サイレン

多摩川の水に乗りながら泳ぐ。声をかけて来る芋虫みたいな幼稚園児に手を振る。
滑らかに上手に川を下りながら民家を横目に、泳ぐ 夢を見た。
朝がた5時にサイレンがなって目が覚めた。東京湾に6時に津波が来るらしい。雨と雷とサイレンと近所の高橋さんの声が混じる。ゴウゴウと風が窓をノックする。ほらほら窓を開けちまいなってさ。
たいした被害はないだろうさ。だって私は5階に住んでいるのだもの。窓を少し開けるとビュッと風が入り込む。さながら優秀なしつこさを持ったセールスマンだ。奥さんすみません。こちらの新商品をお試ししませんか?ドアを足でロックしちゃってさ。あんまり私に進めないでだめよ。私はとてもとても天邪鬼。そんなに押しては心理的リアクタンス発令しちゃうわよ。
細い隙間から冷たい風が入り込み狭い室内で渦を巻いて消える。嵐の知らせだ。ふんわりと雨の香りを残し、ひんやりとした空気で寝ぼけた私の頬をピシャリとうった。水辺から離れなさい。とサイレンがいう。少し温度が下がった室内が外の気温を物語る。ブルブルと震え柔らかな毛布にくるまる。嵐の音を聞く。雷の音を聞く。サイレンの音を聞く。時より気になって窓を少し開けセールスマンを招きいれる。ドドドと駆け込みひんやり渦を巻き一礼してまた消えた。

サイレン

サイレン

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-19

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