笑う世界を夢にみて

3

夢に見たことは全ていいことか、どうなんでしょうね。

みんなが笑う世界を夢で見た。
夢から覚めたらただの現実。
残酷なまでの無彩色。殺風景。
レンズを通しても線の束しか見えない。

出勤、シミだらけの長い丈の服を来て固い道を歩く。

[××おはよう]
[おはようございます××]
[××××おはようございます]

「おはようございます」

機械的に返答
規則に従い、繰り返す。
歌声さえ響かない白い箱の中。

[××××、おはなあげる]
「ありがとう。きれいだね」

笑顔で走り去る子。
知ってる日常だ。
たしか、夢では、違った。
こうではなかったはずだ。

窓の外を何気なく見た。
雲がシミのよう空に浮かんでいる。
現実であると、実感する。
帰りたいと願い、ただ時が過ぎるのを待つ。
朝から夜をただ待つ。
本を開いて退屈そうにページをめくる
何度も読み返した内容を、意味もなく、上書きする毎日。

午後八時にしかならない柱時計がなりだした。
長い針は上を指さしてこちらを見ている。
革表紙の本と萎れた花を片手に持って

「わかってるよ」

呟いた。
柱時計はそれ以上何も言わなかった。

みんなが笑う世界を夢に見た。
僕も笑った。
確かに笑った。

みんなの目がどこも見ていなかったから。

空に機械仕掛けの、仮初の神様がみんなをつまんで遊んでいたんだ。
みんな笑っていたんだ。
信号機が真っ赤に点滅して、青や黄色の信号機は折れ曲がったり割れたりしていて。
どこにも現実なんて見えない、歌声も響かない世界。
神様が指を広げてみんなが落ちた。
笑い声しか聞こえない、耳も塞ぎたくなる世界を夢にまで見たんだ。
赤と鉄、サビの匂いと笑い声
耳をふさいで目を閉じたのは僕だけだった。

僕は狂ってなんかいないんだ。


箱の外、真っ暗な夜。
歌声が聞こえる方へ、誘われるように歩いた。
萎れたスイートピーは項垂れて、革表紙の本はパラパラと何かしゃべっている。

雨が降る。
一つ、ぼとりと、瞬き一つしている間に。
首をかしげた。
林檎がひとつ、ぼとりと落ちている。

目の前の壊れそうな箱は無言で街を見下ろしているだけだ。
隣の池を見た。魚が息苦しそうに溺れている。
薄く緑色に見えるのはきっとそのせいなんだろう。
空を見た。
黒い空がただ広がっていた。
機械仕掛けの神様が薄らいるように感じてならない、
なんだか、夢の中にいるような気分だ。

だったら夢でやったことをやってみよう。

今すら夢だったらまた現実に帰るだけだ。

僕は笑うだろうか。何度も読み返した本を読み、歌う。

そういえば服のシミはこんなに多かっただろうか。

それすらどうでもよくなってしまって。

夢の中で自分がやったことをすべて終えた。
空が薄く明るくなりだした。
機械仕掛けの神様が池の中に沈んでいった。
池の下は夢の中。
無彩色から離れた彩られた世界。

「僕も連れて行ってよ」

林檎がぼとりと池に落ちた。
僕も一緒に池に落ちた。


病院の中はいつもどおり。患者同士が話していたり、車椅子の子供が廊下を行き来していたり。
一人足りないという異常に全く気づきもしない。

幼い子供は無邪気に

「きょうはせんせいいないんだね」

なんて言って。




本と萎れた花だけが池に浮かんだ。
近くの廃墟には赤い液体がついたピアノ線が屋上から外側に釣り下がっている。
干からびた雑草は踏み荒らされ、風に吹かれて消えていった。
魚なんて一匹もいない池はただ、水面は揺らすだけだった。

笑う世界を夢にみて

他人にとって悪い夢でも自分にとっては理想郷なのかもしれません。
最後に彼がどうなったかは人の知るところではございません。

笑う世界を夢にみて

あくまで一人の夢の話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-11

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