翻訳小説「恋するザムザ」(#1)
村上春樹 作
ちょっぺ〜 訳
目が覚めたとき、彼は自分がグレゴール ザムザになってしまっていることに気がついた。
目が覚めたとき、彼は自分がグレゴール ザムザになってしまっていることに気がついた。
彼はベッドの上に仰向けに寝そべって天井を見ていた。目が明かりに慣れるまで時間がかかった。天井はごく一般的な、どこにでもあるような見た目のものだった。もともとの色は白か、淡いクリーム色といったところだろう。しかし天井は、長いあいだ土埃に容赦なくさらされていたために、今では腐敗したミルクのような色合いになってしまっていた。装飾もなければ、これといった特徴もない。批判もなければ、意味のこもったメッセージもない。その天井は建築的な構造に従って作られたものであり、「天井である」というそれ以上の意味をもたなかった。
翻訳小説「恋するザムザ」(#1)