夜の海
私は一人夜の海へ来ていた。
私とあの人が好きな缶ビールを持って。
「一ヶ月ぶりね」
そう言って私はあの人の缶に自分の缶をコツンとぶつけた。
私が何を言っても返事が無いのはいつものこと。
私とあの人はこの海で3ヶ月前に出会った。
その日私は、一人傘もささず雨が降る夜の海へ来ていた。
私は泣いていた。
ひとしきり泣いた後、海へ入るつもりだった。
その私の頭上が急に濡れなくなった。
見上げると傘をさした男が一人いた。
男はかがんできて言った。
「一人で泣くと泣き止めないよ」
そうして、私の頬をつたう涙を大きな手でぬぐってくれた。
その手が思いのほか温かくて優しくて私はまた、泣いた。
あら?
やだ雨だわ。
びしょびしょになる前に帰る事にするわね。
もう、涙をぬぐってくれる人がいないから。
夜の海