三題噺「メッセージ」「SNS」「子供騙し」(緑月物語―その3―)
緑月物語―その2―
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緑月物語―その4―
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――かつて月と呼ばれた緑の星、緑月。
突如発生した異常気象とそれによる植物の異常発生により、この星は豊かな自然と大量の有用鉱物資源を手に入れた。
そして、緑月は新たな戦争の火種となり、地球の国々により資源を食い潰されるだけの存在になる、はずだった――。
登校途中の生徒で賑わう校門前で、俺はぼんやりと校舎を見上げていた。
軽く見上げてみたものの、そのあまりの大きさに間の抜けたため息しか出てこない。
大都市の最新鋭ビル群にも引けをとらない近代的な建物。その全面ガラス張りの外観は、ちょうど地球の姿を鏡のように映しだしていた。
「これが……今日から俺の通う学校か……」
俺が国立緑月調査部隊育成学校へ転校することが決まったのは、去年の暮れのことだ。
秋に募集されていた特別推薦枠に運良く引っかかり、晴れて高校二年の春からの転入となったのだ。
「学校から入学通知のメッセージが届いた時は、あまりのそっけなさに新手の詐欺かと思ったしなぁ……」
と、しみじみ回想していると遠くで地響きのような重低音が聞こえた。
「まさか……月海鯨? あれの鳴き声がこんなに近くで聞こえるなんて……」
月海鯨は緑月でも危険種レベル4の超巨大生物の一種だ。
普段は大人しく害はないが、一度暴れだせば中隊クラスの大型航空母艦でさえ一発で紙屑同然になるほどの危険度を誇っている。
「……さすが天下無敵のSNS(space nature shield)育成校ってわけだ」
転校生の少年は浮足立つ気持ちを胸に、新天地での生活に思いを馳せながら校舎へと入っていった。
「えー、本日から転入してきた酒野修一君だ。みんな仲良くするように」
HRで担任からあっさりした紹介をされる。長髪を後ろで束ね、つり目に眼鏡の、真面目で優しそうな先生に見えた。
「先生先生ー、今度の転入生はズバリ先生のタイプですぐぼぁあっ!」
……前言撤回。どうやらかなりおっかない先生のようだ。
壁に叩きつけられている幸の薄そうな男子生徒の他に被害はなかったようだ。しかし、周囲の生徒が統制されたかのような回避運動を見せたことが逆に恐ろしい。
しかもよく見ると、彼の机だけ合金製で床に幾本ものボルトで固定されているのに気付く。
どうやらこの光景は日常茶飯事らしい。
座席についた後も修一は、教師という名の暴君が握る小型空気圧縮砲から打ち出される空気弾から、
「駄目だよ先生、転校生に気を使ってお淑やかにしようたって。すぐに化けの皮があっひぁあぉぅっ!」
目が、
「ふふふ……まさかこんな子供騙しの手に踊らされるなんて実は先生ウブびゃぁあぉうっ!」
離せずに、
「…………年増ぐっぎゃぁぁああぉううぉぁあっひゃあぁあっ!」
HRを過ごすこととなった。
そして、
「あぁ……体が熱い……」
視界の端で嬉しそうに悶えながら何度も吹き飛んでいる生徒のことを、少しでも意識しないよう努めるのだった。
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