親指
子を授かり、タバコをやめることにした。
そもそも煙を肺に入れず、ふかすだけの吸い方だったため、容易に禁煙に成功した。
が、口が寂しくてしかたがないので、とりあえず、親指をしゃぶってみた。
思いのほか、親指にはノスタルジックな味わいがあり、しだいにはまっていった。
みっともない、と嫁に注意されるが、そうかんたんにやめられずにいた。
快感だけではなく、中毒性もあるのだ。
そのため、大好きだった嫁の乳首も、とうぶんご無沙汰である。
だんぜん、親指のほうがしゃぶりがいがあるのだ。
子供が生まれてからも、私は親指をやめられずにいた。
そんなある日、とうとう子供が親指をくわえはじめたのだ。
おいしそうに、チュパチュパ、している。
それをみて私は愕然とした。
私は親指をしゃぶっていたものの、チュパチュパしてはいなかったのだ。
タバコと同じで、ただふかしているのと、同じだった。
ふと、親指をみると、風呂上りのようなしわくちゃな姿がそこにあった。
無性にタバコがすいたくなった。
親指