翻訳小説「恋するザムザ」(#1)

村上春樹 作

目が覚めたとき、彼は自分がグレゴール ザムザになってしまっていることに気がついた。

 目が覚めたとき、彼は自分がグレゴール ザムザになってしまっていることに気がついた。
 彼はベッドの上に仰向けに寝そべって天井を見ていた。目が明かりに慣れるまで時間がかかった。天井はごく一般的な、どこにでもあるような見た目のものだった。もともとの色は白か、淡いクリーム色といったところだろう。しかし天井は、長いあいだ土埃に容赦なくさらされていたために、今では腐敗したミルクのような色合いになってしまっていた。装飾もなければ、これといった特徴もない。批判もなければ、意味のこもったメッセージもない。その天井は建築的な構造に従って作られたものであり、「天井である」というそれ以上の意味をもたなかった。

翻訳小説「恋するザムザ」(#1)

翻訳小説「恋するザムザ」(#1)

村上春樹 著『恋するザムザ』の英訳版、『Samsa In Love』テッド グーセン 訳の日本語訳文(重訳)です。 試しに一話目を投稿。

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更新日
登録日
2015-09-06

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