プロット「山椒大夫とめっけ鳥のこと(スピンオフ1、ミクメモ様々)」
未定のエピソード
【7】
4月最終の日曜日の午後、ミクは3人のクラスメートと一緒に、とあるアマチュア音楽フェスティバルの観賞に来ていた。
大空が青く澄んだ、陽射しの眩しい暖かい日曜日であった。
この音楽フェスは、○×市が地域活性化のために、毎年、4月の最終の土曜日と日曜日に開催しているイベントである。
今年で20回目の開催を迎える、非常に息の長いイベントである。
開催の場所となるのは、JR○×駅付近にある大小様々の会場である。
○×駅周辺にはたくさんの複合大型商業施設が立ち並び(駅自体もショッピングモールと連なっている)、
その商業施設を外れると、今度はビジネス街が広がる。
○×駅付近は常に人の流れの行き来が多い、活気のある場所である。
また、JR○×駅付近は緑も豊かで、その光景は非常に美しい。
音楽フェスのメイン会場となるのは、○×駅から徒歩で7分程の所にある
公立文化施設のメインホールである。その収容客数は約1500名である。
その他にも、公立文化施設の小ホール、駅前の公園に特設されたステージ、ライブハウス、商業施設の催事場など、
合計10の場所で演奏が繰り広げられる。
会場への入場は全て無料である。10の会場の公演時間は、土曜日も日曜日も、午前11時から午後8時である。
演奏される音楽の分野は、フォーク、ロック、ポップス、ジャズ、ラテン、これらの音楽に親近性のある、
生演奏の可能なポピュラー音楽全般である。
このアマチュア音楽フェスティバルは、出演者も裏方スタッフの様々な活動も、全てアマチュアのボランティアで運営されている。
ただし、日曜日に公立文化施設のメインホールで行われる最終のプログラムに関しては、
音楽フェスの主旨に賛同して頂けるプロのアーティストを招待しての公演が開催される。
2日間の音楽フェスには、総勢、約150組のアマチュアアーティストが出演する。
毎年、この音楽フェスの参加者募集には、全国からたくさんのアマチュアアーティストの応募がある。
そこで主催者側では、参加希望のアーティストに対して、演奏をWave音源で収録した
CD-Rの提出を依頼し、審査を行っている。
この審査に通過した者だけが、このアマチュア音楽フェスティバルの出演出来るのである。
出演者の演奏レベルには、極めて高いものがある。
今年、ミクの通う高校の軽音楽部から、2組の高校生アーティストがこの音楽フェスに出演することになった。
軽音楽部が始まって以来の、初めての喜ばしい出来事である(この事が影響して、部員達の多くは、
毎日の音楽活動の目的を改めて考え直しはじめた)。
1組は女子高生デュオによるアコースティックギターによるオリジナルJ-POPの弾き語りである。
もう1組は、男子高生3名からなるオルタナ系3ピースロックバンドである。こちらもその楽曲はオリジナルである。
女子高生デュオは、ミクのクラスメートである。
そういう訳で、ミクは他の3名のクラスメートと共に、今回のアマチュア音楽フェスティバルの観賞に来たのである。
【6】
ミク達の吹奏楽部は、毎年、5月の連休の1日を利用して、地元の文化施設の大ホールで(約1400席)コンサートを行う。ミク達吹奏楽部員は未成年であり、精神的にも経済的にも、保護者を始めたくさんの地元の人達の保護や援助を受けて生活している。そのお礼という意味を含んでのコンサートである。そのコンサートは無料であるが、会場の混雑を避けるため、整理券を配布する。客層の特色としては、吹奏楽をする中学生や高校生が多いことである。ミクの通う高校の近隣の学校には、吹奏楽の盛んな学校が多い。
コンサートのプログラムは3部から構成される。途中の休憩や最後のアンコールを含め、約2時間30分のコンサートである。
第1部では、吹奏楽のオリジナル曲、クラシック、J-POPやポピュラー、その他様々な分野の音楽を演奏する。
第2部では、その年の吹奏楽コンクールの課題曲を全て演奏する。吹奏楽部員は、コンクール本番の心構えをもって、全曲を演奏する。この第2部を特に楽しみにしている中学生や高校生も多い。この第2部の特色としては、指揮者(顧問の先生)によって、課題曲の客観的解説(作曲者の意図など)や、それに対する指揮者の解釈が詳しく話されることである。また、指揮者は、「今回の演奏が吹奏楽をするみんなの参考になればとても嬉しいこと、パンフレットのアンケート用紙に、感想や意見を書き込んでもらえれば(辛口の技術的意見も大歓迎です!)とても有り難いこと」も話す。ミク達吹奏楽部員は、コンサート終了後、聴衆のアンケートをわくわくどきどきしながら読む。
第3部では、地元にゆかりのある音楽やその年に流行った音楽を演奏する。それだけではなく、ミク達吹奏楽部員は、歌ったり踊ったりもする。
【5】
『ミクの願い』
ミクは音楽を趣味として行っている。ミクは吹奏楽をアマチュアとして行っている。将来、プロになる希望は無い。そのようなミクにとって、音楽のプロはとても大切な理想の存在である。
音楽のプロには、作曲家や演奏家や学者だけでなく、そのような人達を裏方で支える、様々な職種に携わる人々も含まれる。
何かの機会でプロがアマチュアを指導されるときは、アマチュアの様々な事情や能力や希望を考慮し理解して、決して無理強いすること無く指導して頂きたいと願っている。
コンサートのように多くの様々な人々が集まる時、音楽に関するプロの役割は、そのたくさんの人々が良心において一つにまとまるよう、決して諦めることなく絶えず働きかけることだと考えている(とは言っても、必ずスピーチが必要であるという意味ではない)。その良心と言うのは、難解な思想等に基づく一種独特な良心のことではない。国や時代や思想等を超えて、全ての人々が生まれながらにして自然に持っている普遍的な良心のことである。
例えば、「良い音楽を聴くことが出来て嬉しい」「良いパフォーマンスを見ることが出来て楽しい」「生き生きとした人の営みや人との時間に接することが出来て素晴らしい」「たくさんの人々と共に、ここに居合わせることが出来て感謝している」。こういうことが大切なんだと、ミクは思う。
ミクは高校2年生である。音楽の経験年数は決して豊かであるとは言えない。分からない事はたくさんある。それでも本当に思うことは、吹奏楽やオーケストラの演奏に関しては、初心者やアマチュアだけでは立派な演奏を行うことは極めて難しく、限界があるのではないか、ということである。音楽のプロや、プロに準じた教育を受けた人々の助けが必要だと、心の中で頭を下げて、ミクは思うのである。
(上記は、アマチュアとしてのミク個人のプロに対する希望です。現状、プロがアマチュアをどのように見ているのか、自分には分かりません。)
【4】
吹奏楽部の活動を終えたミクは、帰宅途中、中学生のときの友達である一人の男子生徒と、偶然に出会った。ミクと彼は、現在は別々の高校に通っている。しかしミクと同じく、その男子生徒も高校では吹奏楽部に所属している。帰り道を行きながら、二人はお互いのクラブ活動の近況を話し合った。それから別れ際に、男子生徒はミクに一枚のCD-Rを手渡した。それには、彼が参加している金管アンサンブルの演奏データが収められてあった。
男子生徒の所属する吹奏楽部は、創部してまだ数年しか経っていない新しいクラブである。部員数は、年にもよるが、20名から30名程である。その男子生徒が中心となって(指揮者のような役割も兼ねて)、自主的に金管アンサンブルを立ち上げ、練習を続けている。
彼の金管アンサンブルは、今、バロック時代のある一つの楽曲に取り組んでいる。音楽を作り上げていくために、あるプロの奏者によるその楽曲の演奏を収録したCDを参考にしている。何十回となく繰り返しプロの演奏を聴き込み、プロの演奏そのものを記憶したいと努めている。そして自分達の演奏にプロの演奏の特徴を反映させたいと思っている。語弊のある言い方かもしれないが、「演奏の模写」をしようと試みている。そのような方法で、演奏の完成度を高めていきたいと考えている。
しかし金管アンサンブルの練習の時、メンバーにプロの演奏を聴かせて、「この演奏をそのままそっくり真似して欲しい」という内容の練習には、決してならないように気を付けている。
ミクの受け取ったCD-Rには、プロの演奏データの他に、男子生徒の金管アンサンブルによる演奏データが5つ収められてあった。それらは、約2ヶ月毎の間隔をおいて録音されたものであった。全ての演奏を聴き返してみて、最近のものほどより演奏が充実していると、ミクは思った。
【3】
(楽譜は踊る!)
その時、ミクは、L.V.ベートーヴェン作曲の交響曲第5番ハ短調作品67の第1楽章を、2つの演奏で聴き比べてみた。一つはフルトヴェングラー指揮ウィーンフィルハーモニー管弦楽団によるものである。もう一つはトスカニーニ指揮NBC交響楽団によるものである。
フルトヴェングラー指揮の演奏は、非常に重厚で劇的なものに感じた。トスカニーニ指揮の演奏は、とても緊張感に満ちた前進的なものに感じた。同じスコアから(実際には、細かな相違のあるいくつかの版があるようだが)、どうしてこれ程の表情の異なる演奏が導き出せるのだろう?指揮者は演奏者に対してどのような指示を出し、演奏者はそれをどのように受け止めるのだろう?
実は、ミクは、楽譜への書き込みについて考えていたのである。
配られたばかりの、白地に黒で印刷された楽譜は、美しい。様々な音符の連なりが新鮮なリズムやフレージングを心に響かせる。そのような楽譜に、より良い演奏のための指揮者の指示を書き込んでいくのである。
書き込みをする時、ミクはやや線の太い柔らかな芯のシャープペンシルを使用する。後で修正しやすいように、そのようなシャープペンシルを使う。書き込みに使用するのはそのシャープペンシル一つだけである。指揮者の指示を記入するだけではなく、更に、その指示を実際の音にするにはどのようにすれば良いのか、その時々に思いついたミク自身の考えも書き込む。書き込むときは、指揮者の指示とミクの考えが混同してしまわないよう、書き方を工夫する。
ミクの隣に座る女子部員は、楽譜への記入のために、赤、青、黒の三色の油性ボールペンを使用している。既に作曲者自身が指定して印刷された内容へのアンダーラインや囲み、指揮者自身の解釈や注意点など、書き込む内容に応じて、ボールペンの色を使い分ける。彼女はとても美しく整った文字を書く。一通り書き込みが済んだ後の彼女のパート譜からは、何か一種の威厳のようなものが感じられる。
ある日、ミクは大手書店の楽譜売り場コーナーで、ある交響曲のスコアを手にして見た。それには、演奏時間の進行における音量のダイナミックスの差異が、図式化して表されてあった。演奏に関して、音楽の全体像を見渡すためには、「楽譜をデザイン化(?)するのも一つの方法かな」と、ミクはなんとなく思った。
またミクは、楽譜への書き込みが一通り全て終わって、そのパート譜をさっと見直したときに、指揮者の理想とする音楽の全体像が一瞬のうちに脳裏に思い浮かんでくる、そのような書き込みの方法はないだろうかと考えた。(他の部員達と同じように、練習の時も本番の時も、ミクは楽譜立てと楽譜を利用して演奏する。しかし、ミク個人は、作曲者自身による音の連なりや記号や用語だけでなく、自分で書き込んだ内容も完全に暗記した上で、楽譜を利用し演奏しているのである。)
(作者注、、、作者は自分で制作した音楽をどんどん忘れます。)
ところで、ミク達の吹奏楽部には、毎年、必ず演奏会で採り上げる吹奏楽のオリジナル曲がある。それはホルストの「吹奏楽のための組曲第一番」である。定期演奏会で演奏するときもあれば、その他のステージで演奏するときもある。もちろん、その時その時の練習や演奏において、前回の演奏よりもさらなる上の完成を目指す。ミクも新しい演奏に向けての練習の度に新しい書き込みをするのだが、それでも以前に書き込んだ内容も役に立つ。音楽に関する自分の理解の進歩を確認出来る時もある。
(ミク達の吹奏楽部には、その年にもよるが、120名から150名の部員が所属する。高校に入学してから、音楽や吹奏楽を始める生徒も多い。1年生から3年生の間の演奏力の進歩には、急激なものがある。吹奏楽部を受け持つ先生は4名いるのだが、それでも部員達のそのような演奏力の進歩を把握することは、やはり難しい。)
(録音について。営利目的の音源制作ではない。趣味のDTM制作やプロのスタジオレコーディングのように、パート毎の録音を編集加工して音源を練り上げるということはしない。吹奏楽部の「部員達」の記録として、記念として、成長の証として、音源を制作するのである。指揮者(顧問の先生)の指導とそれに応えた部員達の成果を「音楽」として残すのである。「コンサート命、一発録り命」の方針である。顧問の先生はマイクやその位置にこだわる。)
【2】
フルートのパートリーダーであるフルフルさんは(彼女はあるサイトに、とても爽やかでとんまな学園ミステリーを書いているのだが)、最近、日記を書き始めた。日記帳を用意して、手書きで付けている。
身辺の出来事にしろ、新聞等から知った出来事にしろ、200字から400字くらいの日記を書いている。日記としては文字数が多い方かもしれない。
日記であるのだか、出来る限り論理的な文章を書くように心掛けている。もっとも、個々の事実やその相互関係からある傾向や法則を導きだし、更に自分の意見や主張を加えるというような、あまり詳細な日記は無理であるのだが。
大学受験の小論文対策になればと思い、フルフルさんは日記を書き始めたのである。志望する大学の受験では、小論文を1000文字90分で書かなければならないのである。日記を書く時は、その文章の調子に関して、「天声人語」や「編集手帳」を意識して書いている。更に、歯切れの良い平易な短文を重ねて文章を書くように心掛けている。
フルフルさんの身近な所には、文章を書くことの苦手な人が、比較的多い。最近は親戚の中学生の男の子から、小論文の書き方を教えてと言われて、一緒に考えてあげた。初心を忘れず腰を低くして、みんなと一緒に良い文章が書ければと考えたりしている。
【1】
ミク達吹奏楽部員は定期演奏会に向けての練習と準備に入る。定期演奏会は毎年2月に、都心にある最も立派なクラシック専用のコンサートホールで開催される。総客席数は2000席である。
ステージは3部構成である。第1部では、この定期演奏会を最後に引退する3年生を中心としたメンバーで演奏を行う。曲の編成に応じて、2年生の部員も加わる。曲は吹奏楽のオリジナル曲やクラシックの吹奏楽用編曲である。途中、コンクールの選抜メンバーに入れ替わり、昨年秋の全日本吹奏楽コンクールの成果を披露する。第2部では、1年生を中心としたメンバーで演奏する。こちらも曲の編成に応じて、2年生の部員が加わる。曲は、マーチやクラシック音楽の要素の濃いポピュラー音楽を演奏する。第3部では、全ての2年生と3年生が均等にステージに立つことが出来るようメンバー構成を組んで演奏を行う。曲は吹奏楽のオリジナル曲やクラシックの吹奏楽用編曲である。
その都心のクラシック専用コンサートホールは、ミク達吹奏楽部の地元にある施設ではない。客はほぼ100%、ミク達とは関係の無い一般人である。ステージ上で、部員一人一人を客に紹介するということはしない。
ステージ衣装について。秋のオータムコンサートでは季節に似合う鮮やかな色調の衣装を用いる。しかし定期演奏会では、黒を基調とした正装のような衣装を用いる。高校生のミク達は、皆、たいへん大人びて見える。
定期演奏会では、照明の効果は、一切、使用しない。曲想により、例えば、「深い神秘的な森」であるとか「果てしない青空」であるとか、そのようなイメージを脳裏に思い浮かべて演奏することが大切だが、照明はその妨げになるからである。また、照明の変化にもテンポやリズムがあるが(照明の流れの全てがそうだと言うわけではないが)、それらは音楽のテンポやリズムとは一致しないのではないのだろうか?
チケット販売は全て、大手のチケット販売会社を通じて行う。いかなる場合もチケットの再発行は不可である。極めてまれにチケット紛失の連絡が購入者から入るが、事情を説明すると、皆、納得して引き下がってくれる。良識あるたいへん良い客ばかりである。
開演前のアナウンスについて。録音、カメラやビデオでの撮影は絶対にしないで頂くよう、協力を求めるアナウンスを流す。しかし、何らかの盗難防止に関するアナウンスや、警察から盗難防止に関する通告があった等というアナウンスは(要請がない限り)、絶対に流さない。ミク達吹奏楽部のコンサートに限れば、そのような事件はこれまでに一度も発生していない。紛失に関する問い合わせや苦情さえ無い。良識あるたいへん良い客ばかりである。ミク達の吹奏楽部は、良い聴衆や観客に本当に恵まれている!
プロット「山椒大夫とめっけ鳥のこと(スピンオフ1、ミクメモ様々)」