台風仔猫と金の鈴

台風仔猫と金の鈴

台風の日の仔猫との出会い。母子家庭で育った小学生の女の子の暖かな心が天に通じたのか……不思議な縁が忘れられない思い出の一ページを綴ります。

意外な結末にご期待ください……

台風仔猫と金の鈴。

本文

昭和40年。

とある日本の南西諸島。

戦後、二十年を過ぎたこの地。

土地計画により、荒廃した町並みは碁盤の目の ように整備され人々の心にも平安が戻っていた 。

今年、小学校に入学したばかりの女の子。

彼女の名前は、天野 恵。

生まれた時から母と二人暮らしである。

彼女は自宅の二階にある窓から外を眺めていた 。

ゴォーゴォーと強い雨風が窓ガラスを叩いてい る。

黒電話がリーンリーンと鳴った。

『めぐみー!』

『今日は台風の影響で学校はお休みになったわ よ~』

一階から母の声が響いた。

『わかったよ、おかーぁさん!』

そう答えると恵は自室の窓から道路を挟んで向 こうにある公園へ目を移した。

ガジュマルの木が風に強く なび 靡いているのを見え る。

すると、ひときわ強い風が吹き一本のガジュマ ルの木がバリバリと音を発てて倒れた。

店の看板やゴミ箱、自転車等が風に煽られて散 乱している。

どこかで電線が破断したらしく停電となり部屋 の白熱電球が消えた。

ろうそく 蝋燭に火を灯して母親の花がが二階に上がって 来た。

『イヤね……真っ暗でお家のこと、何もできな いわ』

『おかぁさん、見て!あそこ』

恵が窓から倒れたガジュマルの木を指差した。

母の花が恵の頭を撫でながら呟いた。

『今度の台風は風速60メートルて親子ラジオで 言ってたわ。』

『今日はお家でおとなしくして台風が過ぎるの を待ちましょうね。』

恵は倒れたガジュマルの木の下で何かが動いた のに気が付いた。

目をよく凝らして見ていると仔猫が木の枝に挟 まって出れなく泣いていた。

恵は、慌てて部屋を出て母に仔猫の事を告げた 。

『いけません!』

『今、家を出たら、強い風で、あなたも飛ばさ れてしまうわよ!』

玄関先に立って恵を外へ出さないように行く手 を阻む母。

再び電話がリーンリーンと鳴った。

母は慌てて電話口へ急いだ。

恵は母の話しぶりから、どうやら、田舎のおば ぁちゃんからの電話だと分かった。

『これは、長電話になる……』

恵は母が電話をしている隙にカツパを着て長靴 を履き、傘を差して仔猫の元へ走り出した。

たちまち、傘は強風に煽られて壊れてしまった 。

仔猫は木の枝が邪魔をして出れないらしく恵に ニャーニャーと頻りに助けを求めていた。

恵の力では、木の枝をどけることができない。

困り果てていると、1人のオジサンが近付いて きて木をどけるのを手伝ってくれた。

仔猫を抱き上げて、助け出すと恵はペコリとオ ジサンに頭を下げた。

『おじょうちゃん』

『危ないから、早くお家に帰りなさい。』

『これを、この仔猫に着けてあげなさい。』

恵はオジサンから小さな金の鈴を受け取った。

恵はオジサンと会ったのは初めてだったが、ど こか不思議な懐かしさを感じていた。

恵は仔猫を雨風から守るように包み込んで自宅 へ戻った。

母は、まだ電話口で話をしている。

恵はミカンの段ボール箱にタオルを敷いて仔猫 を入れると、暖かいミルクを器に入れて飲ませ てやった。

かなり、お腹が空いていたらしくミルクは直ぐ になくなり飲み干した。

お腹が満腹になったら眠くなったのかタオルに くるまり仔猫は寝転んだ。

オジサンからもらった、金の鈴を仔猫の首に着 けてあげるとチリンチリンと音を発てて遊んで いる。

遊び疲れると、やがて仔猫はスヤスヤと眠って しまった。

母の長電話も終わり、停電も復旧したらしく電 球が着いた。

雨風の音がしなくなったのでドアを開けてみる と青空が広がっている。

『おかーぁさん!』

『青空が出てるよ~♪』

母の花が、空を眺めて言った。

『台風の目に入ったのね…』

『また、しばらくすると、今度は反対方向から 風が吹いてくるわ…』

母親は段ボールに入った仔猫を見て呟いた。

『めぐちゃん、あなた、仔猫連れてきちゃつた のね…』

母親は仔猫の首に下がっている金の鈴を見て首 を傾げた。

『めぐちゃん……この鈴はどこから持ってきた のかしら?』

『あ、それは、仔猫を助けてくれたオジサンか らもらったんだよ♪』

慌てて外へ飛び出し辺りを見回す母親の姿。

恵は母親に近付いて訊ねた。

『おかーぁさん!』

『どうしたの?』

母親の目に涙が浮かんでいた。

母の花はしやがんで恵を抱き寄せた。

『今日はお父さんの命日だったのよ…』

恵はキョトンとして母に訊ねた。

『命日て何?』

恵の頭を撫でながら母の花が答えた。

『消防団員だった、あなたのお父さんが天に召 された日よ。』

『あの仔猫ちゃんの首に下がっている金の鈴は お父さんがいつも持っていた鍵に付いていたも のなの。』

『あの日も、こんな台風の目に入った日だった わ……』

二人が青空を眺めていると、やがて黒雲に再び 覆われてきた。

『サァ、お家に入りましょう…また雨風が強く なるわ…』

恵が家の玄関に入り段ボール箱を覗くと仔猫の 姿は、もうなかった。

金の鈴だけがタオルの上に残っていた……

台風仔猫と金の鈴

台風仔猫と金の鈴

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-10

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