アグニ [agni]

any

いまより科学技術の進んだ世界。
転校生のスズカ(鈴鹿)はVRスクールでの日々を楽しんでいたが、そこにアグニと呼ばれる放火魔があらわれる

ジェットは夕暮れの彗星のよう

To.Suzuka
From. agni
Title:<blank>

やあこんにちは、わたしはアグニといいます
きゅうにテキスティングしてしまってごめんなさい

スズカさん、ですよね?

あなたの<ファントム>会員証をひろいました
わたしは<ファントム>で店員をしているんです
店の端末に問い合わせてあなたのアドレスを知ることができました
で いま こうやって連絡をとっているってわけです

わたしの用件はひとつ、あなたに会員証をお返ししたいんです
都合のいいときに 第6地区にある<ファントム>まできてください
会員証はそこでお返ししますので

2025.2.2/0:11AM
ーーーーーーーーーーーー

スズカは目をこすった。テキスティングの文字がにじんで蚊の群れみたいな黒いノイズにかわる

まただ。やれやれ・・・
またスマートレンズを外すのをわすれて寝てしまった。

「ターンオフ」スズカはささやいた。
すると目の前がきゅうに灰色のフィルターにおおわれた。へや全体に灰がふる。

スマートレンズの電源をきったときのこの動作にはいつまでも慣れない。
これはスマートレンズの外し忘れを防止するための措置だとメーカー側はいっているが、ヘビーユーザー(そのうち90%がティーンエイジャー)たちのあいだでは、そんなの余計なおせっかいでしかない。
つぎのアップデートではかならず改善されるだろう。

スズカはスマートレンズを外して、それをベッドわきの小机に無造作においた。

窓のそとはきょうも雨ふり。強度10の酸性の雨が滝のような轟音をたてて落ちてくる。雨は土壌や森林を汚染しているが、もうだれも対策を打とうという気はなくしている。スマートレンズを<メディア>のチャンネルにあわせれば24時間<自然破壊度速報>のニュースがその惨状を淡々とつたえてくれるが、その視聴トレンド指数はわずか0.2ポイントしかない。

スズカはベッドからとびだして、食事のよういをはじめた
きょうは保存料と着色料のサラダだ。酸化防止剤を風味添えにつかう
デザートはもも風味の化学調味料。

スズカは朝食をおえると、プラスチックの皿を窓からそとに放りなげた
皿は酸性の雨で溶けてしまうし、もしなにかの遮蔽物によって雨がかからなくても、プラスチックはカビによってまたたく間に分解されてしまう

「さて、宿題でもしますか」

スズカは端末のスイッチをいれた。ブーンと低い電子音がして、モニタ上に<ジェット社>のロゴがうつった。

スズカは慣れた手つきでタッチパネル式の画面を操作していき、やがて目的のアプリケーションをみつけた

それはフラットデザインの陰陽シンボルで、シンボルの下には英語で<アナダメン>と表記してあった

スズカは<アナダメン>のアプリを指でタッチした。
するとモニタ上にまるい物体があらわれ、端末に内臓されているスピーカーをとおしてそれは「おはよう」とスズカにあいさつしてきた

「おはよう」とスズカはあいさつをかえした

「きのうはよくねむれましたか?」アナダメンがいった

「まあね」

「また、スマートレンズを外しわすれたんじゃないですか?」

「そ、そんなことないよ」スズカはあわてて話題を変えようとした。「それよりさ、きょうはなんの日かしってる?」

「ええ、もちろん」アナダメンはトーンのかわらない穏やかな調子でいった。「きょうはスズカの転校初日でしょう?」

「うん」スズカはうなずいた。「でもすこし緊張するな・・・」

「それはどうして?」モニタ上の球体がそっとふるえた。

「それはよく知らない人たちといっしょにすごすことになるから」

「ああ、そうか」アナダメンはくすくすとわらった

「なにがおかしいの?」

「いや、そういえばそんな感覚もあったなとおもいだして。他人と自分がわかれているという感覚は、わたしのような存在になると忘れてしまうものだから」

「ちぇ」スズカは舌打ちした。「いいなーアナダメンは。わたしもはやく<アップ>されたい」

「焦ってはいけないですよ、スズカ。あなたの脳細胞が成熟に達するまでまだ時間がある。そのじかんを有意義にすごしてください。たのしんでください」

「そうはいってもねえ・・・」スズカはいすに机にあしをのせて、ふてくされた態度を演出した。「いろいろあるわけよ、こっちのせかいでは」

「スズカ、困ったことがあればいつでもわたしを頼っていいんですよ。わたしはあなたの両親として、いつもあなたのしあわせを望んでいます。いつでもよろこんでアドバイスするし、べんきょうだって鉄だってあげますよ」

「OK、ありがとう。そうする」

「パパとママにおわかれのキスは?」

「やめてよ」

スズカはログオフのボタンをおした。モニタ上から球体が消えさり、あとには陰陽のアプリロゴだけがのこされた。スズカはモニタの電源をおとした。そろそろ学校にいくじかんだ

アグニ [agni]

アグニ [agni]

未定

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-09-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted