親指

子を授かり、タバコをやめることにした。

そもそも煙を肺に入れず、ふかすだけの吸い方だったため、容易に禁煙に成功した。

が、口が寂しくてしかたがないので、とりあえず、親指をしゃぶってみた。

思いのほか、親指にはノスタルジックな味わいがあり、しだいにはまっていった。

みっともない、と嫁に注意されるが、そうかんたんにやめられずにいた。

快感だけではなく、中毒性もあるのだ。

そのため、大好きだった嫁の乳首も、とうぶんご無沙汰である。

だんぜん、親指のほうがしゃぶりがいがあるのだ。

子供が生まれてからも、私は親指をやめられずにいた。



そんなある日、とうとう子供が親指をくわえはじめたのだ。

おいしそうに、チュパチュパ、している。

それをみて私は愕然とした。

私は親指をしゃぶっていたものの、チュパチュパしてはいなかったのだ。

タバコと同じで、ただふかしているのと、同じだった。

ふと、親指をみると、風呂上りのようなしわくちゃな姿がそこにあった。

無性にタバコがすいたくなった。

親指

親指

ショートショートです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-08

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