸びをした―。
だけど何故か意識がハッキリせず、目の前が歪んで見えたのだ。
疲れのせいだと思い込んでしまい、リビングへと向かう。


だが突然目の前が真っ白になり、僕は倒れてしまったのだ―。

ドサッ―

悠夜の母「ゆ、悠夜」


悠夜の夢―。

ゆ・・・う・・・や・・・君

「悠・・・」

―僕を呼ぶのは誰?―

奈緒「悠夜君」

―奈緒、君なのか―

奈緒「ごめんね」

―え?何で謝るんだよ?―

奈緒「本当にごめんね・・・」

―奈緒?待てよ、奈緒―


リビング。

悠夜の母「悠夜、しっかり」

―今のは、夢?―

悠夜「僕、一体・・・」

悠夜の母「あなたがリビングに来たと思ったら、急に倒れたのよ」


僕には覚えがなかった―。
あるのは、夢に出てきた奈緒の言葉。
何故、奈緒は謝っていたのか?
意識が戻った今でも分からなかった。
そして僕は「もう大丈夫」と母さんに言って、朝ご飯を食べて学校へ向かった。

それでも気になる事は、何故急に倒れたのか―?
夢の中に出てきた奈緒は、何故謝ってきたのか―?
僕は、今も分からないまま学校へ・・・・。


学校。

悠夜「おは・・・」

僕の言葉を遮るかのように和樹が叫んだ―。

和樹「おい悠夜、何してんだ?」


―やけに騒がしいなぁ・・・―

悠夜「特に何も・・・」

和樹「何もじゃないだろ!アレを見ろ」


そう和樹が指差した方向には、学園掲示板があった。
だがそこには、信じられない物が貼り付けてあった―。


悠夜「な、何だよこれ」


それは土曜の昼、僕が奈緒と一緒に、花見をした時の写真だったのだ。


僕は夢の中で起きた出来事と、今起きている現実の中を錯綜していた―。

6章 ~迷い~

掲示板―。

僕は。何も言葉が出なかった。
ただ呆然と、掲示板に貼られている写真を見ていた。
そして、周りがヒソヒソとざわめいて来た時、和樹が僕を呼び出した。

和樹「悠夜、少し付き合え」

悠夜「え・・・?」


和樹は、僕を屋上へと誘う―。


悠夜「和樹?」


和樹は屋上に着いても、何も語る事はなかった。

―何だろ?和樹が喋らない―

この時、僕の心の中で一つの不安が出てきた―。

それは、和樹に対するものではなく、僕自身の事だった。


和樹「お前、写真の女の子と仲良いのか?」


―どうしてそんな事を?―


悠夜「どうして?」

和樹「良いから答えろよ」


和樹のいつもの口調ではなかった。
静かで、誰かを想うような口調だった―。


悠夜「一応、友達だから」


でも、和樹の辛そうな表情を見た事は決して、忘れる事は無いだろう―。


和樹「そっか・・・お前等、仲良いのか」


―え?お前等?―


悠夜「和樹はあの子の事、知ってるの?」

その問いに和樹は、すぐには答えなかった。


和樹は「ああ。知ってる。だってアイツは・・・」


僕はこの時、彼女の存在が薄くなっていくのを感じた―。


悠夜「今、何て・・・」

和樹「アイツは・・・山村奈緒は、俺の彼女だからだ」

悠夜「な、何言って・・・」


僕は和樹の言葉の意味が、良く理解出来なかった―。


悠夜「ははは。やめてくれよ・・・そういう冗談・・・」

和樹「冗談か・・・なら、アイツの抱えて居る病気でも言ってやろうか?」

悠夜「違う・・・そうじゃない。僕が言ってるのは、恋人ならどうして見舞いに行ってあげないんだ」


この時の僕は恋人が苦しんでいるのに、笑いながら言える和樹が許せなかった―。


悠夜「僕は、和樹だけは違うと思ってた」

和樹「・・・そうだな。俺はお前と違って、女なら死ぬほど居るからな」


―!?―


僕はその言葉に、我を忘れて和樹を殴った。


ドカッ―

初めて人を殴る僕。
その瞬間、何かが失った気がした。

和樹「痛っ・・・」

悠夜「ハァハァ・・・」

僕は怖くなって、思わずその場から離れて学校を抜け出した。

和樹「・・・・・・」


その後の和樹の事なんて、考えもせずに―。


━公園━

―ムカついて、思わず殴っちゃったけど・・・大、丈夫だよね―


和樹に対する不満・・・。
奈緒と会う事への不安・・・。
こんな状態で、彼女とデートなんて出来るはずがない。


それぞれが交錯する中・・・。

僕はこれから先、一体どうすれば良いのだろうか―。

7章 ~孤独~

公園。

やりきれない自分。
親友を殴った事への罪悪感。
そして、そんな僕に迫るもの-。

悠夜「奈緒に、どんな顔して逢えば」

そんな事を考えてる最中、一つの影が僕の足元に現れた。

奈緒「私がどうかした?」


―な、奈緒?どうしてここに―


奈緒「悠夜君?どうしたの・・・?」

悠夜「・・・な、何でもない・・・」


僕は彼女の顔を見て、何も話す事が出来なかった。

奈緒「私ね、悠夜君に言えなかった事があるの」

悠夜「言えなかった事・・・?」


聞くのが怖い・・・。
聞きたくない・・・。
僕はそれでも、奈緒の言葉に耳を傾けていた。

奈緒「私ね、彼氏が居るの」

悠夜「・・・・・・」

僕は、何も言えない。
いや、言いたくない―。
それだけだった・・・。

悠夜「そ、そうなんだ」

苦し紛れの笑顔。
僕には、それしか出来なかった。

奈緒「やっぱり、知ってたんだね」

悠夜「うん。今日、和樹から聞いた」

奈緒「本当は、悠夜君には知って欲しくなかった・・・」

彼女は、涙を浮かべながら呟いた―。

奈緒「和から電話があって、何があったのか聞いたの」

悠夜「もういい・・・」

奈緒「私、和と」

悠夜「もういいんだ」

僕は、彼女の言葉を遮るかのように叫んだ―。

悠夜「そう・・・だよな」

何もかも、信じる事が出来なくなった・・・。

悠夜「やっとわかった。奈緒も和樹と一緒になって、僕を見ながら笑って面白がって居たんだろ・・・?」


いつも周りが包んでくれた温もりは、今では幻に過ぎなかった。
現実でも夢でも、僕は『独り』なんだ-。

奈緒「そんな事してない!私はただ・・・」

悠夜「『ただ』なんだよ!?もう、放っておいてくれ」

後ろを振り向く事無く、僕はその場から逃げるようにして、がむしゃらに走ったのだ―。

奈緒「悠夜君」

これが現実・・・。
そして、いつもの僕の毎日がやって来る。
毎日が憂鬱で、生きている自分に何の価値すら見出せないまま―。
臆病で、下を向く事が僕の人生・・・。

悠夜「このまま死にたい気分だ・・・」

男「なら、さっさと死ねよ・・・」

突然背後から言われた事に、僕は思わず仰け反った。


男「イジメ、じゃ無さそうだな・・・」

悠夜「あ、あの・・・」

男「あぁ、すまん。俺は、雅。闇堂 雅だ。」

煙草を銜えながら、突然現れた男-。


―何なんだ?この人・・・―

8章 ~雅と和眞~

アパート-。

雅「ただいま」

男「ん?早かったな・・・」

雅「面倒だから、途中で戻ってきた」

男「ふむ・・・。で、そちらの方は?」


―え?ぼ、僕?!―


悠夜「あ、えっと・・・」


言葉が見つからない。
突然過ぎて、自分が何をしているのかさえ分からなくなっていた―。

雅「あぁ、コイツはただの死にたがりの坊やだよ」

事実だからと言って、簡単にそう言われると辛いものがあった。
でも何故だろう・・・?
僕はこの二人と居る事に、恐怖や不安が無かった―。
あるのは、安心感だけだった。


雅「で、コイツが俺の連れで同居してる和眞。紫藤和眞だ。」

和眞「よろしく」

悠夜「は、初めまして・・・」


―僕はここで、何してるんだろ・・―


雅「お前、名前は?」

悠夜「え?あ・・・ゆ、悠夜です。い、一ノ瀬 悠夜」


何故緊張してるのか?
それは何気無い、独特な雰囲気に呑まれそうだからだ―。
今まで人前で、緊張する事のなかった自分・・・。

初めてだった―。


和眞「悠夜とやら、座ったらどうかね?」

悠夜「あ・・はい。し、失礼します」


居心地は、良いとは言えない。
緊張、焦り、動揺・・・。
そして、落ち着かない自分。。。

雅「坊や、そんなに堅くならなくて良いから、少しリラックスしたらどうだ?」

悠夜「す、すいません」


確かに、堅くなりすぎだった。

和眞「雅よ、お前さんの事が怖いからなのでは?」

雅「俺のどこが怖いんだよ?」

和眞「全部?」

雅「お前・・・」


会話に参加せず、ただ僕は黙々と話しを聞いていた。
緊張している僕には、会話に参加出来る程に落ち着かなかった―。


雅「で、坊やは何で死にたいんだ・・?」


雅さんは、そう問いかけながらタバコを銜え火を点けた。


悠夜「・・・・」

和眞「口を閉ざしては、何も進まないものさ」

和眞さんは、何やら読書をしながら言ってきた。
言葉が出ない。
でも、確かにその通りだった-。

悠夜「親友と大事な人に、裏切られたから・・・です」

動揺していたはずなのに、緊張もなく落ち着いて言えた。

雅「裏切りか。それで、坊やはこれからどうしたいんだ?」

悠夜「どうって、言われても」


彼の言うとおりだ。
僕は、どうしたいのだろうか―。


―謝りに?いや、無理だ―


雅「質問を変えようか。お前は、その二人の気持ちをちゃんと聞いたのか?」


―そうだ。僕は我を忘れて、何も聞かずここまで来たんだ―


でも・・例え聞いたとしても、僕はどうしただろうか?
まともに聞く事ができるだろうか―?
今の僕には、あの二人の気持ちを聞く事なんて出来ない。


和眞「気持ちは聞かなければ、知る事は出来ないさ」

悠夜「え?どういう・・」

雅「つまり自分から聞く事で、相手の思ってる事が分かるって事だ」

だからと言って僕には、どうする事も出来ない。
僕は、親友と大切な人を傷つけてしまったんだから―。
そんな僕に、二人の気持ちを聞く資格なんて無い。

雅「まさかお前、「自分に気持ちを聞く資格なんて無い」なんて考えてないだろうな?」


―な、なんで?―

和眞「雅は経験豊富だからねぇ。君が考えてる事は、俺から見ても一目瞭然だよ」

雅「どんな経験だよ・・・ハァ」

悠夜「でも僕は、二人を傷つけてしまった。それで許されるはずが無い」


二人の言う事は分かる。


―でも・・僕は―


雅「ったく・・・これから俺達は、後輩の事で出かける。お前が今どうしたら良いか、俺達が戻るまでに良く考えておくことだ」

和眞「ここは自由に使って良いから」

二人はそう言い残して、部屋から出て行った―。

悠夜「どうしたら、一体どうしたら良いんだ・・・」


僕は何も考える事が出来なかった―。


雅宅-。

二人が出てから、1時間が経っていた。


―僕は、どうすれば―


僕は考えるだけで、何も答えを見出す事が出来なかった―。
気持ちを聞く事への怖れと不安。
何も出来ない自分が、凄く悔しかった。
悔しさと後悔で、僕は誰も居ない部屋で大泣きしていた―。


悠夜「くっ・・・う・・うわあああぁぁぁぁぁ」


幼稚園から今まで、イジメられても泣かなかった僕が、今日初めて泣いた―。


悠夜「僕は、バカだ」


―答えは、すぐそこにあったじゃないか―


僕は置き手紙をしてから、家を出て行った。


雅宅-。

雅「おいおい、あの坊やが居ねーぞ」

和眞「雅よ、ほれ」

雅「ん・・手紙?」


『ご心配お掛けしてすみませんでした。用事が出来たので行って来ます。ありがとうございました。』


雅「はぁ?あのクソガキ、何勝手なことを・・・」

和眞「まぁ落ち着け。文を見る限りでは、答えは出たみたいだし良いのではないか?」

雅「まぁ、な。ケジメを取るにしては物足りないけどな」


僕に足りなかった答え、分かった気がした。
信頼出来る仲間が教えてくれた。


僕はまた一歩、進み始める―。

9章 ~気持ち~

公園―。

和樹「悠夜の奴・・あのバカ、どこ行ったんだ?」

奈緒「和、悠夜君居た?」

和樹「いや・・・どこにも・・・・・ん?あれは・・」

奈緒「え・・・あ、悠夜君!」


悠夜「・・・・・」


僕は・・ただ呆然と、二人の前に姿を現した。

何を言えば良いのか・・僕は、言葉が出なかった。。


その時だった―。


和樹「心配させるなよ・・バカ」


和樹は、寂しげな口調で僕に言った。


悠夜「ご、ごめん」


謝る事しか出来ない自分・・そんな僕に、笑顔で和樹は―


和樹「俺じゃないだろ?」

そう言った和樹は、横に反れた。

そこに居たのは、奈緒だった―。


悠夜「あ・・・」


僕は、言葉が出なかった。

彼女を傷つけ・・彼女の気持ちも聞かずに、姿を消した僕―。


―何を言えば良いんだろう―


「お帰りなさい、悠夜君」

僕は思わず、彼女の方を向いた。

奈緒「良かった。心配しちゃった」


彼女の純粋な笑顔は、僕の心に響いたのだ。

どうしようもない自分―。

二人の笑顔―。

そんな二人の前で・・僕は、嬉しさのあまり・・心から泣いた―。


泣くのをやめて自分の気持ちを、僕が出した『答え』を二人に話した。


和樹「そっか・・悪かったな」

悠夜「いや、僕もいきなり殴ったりして、ホントにごめん」


二人の気持ち・・・僕は、それを聞こうと思い、問いかけた。


悠夜「あのさ・・奈緒と和樹は、その・・・どうして?」


その問いに答えたのは奈緒だった。

僕は緊張しながらも、答えを聞こうと耳を傾けていた―。


奈緒「あの時、私が言い掛けたのは・・その・・・私達ね、別れたの」

悠夜「え・・・・?」


僕は・・驚いて、和樹の方へ目を向けた―。


和樹「ま、まぁな。ハハハ・・」


和樹は、気まずそうに答えた。。


悠夜「な、何で・・!?」


僕の問いに、二人は何も答えなかった。

でも・・驚きの反面・・僕は、何故か嬉しさもあった。。
 
そこを、奈緒は突然―


奈緒「私ね・・好きな人ができたから―」


―そっか、だから和樹と・・―


でも疑問はあった。

奈緒は、入院生活の中で見舞いに来てたのは僕だけだ。

他に誰が?

でも時間が合わない頃に来たら、僕にも分からない。

分からない事ばかりなのに、僕は冷静だった。


夕暮れの公園―。

和樹「さて・・・そろそろ帰るか。。」

僕は・・腰を上げ、彼女に手を差し伸べた。。


悠夜「病院まで一緒に・・・」

奈緒「うん」

10章 ~異変~

二人との和解から、一週間が経った。

その頃僕達は、病院に居たのだ―。

今まで和樹と奈緒は、別れ話が原因で会って居なかったらしい。

そこを僕が、二人に余計な心配をさせてしまったのだ。

でも、今を楽しくやれれば、僕はそれだけで満足。


の、筈なんだけど―


和樹「だから誰なんだよ!?」

奈緒「何で和に教えなきゃいけないのよ?!」


口論の原因は、あの時奈緒が「好きな人が出来た」と言う事から発生したのだ。

それを和樹は知りたがってるのだ―。


悠夜「はは・・・。ちょっと僕、トイレに行ってくるね」


━奈緒と和樹━

・・・・・・。

奈緒「和、分かってるんでしょ?私が誰を好きなのか・・・。」

和樹「悪い・・・だけどアイツ、鈍感だぞ。今のままで良いのか?」

奈緒「うん、今はまだ」


俺は奈緒が何故ここまで元気になったのか、分からなかった。

だが、悲劇は俺の目の前で起きた―。


奈緒「悠夜君、遅い・・ね・・」


━ドクンッ━


和樹「奈緒?おい、奈緒?!」


その直後、悠夜が戻ってきた。


僕がトイレから戻ったら、奈緒が意識を失い、昏睡状態になっていた―。


和樹「悪い、悠夜」

悠夜「和樹のせいじゃないよ」


そう、これは誰のせいでもない・・・。


―でも何故?今までは、普通に楽しく会話してたのに―


僕は、そこに一つの答えを出した。


―もしかして、我慢・・・してた?でも何で?―


和樹「悠夜?」


僕はすぐに担当医である先生に、話しを聞きに走った―。


和樹「お、おい!?」


―そんな事ないよな?奈緒!―


担当医「・・・仰るとおりです。山村さんは、抗がん剤を3回飲む筈が一回も飲んでなかったんです・・・」


悠夜&和樹「!!」


―そんな・・・どうして・・―


和樹「悠夜・・」


僕は聞くんじゃなかったと、今更後悔したのだ―。

何も考えられなくなり、僕は放心状態になっていた・・。

和樹は奈緒の様子を見てくると言い、集中治療室に入って行った。


それから時は過ぎたが、僕の中では何もかもが真っ白になっていた。


―どのくらいの時間が過ぎたんだろう―


それから間もなくして、和樹が僕を呼びに戻ってきた―。


和樹「悠夜、奈緒が目を覚ましたぞ」


嬉しいはずなのに・・・それでも僕は、奈緒のした事が許せなかった。


奈緒「ゆ・・う夜くん」


―奈緒・・どうして―


悠夜「ど・・・うして・・」

奈緒「・・・?」

悠夜「どうして薬をちゃんと飲まなかったんだ?!」


無我夢中で、奈緒を問い詰めた―。


奈緒「し・・んぱい・・・させたく・・なかっ・・たから」

悠夜「させたくないなら、しっかり薬飲んでくれよ!」

奈緒「ご・・めん・・ね」

和樹「・・・」


やりきれなかった。

大切な人が苦しむ姿を見るのは、心が痛かった―。

僕は無言のまま、集中治療室から出た。

後を追いかけたのか、和樹も追ってきた。


和樹「悠夜・・お前、ひょっとして」

悠夜「・・・和樹、ごめん。でも、どうしようもないんだ」

和樹「・・そっか。あの時殴られた意味が、今やっと理解できたよ」


好き・・・それは、僕にとって切ない言葉に思えた―。

それはまだハッキリと、彼女に好きと言ってないからだ。


日没―。

僕達は会話もなく、家へと向かって歩いていた―。

そんな帰り道―


和樹「悠夜、お前はこれからどうしたいんだ?」


和樹の突然の質問・・・


悠夜「分からない・・・」

和樹「自分の気持ちは、自分でハッキリしろよ。言わなきゃ、伝わらない事もあるんだからよ!」

悠夜「!?」


そう言って、和樹は帰っていった。


―言わなきゃ伝わらない事―


この時、僕はふと奈緒の行動や言動を振り返り、考えを改めた。


悠夜「和樹、ありがとう」


迷いを断ち切って、僕は病院に急いで戻った―。

11章 ~告白~

集中治療室―。


―着いた・・・―


僕は深呼吸をしてから、奈緒の側に立った。


奈緒「悠夜・・君・・・」

悠夜「さっきは、ごめん。僕さ、奈緒に言わなきゃいけない事があったんだ」


さっきまでとは違って、落ち着いていた。

緊張も心臓の鼓動も穏やかで、心地良い気分だった―。


悠夜「僕は奈緒の事、好きだよ!だから、一緒に頑張ろうよ」


言えた―。

伝えたかった気持ち・・・。


奈緒「嬉・・しい・・・。わた・・しも・・・悠夜君・・す・・好き・・だよ・・」


辛くても、必死に笑顔を作る奈緒―。

そんな彼女を見るのは、僕は耐えられなかった。


悠夜「奈緒、元気になったら、僕と真剣に付き合ってくれますか?」

奈緒「はい・・!」


彼女は涙を浮かべて、僕に精一杯の言葉を出してくれた。


悠夜「じゃあ、元気になったら、またお花見に行こう!好き・・だろ・・?」


言葉が詰まる・・・。
涙を堪え、力一杯の声で奈緒に語りかける。


奈緒「うん」

悠夜「それから・・・・」


・・・狂った歯車―。

『運命』と言う狂った歯車は、僕達を引き裂いた―。


儚く・・・
切なく・・・
桜のように散っていく1つの・・・『生命』


二人の語り・・

二人の約束・・・

二人の出会い・・・・


そして―


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



《ピーッ》


突然鳴り出す心電図の音・・・。


医師達が集まり・・・。


担当医「脈が弱い!心臓マッサージだ」


・・・・・・


看護婦「脈拍・・駄目です!戻りません」

担当医「山村さん!頑張って下さい!ほらお花見行くんでしょう!?」


必死に彼女に語りかける担当医―

それを目の前に僕は、その場で泣く事しか出来なかった――。


そして『運命』は、残酷にも彼女を―。

最終章 ~運命~

春の終わりを告げる―

そして、1つの『夏』が始まろうとしていた。


和樹「おい、悠夜!?早くしろ、遅刻するぞ」

悠夜「ちょ・・待ってよ」


夏の風・・。

窓から差し込む夏の太陽・・・。


そして―


そこに1冊の日記・・。

風が吹き、めくれるページ・・・。


そこには―


日記―。


―奈緒へ―

もし君が居たら・・・僕は、君とは夏の海が良いと思ってるんだ。

奈緒は、海は嫌いかな?

僕は・・季節としては嫌いだけど、夏の海は好きだよ。

でもやっぱり、春が良いね。

君と見た桜が、僕は凄く好きだな。

だから奈緒・・

僕はこれからも、君の分まで生きて行くよ―!

君と過ごした時間を忘れない為にも・・・1つの季節で起こった全てを、無駄にしない為にも・・・。

君との出会いを思い出として、いつまでも・・・

ずっと、永遠に―。

―君と共に、春に咲く桜を見る為に―


またね!

by 一ノ瀬 悠夜



―『運命』と共にあれ―

儚く春に散る・・・生命

儚く春に散る・・・生命

この物語は、私立政院学園2年『一ノ瀬 悠夜』 そして、病により入院生活を繰り返している少女『山村 奈緒』 二人の出会いが、儚く切ない運命をもたらす事となる―。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 序章 ~運命~
  2. 1章 ~出会い~
  3. 2章 ~桜~
  4. 3章 ~花見~
  5. 4章 ~病気~
  6. 5章 ~夢~
  7. 6章 ~迷い~
  8. 7章 ~孤独~
  9. 8章 ~雅と和眞~
  10. 9章 ~気持ち~
  11. 10章 ~異変~
  12. 11章 ~告白~
  13. 最終章 ~運命~