言えなかったコトバ

拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけたらと思います。

地平線に沈む太陽を眺めながら、河川敷を歩く。
どこからか漂って来る夕飯の匂いが、懐かしく思えた。
視界に広がる赤く染まった街をみると、不思議な気分になる。
このまま道を歩いていると、異世界に迷い込んで不思議な出来事に遭遇するんじゃないか、とか突然過去に戻って未来を変えたり、とか。
「ま、そんなことはあるわけないんだけどな」
声に出して言うと、一層むなしい気分になる。
太陽がほとんど沈みきって、薄暗くなった空を見上げると一番星が瞬いていた。
徐々にヒンヤリとした空気が体を包み込み、急に寒さを感じる。
「そりゃ2ヶ月も引きこもってれば、季節も変わるか」

二人で過ごした時間が走馬灯のように浮かび上がる。
いろんな場所で一緒に遊んだこと。
テスト前、頭が悪い俺に、学校帰りファミレスで勉強教えてくれたこと。
あの時はドリンクバーとポテトだけで何時間も粘って店員から白い目で見られたんだっけ。
頭の中でシーンが次々と移り変わる。
あれは学校からの帰り道、ちょうどこの河川敷を歩いていたときに言われたんだ。
「浩介の悪いところは、小さいこととか気にしすぎるとこだよ」
「そんな事言っても、気になるものは仕方ねーだろ。それに悠美がガサツなだけ……痛ッ」
「何いってんのよ、浩介はもう少し男らしくならなきゃ」
「それに」
「それに?」

「――嫌なことや悲しいことがあったときに乗り越えるのが大変でしょ」

「そうかなあ?」
「うん、浩介はもっと強くならなきゃ」

その数日語、悠美は自宅で突然倒れて入院した。

「すぐ治るって! そんな辛気臭い顔見せるなよー」
俺がお見舞いにいったとき、そう言いながら病室で見せた彼女の笑顔。
あの時の悠美が明らかに無理をして、気丈に振舞っている姿を見るのが辛かった。
彼女との思い出を振り返ると心が押しつぶされそうになる。
問題は時間が解決してくれるよ、という言葉をよく聞くけど1ヶ月程度じゃ心にできた大きな穴はまったくうまらない。

あの時は何も気にしなかったが、もしかしたら悠美は倒れるもっと前から自分の病気に気づいていたのだろうか。
入院中、悠美はよく「病気なんてすぐよくなるから。退院したら一緒に海を見に行きたい」としきりに言っていた。

気づくとあたりは完全に真っ暗になり、俺は海に行き着いた。
砂浜に降り、靴を抜いで、波打ち際を歩く。
「浩介もこっち来なよー! 冷たくて気持ちいいよー!」
今年の夏、悠美に同じ場所で言われた言葉が頭の中で聞こえた。
俺はあの時彼女に告白しようとしたんだ。
波打ち際で前を歩く彼女の背中に声をかける。
「悠美! 俺はお前のことが」
「ダメ」
「え……」
「今はダメなの」
拒絶の言葉を発した彼女の表情は見えない。
「夏が終わったら、夏が終わったらもう1度言ってほしい」
「……? それってどういう」
「――そのときには、私はもういないかもしれないから」
「え? なんて? 最後波の音で聞こえなかった」
「なんでもないでーす!」
その後、聞き取れなかった言葉を彼女に何度か質問した。
しかし彼女ははぐらかすばかりで、ついにそれを聞くことはできなかった。

波打ち際を離れ、砂浜に腰を下ろす。
月明かりに照らされた海を眺める。
「結局告白できなかったな」
自分の無力さや喪失感が波のように押し寄せる。
「本当情けねーよな、俺」
嗚咽と涙をこらえながら砂浜に仰向けに寝転ぶ。
輝く星々が、夜空のキャンパスをいっぱいに彩っている。

「綺麗だな」

俺は携帯を取り出し、その景色を写真に収める。
次にメールの画面を開き画像を添付する。
文章を打ち込み、送信ボタンを押す。

――もう君に伝えることはできないかもしれないけど、届くといいな。

「俺強くなるから、それまで空から見守っておいてほしい。今までありがとう。大好きでした」

言えなかったコトバ

文章の練習のため、今後も少しずつ投稿していく予定です。
拙い部分ばかりですが、アドバイスや感想などよろしければコメントを頂ければ幸いです。

言えなかったコトバ

名残の場所を訪れながら、過去の思い出を振り返るお話。

  • 小説
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更新日
登録日
2015-09-15

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