下を向いた向日葵

下を向いた向日葵

鈴谷 翔尚ひろひさ

一妃 洸 ほのか


偶然の出会い
あの時あなたに出会わなかったら
今の私はどんなかな
あなたのいない人生の方がよかった?
想像しただけで怖い世界。
あの日私の前にあなたがたった日からずっと会いたかったよ。


かわいい顔なのに
大きな体、低い声
ゴツゴツした手指
アンバランスさがあなた

いつも笑っている愛らしい笑顔
そんなに笑ってて疲れない?



たくさんの甘い香りがするこの場所
忙しない足音が響くこの場所
たくさんの色を身に纏う
あなたが私の前に立った日
規則的な言葉に低い声で応えるあなた
使い慣れた笑顔が少し下を向く

ほらまたその笑顔
その笑顔じゃない表情をもっと見たい。

あなたに出会ったのはまだ向日葵が咲く前の季節。
下を向いた向日葵はあなたという太陽を見つけました。

人が怖い

私は自分の顔が嫌いだ。


男の人が言う好きって何?
かわいいって思ったら好きっていうの?
あなたは私の何を知っているの?

そんなに美人だったら絶対彼氏いるでしょ?っていませんけど?

女の子からは見た目がいいといいよねって睨まれる。
男子からちやほやさらちゃってって。
私何もしてないよ。
友達の好きな人に告白されてそれを知られて友達に無視される。
友達だと思っていた大切な子はその日を境に遠のいていく。

見た目だけ。


好きになった男の人も美人過ぎて大変そうと一線を引かれる。


「一妃さんは顔がいいから採用した」
バイト先で店長が社員さんが笑って話していた。
私の中身を見て採ってくれたんじゃないんだ。

もう顔を見ないで。

そう思ってから私は前髪を伸ばし始めた。

高3の夏。
2年続けてきたカフェのバイト。
就職が決まったのを期に今年で辞めることにした。

店長の言っていたことは聞かなかったことに、女の子の話も聞かなかったことに。
友達もいなかったことに。
全てを気にしないようにこの2年間やってきた。
気にしたらダメ。


「お姉さん綺麗だね」
「あ…ありがとうございます…」
女の子の視線がとても痛い。
やめて。もう見ないで。
「俺と今度遊んでよ〜」
「お姉さんのこと好きになっちゃった」
ほら出た。
だから私の何を知っているの?

「モテそうだしいろいろ慣れてそうだし」
「モテるんだから俺もいいでしょ?」

慣れてるって何?

いい加減にしてよ。


私は…私は…


「あのー急いでるんでいいっすかー?」

男の人の後ろからの声。


「俺普通のコーヒーで」
割り込むように私の前にやってきた。
「コーヒーお願いします!」
「あ…あの…はい」

さっきの男の人はため息をつきながらお店を出ていった。


「あの…ありがとうございます…」
お財布からお金を出す彼に自然に出た言葉。
「え?なにがすか?」
可愛らしい顔に似合わない低い声。
お金を出す手はとても大きい。
「いや…なんでもないです」
何もなかったようにしている彼。
あの状況から開放された安心と安堵に私の目頭が熱くなるのを必死にこらえた。

気持ちの始まり

休みの日。
今日の行き先はあそこにしよう
決めた場所で
私はあなたに出会った
いつもよりももっと目立つあなた
「あ」とかけた声に
あなたはお得意の笑顔
でも私は見てしまったよ
あなたの笑顔のない顔
ほら、そんな表情も出来るじゃない
そのあと私達は一緒に見て回った
あなたの隣を歩いた
たまたま出向いた先
そこであなたと初めて喋った

「ねぇ名前なんて読むの?」
「え……?い、一妃(いつき)」
珍しい苗字のわたし
名札に書かれた漢字を覚えていた
「あなたの名前はなんて言うの?」



「鈴谷翔尚(すずやひろひさ)。一妃さん下の名前は?」
「ほ、ほのか」
「どんな字?」
「あの…えと、さんずいに光で…ほのか…です」
鈴谷くんのペースについていけない。
鈴谷くんは私の名前の漢字を想像する様にうんうんって聞く。
鈴谷くんの表情ひとつひとつに釘つけになる。
キラキラしてる鈴谷くんの笑顔がとても眩しい。
恥ずかしくて顔を見れずに下を向く。

私の名前を聞いた鈴谷くんはより一層表情が輝いた。、
「すげぇ!ぴったりの名前だね」
「え…?」
初めて言われた…。
名前を聞く前に顔だけで好かれてきた私は、名前を聞いてもらったのもそんな事を言われたのも初めてだった。

「一妃さんは綺麗な心持ってると思うから」

なに?どういうこと?



声の心地よさに心が満たされる。
その声から放たれる言葉が私の心を暖かくするの。
でもね、同時に感じたことのない心の痛さがある。
これはなに?

「あの…す、鈴谷くんの名前の漢字は?」
「えー?俺?鈴に谷に尚、翔けるで翔尚。ショウって読むやつと高橋尚子のナオ!伝わった?」
しっかりと漢字を思い浮かべた。
「うん。伝わった」
鈴谷翔尚。

ねぇあなたとは次も欲しい
ねぇあなたの連絡先…教えてよ
出てこない声
意気地無し
ねぇもう駅だよ
もうバイバイ?



今までたくさん告白されてきた
なぜかもてていた
どこへ言ってもちやほやされる
女の子には妬まれる

でもさ
わたしの何を見て好きとか言ってるの?
まだろくに恋も愛もわからないわたし
男の人の好きってかわいいって思うこと?
わたしのことなにも知らないのに
好きって何?
どうせ顔だけでしょ?
そんなふうにしか思ってなかったのに
お願い顔を見ないで
顔だけで選ばないで
わたしにはちゃんと心があるよ
そっちを見て欲しい


「あ、連絡先」
あなたの声に
今まで下ばかり見ていた顔を上げる
「れっ!れ…連絡先教えて!!」
切実だった

あなたの目を丸くした顔は
すぐクシャっと笑った
「ははっ!俺が言ったのにっ」
って笑うあなたの顔は
今までのかわいい笑顔じゃなくて
気恥ずかしそうに笑う
男らしい笑顔だった

彼の背中が見えなくなって
私は急いでトイレに行った
目頭が火傷したように熱く感じて
目いっぱいに溜まった涙がこぼれる前に

人の目を避けた瞬間
初めてあなたにあった時
堪えた涙がこらえきれなくなった

この涙はなんの涙?
わからない
わからないよ
右斜め上にあったあなたの横顔
人混みで一歩前を歩くあなたの背中
途中私に振り返る時の顔
私の横でケラケラ笑う声
ところどころ掠れる低い声
しゃべる度に動く喉仏
ちらっと見える大きな手
全てが一気に頭を翔ける

あ。あなただって。
ぴったりの名前。
わたしを助けてくれた日からずっとずっと
ずーっとわたしの脳内を翔けている。


涙が次から次へと流れる程に
あなたが思い出される


ずっともう一度会いたかった人



私はしばらくそこで涙を流した

涙がやっと止まる頃には
あたりが薄暗くなって来ていた。

徐々に明るさが目にくる夜の灯り。


疲れた目に都会の灯りは少し邪魔。



そんな事を思う間も鈴谷くんの温かさが頭から離れない。
戸惑いが締め付けるこの気持ちはなんですか?

純白を染めたい

触れたくなった

この人の温かさを感じたくなった
それが俺の変化
綺麗な顔立ちを隠す長い前髪
その奥にある目は人に怯えていた
何がそんなに怖いんだろう
きっとこの人は見た目よりも
中身が素敵な人間だ
言わせたいヤツには
言わせておけばいいじゃないか
自分を悪く言う人を
思いやってどうするの?
ほらあなたは綺麗な心を持ってるんだね

俺なんかよりもずっと綺麗


あなたの前髪を掻き分けたい
もっと魅せて欲しい

あなたが知りたい


自分より周りを重視するあなたが
とてもかわいい
ほらあなたは今日も下を向いている


前を見てよ
あなたの中身に惚れた男がいるよ

その肌はどんな温度をしてるんだい?



もう俺は後に退けない
こんなにもあなたに触れたくなった



その伏せたまつげを
俺の腕に閉じ込めたい
あなたが痛いって歪む顔を
俺のものにしたい
誰よりも綺麗なその心を
俺に向けて欲しい
だから前を見て
俺を映してくれないか?


人ごみの中であなたを見つけた
そこらへんの外見だけで
あなたを好きだと言う男なんかに負けないよ



たまたま出かけた街であなたを見つけた時、これが奇跡なのかって思ったんだ。
あの店でしか会えないと思っていた。
隣にあなたがいる事がとっても嬉しかった。
今すぐ触れてしまいたかったけど、容易に汚したくない。
だってあなたはこんなにも純白で綺麗な人。
今日もこの人は下を向いている。

今日あなたの名前を聞いた時びっくりしたよ。
なんてぴったりな名前なんだ。
水が湧いて広がるように広い心を持つ女性。
あなたのことじゃないか。
その水はきっとどこまでも澄んでいる。
そんな綺麗な人が俺の目の前にいる。
汚すなら俺が汚したい。
護りたい。
なぁこの気持ちはなんだ?
恋ってこんなだっけ。
こんなに強く欲するものだっけ?
とても純粋で輝く気持ちなのに歪む。
綺麗なのに醜い。
そっか。
これが愛なのか?

下を向いた向日葵

下を向いた向日葵

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-09-08

Copyrighted
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  1. 人が怖い
  2. 2
  3. 気持ちの始まり
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 純白を染めたい