三題噺「瑠璃色」「偃月刀」「さまよえる宇宙船」

「おいイオータ、そっちはどうだ?」
長身の少年が眠たそうに声をかける。
「全然ダメ。さっきから『偃月刀』という物を復元してるんだけどハズレみたい。エータは?」
「俺も駄目だ。色が綺麗だったから『コウイカ』とかいう物を復元してみたけどブヨブヨして使い物にならないよ」
そう言うとエータと呼ばれた少年は瑠璃色に光るイカの墨袋を地面に放り捨てた。
「なんだ、お前たち。無駄話していないで早く復元作業に戻れ。ただでさえ作業効率が落ちているんだからな」
「なんだ、ラムダか。また俺たちの監視かよ」
長身の少年が理知的な少年に悪態をつく。
「お前らがサボってばかりだからだろ」
ラムダと呼ばれた少年が嫌々そうに答える。
「ラムダの方はどう?」
「残念だけどこっちもさっぱりだ。お前たちの『武器』や『動物』とは違って、『建物』はどうやら外れのようだな」
「そう……他のみんなも?」
「ああ、プサイの『植物』もカッパの『気体』、ミューの『液体』も良い話を聞かない」
知らずと三人のため息が重なる。
「イプシロンとウプシロン、ニューとクシーもまだ怪我して寝たままだし、どうしてオメガは……」
「よせ。もうあいつのことは忘れろ」
ラムダに注意され、三人の間に沈黙が流れる。
「……あーぁ、俺たちいつ自分たちの星に帰れるのかなぁ。」
「仕方ないだろ。僕らは……遭難……しちゃったんだから」
エータは夜空を見上げながら、この星に漂着した日のことを思い出していた。

本当は別の惑星に小旅行に行くはずだった。
イオータや頭でっかちなラムダ、陽気なプサイやその他の仲間たち総勢二十二人で、子ども達だけのバカンスに行く予定だったのだ。
ところが宇宙空間に謎の乱れが生じ、気付けば宇宙船は航路を失って漂流していた。
さまよえる宇宙船が宇宙嵐を越えてこの無人星に流れ着いたのは漂流して五日後のことだった。
そして、それからはずっと俺たちはこの星で暮らしている。
いつの日かこの星から出られる日まで。

「よぉ、エータにイオータ。おっと、ラムダもいたのか。昼飯持ってきたぞー」
小柄でずんぐりとした体型の少年が乳白色で板状のものを抱えている。
「遅かったじゃないか、ファイ」
「いやぁ、新しく『ナン』という物を復元してみたんだよ」
「そう。いつもいつもファイの『料理』に対する情熱には感謝してるわ」
イオータに褒められてファイと呼ばれた少年の顔が真っ赤に染まる。
「そ、そんな……。元はといえばアルファの兄貴がこの星の『歴史』にアクセスしてくれたから手に入った知識だし……」
「確かにな。アルファが『歴史』を読むことを思いつかなければ、僕らは一生この星から出られなくなるところだった」
「……でも、少なくともオメガの『兵器』でベータやガンマが死ぬこともなかったけどな……」
「…………そう、だな」
「だ、だけどオメガは拘束したし! イプシロンたちもきっと元気になるよ!」
「……イオータ」
「そ、そうだよ! オメガの残したよくわからない巨大な物も、砕いて土に埋めたしもう大丈夫だよ!」
「ま、考えたってしょうがないか。な、エータ」
「う、うるせえよ!」
そうして今日も一日が終わる。
いつの日かこの星から出るための『宇宙船』が復元できることを信じて。

「おい、デルタ! 俺の話を聞いてくれよ!」
独房のような部屋でボロボロの服を着た少年が看守の少年に叫んでいた。
「あれが『宇宙船』なんだ! 俺たちがこの星を出るための『宇宙船』なんだよ!」
「黙れオメガ! お前が復元したのならそれは『兵器』だろ! 小さい『兵器』じゃ飽き足らずあんな巨大な『兵器』を復元するなど言語道断だ!」
看守の少年はそれっきり、オメガの言葉に耳を貸そうとしなかった。
「……違う。『宇宙船』に似ているからって『地雷』に近付いたのはあいつらなんだ……」

少年たちは知らなかった。
この星の『宇宙船』が円盤状ではなく槍状であることを。
そして、『ロケット』という名の『宇宙船』が、『ミサイル』という名の『兵器』だということも。
彼らは今日も星の『歴史』を紐解いていく。
いつの日かこの星から出られることを信じて。

三題噺「瑠璃色」「偃月刀」「さまよえる宇宙船」

三題噺「瑠璃色」「偃月刀」「さまよえる宇宙船」

「おいイオータ、そっちはどうだ?」 長身の少年が眠たそうに声をかける。 「全然ダメ。さっきから『偃月刀』という物を復元してるんだけどハズレみたい。エータは?」 「俺も駄目だ。色が綺麗だったから『コウイカ』とかいう物を復元してみたけどブヨブヨして使い物にならないよ」 そう言うとエータと呼ばれた少年は瑠璃色に光るイカの墨袋を地面に放り捨てた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-05

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