ポケットの中の手紙
昼休み、私は窓のさんに肘をつき外を眺めていた。
その視線の先には校庭で男子たちとサッカーをしている彼。
男子はいいな、気軽に近づけて話したり、遊んだりして…。
私なんて話しかけられても話しかけることすらできないのに。
「またカレシのこと見てるの?」
いつの間にか隣にいたらしく、ユミが顔を覗き込んでくる。
「カレシって、また馬鹿にする」
私は言い放つ。
「ゴメンゴメン。すごく愛おしそうな目で見ているからさ、
ついね!」
「そうやってユミは本命を彼氏にできたからなんだって言えるもんね。」
私は窓から離れ、自分の席に向かいながらユミに向かって言い捨てた。
ユミも負けずに、「だっていつまでも片思いで見ているだけじゃ辛くない?
だったらコクって付き合えばいいのに。」
私は自分の席に座り、読みかけの本をカバンから出して、本を開いた。
私の前の席に座ったユミをシャットアウトするために。
「いつもそうやって逃げる」
ユミは私の本を取り上げて、大きい声で言う。
いきなりのことで何も言い返せず、私は口を半開きにしているしかなかった。
その様子を見てユミもマズイと思ったのか、取り上げた本を私の机に置いた。
私はあくびをしながら、下駄箱に外履きをしまい、上履きを床に置く。
そいうしていると、ユミが登校して来た。たけどあれ以来、学校であっても
ユミとは口を聞けずにいた。
ユミは素早く上履きに履き替え、教室がある2階へ階段を登っていった。
そのあとを追うように私は階段を確認するかのように、一段ずつゆっくりと
教室に向かった。
あと二段というところで、二階の廊下から誰かが走ってくる靴の音がした。
バンッ!
痛い…
向かってくる足音に気づいて顔を上げたけど、避けるには遅かった。
転ぶまではしなかったけど、何が起きたのか一瞬分からず体中が縮こまったまま。
「あっゴメン。大丈夫?」
声をかけられた。
反射的に「大丈夫です」と言いながら、顔を見上げるとナギ先輩だった。
「ほんとにゴメン」そう言って、先輩は顔の前で手を合わせて、眉をひそめた
顔をした。
「大丈夫なので…」
私はナギ先輩とわかったとたん、上手く表情を作れす、下を向いた。
「大丈夫なら良かった」
せっかくナギ先輩が心配して声かけてくれたのに、恥ずかしくなり階段を駆け登り
教室に向かった。
この日一日は朝の出来事をずっと思い返しては、一人ニヤけていた。
キッカケはどうであれ憧れの先輩と話せたんだから。
下校の時間になり、私はいそいそと教室を後にする。昇降口に向かって歩いていると、
ナギ先輩が近づいてきた。
「今朝ホントにゴメン。ぶつかっていたかったよな。」
まさか話しかけられると思っていなく、驚いて「いいえ」としか返せなかった。
「もう帰るんだ。気をつけてな。」
そう言うとナギ先輩は右手をあげ「じゃあ」と言いながら体育館の方へ走っていった。
「さよなら」
聞こえているかわからない声で私は返し、後ろ姿を見つめていた。
「えっ、ナギ先輩と話してる!!」
後ろから声がしたので振り返るとユミがいた。
「うん、話しかけられてね。」
私は振り返り、平然を装いながら答えた。
弓は興味津々のようで、
「ここ数日間の間に何があったの?ちょっとスタバに寄って事情聴取だからね。」
ユミに腕を引っ張られ、上履きから外履きにに急いで履き替えて、二人で学校をあとにした。
「で、何があったの?」
飲み物を頼んで席につくやいなや、ユミが急かしてくる。
「実はね」
私は今朝の一件をユミに話した。
「へぇー、ぶつかってきたのがキッカケでね。いいじゃん、いいじゃん。あっちだって
カナコの存在に気づいてくれたんだし。カレシ・カノジョになる日も近いね。」
ユミは興奮気味に話している。
「そんなことないよ、明日になればまたフツーに見てるだけになるって。」
そう落ち着いて口調で言い居つつ、私は少し期待していた。
ユミが言った通りになるんだって。
それからほかに数日間にあったことをお互い話しをした。
話は途切れることなく、飲み物がなくなっていた。
気づいたら店内は私たちだけ。
窓の外を見るとあたりはすっかり夜になっていて、それぞれ家に帰った。
あれ以来先輩は私を見つけるたび、いろいろ話しかけてきた。
私も最初はどぎまぎして「はい」「いいえ」ぐらいしか返せなかった。
最近では、会話が成り立つようになってきた。
好きな歌手とか将来のこととか、ナギ先輩のことを一つずつしれて嬉しかった。
そして毎日帰りにはユミに報告する日々を送っていた。
ある日ユミがふと言ってきた。
「ねぇカナコ、そろそろなぎ先輩にコクったら?」
毎日ナギ先輩と話せるようになって、嬉しくてそんなことに考えたこともなかった
ことに気がついた。
「うん…。」
ユミが思っていなかった反応をしたからか
「えっ、まさか考えてなかったの?」
なんて返していいか口の中でモゴモゴしていると
「直接言うのが恥ずかしいなら、手紙に書いて渡せばいいじゃん。ナギ先輩だって
どうでもいいコには話さないんだし。話しかけるってことは一目置かれていると思うよ。」
「わかった、考えてみる。」
歯切れの悪い感じで答えた。
宿題をしようと、ベットから起き上がり机に向かった。
ふと帰りにユミに割れた言葉が蘇った。
手紙かぁ、可能性はなくないのかな。
引き出しの中に前買っていったレターセットを取り出した。
そしてナギ先輩へ思いを書いてった。
自分の気持ちが書けたようで、でも言葉が強すぎて負けているような。
伝えて意味があるのかな。
紙を折って封筒に入れた。
翌朝ユミが「手紙書いた?」と聞いてきた。
「書いたよ」
「ホント、じゃあナギ先輩に渡そう!」
「うん、手紙持ってきた。今日渡せたら渡すよ」
放課後になり、ユミと昇降口に向かって歩いていると
「さよなら」
声の方を向くと、ナギ先輩だった。
「私、昇降口で待ってるね。頑張ってね!」
ユミは胸の前でガッツポーズしながら言った。
「うん、待ってて」
「あっ、これカナコちゃんが聞きたいって言ってたCD。貸すよ。」
前に話して貸してくれると約束していたCDだった。
「ありがとうございます」
そう言いながら、ナギ先輩差し出したCDを受け取った。
「この系聞く奴なかなかいないからさ、話できて嬉しんだ。」
「私もです。」
ナギ先輩の顔をまっすぐ見つめた。昨日書いた手紙、制服の胸ポケットにある。
「ナギ先輩、私…」
「何?」
「いえ、何でもないです。これ聞いたら返しますね。」
「うん、感想聞かせてよ。それとカナコちゃんもなんかオススメあったらCD貸してよ!」
「はい、じゃあ友達待たせてるのでこれで失礼します。」
「じゃあな、気をつけて帰れよ、さよなら」
「さよなら」
私は会釈をして、ユミが待っている昇降口へ向かった。
借りたCDを胸に抱きながら。
ナギ先輩。私先輩のこと好きですよ。そのために手紙書いたんですよ。
だけど、渡しません。
毎日毎日こうやって話していることが嬉しいから。
この気持ちは伝えなくても、叶えなくてもいいんです。
胸ポケットの手紙に書いた気持ちを大切にしていきますね、これからもずっと。
ポケットの中の手紙