雪解けと花守 下

 最初に会社で彼女を見たとき、すぐにわかった。だって、あいつ、全然かわってねぇーんだもん。
 だから、嬉しくて喜んだけど、やっぱりあいつは昔と変わらず、他の男を想ってた。それが、どうしようもなく痛くて切なかったんだ・・・。

 由貴(ゆき)くんに告白まがいのことをされたけど、日常は変わらず、会社と家を往復する日々が続いていた。
 「もうすぐ、春ね。」
 誰にも聞こえることなく、独り言をつぶやいたはずなのに、それに答える声があった。
 「そうだな。もうすぐ桜守(さくま)ちゃんの季節だな」
 ・・・いつから私の後ろにいたのよ、この男は。
 「桜守ちゃんが、窓を眺め始めた頃からかな?」
 「つまり、最初からいたのね?」
 にっこり笑ってうなずく。そんな彼に違和感を覚えて、聞いた。
 「どうしたの?顔色悪いわよ。」
 「・・・気づかなくていいところには気づくよなー」
 「どういう意味よ。」
 「そのまんま。」
 どこまで人をバカにすれば気が済むのかしら?
 「はぁ・・・。とにかく休みなさい。ほんとに顔色が悪いわ。上には話しておくから、家に帰って寝るのよ。」
 私は、それだけいうと、由貴くんの方は振り返らず、彼の仕事の分までしてから帰ろうときめて気合いを入れなおした。
 「ほんと、男前なんだから・・・。」
 なんて、由貴くんが言ってたのが、聞こえているはずもなく。
 
 カタカタとデータを打ち込んで、書類をみていると、ピタっと頬に冷たいものがあたった。
 驚いて、ひゃぁっ!?ってらしくない声がでて、恥ずかしくて、当てたやつをぶん殴ってやろうと振り返ると、由貴くんがいた。にこっと笑って、無言で手を振りあげたら、さすがにいつも余裕な由貴くんも青ざめて、ごめんと謝ってきた。
 「うん、ごめん。悪かったから、その拳、おさめてくれると嬉しいなぁー・・・。」
 「どうしているのかしら?帰れって言わなかった?」
 「帰った!帰ったから!私服だろ!!?そして、ちゃんと寝ました!だから、その笑顔やめて!」
 私と関わっていると、クールな由貴くんが、ただのヘタレにみえるから不思議だわと中々失礼なことを考えて、とりあえず、笑顔をひっこめた。
 「体調も良くなったから、俺の分まで頑張ってくれてる健気なお姉さんを迎えにでもいこうかと思って。」
 「よくそんな甘い言葉をスラスラとはけるわね。」
 「桜守ちゃん限定だけど。」
 「はいはい。」
 適当に返事をして、椅子から立ち上がる。
 どうせ私の仕事が終わるのを見計らって迎えにきたのだろうし、気持ち悪いくらいジャストなタイミングで私の仕事も終わった。すぐに会社をでて、由貴くんの車に乗り込む。
 「私の家しってるの?」
 「しってる」
 間髪入れずに返答が帰ってくるから、多分こいつは私のストーカーか何かだと思っておく。
 「いま、すごい失礼なこと考えてなかった?」
 「いいえ、全然。家までよろしく。」
 「任せて」
 私の家は会社から少し遠いのだけれど、由貴くんと他愛のない話をしていたらすぐに着いた。車から降りて伸びをすると、私は由貴くんに声をかける。
 「どうせなら、お参りしていったら?」
 由貴くんはうなずくと私と一緒に神社の階段をのぼる。お昼間はよく参拝者がきているけど、夜遅くは誰もいなくて静かにお宮と桜の木が佇んでいた。
 「ここの桜はいつ見ても綺麗だな」
 そんなこと言ってる由貴くんの顔は寂しそうで。だから、いつ言葉が出ちゃったの。
 「私はいつまで待てばいいのかしら?」
 「え?」
 由貴くんがきょとんとする。
 「せっかくまた、桜の花がある家に、神社の娘に生まれてきて、桜守って名前までもらって運命だと思っているのに、まだ私は貴方に気づかないふりをされるの?」
 「え・・・?え、?」
 由貴くんの顔がどんどん微妙な顔になっていく。そして、おそるおそる聞いてきた。
 「前の俺をしってる、?」
 「ちゃんと記憶にあるわよ。私が本当に花守だったことも、貴方が私の想い人だったことも。」

 前世の私は本当に桜の花を守る神社の巫女だった。由貴くんは、そこによく来る高貴な家柄の御曹司で。何が珍しいのか私に喋りかけて、よく家を抜け出す変な人だった。報われない恋だと分かっていた。私とは天と地ほど身分が違って、彼には由緒正しい家の婚約者もいた。だから、この想いを告げることは一生涯なかった。そして、由貴くんが私に好意を寄せてくれていることも知っていた。もう、一千年も前の話。
 
 「だから、由貴くんはいってくれたのでしょう?次は絶対、みつけて口説き落としてやるって自信ありげな表情で。」
 小さく笑うと、思いっきり抱きしめられた。強い力でぎゅうぎゅうと。
 「なんでだよ、前も今もほかの男に恋してんじゃなかったのかよ・・・。」
 「あら?あれは家族みたいな愛よ?ただのお兄ちゃんだわ。」
 「じゃぁ、俺はずっと一人で勘違いしてバカみたいに悩んでたわけ?」
 「そういうことになるわね」
 はぁー・・・と息をはいて、由貴くんは座り込む。
 どうやら、本当に落ち込んでるみたい。俺の今までの努力は・・・なんてぶつぶつ呟いてる。そんな姿をみて、くすくす笑ってると、眉間にしわを寄せた由貴くんが顔をあげていった。
 「うぬぼれていいんだな?」
 「最初から貴方しか見えてなかったわ。」
 「・・・かっこよすぎ」

 そういうとお互いおかしくなって大声をたてて笑い始めた。
 
 雪解けが始まって、もうすぐ桜の季節。

 「いつも泣きそうな由貴くんが笑ってくれることを桜の花にずっと祈っていたわ。」
 なんて、ちょっとかっこつけすぎかしら?

雪解けと花守 下

おわったぁぁあああ!!!下が長くなってすみません!そして、桜守さん、かっこよすぎです!由貴くんヘタレw

雪解けと花守 下

雪がとけて、桜の季節が巡ってくる。

  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-14

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