不可逆Memory

赤兎

本日星空文庫に登録させていただいた赤兎という者です。初めて小説を書き始めたのは小学生の頃で、当時よりは微量ながら技術は上がっていると信じたいです、はい!笑
今回掲載させていただく作品「不可逆Memory」。私の短い人生で起こった実話とフィクションを混ぜて作成しました故、ロマンチックな展開になるとは限りません。簡潔に説明するなら、どこにでもあるような恋愛小説です。しかしそれでは面白味が無いというのは、私も重々把握しておるので、中身は王道から外れ、こんな話の展開今まであったか!? っと思っていただけると、それこそ私の本望です。よろしくお願いします。

プロローグ 再会

 短く金色に輝くギラギラした髪。常に逆立って敵意剥きだしの獣のような風貌。今まで何十、何百人の猛者共を病院送り、または再起不能にしてきた喧嘩大好き少年。ジャラジャラとアクセサリーで着飾ろうが、金に輝くピアスを複数着けていようが、私は知ってる。コイツの全部……。出会いは小学5年生の夏だった。父の転勤で私は、あいつが住む町へと引っ越してきたんだ。



「愁くん。梓ちゃんとお家近くなんだよね? まだ帰り道わからないと思うから、一緒に帰ってあげてくれる?」

「えぇー。放課後野球の約束あるのにぃ」


無邪気に頬を膨らませて嫌な態度を取りつつも、毎日欠かさず私を家まで送ってくれたっけ。でもまぁ、コイツ小学生の時から中学生と喧嘩とかしてたし、見た目も怖かったから最初は私走って逃げてたけど笑
彼の友人の多くは少年野球チームに所属しており、野球チームの彼らも遠回りして私を見送ってくれることもあった。愁が強制的に周りの人を動かしていた気がする……



「お前、友達つくらねーの?」


私は極度な人見知りだった。男子は勿論、女子ですらまともに仲良しな子は「井川優香」一人だった。そんな私の居場所を大いに拡大してくれた。


「じゃあさ明日からお前も一緒に野球やろうよ! 優香もやってるし、俺が教えてやるからさ!」

ニカっと泥だらけで無邪気な笑顔で私を仲間にしてくれた。誰にでも優しく、見た目こそみんなと違ったけど、クラスの代表的存在で、他学年の女子からもかなり人気があった。少年野球チームで副キャプテンをやっていて、頭もよく将来有望としょっちゅう先生に言われていた。そう、小学校までの間は……。



小学校を卒業し、中学へと進んだ。私と愁は最初クラスがわかれてしまい、ほとんど接点がなくなってしまった。そして中学1年が終わろうとしていた時、ある事件が起きた。私達が通っていた中学野球部の柴田君という人が、何者かに腕の骨を折られたという。学校中で大騒ぎになり、柴田君の父兄の方が学校に押しかけ、一日自習ということになった。



「だってあの野郎、俺の給食のヨーグルト勝手に食ったんだぜ!? 許さねぇぞ糞野郎!」


夜まで校舎内に響き渡る説教を喰らって、半べそかいていたのが今では懐かしい。ヨーグルトで骨折られたらたまったもんじゃないわ……。
中学2年は同じクラスになったが、小学校の時の無邪気なアイツの姿は無かった。髪は完全にキンキンになっており、ピアスが左耳に2つ。さらに軟骨に2つ。制服の着こなし方もかなり乱れており、胸元からは金のネックレスが複数。俗に言う“中二病シーズン”というやつか。反抗期の領域を超えて最早転生したのかと私は疑ったが、中は何も変わっていなかった。3年生の不良少年に片っ端から喧嘩を売り、学校の主導権を握っていった。どれだけ外見が変わろうが、私への接し方はまるで小学校の時と同じだった。暇があれば野球の誘い。休みは家でマリオパーティ。3年生の時もクラスが変わってしまったため、それ以来再び接点がなくなってしまった。



「白本、この調子でいけば順調に合格できる。自信を持てよ!」


私は文武両道で有名な、私立竜ヶ崎高校へと進学した。進学校な為これで本格的にアイツとの関わりはなくなってしまった。入学式を終え、クラス全員が初対面という状況の中、私は指示された教室へと向かい、席に着く。窓際で後ろの席だった為、私としてはありがたい席であった。



「あァ、今式終わって教室着いたトコ。は? いやしてねぇよ! 学校来る途中に生意気な奴数人潰したけど、多分他校の奴だし平気平気。……!! っぐへぇ、いきなりでけぇ声出すな! じゃ、切るぞ!」

舌打ちをしながら乱暴な口調で誰かとケータイで話していた一人の男子生徒。一番左側の後ろにある私の席から見える光景は、金色に輝く後頭部。ワックスでがちがちに固められており、ブレスレットにピアスにとまあ、とにかく関わりたくないと思ってたやつだ。



「……あれ」

「……あ」


ソイツは不意に席を立ち、スマホをいじりながら私の席を通り過ぎる。香水とタバコの匂いをまき散らしながら過ぎ去った刹那、彼は立ち止まって「あれ」っと一言漏らす。連動するように私も言葉を漏らしてしまう。


「お前、梓?」

「…………なんでいんの?」



華のJKライフの最初の事件は、このバカとの再会だった。

第1話 『至って変化なし』

「梓……」

「……愁」

数秒間、目が合ったままの沈黙が続いた。周りの生徒達は近くの席の人物に声をかけ、友達作りに励んでいた。しかしそんな彼らも、柊斗私が知り合いということに気付き、教室がざわめき始める。


「ねぇ、あの子絶対ヤンキーだよね?」

「成瀬と話してるあの白本って子も不良??」

「えー嘘! 私梓ちゃんと同じ中学だったけど、真面目な子だったよ?」

愁の見た目に衝撃を受けているのだろう。まぁ無理もない……どこからどう見ても、超が付くほどの不良少年だ。


「アンタ……裏口入学?」

「いやちげぇよ! 久しぶりの再会の第一声がそれかよ……推薦貰ったんだよ。野球の」

「え? 文武両道といっても、ここの野球部強いっけ?」

「いやかなり弱いぞ。けどまぁおいしい話に変わりねぇしな! ハハハハ。真面目に受験勉強してた奴がたまねぎに見えてくるぜ」

大声でゲラゲラ笑いながら愁はそう言う。この発言に対し、周りの生徒が心地よい気分になることなど天地が覆ってもありえなかった。周りの生徒が愁の悪口をヒソヒソと言いだす。どうせ推薦だ。中身が伴っていない。場違い……。聞くに堪えない発言は愁自身も聞こえていたのだろう。舌打ちをして鋭い目で周りを睨めば、自然と空気が重くなり静かになる。コイツ初日からボス猿か……。


「志望校全部だめって言われたからな。ここしかなかったんだよ」

「それあんまり言わない方がいいよ。揉め事になりかねないから。いや100%揉め事になるから」

「全部叩き潰す!」

そう言ってニカッとさわやかな笑顔を私に見せてくる。笑うとかわいいんだけどなぁ……。顔も普通にかっこいい部類に入ってるし、グレたせいで全部台無しだっつうの……。


「あっははははは! 中々面白いね君。名前は?」

「あ? 誰だお前」

愁よりは小さいが、大きな声で上品な笑いを浮かべながら席を立ち、私と愁の傍に近寄って来たのは一人の男子生徒だった。びっくりしたのは、愁と同じ金髪であったこと。長めの金髪に水色の瞳。身長は……180はあるな。イケメン要素たっぷりかよ。愁の髪はマジで濃い金に、赤みがかかっている。この人の金は、同じ金でもクリーム色に近い。


「あぁごめんごめん。先に名前を名乗るのが礼儀だったね……。僕は『岡本ケイシ』。ロシアとのハーフだ。君は?」

岡本ケイシ。ロシアとのハーフ……。青色の瞳に高身長!? いやいや、これドラマ? アニメ? すげぇ……。
ハーフというものを実物で見るのは初めてで唖然としていたら、周りの餓えた女子生徒達が、目を星にして岡本ケイシを指差し話す。


「ケイシ君……!!!!?」

「なにあれ!! 超ド級のイケメン!! すごい……あんな2次元キャラ実在するんだ……」


手を差し出し握手を求める岡本ケイシを見て、愁はいつも通り……まぁ本人は普通にしているつもりなのだろうが、私から見ればガンを飛ばし喧嘩を売っている様にしか見えなかった。愁はケイシ君の差し出した手を強くギュッと握り、ニヤリといたずら小僧のように微笑んだ。


「俺、成瀬愁。よろしくなパツキンロシア」

「その呼び方はちょっと辛いなぁ」

2次元美男子と金髪ヤンキーが握手している光景はかなり異形なものだったが、私から見れば小学校の時の愁に新しく友達ができた光景。なにも異常でなく、私の口元も無意識ににっこりとなっていた。我ながらキモイか……。


「ところで、愁君と仲良くしてた君は……? 彼と同じ中学だったのかな?」

「へ?」

無意識過ぎて阿保丸出しな声が出てしまった。ケイシ君は視線を愁から私に移動させた。青色の瞳が装備されたモデルのようなイケメンフェイスで見つめられると、私も女子だ。ついかっと顔に熱がこもるのがわかった。ハーフだからだろうか……。何とも言えぬ心地よい香りが漂って来る。


「あ、うん! 小学校から一緒だよ! ……そんなことより、ケイシ君は部活とかもう決めた?」

「あぁ、一応僕もサッカーの推薦で入ったからね」

「へぇ、そうなんだ! サッカーかぁ……私あんまり知らないなぁ」

私は無意識に、ケイシ君との話に夢中になっていった。ハーフという新鮮さに驚いていただけなのかもしれないが、顔レベルは最強レベル。といっても別に緊張してたわけじゃないけど、最初の友達作りに勤しんだ。


「……? って、ちょっと! そんな怖い顔しないでよ。別に愁君の友達独占しようだなんて思ってないからさ!」

「え?」

突如慌てて汗を流しだすケイシ君。彼の目線の先には、知らない人の机に座り頬杖をつき、ぶっすぅっとふてくされたような顔をしてケイシ君を睨む愁の姿があった。あはは……会話に入れなくて拗ねてるな、あれは……。


「別にそんなんじゃねぇよ」

そう言うと愁は机を降り、乱暴に扉を閉めて教室を出て行ってしまった。ケイシ君は頭を掻きながら苦笑いをしている。


「ねぇ、あの人感じ悪くない?」

「ケイシ君と仲良くなったかと思えば、すぐ喧嘩? なんか怖い」

クラスの人達が再び愁の悪口を言いだす。アイツが不機嫌になった理由が分かっている私だからこそ、この空間は辛かった……。

第2話 『星沢奈津』


「はーいみんな座ってー!」

愁が出て行って数分後、担任のスーツ姿女の先生が教室に入室してきた。先生まだ若いな……。



「あれ、席空いてるわね……トイレかしら? ……まぁいいわ。えーっと、改めまして! 1年2組の担任、前田佳子です! 楽しいクラスにしていこうね! 入学おめでとうー、とかは面倒なので省きます。これから色々資料配るから、各自チェックしてね!」

今日の私達の日程。午前中に入学式を終えると、クラス発表がありHRを行ったらすぐ帰宅。とてもありがたく楽な日程となっていた。年間日程表に部活一覧など多くのプリントが配布され、先生との雑談が終わる頃ようやく愁が教室へと戻って来た。


「あ! 君が成瀬君? これからよろしくぅ! あと、トイレの場所はちゃんと覚えたかな??」


あぁ先生……! ピリピリしてるあいつにそんな……!

先生の発言に、周りの生徒達も笑い声をあげる。

「はぁい」


……あり? なんかやけに素直だな……。先程の不機嫌な様子はうかがえない。乱暴に席に着くと、アイツは机の上に山のように積まれた資料を読みもせず、カバンに無造作に突っ込んでいた。


ガラガラ……


「?」

生徒全員が出入り口の方へ見る。そこには一人の女子生徒が立っていた。オレンジ色のカチューシャを可愛らしくアレンジして頭につけており、制服の着こなし方もチャラチャラしており、俗に言う“ギャル”というやつか。といっても過度な化粧は見られない。軽く吊り上がった目は大きく、赤みがかかった茶髪に数個のピアス。

「(いやかわいいなおい!)」

と私が一言突っ込むと、先生が名簿を確認しながら彼女を見て言い放つ。他の生徒も彼女の風貌にビビッているのか、じろじろと見ていた。


「初日遅刻とは……入学式欠席って、中々勇者だね……。『星沢奈津』さん……?」

「すみません、寝坊しました」

小悪魔のようにヘラっと笑みを零すと、しぶしぶ席に着く。愁の横に座った彼女も、愁同様プリントを適当にカバンに積み込んでいた。


進学校なのに、案外ヤンキーちっくな人多いな……。



星沢奈津という生徒が入室してから数分後、先生の話も終わりチャイムが鳴る。初対面の人同士、友達作りに励みあう皆はそのまま教室を出て帰宅する。


「愁、帰ろ」

さっきの件で不機嫌だった愁の元へ私は向う。肩をトントンと叩くと、こちらに気付き反応する。


「あーわりぃ、俺この後部活見学行かなきゃなんなくてさ」

「へぇ……そこ真面目なんだね」

「推薦組は全員そうなんだよ……今日は一人で帰ってくれ。じゃーな」

「へーい」

軽く挨拶を交わすと、愁は面倒そうにグラウンドへいく為教室を出る。


「あの不良君と幼馴染か何かなのー?」

「え?」

教室に残っている数少ない生徒の中の一人、星沢奈津が私に話しかけて来た。ガムをくちゃくちゃ噛みながら。香水のいい匂いと、この……なんだ。何とも言えぬ、“女子匂”!? とても良い匂いだ…


こいつ、絶対強い……!!

「あぁーそうなんだよぉ。中学は違ったけど、小学校から仲は良かったなぁ」

「やっぱり。……あの子、途中入室してたでしょ? さっき」

「うん。え、何で知ってるの?」

「私今日遅刻しちゃったんだけどさ、他の不良に絡まれてる女子助けてたよ。彼」

「え……まじ? kwsk」

「星沢奈津。あなたは?」

「あ……。白本、梓です……。よろしくね」

「よろしく~……で、愁が女子助けたってどういうこと??」

こんな見た目派手な不良が女友達第一号とは……! 
星沢さんは薄い赤毛を触りながら私に話してくれた。

「教室来る途中、迷子になった1年生の女の子がいてさ。地味そうな子だったかなぁ……。同じクラスなら一緒に行ってあげようと思って声かけようとしたら、トイレから出て来た二人の厳つい男子生徒。愁君みたいな見た目だったね。LINEとか無理矢理聞かれてた」

「ねぇちょっと待って。ここ本当に進学校なの? 愁、その男子生徒、(あなたにしても)不良多くない?」

「アハハ! 文武両道の“武”で来てる人はそう言う人ばっかだよ! アハハ、梓おもしろいわぁ」

ケラケラ笑う小悪魔系女子……。かわいい……食べたい……。女子同士といっても、呼び捨て!? ステータスもはんぱねぇ

「話戻すけど、そこに愁君乱入!……」

第3話 『黒田花音』

あーかったりぃ。行く高校決まらなくて結局推薦でここに来たけど、ガリ勉小僧しかいねぇじゃねぇか。おまけにパツキンロシアとかいうわけわかんねぇ奴に、唯一の知り合いの梓はデレデレするし


……


おもしろくねぇ


俺はこの時無性にイライラしていた。高校という場所に微量ながら抱いていた楽しみという感情が裏切られたということ。んで……。なんかあの岡本とかいう奴とは一生仲良くできない気がする。


「はぁうっぜぇなぁ……。あれ、教室どこだっけ。はやく帰ってモンハンやりてぇなぁ……。ん?」

屋上で一本タバコを吸い終えいい加減教室に戻ろうとしていた時、男子トイレ付近に数人の生徒がいる。ここで頭のキレを発動させる。あの人達はきっと先輩だ! 俺の教室の場所を快く教えてくれるはず!


「すみませーん! ちょっと聞きたいことあるんですけどぉ!」

「あぁ?」

「テメェ、こいつの彼氏か何かか?」


え?


……え? ちょっと軽く意味がわからないんですけどぉ?? いや彼氏? いやまぁ女性は普通に好きですけど、流石に野獣先輩への憧れなんてないですし、なに。俺の高校生活初日が男からの告白? 


「え、いやいやそんな。俺はただ教室の場所が知りたくて……。貴方達先輩ですよね……?」

「コイツを教室まで送るのは俺、だぁ!!? ざけんなテメェ! 雑魚は引っ込んでろよ!」



「いい加減にしろ!! 俺はホモじゃねぇんだよ!!!」


プッスウ~……。

俺は大柄な先輩二人の頭を掴み、壁に思いっきりぶつけてやった。なんなんだよこいつら……。この学校ホモの巣窟か? 岡本って奴も何かホモ臭するし……。


「あの……」

「ん?」

「ありがとうございます! ……助かりました……。」

「へ?」

黒い地味な眼鏡に黒い三つ編みヘア。制服も黒(みんな同じ)で眼球も黒(大体みんな同じ)。靴下も黒(女子はみんな以下略)でとにかく黒い地味な女だ。ありがとう……?
あーーー把握。

どうやら俺は、アニメや漫画でよくあるとてもかっこいい事をしたんだと、この時点でようやく理解した。


「いやいや、俺はホモ討伐(ゲフンゲフン……いや、気にすんな。別にただの憂さ晴らしだし。それより、1年2組の教室どこにあるか知らない?」

「……屋上から階段おりてすぐだったと思うけど」

「うげぇまじかよ。サンキュー!」

地味地味陰湿女子から教室を聞いて、俺は教室へと向かう。

「ぁの……!」

「ん?」

「私、3組の黒田花音……。貴方は?」

「あぁ、同い年か。2組の成瀬愁だ。まぁ何かの縁だ。また変なのに絡まれたら助けてやるよ。それと、もっと声張れ!」

「……」

教室に着くころに、地味女子の名前は憶えて無かった。




「まぁ動機はおかしかったみたいだけど、私はすごいと思ったよ! 初日から女の子助けたってことに変わりないからね! アハハ」

「あはは……」

初日から暴れてるなぁ……。喋ったことないこんなかわいい女子様様に覚えてもらえるなんて、少しうらやましいわ……


「梓はさ、愁君の事好きなの?」

「そりゃ好きだよー。あ、でも別に恋愛感情はないよ」

この質問は今までに何十回もされてきたから答え方には慣れていた。よくカップルとして扱われる事が多く冷やかされもされたが、全くの誤解だ。


「へぇ、そうなんだ! だったら、別にいいよね?」

「何が??」

「私が愁君と付き合っても」

「……」





「成瀬……愁、君……」

誰もいない教室。一人の地味そうな女子生徒が、クラス名簿を見ながらそう呟くころには、夕方になっていた……。

第4話 『楽観』


「じゃあお疲れ様! さぁて、新入部員がなんと……3人! しかもその1人が経験者! 心強いぞぉ!!」

驚いた……。まさかこんな野球部が現実世界に存在するとはな……。
まず全学年合わせた部員数は8名。そこに俺達一年生が加わって、11名。試合に出れる人数が9だから、ギリギリだ……。


「いやぁ、俺嬉しいよ……! 廃部を救ってくれた救世主……! よし! じゃあ新入生歓迎会として、すき家いきまーす!」

いやすき家かよ……俺どっちかと言うと松屋派なんだよなぁ。

野球部キャプテンの海堂先輩。爽やかな笑顔だがどこかしら残念要素を感じてならない先輩。丸坊主で日焼けした肌。廃部寸前の野球部を頑張って支える人だ。

あ、いっけね……


「先輩すみません。教室に忘れ物しちゃったみたいでして……。後から参加してもいいですか?」

「お! お前敬語使えるの!!? その見た目で……っ、くうぅぅぅ……!! 無論いいとも! ゆっくり行ってきたまえ!!」

失礼だなおい……これでも一応元野球部。上下関係は嫌と言うほど指導されたわ……。


俺は気付いた。ポケットにケータイがないということに……。オレンジ色のギラギラとした夕日が窓を伝って校舎内をオレンジに照らす。

教室全てには鍵がついており、鍵は職員室で管理している為俺はとりあえず職員室へ向かうが、俺のクラスである1年2組の鍵は職員室にはない。ということは教室にはだれかいるってことだ。


「とんだだ手間だぜ……けど今日はタダ飯食えそーだな♪」



ガラガラ

俺は静かに扉を開く。放課後に残って勉強とか、変態野郎もいるだなぁ……。


「愁?」

「へ」

「おっ」



なんで……

なんで愁がここに??

確か野球部の活動に行ったって……。


「君は成瀬君だっけ。忘れ物か何かかぃ?」

息を切らしつつ教室へ入って来た愁に、短いスカートの星沢奈津が声をかける。

「あぁ、スマホ忘れてさ。えーっとアンタは……星沢さんだっけ?」


!!?

……正直私はこの時激しいショックを受けた。コイツが人の名前を事前に覚えていたことに驚いた。……

いや、別に嫉妬とかではないけど、愁もいつまでも子供じゃない。もう恋愛の一つや二つしたっておかしくないんだ。星沢さんみたいな人が好きなのかなぁ?


「おっ、名前覚えててくれたんだ♪ 奈津でいいよ~。よろしくね」

「あぁこちらこそよろしくお願いします」

なっ……。

初対面なのに、なんでこんな普通なの?
私が気にしすぎなのかな……。


「つーか梓。お前はこんなとこで何やってんの」

「え」

自分の机の中をごそごそ漁りながら愁は私に声をかけて来た。


「え……別に、なんでもいいじゃん」

「はぁ? なんだよそれ。俺嬉しかったんだけどなぁ」

「何がよ……」

「おっ、あったあった! さてっと……」


愁は自分のスマホをダボダボのズボンのポケットにしまうと、立ち上がって私達が話していた場所である窓際に近寄って来て、私の頭を雑に掴んできた。


「星沢さん。コイツの友達になってくれてありがとな! 梓の仲良い奴なら俺も仲良くしたいからさ、とりあえずLINE交換しない?」

「えっ……」

私の頭を掴んだまま愁は、星沢さんに頭を下げる。そして私の頭も無理矢理ぐいぐい下げて来た。


「ププッ、あっははははは!! 何それ? つーか声かけたの私だし! ……いいよ!」

星沢さんは、愁の差し出すQRコードを読み取りながらケラケラ笑っていた。

「何してんだよ、お前も交換しておけよ」

「え!? あ、あぁ、う、うん!!」

私の友達リストに星沢さんを追加してケータイをポケットにしまう。


「んじゃ俺部活で飯行くことになってっから。明日は多分活動早めに終わると思うから一緒に帰るぞ」

嵐のようにベラベラ喋って、すぐさま教室を出て行った。星沢さんはケラケラと笑いながら私に話す。


「今時あんな面白い人いるんだね! 私の事、絶対恩人か何かと思ってたよ! はぁ、かわいいなぁもう」

「あはは……あの馬鹿がすみません……」

「いや、こっちもありがとね。さっきは変な事言っちゃったけど、別に貴方に敵対心とか抱いてるわけじゃないからさ。三人で楽しくやっていこ!」

「……星沢さん!!」


夕日によってオレンジ色に照らされる女子二人の顔は、笑っていた。



「……あはは、楽しそうだなぁ」

岡本ケイシは、この様子をじっと廊下から見ていた。

第5話 『あい愁』

「君センスいい顔してるよ! 是非陸上部へ!」

「いやいや! 君は調理部へ!」

「柔道部来いよ」

新入生が入学して1カ月程経過した。登校して朝校門を通る1年生へ声をかける上級生であふれかえっていた。


「なんだこりゃ」

「部活勧誘じゃないかなぁ。私も数枚貰ったよ」

部活、かぁ……。

私は今までこれといってはまっていたスポーツなどはない。強いて言うならテニスかなぁ……といっても中学の時少しやっていただけで、部活の事なんてなにも考えて無かった。


愁と共に教室へ向かう。教室中は、部活動のプリントを手に取りわいわい話すクラスメートが多くいた。


「部活決めがそんな楽しいかねぇ」

「アンタみたいにスポーツ推薦で来てる人あんまいないからね。野球部も勧誘とかしてない?」

「あぁ……まぁ……」





「俺達と一緒に、甲子園を目指さないか!!!」




「部員10数人で甲子園って……夢見すぎなんだよなぁあの人」

「何か言った?」

「いやなんでも」


愁と席が離れている私は、自分の席に着き一人で先輩に配られた数枚のプリントを適当に眺める。


「(テニス部に陸上部……演劇に調理? へぇ、案外色々あるんだなぁ)」

「あーずさっ。おっす」

「あ! 星沢さん! お、おはよう」

「星沢さんってなんだよ……。奈津でいいって。おっ、テニス部入んの?」

「いや、別にただ眺めてただけだよ」

バッグに多くのキーホルダーをつけて、若干色黒で赤みがかかった茶髪の星沢さんが私にニコッと笑顔を見せながら話しかけて来た。


「いっそのこと野球部のマネでもやればいいのに」

席につき前髪を指でくるくるしながら、星沢さんは私にそう言う。
愁と付き合っていい? って言ってた人の台詞じゃないよぉ……。やはり星沢奈津はある意味強敵だ。

「えー! いやややっ、それは星沢さんじゃないの?」

「生憎、私ソフトの推薦で来てるからさ。彼と同じで部活の選択権ないんだよね」

「あ、あーなる……。ほえぇ、星沢さんソフトやってるんだ」

「まーねぇ。私も愁と同じ、勉強から逃げてここ来ただけなんだけど、弱くてかなわないわぁ……」

「部活かぁ。僕サッカー部なんだけど……白本さん、マネージャーとかやってみない?」

「えー、んー。特に決めてないけど……どうしよっかなぁ」

私と星沢さんが話している中に、金髪碧眼の超イケメン男子である岡本ケイシ君が入って来た。今日も相変わらず眩しい……。星沢さんとケイシ君は、これが初対面のようだ。


「アンタが噂の岡本って奴か。へぇ、こんな漫画みてぇな奴実在すんだなぁ」

「ほ、星沢さん! いきなり失礼だよ!」

岡本君をじろじろ見て、目を細くし珍しいものを見るかのような態度を星沢さんはとる。


「あはは! 噂通り中々ファンキーな女性だねぇ星沢さん。名前はよく聞くよ。中学時代は相当やんちゃだったらしいねぇ」

「は? テメェ何パチこいてんだこら」

ひいいいいいい!!!

この人絶対ヤンキーだ!! 

私は確信する。星沢奈津さん、絶対ヤンキー!


「男子に混ざってかなり暴れてたみたいだね。男勝りな素晴らしい女性じゃないか」

ニコニコ話し続ける岡本君。ギロリと目をギラつかせる星沢さんは、ケイシ君の手首を掴んだ。


「私は梓みたいに優しくねぇから気ィつけろよ……。女子に人気らしいけど、私そういうの全く興味ないんで」

「まぁまぁお姉さん。ここは一つ落ち着いて……」


!?!

仲裁という言葉が最も似あわない男が、星沢さんの方をポンポンとつかみ怒りを鎮めようと試みていた。


「愁……」

「奈津さんおはよっす。俺さぁ、昨日の夜思い出したんだけど……俺アンタの事知ってるわ! 橋んとこの瓦で楔中学と喧嘩したんだけど、その時いたよね?」

「え! 私楔中学だったよ!? え……あぁー! ウチのボスぼっこぼこにしてたのそういえば愁君だった気がする! あらぁ、ひっさしぶり! なのかな?」

ヤンキー男女がゲラゲラと思い出話を繰り広げ盛り上がっている。いや、会話内容的に喧嘩に発展してもおかしくないと思うんだけどなぁ……。


なんか、お似合いだなぁ


「マジ愁君容赦なさすぎ……バットのグリップでケツの穴ほじくりまくってたよね? アイツあの後痔が悪化して学校で問題になったんだよー? まじふざけんな!」

「そのままぶち抜いてやってもよかったんだけどな! ハハハハ!」

ゲラゲラ笑う二人の会話内容を聞いて、周りは唖然としていた。


そんな朝の賑やかな教室に、他クラスの男勝りそうな女子が入室し、声を張り上げた。


「奈津ー!!! 朝は女子ソフト部で職員室前集合でしょ!? 初日からサボるな!」

「あ、未希~。ごめすごめす~。んじゃ、私行って来るわ」

愁や私に手を振りながら未希と呼ばれた女子生徒の元へ向かう。その時、星沢さんが私に聞こえるような声で、愁に囁いた。


「(岡本とか言う奴、サッカー部マネに梓誘ってたよ)」

「(!)」



「もう遅い! ったく……」

「ごめんごめーん。今行く~」


……


「お前、サッカー部マネージャーやんの?」

!!?


げぇっ、唐突!!


「いや、別に決めたわけじゃないけど……」

「何か問題でもあるかな? 成瀬君」

「いや別に?」


「お前がサッカーに興味あるなんて意外だったわぁ。まぁ頑張れよ!」

「いや、だから別にまだ決めたわけじゃないけど……」

「今日も活動してるから、よかったらおいでよ」

「あ、うん」

岡本君はサッカー部の日程、活動場所などが記されたプリントを私の机に置くと、教室を出て行った。


いや、こうなんかあるじゃん……。

男女幼馴染だと、男は女と一緒になりたいとかそういうのないの?


愁……。


私がケイシ君と同じ部活になることに、抵抗無いの?


……そんな事、本人には口が裂けても言えなかった。言えるはずもない。

第6話 『身心洪水警報』

時刻は夕方になっていた。愁はさっさと部活に行ってしまった。早く終わるはずだから、少し待ってろ。とだけ言われた。

……。私は無意識に駐輪場へと足を運んでいた。閑散として人気のない駐輪場。部活動に励む生徒達の声がむなしく響いてくる場所。校門近くにある。


「……」

私は汚い油性ペンで「成瀬愁」とかかれたボロボロに汚い自転車の近くに行き、サドルの後ろにある冷たい銀の荷台にそっと手を添える。


愁の自転車の荷台は、ちょっとだけれども特別な思いを抱いていた。私だけの特等席……。中学は違ったが、よく後ろにのせて適当に走ってくれていたものだった。


星沢さんの件にせよ、部活の件にせよ……。いや部活の件が一番堪えたかな……

恋愛とかとは全く別でもさ



もう少し、私に特別な感情あってもいいんじゃないかなぁ。






「よーし、次ノックいくぞぉ!」

「先輩さーせん……今日用事あってもうあがっていいですか?」

「むっ? 用事とは何だ? お母さまが危篤!!? ふおおおお!! 成瀬早急に帰れ!! タクシー呼んでやろうか!? それとも俺が自転車で送って……」

「縁起でもねぇこと言わんといてくださいな海堂さん……。いえ、友達と約束あるんっすよ。すみません」

「むむむ……。なるべくそういう事情で早退するのは控えてくれな。お前は貴重な戦力だから」

「うっす」

……驚いた。


弱小な癖に練習は一丁前にやってやがる……つか俺以外全員坊主頭ってまじかよ。気合入ってんなぁ……。


「あれ、成瀬君もう帰るの?」

「あぁ、今日約束あってさ」

「そうなんだ。おつかれ!」

こいつは、えーっと……。そうだ。同じクラスの宍戸君だ。名前もモブすぎて記憶から探すのに手間取った。


ちゃちゃっと着替えて俺は小走りで駐輪場に向かいながらスマホを開く。アイツのLINEはっと……。ん?

数件来ていたメッセージに、一つだけ梓からのメッセージがあった。


先帰る


……。


「……んだよ」


駐輪場につき俺は自分の自転車の前かごに無造作にカバンを突っ込みながら舌打ちをし小石を蹴とばす。……。


「高校入って、まだここにお前乗せてねぇし……」



「ただいま」

「梓おかえり。どうだ、華の女子高生生活は」

「普通」

「相変わらずそっけねぇ奴」

この赤のチェックの黒縁眼鏡のパーマ男は、私の4つ上の兄。大学2年生。彼女はいないけど別にどうでもいい。


「おいおいお前の機嫌が悪いせいでお空も機嫌損ねかけてんじゃん」

「言ってろ。まじ今あんま話しかけてこないで」

「そんな事言うと、限定プリンお前の分も食べちゃうぞ~?」

「それは殺す」

あーーうっざ……。兄のこの絡みはいつもは然程ストレスに感じないはずなのに、今日は無性にムカつく。
兄の言う通り空は若干曇っていた。小さな居間には、ぽつぽつと雨の音が静かに響いていた。


「げっ、台風来てるなんて聞いてねぇぞ。今日午後授業なくて助かったわ」

「台風?」

兄が見ているTV画面には、天気予報図を説明する予報士が映っていた。


「あぁ、これから本格的に降ってくるみたいだぜ~。お前良かったな」

「……」


あいつ傘……。とまでは思った。けどそんなの関係無い。あいつにとって、私はそこらにいる女子生徒と同じ……。星沢さんとなんら変わりないクラスメートなんだから、私だけが意識する必要なんてない。


「お母さんは?」

「晩飯の買い物。車で行ってるから心配ねぇよ」

「っそ」

私は冷蔵庫から麦茶を取り出しぐいっと飲み干す。そのままカバンを持って兄を横目に自分の部屋がある2階へとあがっていった。


自分の部屋に入ると余計に雨の音が強く感じられた。一日学校でやけに疲れた私は、ベッドに仰向けに寝転がりスマホで愁とのLINEページを見る。


「何もなしかよ……」

本格的に、もうあんな奴知らないと思った瞬間だった。



ピンポーン


不意に部屋中に私の家のインターホンが鳴った。窓から玄関を見ると……。


私はこの時から自分の気持ちに気付いていたんだと思う。


ずぶぬれになって長い髪もベタベタでお化けのような姿になった愁。制服もカバンもびしょぬれで、私の家の前に立っていた。

第7話 『亀裂』

「愁……?」



「おーい、愁君だよ。お前に話があるって」

「……」

眠そうに部屋に入って来た兄は察したのであろう。


雨なんかのせいじゃない。私はこの時、なんでかわからないけど泣いていた。ゆっくりと流れる涙を拭きながら、私は冷たく言い放つ。


「まだ帰ってきてないことにしておいて」

「え? いや、愁君だよ? それもすごい真面目な顔してたし……」

「いいから放っといてよ!! 今はアイツの顔見たくないの!!」

「……はぁ。はいはい」

兄は静かに扉を閉める。

こんな意地を張ってどんな利点があるのか。利点すらないことなんてわかってる。悪いことしかないのに、今はなぜかアイツと会うことを私は躊躇った。



「悪いな愁君。梓まだ帰ってきてないみたいで……。家で待つかい?」

「ぁあ、そうっすか……。いえ、いいです。外で待ってるんで」

「え? いや外って……雨凄いけど」

「へーきっすよ! アイツが帰ってきたら……。ヘヘ、5分もかかんないんで」

「ちょ、愁君!」


愁は、兄の呼び止めにも応じず、家の塀の前にヤンキー座りをして、そのまましばらくいた。


「……」


その時、私のケータイがピロリんと一度だけなる。……愁からのメッセージだった。



会ってくれる気になったら出てこい



…………



愁は、私がもう既に家に居る事に気付いていたのだ。それを察して、この大雨の中傘もささず濡れてへなへなになったタバコをくわえてじっと待っていた。



……私はバカ。非情な人間かもしれない。あえて既読を付けず、ベッドに潜った。数分寝ていたかもしれない。


けど私は、愁の呼びかけに応じることはなく、母が帰宅してきて時刻は7時を過ぎていた。



「母さんお帰り」

「あら隼人帰ってたのね。……ねぇ、外に愁君いたけど、どうしたの?」

「え、まだいんの!?」

「えぇ……友達待ってるって言ってたから家に入れようとしても頑なに入ろうとしないし……傘も受け取ってくれないから、置いてきたけど……風邪ひいちゃうわ」

「愁君、もう3時間以上あそこにいるよ……?」

「え!? ちょ、やっぱ家に入れてあげましょ! 愁君って確か一人暮らしよね? 一体どうしたのかしら……」

「待って」


私は歯を食いしばりながら母さんたちを止め、玄関へと走る。扉を開き外へ出ると、すさまじい豪雨が私を襲う。瞬時でびしょぬれになった私が玄関を出て曲がると、小さく寒そうに身を丸めている愁の姿があった。


「……何してんの……ストーカーいるって警察呼ぶよ」


あぁ、止まって……


「いや、どうしても渡したいものあってさ」

「は?」


そう言うと、愁は大事そうに腹の中にひそめていた一枚のプリントを取り出すと、それを濡れないように試みているがびしょ濡れになってしまった紙切れを私に差し出した。


「……これって?」

「野球部マネージャーの心得。先輩が作った奴。マネージャーの仕事内容とか書いてある」

プリントはへにゃへにゃになっているが、温かかった。

「……いや、意味わかんないんだけど」

「あの場では言えなかったけど、マネージャーやってくんねーかな? 一緒の部活がいいなってずっと思ってた」

「…………」



「小さい頃の時みたいに、一緒に野球やろーぜ!」



私は、それをビリビリに破って捨ててやった。

第8話『雨と奈津』

「!」

「……別に野球とか全く興味ないし。そもそも運動とか興味ないし。ごめんね」

「……いやふざけんなよ! 破ることねぇだろ! 嫌ならそう言えばいいだけの話じゃね……」


「ウザいのよ!!!! 今更何幼馴染みたいな絡み? まじ意味わかんない!! 他の男子とアンタなんも変わんないから! 特別感出して絡んでくるの正直チョーメーワク!! それに雨の中一人で待ってるってホントいつまで経っても馬鹿なのね。馬鹿が移るからもう関わらないでくんない?」


あぁぁ、やめて


とまって黒い私


やめて


「アンタと仲良しって思われると、私も不良と思われるし、付きあってるって噂も流れ出すし!! 私だって好きな人ぐらいいるのにさ! すっごい迷惑なの! グレるのも勝手だけど、迷惑かけないで!!!」



やめて


とまれ


やめろ私



「……」


雨と涙が混ざって、私の顔はぐちゃぐちゃだった。ビリビリになったプリントの破片を愁は拾うと、くしゃっと丸めて捨てた。


「……そっか。わりぃ、俺が悪かったよ……。今後、お前とは距離置くから。ごめんな」

「うるさいうるさい!! 声も聞きたくない! お前なんか死んじゃえ!!!」


「……」

愁はヘラっと笑顔を私に見せて、自転車に乗り黙って静かにまっすぐ帰っていった。



……


さいあくだ……


私が愁だったら、本気で殴ってるに違いない。


死んじゃえって……うっわ。これまじで最悪な奴







「うっひゃーーー!! 雨すげぇぇぇ!! こりゃ傘持ってくるべきだっ……。ん?」


大雨の中、鞄を傘替わりにして猛ダッシュして帰宅していたのは、部活動を終えた星沢奈津だった。公園前を通るとき、シーソーに一人座っている男子生徒を見かけると近づいた。


「愁君何やってんの? 雨好きなの?」

「あぁ、奈津か……お前こそ何やってんの」

「雨の中一人いる知り合いみかけたら普通どうしたのってなるでしょ。何かあった?」

「……ハァッ。わっかんねぇ。俺なにしたんだろ……わかんねぇなぁ。あははは、わかんねぇよ! ……」

「……?」


制服が泥だらけになろうとも、愁はシーソーに座った状態から仰向けに死んだように倒れ込んだ。雨の弾丸が自分の上に強く降ってくる。これが案外痛い……。


俺、なにしたのかなぁ



俺は情けなく、女子の前だというのにガキみたいに泣きじゃくった。泥と雨が混ざった雨。すごく汚い。俺の大きな泣き声は、雨によって押しつぶされる。


「……とりあえずさ、風邪ひいちゃうよ? 私の家来る?」

「いや、いい……悪いなこんなキモイとこ見せちまって」


ここで泣きじゃくるのもみっともない。さっさと家返って全部忘れよう。

俺は自転車を起こして奈津に別れの挨拶を交わす。すると、後ろにやけに重みが感じられた。


「……奈津?」

「えへへ。……何があったか知らないけど、私、君の力になりたいよ……。仲良くなって数日だけどさ」

「……」



奈津は俺の自転車の荷台にひょいっと乗り、ニコニコ笑いながら俺の濡れている背中にべたっと顔をくっつけてきた。

第9話『二人きり』


「へぇー。愁君って一人暮らしなんだねー」

「まーな。つうか、愁でいいよ。君付けとかなんかキモイし」

「じゃあそうするー。お邪魔しまーす」


至って普通のマンションの401号室が、俺の家だった。俺の両親は海外に住んでいる為、俺はここで高校に入ってから一人暮らしをしている。


びしょ濡れになった星沢奈津が、濡れた前髪をいじりながら部屋に入る。

「傘持ってくるべきだったねー」

「そうだな」

俺は部屋に入るとカバンを適当に放り投げ、横向きに寝転がりベランダへと繋がる窓から見える雷雨の天気を見ながら一本タバコをくわえ火をつける。あ、未成年で喫煙はだめだぞ


「ふっつーにそうやって煙草吸うんだねー」

「まーな」

クスっと笑みをこぼす奈津は、俺の投げた鞄を手に取り自分の鞄と並べて綺麗に隅っこに置いた。


「私の友達も何人か吸ってたなー」

「お前も吸ってそうじゃん」

「そう見える?」

「何か病んだり凹んだりした時だけ吸ってるよ! ……って感じ?」

「いやすげぇ……。ん。んー、まぁぶっちゃけ。けど1週間に1本も吸わないよって、煙草の話なんかどうでもいいわ。何があったの?」

「……」

俺は黙って煙をふぅっと吹く。いつもはガンガン流している音楽プレイヤーも、今日は閑散としていた。すると、奈津は横になっている俺の傍に来て、頭をぽんっと触って来た。


「んだよ」

「梓と何か喧嘩したかー」

「はぁ!?」

「いやすっげぇわかるわなんか。……幼馴染って難しいよね」

「知ったようなこと言うな」

「私もねー、すっごい仲良しな幼馴染の男の子いてさ。愁達と理由同じかどうかはわかんないけど、すごい喧嘩したことあるもん」

「え、どんなやつ?」

「ホラ食いつく! わっかりやすぅ~。かわいいなぁもう」

「チッ……いいから教えろよ。お茶ぐらい出してやっから」

「お構いなく~♪」

なんかムカつく女だ。梓と友達になってくれ! とお願いしたことを思い出す。梓が絡んでいる分余計腹が立つ。けど、自然となんか……。ずっと仲良しだった奴みたいに話せるのはなんでだろう。出会ってまだ1カ月程度なのに。


「おっ、キンキン! ありが……んっ?」

「その前に髪だけでも拭けよ。それ今日使ってねーから」

「……」

大きく真っ赤なタオルを奈津の頭にかぶせてやった。お茶を机に置くと、ニコニコ笑顔を見せながら髪をそれで拭く。


「助かるわ。……えへへ、ありがとっ」

「!」

「♪」

「おい匂い嗅ぐな。なんか嫌だ」

「嗅いでませーん! 変態じゃないんで」

「あぁ、うっぜぇなぁお前」

赤いタオルから見えるコイツの笑顔を、結構わりとマジでかわいいと思ってしまった。……イヤ別に彼女がいるわけじゃないし、好きな女子がいるわけでもないけど。……いや、付きあってもいない女と部屋で二人きりっていうのがそもそもだめなのか???


「まあいいや……。で、聞かせてくれよ。お前の幼馴染の喧嘩の話」

「あぁ……。小学校からずっと仲良しだったんだけどね。喧嘩と言っても、今まさに喧嘩中なんだよね……。高校入るちょっと前からかな」

「え、そんな最近なのかよ! で、なんで……」

「うん。……ホント、愁と梓に近い関係だったよ。けどね、ソイツ彰っていうんだけど、彰に彼女ができんたんだよ。中3の時に」

「ふむ」

なんか俺が相談乗ってもらう空気だったけど、気付けば俺が話を聞いていた。奈津に煙がかからないよう、俺は天井目がけて煙を吐く。


「まぁここからはそんな面白い事でもないんだけどさ……。彰の彼女が私の事すっごく嫌いだったんだろうねぇ。まぁ無理ないわ。傍から見たらベタベタしてるように見えたんだろうなぁ」

「大体想像はつく」

「といっても、肩叩くぐらいだよ!? 彼女が怒ってるから、俺にあんま話しかけてくるなって言われてさ。ハ? 何様? ってなって、彰をボコボコにしちゃった♪」

「ふぁっ」

「元々友達も少ない方で、あいつの女友達なんてホンット、その彼女と私ぐらいだったんだよ!? なのに急に態度変えやがってさ……。ムカついたから河原でタイマン張ってやった」

「あぁ、なんか聞いたことあるぞ……女子が男子を再起不能にしたって。絶対お前じゃねぇか」

「え、有名なの!? ほえぇ~。……でまぁ同じ高校に行くのも嫌だったし、ソフト頑張ってたから、まぁ不安抱えまくって上京した。ちなみに私も一人暮らしだよ」

「マジかよ!? えぇ……。なんかすげぇなそれ。ぼこぼこにして一人で東京くるって、それ大勝利じゃね……」

「アハハハ! そうかなぁ? その後彰結局彼女と別れたらしいけど、そこからずっと連絡取ってない。……っていうまぁ小話」

「へぇぇ……いや、竜ヶ崎入ってお前みたいな女子いるとは思ってなかったわぁ」

「どういう意味だっ! あー、なんか思い出したらイライラしてきた。一本頂戴」

「あぁいいよ」

コイツの話を聞いた今、なぜか俺はケラケラ笑っていた。真剣に怒っている理由が可愛く見えてくる。ぷんすか怒る奈津のお茶を飲む行動、俺のタバコを箱から一本取りだす姿。……


なんだろう、この気持ちは……。

第10話 『風向き悪し』


「ちょ、すっげぇびしょびしょじゃん。アンタよくそれ吸ってるね」

「気合い」

「ねぇ、ライター火ぃつかない」

「あぁ? ったくわがまま姫だな。待ってろ、持って来てやっから」

カチカチと何度か火のつかないライターをいじる奈津。駄々をこねる奈津が可愛く見えてしまい、俺は代わりのライターを持ってくるため立ち上がる。

ぎゅっ


「……ん、どした」

「火ならそれ。あんじゃん」

「え」

奈津は、灰皿に置いてある俺の吸いかけの煙草を指差す。そして俺の顔を見て、ニィっと小悪魔のように笑った。


「……」


ぐあぁぁぁぁぁぁぁ

やべぇ


コイツ可愛い


「ちょっとこれ借りるねぇ」

「勝手に触んな」

「え」

奈津が俺の吸いかけの煙草を手に取ろうとしたところ、俺が先に取り上げる。


「オラ、つけろよ。早くしねーと火種落ちる」

「……ばぁか」

俺は煙草を口にくわえ、軽く息を吸う。新品の煙草をくわえた奈津の口。……顔が近づき、ヂヂヂっと火が引火する音がなる。


「ん……」

「ふぁ……」

奈津の煙草に火がつき、彼女の口から煙が出てくる。嗅ぎ慣れた煙の匂いに、フルーツガムのような奈津の口の匂いがまじり、俺の顔に漂う。


「じゃあ、次は愁が話していいよ」

「あぁー……なんか吹っ切れたわ。どうでもよくなった」

「へ?」

俺は元々同じことを考えるのがかなり苦手だ。梓と喧嘩なんて今までしょっちゅうして来たし、今回明らかに梓が悪い。ここまで暴言言われた俺が悩んでいるのは、かなり哀れ。と思えて来た。


「あんな奴のことで凹むとかアホくせぇ」

「あんな奴って……。幼馴染でしょ! そう言う事言わないの」

ポカっと、俺の頭を軽く叩く奈津。

「……」


その後微妙な何とも言えない空気が漂う。大してお互いが話すわけでもないまま、時間だけが流れる。……


「ねぇ、今日泊まってもいいー? 別に変な意味とじゃなくて。雨凄いし帰るのだるい」

「別にいいけど、制服は?」

「洗濯させてもらうと助かるなぁ。あ、1日じゃ乾かないか」

「乾燥機あるから平気だよ。泊まってけば?」

「ありがとー」

ニコニコ笑う奈津。


「とりあえずシャワー借りていいかな……。制服ずぶ濡れでさ」

「んじゃ俺もその後浴びるわ」


奈津は俺の寝巻ジャージを借り、浴室へと入っていった。狭い部屋なため、シャワーの音や、時折する奈津の咳き込む声などが聞こえてくる。……。煙草をくわえながら、俺はひたすら無心で待ち続けた。


「今回は随分派手に喧嘩したなぁ……流石にちょっと言いすぎなんじゃないのか」

「……」

愁にありったけの暴言を吐き終えた私は、再びベッドに入りふさぎこんでいた。そこへ心配そうに兄が声をかけてくる。しかしそれすらも、ウザったく感じられた……。

第11話 『宍戸俊平』

組織というのは、やはり序列関係というものが存在している。ピラミッドで表すとわかりやすいように、まず一番上にはボス。初日から存在感を現しクラスの主導権を握り逆らえる奴なんて誰もいない。



「入学早々、クラス対抗球技大会! 男子は野球で女子はテニスかぁ。俺に任せろよ!!!」

成瀬愁。金髪にかなり多いピアス。顔も正直かなり整ってるけど、かなり細い眉毛。THE・DQNって感じだ。初日から頭角を現し、現に球技大会について語っている。黒板に色々考えながら打順を汚い字で書いている。


「俺中学の時野球部だった! だから一応経験者だぜ!」

「ぬっ、お前は神山昇君だっけか。まじか! ポジションは?」

「ショートだぜ~。このクラス野球経験者少ねぇからなぁ……」

「つーか、経験者なら野球部入れよ!」

神山昇……成瀬とは違ったベクトルで人気を得ている。特に女子からの人気が多く、爽やか黒髪青年という代名詞は彼にこそふさわしい。


っていうか…………


僕も野球経験者だしぃ!? っつうか僕今野球部だしぃ!? 忘れたとは言わせない。「宍戸俊平(ししどしゅんぺい)」! 成瀬と共に野球部に入った1年生!! 

クラスの主導権を握るボスライオンが成瀬で、雌の動物から人気を得るイケメン狼が神山。せいぜい僕なんて……水辺に映る自分を見て落胆するウサギだ……。



「なら昇が3番ショートだな。あ、もちろん俺が4番でピッチャー! ……おい他いねぇのかよ! ……あ、あと可愛いマネージャーも欲しいな」

「可愛い女子マネねぇ。呼んだ?」

「おっ、奈津おはよ。つかお前はマネじゃなく選手だ! 5番は任せたぜ」

「ばーか。でもウチ普通に野球したいな……」


あの人は……成瀬と同じ部類の女子、星沢奈津。顔だけで見れば大トロレベルだが、あれはギャル。僕とは一切関わりの無い種族だ。



「……君、確か野球部だよね? 話し合い参加しないの?」


!!!!???


今、僕は神に感謝した。この女神さまと、僕なんかが会話する機会を与えてくれたのだから……


眩しくて直視できない……。存在全てが美しすぎるこの女子生徒……。僕の隣の席でずっと気になってたんだ。眩しすぎて……


「えっと……もしもーし?」

「ぁ!! ……あっ……ぁは、うん。あ、いや……」

「愁にビビッてる感じか……」

白本梓……様っ!!!!


あぁ、なんて美しいんだ……


けれど僕だけじゃない。誰もが思っている事があった。彼女は悔しいけれど成瀬と幼馴染で、かなり仲良しな関係だった。だが最近、きまずさのようなものが存在している気がする……。


「愁ー。宍戸君も野球部。会話混ぜてあげて」


「ぇ?」


梓さんは、僕を無理矢理引っ張り球技大会の話をしてクラスをまとめている成瀬、神山、星沢のいる教卓付近に引きずり出した。


「知ってるけど。つかなんでお前が入ってくんの」

「はァ? 別に入ってないし。宍戸君入れてあげよって思っただけだし」

「今宍戸呼ぼうとしてたわ。いちいち絡んでくんなうぜぇ」

「うぜぇとかマジこっちの台詞。つーかアンタいちいち声でかくてうざい。もうちょい静かにやれないの?」

「テメェ朝からなんだ。喧嘩売ってんのかコラッ!!!!」

ガシャンッ!!!!!!

成瀬が机を蹴り飛ばす音が教室に響く。閑散とした空気の中、成瀬の鋭い目が白本さんを睨む。ぐぅぅ、許せない……。


「ちょ、愁落ち着きなって……」

「……っつせぇ」

白本さんは黙って不機嫌そうに自分の席に戻って行った。


……あれ


「んで、お前はどこポジションがいいの。っつうかどこでもいいや。あとは適当に決めていいよ」


このクラス主導権握ってるグループ三人の目の前に僕一人放置……。いやなんだこの状況!! 白本さん助け……って、机に突っ伏している!!!!

「愁! ……え、えーっと、宍戸君、だっけ? ごめんね。昇君! あとはお願い!」

「おい、どこ行くんだよ!」


成瀬はかなり怖い顔をしながら教室を出て行き、それを追いかける星沢。……あの二人は、最近付き合っている疑惑が出ていた。


「……あ、あの、白本さん……?」

「あぁー、朝からごめんね……イヤな思いさせちゃった。あはは……」

「そんなことないよ!! ……げ、元気出してほしい……なぁっ。なーんて! あはは……」

成瀬まじ許せねぇ……。あいつを呼び出してぼこぼこにしてやろうかな? 


だめだ、2秒で負ける絵が浮かんだ。


それにしても、なんであんな仲悪いんだろう……?


この宍戸俊平。……白本さんの力になれるなら……!


「おやおや、荒れてるねぇ」

「君は?」

金髪イケメン糞野郎、岡本ケイシ……?

第12話 『許可書』

「あーうっぜぇ……」

「ちょっと愁……あれじゃ流石に梓が可哀想だよ……」

あれ以来、結局梓は野球部のマネージャーには入ってくれなかった。雨の日、あいつと言い合いした日をきっかけに俺と梓の関係はかなり悪化。それ以降、顔を合わせればさっきのように喧嘩になる……。


俺は購買で買った焼きそばパンを、授業がまもなく始まるのは知ってたけど雑にそれを食べた。横に星沢奈津が座りくっつくようにしてくる。……


……。



「そうそう、クラスの中でウチら付き合ってることになってるらしいよ」

「え、マジで!? ……たまげたなぁ。一緒にいる=カップル。でもねぇだろ……」

「ウチは別に嫌な気しないけど、アンタは?」

「……お前に同じ」

「ぷぷっ! 変なの」

梓と喧嘩して以来、こいつが俺の家に泊まりに来た。その時は本当にそういった行為はしていない。同じ布団で寝たけど……。正式に付き合っているわけでもない。ただ、一緒にいて落ち着くだけだ。それに……梓との関係が崩れたことを理解してくれている人物でもあった。


「奈津、お前とは絶対今は揉めたくねぇぞ」

「え、急にどうした」

「梓との険悪関係を俺自身が望んだわけでもねぇし……。だから、お前は俺と仲良くしてくれよ」

「……」

「……!!!? わ、わるい!! 別に変な意味は入ってねぇぞ! ただ、あの……仲良しな奴と気まずくなるのは、もう嫌だというか……敵が増えるの嫌、というか……。……ぐうぬぬぬ」

これ、とんでもない意味を含んだ発言になってないよな? ……。


奈津は、俺の顔を見てクスクス笑った。


「アハハハハ! ヤンキーの癖に何かわいいこと言ってんの? ……大丈夫だよ。今の愁にはウチが必要だもんねー?」

「変な言い方すんなよ……。まぁ、あながち間違ってねぇけど……」

「え?」

「なんでもねー」



「白昼堂々、授業が始まってるのに不倫とは……。白本さん、かなり落ち込んでいるよ?」

「あ?」

「岡本……に、宍戸?」


屋上で奈津とケラケラ笑いながら世間話でもしようかなと思っていた矢先、屋上に金髪ロシア岡本と野球部モブの宍戸が入って来た。宍戸は岡本の陰に隠れるようにしている。……あぁ、さっき怖がらせちまったかなぁ……。


「何しに来た」

「授業開始時刻を過ぎているのに、教室にいない不良カップルを呼んで来いと、先生に言われてね……。僕、一応クラス委員だから」

「あっそぉ……。あと10分ぐらいで戻るよ。トイレとでも言っておいてくれ」

「ならその10分を今回は僕が貰おう……」

「は?」

「相変わらず喋り方キザねぇ……。それどういう意味よ? 今コイツ機嫌チョー悪いからあんま絡まない方がいいと思うよー……」

やれやれといった表情で岡本に話す奈津の言う通り、俺は今すこぶる機嫌が悪い。屋上に来たくせに何もしゃべらない宍戸にも無性に腹が立ってきた。


「で、何」

「君、白本さんのことさ。どう思うの?」

「いきなりなんだよ……。あぁー、梓に頼まれでもしたか? 仕方ねぇ奴……」

「残念ながらそれは違うね。変に期待させちゃったかな?」

「お前口の利き方には気を付けろよ。機嫌悪ィっつったよなァ?」

コイツ……むかつく。梓が俺との険悪ムードを気にして岡本に頼んできた。って、正直思った。けど、コイツは俺の全部を見透かしたような態度をとってくる。……。むしゃくしゃする。


「あはは、別に喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ。君と殴り合って僕が病院送りになる確率は150%だからね……。違うよ、ここに、白本さんに恋する純粋ボーイがいるのさ」

「……宍戸? お前、梓の事好きなの?」

奈津がびっくりしながら宍戸に問いかける。宍戸は顔を真っ赤にし、俺の顔を見ておどおどしながら、静かに小さく頷いた。


「で、それを俺に言ってどうなるんだよ。俺には関係ねぇだろ」

「一応許可を貰いに来たんだ。一人の男の恋愛に協力する身として……。対象が白本さんなんだ。君に許可を貰いに来るのは当たり前かなと」

「……はァ?」

第13話 『強敵(?)出現』

「相変わらず喋り方キザねぇ……。それどういう意味よ? 今コイツ機嫌チョー悪いからあんま絡まない方がいいと思うよー……」

やれやれといった表情で岡本に話す奈津の言う通り、俺は今すこぶる機嫌が悪い。屋上に来たくせに何もしゃべらない宍戸にも無性に腹が立ってきた。


「で、何」

「君、白本さんのことさ。どう思うの?」

「いきなりなんだよ……。あぁー、梓に頼まれでもしたか? 仕方ねぇ奴……」

「残念ながらそれは違うね。変に期待させちゃったかな?」

「お前口の利き方には気を付けろよ。機嫌悪ィっつったよなァ?」

コイツ……むかつく。梓が俺との険悪ムードを気にして岡本に頼んできた。って、正直思った。けど、コイツは俺の全部を見透かしたような態度をとってくる。……。むしゃくしゃする。


「あはは、別に喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ。君と殴り合って僕が病院送りになる確率は150%だからね……。違うよ、ここに、白本さんに恋する純粋ボーイがいるのさ」

「……宍戸? お前、梓の事好きなの?」

奈津がびっくりしながら宍戸に問いかける。宍戸は顔を真っ赤にし、俺の顔を見ておどおどしながら、静かに小さく頷いた。


「で、それを俺に言ってどうなるんだよ。俺には関係ねぇだろ」

「一応許可を貰いに来たんだ。一人の男の恋愛に協力する身として……。対象が白本さんなんだ。君に許可を貰いに来るのは当たり前かなと」

「テメェいい加減にしろよ。別に梓の事なんてなにも気にしてねぇんだよ。血反吐吐きつかせてやろうか」

「ちょ、愁っ!」

俺は岡本の胸倉を掴み、ぎろりと睨みつける。しかしこいつはビビるどころか、さらに俺の心を見透かしたような態度でにやっと笑う。

俺の拳は、岡本目がけて猛スピードで進む。顔面を殴りかけたとき、鈍い音がゴツンっと響いた。


「なっ……!」

「岡本君を殴るなら、僕を殴って満足してくれよっ……。僕は、梓さんが好きだ。僕はいつか絶対、梓さんに告白する! お前に梓さんは渡さない!」

震えてはいたが、堂々とした大きな声で宍戸は叫んだ。仮にもこの俺に……。宍戸の口からは静かに血が流れていた。


「いやだから、別にお前が梓を狙おうが俺には関係ねぇって……。まぁ頑張れよ。俺も応援してやっからさ」

「へ?」

ちょっと捨て台詞っぽくてださかったかなぁ……。俺は宍戸を横切り、黙って教室に戻った。

……別に梓に惚れる男子が出て来たって、なにもおかしいことなんかじゃねぇさ。ただ……。

恋愛感情とは別だと信じてるけど、梓は俺にとって他の女子とは違う。けど、マネージャーを誘った件のことがどうしても気になっているのは事実だ。あんなにもキレられる必要なんてないはずだし、優しいはずの本来のアイツじゃなかった。……あいつが俺を嫌ってる中、俺だけが好きみたいになるのも気に食わない。


……あー、なんなんだろう、これ。



「宍戸大丈夫!? ……あの馬鹿、手加減ってのを知らないのか……」

奈津はポケットからハンカチを取り出し、宍戸の口元を拭いてあげていた。その時宍戸の顔が若干赤くなり照れていた。


「やれやれ、とんでもない問題児だ……。けど、宍戸君! 良く言ったね。君の度胸、見せてもらった!」

「あはは……心臓止まるかと思ったよ……」

「感動のやり取りしてるとこ悪いけど、愁の機嫌最高に悪くしちゃって……どうなっても知らないよ。それに、アンタ同じ野球部なんでしょ?」

「そうなったら星沢さんが愁君とタイマン勝負で僕らを守ってくれ」

「守る気もねぇし勝てる気もしないわ……。ま、ほどほどに頑張りなさいな」

第14話 『感情無視のバイト移行』

「はァーあぁ……」

宍戸との屋上の件以降機嫌がすぐれなかったが、あまりにも不機嫌のままいると奈津と楽しく会話できなかった。俺はぐっとイライラを押し殺し部活の準備をする。


「ねぇ、宍戸が梓狙うこと……いいの? 強がってない?」

うまい棒をポリポリ食べながら、ソフト部の奈津が俺に絡んでくる。顔はまぁわりとマジな表情だな。


「別に強がっちゃいねぇよ。……どうせ宍戸が梓に惚れようが、付きあうなんざありえねぇよ」

「……はぁ」

宍戸みたいなじゃがいも野郎に、梓が惚れるわけがない……。


……

奈津と、この時しっかり話し合いしておくべきだったかな。


俺は教室の扉を強めに開き、ガムを乱暴に噛みながら部室へ向かう。


「あ」

「……っ」

なんつぅタイミングだよ……


扉を開いたら、ノートを持った梓と鉢合わせした。目が合っていた時間は1秒も経っていない。


「邪魔。どけ」

「……」

梓は露骨に不機嫌な顔をして俺の横を通り過ぎる。制服同士が強くこすれ合い、俺の肩を、まるで攻撃するようだった。


「はぁ……」




「ちぃーっす……」

「おっ、成瀬が時間通りグラウンドに来るとは珍しいな」

「1年になって早々背番号1貰ったんで。一応規律は守ろうかなと!」

「へぇ、お前にもそんな感情があったのか……」

「先輩凹みますよ」

グラウンドへ降りてきてボールをいじってキャプテンが来るまで時間を潰す。

……。


「すまぬっ! 黒板消しを頼まれて遅れてしまった……。今日もいい天気! 野球日和だな!!!」

相変わらず暑苦しい先輩だなぁ……。

海堂恭弥。身長189。体重86kg。まじでムキムキのマッチョメン。……喧嘩したら普通に負けそうだな……。この人には逆らわないようにしとこ。

「あ、海堂先輩。そういえばここの野球部って監督とか存在しないんですか? 一か月ぐらい経つけど、一回も来てないですよね。要項にもなかったし……」

「あぁ……いるにはいるんだが……」







「監督が放任主義って……かぁー、そんな野球部存在するんっすね」

「まぁ俺がほぼ監督みたいなもんだよ。来年の監督は成瀬に任せるぞ!」

「いや、俺そういうの得意じゃないんで……」


「おっすーー!!! 元気に活動してるかぁーー?????」


俺と海堂先輩が話している時だった。グラウンド全体に広がり、近くで活動しているテニス部や他の部活動も反応するような大きな女性の声。


「か……監督!!!!」

「え、監督って……。え、前田先生監督!!!??」


グラウンドに大声を出しながら、ジャージ姿の前田佳子先生が降りて来た。茶色の髪を後ろで一つで結んでいる前田先生は、俺の担任の先生だった。


「どういう風の吹き回しですか! 先生が部活くるなんて……」

「おぉ海堂、筋トレは欠かさずやってるみたいねー! ……成瀬、お前真面目に部活動やってるんだ?」

「いや俺の偏見すごすぎですって! ……へぇ、前田先生が顧問なんっすかー」

これは驚いた。若い女性教師が監督の野球部……。それほど弱小なのか、と少しむなしくなる半面、中学までの厳しい規律などがなくてほっとすることもできた。


「じゃ、練習はいつも通り海堂頼んだ。それと成瀬! 今回私が来た理由はお前。成績について説教」

「ウゲッ、マジすか!!!」


周りの野球部がケラケラ俺を小ばかにする中、俺は前田先生にズルズル引きずられてグラウンドから校舎への階段を上り、校舎裏へと呼び出された。


「説教って……まぁ確かに、こないだの月例テストは悲惨だったけど、追試験はこなしましたよ!」

「あぁーごめんごめん。ホントはそんなんじゃないのよ。こうでも言わないと、周りの部員がおかしく思うからね。……アンタ、今週の日曜暇?」

「口説いてんすか」

「馬鹿言うんじゃないわよ。アンタみたいなガキ興味な……じゃなくて! 実はねぇ、私の弟今大学生なんだけど、今風邪ひいちゃったみたいでさ」

「はぁ」

「けど、今週のバイトどうしても休めないらしくて、だけど変わりも見つからないらしくてさ。アンタ、入ってくんない?」

「え、はァ!? ……いや、俺バイトしたことないっすよ。つうか、教師が言うことですか? それ」

「いや頼むよ!! 周りの生徒も頼れないし、弟の友達もみんな忙しいみたいでさ……。あ、もちろんバイト代は出すわよ? 16時から20時で、これでどう?」

「……!!」

前田先生はニヤりと笑い、五本の細くて長い指を出してきた。

「5000円……。時給1250円。高校生なのに悪くねぇ……」

「そういう計算は得意ね……。OKなら、日曜の16時前には駅前にある“カラオケヴンヴン”に行って! 店長さんが井上さんって言うおじさんだから、よろしく~♪ あ、もちろんこれは私とアンタのひ・み・つ。で!」

用件だけ言うと、先生はスキップするように校舎裏を歩き職員室へと戻って行った。いや、練習来ねぇのかよ!!


……色々問題はあるかもしれないけど、5000円を軽く入手できる絶好のチャンスだ! 最近まともなメシ食ってねぇし、これで焼肉でも……。


……

なにか買って、あいつの家に謝りに行くかな


いや、俺悪いことしてねぇし!! 

意味わかんねぇ! 俺何考えてんだよ!

第15話 『合コン計画』

「合コン??」

「まぁそう言ってしまえばそうなんだけどさ……。3組の女子から誘われてね。イケメン二人連れて来いって言われちゃってさ。日曜空いてるかな? 僕らサッカー部は午前練で終わりだろう?」

「まぁ別に用事はないけど……」

「本当かい!? いやぁよかったよ! これで三人そろったわけだ!」

「え、あと誰誘ったの?」

昼休み時間。愁と奈津がいつも通り屋上で弁当を食べている中、岡本ケイシは神山昇と話をしていた。今週の日曜日、3組の女子3人と2組の男子3人で遊ぼうという話になっているらしい。


2組のメンバーは、サッカー部所属の岡本ケイシと、サッカー部でクラスのイケメン男子神山昇、そして


「宍戸ー? お前、こういうの参加できるんだ! へぇ意外」

「神山君、それは愚問だよ! 彼、こう見えて本当に男前なんだから。なっ? 宍戸君!」

「あはは……が、がんばります……」

「女子と会話してんの見たことねぇけどなぁ。けど、3組の女子って案外かわいい子多いよな。誰来るんだ?」

「ふっふっふ、こう見えても僕女子からは結構モテるんだよ。まず、3組ヒロイン、ダンス部の『榊凉子』さん!」

「え、まじ!!? 榊凉子ってかなり人気らしいじゃん! さっすがロシアハーフはレベルちげぇな……。あとは?」

「風紀委員の隠れた美女、『黒田花音』さん!」

「んー、聞いたことねぇや……。けど、ケイシが言うなら間違いないな! あと一人は?」

「……」

「ぐぇっ!」

宍戸一人を残し、岡本ケイシは神山を引きずって廊下へと出る。それと同時に梓がトイレから友達と戻って来て自分の机へと座った。

「あっ、宍戸君! 今週よろしくね~。一人だけ私で新鮮味ないと思うけど、楽しも!」

「あ、あぁ、うん!! こここ、こちらこそ!!!」


「宍戸と白本をくっつけよう作戦ー???? あぁー、そういうことね……」

「騙したみたいになって申し訳ないね……」

「いやそうは思ってないけど。ってことは、俺、ケイシ、宍戸。女子が榊さん、黒田さん、だっけ? あとは白本ね。通りでおかしいと思ったよ。他クラス女子と遊ぶなら、俺はともかく残り一人は愁を呼ぶべきだしな」

「さすが神山君だね……君の言う通り、悔しいけど確かに成瀬は女子からの人気とコミュ力は、宍戸君と比べたら天と地の差だ。けど、宍戸君は白本さんに本気なんだよ。協力してくれないかい?」

「んー……。まぁいいけどさ。もし仮に宍戸と白本がくっついたら、成瀬ブチ切れると思うけど」

「そこは大丈夫。僕と宍戸君で既に抑えてあるからね」

「……? そうか……。」




「カラオケバイト!? それって、こう、学校としていいの?」

「けど4時間で5000円だぜー? そろそろまともなメシくいてぇしな」

「ふうーん……。」

部活が終わり、俺は駐輪場で自転車の鍵を回しつつバイトの話を早速奈津に話していた。奈津も部活を終え、駐輪場に俺といた。


「奈津おつかれー! あぁ、今日みんなでご飯断ったの、まぁた彼氏かー」

「そんなんじゃないよ! 今日コイツの家にDVD返しにいくだけよ~」

奈津と同じソフト部の女子連中が、複数人で駐輪場へとやって来た。俺としゃべっている奈津をからかっている様子。


「え、俺DVDなんか貸したっけ……」

「ほ、ほら! 前借りたじゃん! ホラーのやつ! ほら、さっさとしないと置いていくよ!」

「ど、どうしたんだよ奈津! ったく、わけわかんねぇな」

一人自転車に乗りさっさと行ってしまう奈津。それを追いかけるように俺も急いで自転車に乗ろうとしたら、真面目そうな顔をした黒髪のソフト部女子に声をかけられた。


「ねぇ、アンタ本当に奈津と付き合ってるの?」

「え……付きあってないけど。じゃあ俺急ぐから! じゃあね!」

なんで俺が逃げる形になってるんだ……。



「……」

「未希ー! もう、どうしたのー?」

「あぁごめん……」

「奈津と彼がそんなに気になる?」

「いや……別に……」

未希と呼ばれたこの女子生徒。ソフト部の1年の中では実力もあってか、次期主将候補でもあるようだ。『橋坂未希(はしざかみき)』。黒色のショートヘアに赤色の瞳。毛先にアッシュを入れており、ピンク色のツンツンした毛先が特徴的。文武両道で、真面目な生徒だ。


「早くいこ!」

「う、うん……まっ、ちょっとしたお節介……かな」


彼女はポチポチとケータイ画面になにやら文を打っていた。送信先は、梓であった。


「付きあってはいないけど、時間の問題よねぇ……。まぁお似合いっちゃお似合いだけど……」

第16話 『忠告→確信』

「あ、ここの公園寄って行こうよ! 愁が泣いてた場所~」

「テメェその言い方やめろ! ……つぅか、DVDとかなんでそんな嘘ついた」

「えへへー。……未希に言われたんだよね」

「未希って、さっきの髪の先がピンクっぽかった人?」

「そーそー! 超可愛いっしょ? 今あの子フリーだよ~」

「聞いてねぇよ。言われたって、何を」

「……」




「お疲れ様でしたー!」

竜ヶ崎高校女子ソフトボール部。練習後の部室……。
入学して約一か月。ウチはこの見た目もあってか、中々友人ができずにいた。まぁ男の悪友みたいなのができたから、それで充分かもだけど……。

「奈津。ホイ」

「おっ! 未希せんきゅうぅ! いやぁ、気が利くねぇ。この後ケーキでも食いにいく?」

スポーツドリンクをひょいっと投げて来たこの子は橋坂未希。ソフト部1年で一番の実力者で、文武両道。黒のショートヘアで毛先にピンク色のアッシュを入れており、赤い瞳は大きくパッチリしてる。ソフト経験もあってか、この子と相性が合っていた。


「下品な喋り方しなさんな……」

「アンタもたまにしぶいおっさんみたいな喋り方すんじゃん……。行こうよ! 今日マジスイーツな気分」

「彼氏はいいのー?」

「彼氏なんていねぇよ! 何度も言わせんな!」

「えぇー? ほら、アンタのクラスの野球部の派手な子……成瀬君だっけ? 付きあってるって専ら噂になってるよ」

「あぁやっぱりアイツか……。付きあってないよ! 家も近いから一緒に帰ってるだけ! 今日はアイツ部活長引くから一緒に帰れないんだよね~。ほら、ウチと帰れる日なんて激レアだよ!」

「あっそー。おつかれー」

「ちょ、待ってって!! まだ靴下履き替えてない!!!」

クールに冷たく部室を出て駐輪場に一人で向かう未希。私は必死にコイツを追いかけた。


「お、間に合ったじゃん。お疲れ」

「待ってくれたっていいじゃん!! ……」

未希は駐輪場で自転車に跨りながらケータイをいじっている。


「ねぇ、本当にアンタ達付きあってないの?」

「もぉ、またその話? 付きあってないって! そんなにくっ付けたい?」

ケラケラ笑いながら未希の話を聞きつつ、自分の自転車の籠に荷物を入れる。すると、マジトーンな未希の声が聞こえて来た。

「むしろその逆かな。ねぇ奈津、付きあってないなら毎日二人で一緒に帰ったり、成瀬君の家行くったりっていうのは辞めた方がいいよ」

「え……」

「成瀬君が一人暮らしで色々大変で手助けしてるっていう面もあると思うけどさ。アンタが成瀬の家に行って二人きりっていう事実で傷ついてる人もいるんだよ。ん? 傷ついてるは少し大げさかな?」

「ちょ、待って待って。……。なんでそんな詳しく知ってんの?」

「私だけじゃないよ。アンタの友達はほぼ知ってるよ! 成瀬君側はわかんないけどね。とにかく、付きあってもないのにベタベタしすぎるとさ、アンタから離れる人が現れてくると思う」

「あっちゃー……説教っすかぁ~……。……」




「ってなわけで、アハハ……。ソフト部の友達の前では、アンタと二人のトコ見られたくないんだよね~」

「見かけによらずおっかねぇな。……まァ一理あんのかな? よくわかんねーけど、お前の友達が良く思っていないってんなら仕方ないかもな」

ウチは未希に言われた大部分をコイツに話した。ほぼ毎日愁と帰ってるのは、ただ単に面白いから。家に行くのも、自分の家より楽しいから。そう思ってた。

愁に大体のことは話した。けど、少し秘密にした部分もある。




「奈津真面目に聞いて。今後そういうことは控えるように約束して。OK? ……まぁ成瀬君の事が好きだっていうなら、話は別だけど」

「……んぅ」

「え、何。そんな女の子みたいな顔アンタにもできるんだ」

「どういう意味よ! ……」


未希に言われた事、全て正しいと思う。付きあってもいない男女二人の行為としては、少し度が過ぎるものがあるのはわかってた。……


「わかってるよ……。周りに付きあってるって噂されてたことも、度が過ぎてるってことも……。だけど、なんだかそれが嬉しくてさ~。愁と二人でいる時間がいつしか本当に楽しいって思えるようになって……。別に未希達を切り捨てるとか、そんなんじゃないよ。好きって感情があるって自覚があるわけじゃないけど、そんな理由でこれから愁と帰れなくなって、家にも行く回数減らすなんてことはしたくないかな」


「……? ……ん、んぅ……。あぁ、これは私が悪かったわ……」

「え」

「そういうのを恋って言うんじゃない。まぁわかりきってたけど。アンタ外見は派手だけど、案外純粋だよね」

「うるさいっ!! ……あぁぁ~~~~~……こんなだっせぇトコ誰にも見せたくなかった……。」

不可逆Memory

不可逆Memory

小学校5年生の時から付き合いのある梓と愁。高校受験に精を出し、名門進学校である私立竜ケ崎高校へと梓は入学。中学2年から疎遠になっていたが、推薦入学してきた愁と再会。無邪気さ溢れるわんぱく少年だった彼は、中身は面影を残しつつも、派手なヤンキー姿へと豹変していた。幼馴染という関係上、恋愛という概念に対し屈折した感情を抱く2人。すぐ感情的になる愁は、梓のこととなるとすぐ表に出てしまい2人の関係は互いが望まぬ方向へと進んでしまう。その結末は。。。。?甘さより苦さが濃い傾向

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-14

Copyrighted
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Copyrighted
  1. プロローグ 再会
  2. 第1話 『至って変化なし』
  3. 第2話 『星沢奈津』
  4. 第3話 『黒田花音』
  5. 第4話 『楽観』
  6. 第5話 『あい愁』
  7. 第6話 『身心洪水警報』
  8. 第7話 『亀裂』
  9. 第8話『雨と奈津』
  10. 第9話『二人きり』
  11. 第10話 『風向き悪し』
  12. 第11話 『宍戸俊平』
  13. 第12話 『許可書』
  14. 第13話 『強敵(?)出現』
  15. 第14話 『感情無視のバイト移行』
  16. 第15話 『合コン計画』
  17. 第16話 『忠告→確信』