夕陽ヶ丘の青ベンチ
夕陽ヶ丘の青ベンチに座る独りの老人。
長い白髪に深いシワのある顔。
そして組んだ両手のゴツゴツ感。
それは永い人生を過ごして来た証。
老人は丘の上から遠くの水平線に沈む夕日を見 ている。
いくぶん微笑んでいるようにも見える横顔。
彼はどんな人生を送って来たのだろうか……
遠くの沖合いを静かに進む大型客船。
ボォーツ ボォーツ……
過ぎ行く時を惜しむかのように鳴いている。
小学生の子供たちが、数人、丘の上に駆け上が ってきた。
滑り台やシーソー、砂場等で楽しそうに走り回 っている。
老人は、ふと腰を上げて砂場で何やら光るもの を拾った。
子供たちの周りを見回すようにして、しゃがん では何かを拾っている。
それから自分のコートのポケットに光るものを 入れると、また青ベンチへと戻って行った。
一人の女の子が老人に近寄り訊ねた。
『おじぃちゃん……』
『さっき、何を拾っていたの?』
老人は優しく微笑んで女の子に答えた。
『宝物だよ。』
少女はキョトンとして首を傾げた。
『宝物が落ちてたの?』
『おじぃちゃん……』
『わたしも、その……宝物、拾えるの?』
老人は、優しく少女の頭を撫でながら答えた。
『あぁ…きっと拾えるよ。』
それを聞くと少女は深くうなずいて、満面の笑 顔で友達の方へ戻って行った。
少女は、頻りに砂場やシーソー、滑り台の周り を歩き回っていた。
『何をしているの?』
数人の友達が少女に訊ねた。
『宝物を探しているの♪』
少女は笑顔で答えた。
アハハハハ……
友達は声を揃えて笑いだした。
『そんなの落ちてる分けないじゃん!』
少女は、それでも諦めずに探している。
やがて水平線に夕日が沈みかけた。
帰宅を急かす、子供たちの母親の声。
『夕飯の時間ですよ~もう帰ってらっしゃい』
青ベンチに座っていた老人も腰を上げ歩きだし た。
彼は丘の隅にある金網のカゴにポケットから光 るものを取り出して入れた。
少女は老人の姿が見えなくなったのを確認して から金網のカゴへ走り出した。
『きっと、あの、おじぃちゃんは、あそこに宝 物を隠しているんだ……』
少女が金網のカゴを、のぞきこむと、そこには ……
ガラスの破片や缶ジュースのフタ、尖った小石 が入っていた。
『これが、おじぃちゃんの言っていた、 宝物……』
『みんなが、ケガをしないよう、危ない物を拾 ってくれていた…』
少女の目に、わずかに涙がにじんだ。
『わたし、おじぃちゃんがくれた宝物、大切に 持って帰る。』
『大切な宝物!』
『ありがとう……優しい、おじぃちゃん。』
すべての謎が溶けた少女の心は、茜空のように 暖かな光で包まれていた…
夕陽ヶ丘の青ベンチ