かわらないもの
3年ぶりに小説活動を再開しました
一人称視点は本当になれません
言い訳を2発ほどかましたところで
短編ですがどうぞよろしくお願いします
幻想郷のはずれにある博霊神社
いつもは参拝客も少なく閑散とした空気に包まれているこの神社も、この日は普段とはまるで違った様相を見せていた。
半ばさびれ掛けているような物々しい雰囲気で構える神社の境内には提灯や屋台が立ち並び
狭い境内は幻想郷に住む人々や妖怪達で溢れかえっている
屋台で焼きそばを買う者や、石畳に数人で囲い座ってお酒を飲んでいる者など
楽しみ方はそれぞれ違えど皆が笑顔で神社の催しを楽しみながらこの場を明るい喧騒に包み、祭りを祭りとして彩る
今日は幻想郷年に一度の例大祭の日
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祭りが始まってから数時間が経ち、日も落ちきり、祭りがようやく終わりの様相を見せはじめた
祭りに来た人々は少しずつ鳥居からのびる帰路へと歩きだし、立ち並ぶ屋台もおおよそが店じまいとなっていく
仕事から解放され暇になった元屋台の店主達はまだ残っている境内で酒を飲み交わす集団に加わっていく。
「ふああああ・・・さすがに疲れたわね、紫。」
縁側に座ってその様子を眺めていると
始まりから終わりまで隣で一緒にお酒を飲んでいた幽々子が眠そうに欠伸をしながら話しかけてきた
二人でどこかに遊びに出るなんていつ以来かしらね。
随分久しぶりだということは間違いない
そんなこんなでいろいろ語りながら、妖怪と亡霊であるが故の常識離れした新陳代謝をかさにだいぶ飲み散らかしていた
彼女の周りにはお酒の瓶が散乱し、おつまみが盛り付けられていたであろう紙皿が山のように積み上げられている
あーもう、こんなに散らかして…っていっても二人で呑んだんだから散らかってるのは私のせいでもあるけど
「あら、もうギブアップ?私はまだまだイケるわよ。」
幽々子の方に目をむけ、大分落ち着いたとはいえまだまだ賑わいを見せる祭りの雰囲気に負けない面持ちで返事をする
「そういうわけじゃないけど、例大祭は初めてだし、お祭り自体久しぶりの参加だし、時間も時間だしでさすがに眠くなってきたわ。」
その返事を聞いて、私は外の世界で拾った時計を確認する
針は10時30分を示していた
そういえば貴女いつもは9時過ぎには寝てるんだっけ…
亡霊だから寝ても育たないくせに無駄に良く寝るのね
そんなくだらない話をしている間にも、人々は一人、また一人と帰路へと向かっていき 神社から人が少しずつ減っていく
それを横目に見ながら
「そう。じゃあもう帰る?」
と聞いてみた。
お祭り自体は好きだけど、今日の祭りは幽々子と久々に遊べるからきたわけで
幽々子が帰るのなら私もここに残る意味はないし…
すると
「うーん…でも紫はまだまだここに残りたそうだし、私も付き合うわ…ふあああああ、眠すぎて今すぐにでも冬眠できそうだわ…。」
と、まだ私に付き合うのか今からここで寝る気なのか良くわからない返事
気を使ってくれているのかそうじゃないのかどっちなのよ
そういうニュアンスをこめて再び幽々子に視線を向けると…幽々子から少し意地悪な何かが込められた笑顔とウィンクが返ってきた
-久々に二人っきりで遊べたんだし、もうちょっとゆっくりしましょ
言葉はなくても、幽々子の笑顔にははっきりとそう書かれていた
どうやら幽々子も私と一緒で、ただのんびり二人でいたいらしい
それに幽々子は例大祭の参加は初めてだから、多少の眠気は圧してでももう少し堪能したいのかもしれない
行き慣れた場所でさえ、誰かと来ると楽しみもひとしおである
「そ。じゃあ幽々子さんが私を放って寝るまではここにいようかしらね。」
「何よそれ~。」
そうして私達はまた、程よく落ち着き、程よく賑わう祭りをどことはなしに眺めながらお酒を楽しむことにした。
---そういえば私もお祭りに参加するのは久々ね
---昔はよく彼女と行っていたわね…懐かしい
数百年も前の思い出が急に胸の内に蘇る。
それはたった一人で孤独に死んでいった、私のかつての親友との思い出…。
…ん?
目を閉じて思い出に浸っていると不意に太もも辺りに温かい感触
目を開け感触のした方に目を向けると…
「すー…すー…」
幽々子が私の脚を枕にして眠っていた。
というか、寝入ってるけどあなた今しがた横になったばかりのはずよね…。
いくらなんでも脚の上に頭が乗っかっていてすぐに気がつかないほど鈍感ではない
友人の奇術とも神業ともいえる行動に思わず感心しながらも、無意識のうちに体はこちら側を向いて寝ている彼女の寝顔を覗き込んでいた。
ピンク色のちょっと癖のある髪と、すっきりとしまった顔
普段は天然っぽくてお馬鹿な雰囲気を醸し出しているけど、やっぱりこうしてみると美人ね。
ずーっと隣でみてきた顔
悲しい死を迎え、生前の記憶のない亡霊となっても
変わらず私の親友でいてくれている顔
-昔よく桜の木の下で一緒に日向ぼっこしては、こうやって膝枕させられてたっけ
「…ちょっと紫、もう祭りはおしまいよ。幽々子起こして早く帰って頂戴。」
本日二回目の思い出鑑賞をしていたら突然、巫女の霊夢から早く帰れという催促。
「あら、ごめんなさい…でもこの子今寝付いたばかりなのよね。」
「そんなのあんたらが飲み散らかしたお酒の瓶でたたき起こせばいいでしょう。」
と、乱暴な巫女の口からはやはり乱暴極まりない提案
その口調と提案から普段の異変解決の手法も伺える
「そんな乱暴なこと考えつくのは貴女くらいよ。でもどうしようかしらね。」
あなたはそんなんだから働いている割にはお賽銭いれてもらえないのよ
少しは自覚しなさい
それでもこの状況どうしたものかしらね
決して人のこと言えないけれど、幽々子も私に負けず劣らず欲求に忠実に生きてる
食事にしても朝布団から出すのにしても何かにつけての妖夢の苦労話を何度耳にしたことやら…
当の本人は寝ているのを起こされたら妖夢でさえ撃退したくなるって前私に笑いながら話していたしね…可哀そうな妖夢
で、そんな幽々子が普通の人が考えるような穏便な方法で起こしても起きるはずがないのは想像に難くないわけで…
本当に瓶でたたき起こすしかないかしら…?
亡霊を強制成仏させそうな方法を半ば本気で実行しなければならないことを危惧しつつ方法を模索する
んー…
…あ!
眠れる獅子ならぬ眠れる友人を起こす方法を考え始めてすぐ私の頭に一つのアイディアが浮かんだ
いや、アイディアというには少し外れているかもしれない
単純に私が確かめたいからやってみようと思っただけ
「本当に…今日はよく昔のことを思い出す日ね。」
「は?」
「いえ、何でもないわ。それより幽々子を起こすわね。」
そういって昔を思い出しながら、私は幽々子を起こすための行動をとった
…ただ、これで起きたのは生前の話だけどね
今はどうかしら
淡い期待で私の胸は先走って少し躍っている
「…?何もしてないじゃない、早く起こしなさいよ」
何をしたのか良くわかっていない背後の霊夢から疑問の声
「いいからいいから。すぐわかるわよ」
確証もないのになぜか確信している私は霊夢に意味深な笑みを向けて返事する
その直後
「う~ん…?あ…紫、おはよ~…。」
振り返ると膝の上で横になっていた幽々子が目覚めていて、眠そうに薄目を開けてこちらを見ていた
「ね?」
「あら、本当に起きたわ。どうやったの?」
まさか本当に起きるとは思っていなかったらしい霊夢から驚いた様子の発言。
どうやら幽々子の欲求への貪欲さは他人に興味のない巫女の耳にも届いている程らしい
-昔縁側でお昼寝してる彼女に膝枕をしてた時、なんとなく彼女の頬を撫でてたら、いつもぐっすり一、二時間は眠る幽々子が10分もしないうちに目覚めてて
最初は気にも留めなかったけど、そうすると必ず起きるものだからこうすると彼女は起きる癖があるって気づいたのよね
「ふふ…おはよう、幽々子。さ、帰るわよ起きて。」
「ふぁーい…。ん~よくねたぁ~…。」
実際はほとんど寝ていないはずなのに目覚めのよさそうな友人を見ながら、私は自然と口元を緩ませていた
-記憶がなくても、亡霊になっても…
貴女はやっぱり貴女のままなのね
死んだから、とか
記憶が、とかじゃなくて
貴女がどこかで私を覚えててくれている
「ん~?紫何を笑ってるの?私の顔に何かついてるかしら?」
私の笑みを不審に思った幽々子から疑問の声
「なんでもないわ、寝癖ならついてないわよ。さ、帰りましょ。じゃあね霊夢!ご馳走様でした。」
「あ、紫ちょっと待ってよ!」
質問を適当にごまかし、私は幽々子の手をとって颯爽と歩き出す
普段は隙間の能力があるから歩く必要等ないのだけど…
「ねえ、幽々子」
私に手を引かれて後ろを歩く幽々子に話しかける
「ん?なあーに?」
「今日は楽しかったかしら?」
「え?当たり前じゃない。」
「そう、良かった…また来年も来ましょうね。」
「紫、さっきから何か変よ?ずっと笑ってるし」
「なんでもないっていってるじゃない。」
「うそばっかり…紫のいじわる~。」
年に一度の例大祭の帰り道
数百年の時と、死をも越えて繋がり続ける二人を、夜空に瞬く月と数千の星が静かに照らしていた
-完-
かわらないもの
いかがでしたでしょうか?
記憶を失っても体が覚えている、をテーマに書いてみました
基本的に東方2次はほっこりするのがいいですよね!
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