すーちーちゃん(10)

阿門 遊

十 お参りのお正月

「さあ、お参りに行くぞ」。
 お父さんの声に促されて、あたしは玄関を出た。
 今日は、元旦。あたしの家では、元旦の日には、近くの神社にお参りに行く。その後、近所に住んでいる、お父さんとお母さんのそれぞれの実家にあいさつに行く。もちろん、あたしの目的はお年玉を貰うことだ。もう、既に、お父さんとお母さんからはお年玉を貰っている。あたしは親戚が少ないので、お年玉を貰う相手は限界がある。後、貰える先は、お父さんのお兄さん、と、お母さんの弟の、二人の伯父さん、叔父さんだけだ。とにかく、家族の年中行事のひとつであるお参りに行かないといけない。そうしないと、お年玉も貰えない。
 神社は、普段は静かだが、今日は、お正月だから、近所の人が大勢参拝して、賑やかだ。神社には駐車場がないため、参道の道路には次々と車が止まり、また、参拝が終わった人は車を出発させている。その空いた隙間に、参拝の車が止まる。あたしの目的は、もちろん、この後の、お年玉倍増計画だが、すーちーちゃんにも会いたい。
 すーちーちゃんは、この神社の本殿に住んでいる。お正月の準備で大変だろう。冬休みに入ってからは、すーちーちゃんとは会っていない。今日が、今年、初めての出会いだ。
「甘酒はいかかがですか。ぜんざいもありますよ」
 鳥居をくぐった社務所では、お世話をする人が、お接待をしている。
 甘酒は、以前、口にしたことがあるけれど、飲んだだけで、ほっぺが赤くなり、お参りが終わった後、家に帰って、そのまま一日中、眠ってしまった苦い、いや、甘い、甘い酒っぽい、思い出がある。手水で手を洗い、神社の本殿の前に立つ。
「はい。お賽銭」
 お父さんが金ぴかの五円玉を渡してくれた。御縁がありますように、五円玉をお賽銭としているが、貰う方にしてみれば、五円よりも十円、十円よりも五十円、五十円よりも百円方がいいだろう。この五円玉は、すーちーちゃんに届くのだろうか。
 賽銭箱に、五円玉を投げ入れた。他の人のお賽銭と一緒に転がって、箱の中に吸い込まれていった。鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。目を瞑ってお願いをする。
 今年もいい年でありますように。すーちーちゃんと仲良くできますように。後、竜太郎君とも。すーちーちゃんとの出会いの時や、遠足、クリスマス会などのことが思い出された。
「さやか、何、お願いしたの。長い間、お願いしていたみたいだけど」
 お母さんが尋ねてきた。
「ひ・み・つ」
 本殿の扉は、普段は閉じられている、今日は開かれ、中に、数人の人が座ってお祈りしている。あたしは、中を覗く。すーちーちゃんを確認するためだ。祭壇の前には、鏡が置いてある。あたしは、あたしの顔が見えたような、あたしの目と会ったような気がする。鏡は、おしゃれをするためではなく、自分を見つめるためなのだろう。本殿の中に、目をうろうろさせるけれど、すーちーちゃんはいない。
「さあ、いくぞ。さやか」
 お父さんが急がせる。
「うん」
 あたしは、賽銭箱の前から動く。
「おみくじを買うか」
 お父さんが巫女さんの前に並んだ。すーちーちゃんだ。長い髪を束ねて、白い巫女姿だ。なんだか、いつものすーちーちゃんじゃない。大人に見えた。
 すーちーちゃんは、勉強でも、何でも、すぐに吸収してしまい、前から知っていたかのように振る舞うから、あたしは、いつも感心する。あたしなんか、とてもかなわない。
 次から次へとおみくじを渡していくすーちーちゃん。とても忙しそうだ。それでも、あたしは声を掛けた。
「おめでとう」
「おめでとうございます」
 ございます か。やっぱり、あたしより一枚も二枚も上手だ。大人だ。互いに、二言、三言、言葉を交わす。でも、すーちーちゃんは巫女の仕事で忙しそうなので、あまりゆっくりと話せない。
「さやか。お友達か」
 お父さんがあたしに尋ねてきた。お父さんには、学校の友だちのことは話をしていない。
「あなた。さやかの仲の良いお友達なのよ。それに、とても勉強ができるのよ」
 お母さんがあたしの代わりに答える。お母さんには、ある程度だけど、話をしている。
「へえ、そうか。それじゃあ、さやかのこと、今年もよろしくお願いします」
 お父さんがすーちーちゃんに頭を下げた。
「こちらこそ」
 すーちーちゃんも礼をする。
「へえそうか、じゃないでしょう」
 お母さんが突っ込む。確かに、気の抜けた、へえそうかの後に、改まって、今年もよろしくだなんて、おかしい。あたしは思わず噴き出した。あたしに顔を見て、すーちーちゃんも笑った。お父さん、お母さん、あたしの順番で、おみくじをひいた。
「三番」
 あたしは、取り出した棒を巫女姿のすーちーちゃんに見せる。
「三番ですね」
 すーちーちゃんは振り返り、箱の中から、三番のおみくじを取ろうとする。
「これは、僕の仕事だい」
 突然、現れたのが竜太郎君。竜太郎君も白い姿に袴を着ている。すーちーちゃんよりも先に三番のおみくじを手で掴むと、あたしに手渡してくれた。
「ありがとう」
 あたしはお礼を言った。
「竜太郎。あんた、邪魔だから、向こうに行ってなさい」
 すーちーちゃんが巫女言葉から、いつもの言葉に戻った。
「べええだ」
 竜太郎君は立ち上がると、本殿の中に消えた。
「ほんとに、もう」
 おしとやかだったすーちーちゃんが、いつものすーちーちゃんに戻ってくれた。あたしは、少し、ほっとした。
「大吉か?」
 お父さんが尋ねてきた。
「まだ、開いていない」急いで開く。吉だ。
「どうする?」あたしは両親におみくじを見せた。
「どうするって? おみくじは持って帰ってもいいいし、神社の境内の木に結んでもいいのよ」
 お母さんが説明してくれた。あたしは、おみくじを木に結えることにした。どうせ、家に帰っても、机の片隅に追いやられて、見ることもないだろうけれど、この神社のどこかに結えておけば、すーちーちゃんに会いに来た時に、いつでも思い出すことができるからだ。
 あたしは結び木を探す。狭い境内だ。近くの木の枝には、たくさんのおみくじが結えられている。これじゃあ、もう一度来た時に、あたしのおみくじかどうかがわからない。あたし専用の木はないかな。境内の裏に回る。そこに、竜太郎君がいた。
「さやかお姉ちゃん。これ面白いよ」
 竜太郎君は紙飛行機を飛ばしている。少し、小さい。それに神が薄い。よく見ると、おみくじだ。
「罰が当たらないの?」
 あたしは心配して尋ねた。
「だって、運が空を駆けるんだよ。それに、これが本当の、神飛行機だい」
 保育園児にしては、洒落たとを言う。
「あたしもやろうっと」
 あたしは自分のおみくじを紙飛行機にした。そして、ゆっくりと宙にすべらす。紙飛行機は、空に線路があるかのように、一定の方向に飛んで行く。そして、地面に落ちた。
「わーい。勝ったぞ。僕の方が、遠くに飛んだ」
 あたしは、別に、競争したつもりじゃないけれど、負けたと言われると、むきになってしまう。落ちた紙飛行機、そう、おみくじを拾うと、ひとさし指を舐め、風の方向を確かめ、追い風に乗って、紙飛行機を飛ばす。紙飛行機は、林を抜け、神社の塀から塀まで飛んだ。
「わあ、すごいや。うまいね。さやかお姉ちゃん」
 竜太郎君が誉めてくれた。 さっきは、負けた気がしたけど、今は、勝った気分だと、妙に嬉しい。おかしなもんだ。
「竜太郎、何、やってんの」
 大きな声がした。巫女姿のすーちーちゃんが立っていた。
「早く、部屋に戻りなさい。ママがそう言っているよ」
「一日中、部屋にいるのには飽きたよ」
「じゃあ、あたしと勝負。あたしが勝ったら、部屋に戻るのよ」
「いいよ。反対に、僕が勝ったら、外で遊び続けるよ」
「どうぞ。じゃあ、勝負よ。さやかちゃん、審判員をして」
 あたしは、急きょ、紙飛行機飛ばし大会の公認審判員になった。 線を引く。 その後ろに、二人が並ぶ。二人とも、紙飛行機を持っている。
 それ。二人が勢いよく紙飛行機を飛ばす。紙飛行機は風に乗って、神社の裏の林の間をすり抜ける。
「あっ」
 竜太郎君の紙飛行機が木の枝に当たって、落ちた。すーちーちゃんの紙飛行機はまだ空を飛んでいる。
「あたしの勝ちね」
 すーちーちゃんの勝利宣言。
「ちぇ」
 竜太郎君は自分とすーちーちゃんの紙飛行機を取りに行った。
「わーい」
 誰かの声がする。後ろを振り返ると、他の子どもたちがおみくじで作った紙飛行機を飛ばしている。
「さやか。じいちゃんちに、行くぞ」
 お父さんの声だ。あたしはすーちーちゃんと竜太郎君に手を振って、神社を後にした。神社の裏では、まだ、子どもたちが神飛行機を飛ばして、遊んでいた。

すーちーちゃん(10)

すーちーちゃん(10)

ある日、小学校に転校してきた少女は吸血鬼だった。十 お参りのお正月

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-19

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