リディアの空

ラント領主である父アスベルを手伝うアルバート。執務で手を離せないアスベルの代わりにアルバートは王都バロニアにリチャード国王宛の親書を届けることになる。
魔物の活発化。謎の少女との出会い。今、一人一人の物語が交差し絡み合っていく。
紡いだ想いをまもる物語。
※テイルズオブグレイセスの二次創作です。(いまさらw)本編の若干のネタバレを含んでおります。
※主人公等メインキャラクター、シナリオに関しては完全に作者の創作です。
※それでもいいよという方、是非楽しんでいってください。

陛下への手紙

 アルバートは溜息をついた。
「ソフィはラントをまもるのに忙しいし、父さんは執務がどうも多くてしばらく手が離せそうにない。悪いがお願いできないか?」
 アルバートに下された命は、国王に謁見し、ラント領主アスベルから国王への親書を渡すことだった。
 仕事を頼まれたこと自体は少し嬉しかった。父はアルバートが領主になれるように、仕事の一部をアルバートに任せることが多々あった。
 今回は任された仕事の中でも特別だ。国王陛下への謁見だ。アルバートの胸が高鳴る。これほど大きな仕事を任されることが始めてだった。
 しかし、アルバートの興奮はすでに覚めてしまっていた。
 バロニアに出る準備をしていると、母、シェリアが世話を焼く。生まれつきの病気を抑える薬は持ったのか。短剣は刃こぼれしていないか。あれこれ聞かれているうちに子ども扱いされている自分に悲しくなった。
 そして、極めつけが一人で旅に出るつもりが、目の前に笑顔の幼なじみがいることだった。
「どうしたの、アル?」
「いや、何でもない」
 亜麻色の癖毛の毛先が、持ち主であるセシルの肩の上でひょこひょこ跳ねる。初めての一人旅だとわくわくしていたが、ふたを開けてみればセシルとの二人旅。それも騎士団員であるセシルにまもられる形になってしまっていて、思っていたよりずっとつまらなく感じた。
「ほんと? 溜息ついてたけど」
「あ、まあ。騎士ってすごいなって思って。学校で己を磨いて陛下の為に剣をふるなんてさ」
 アルバートがしどろもどろになりながらそう言うと、セシルは鼻を膨らませた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ、アル。誉められると頑張って騎士になった甲斐があるし!」
「は、はあ」
 さあ、はりきってバロニアに行こう。セシルはそう言うと、どんどん足を進めていく。アルバートは苦笑いをしながら、セシルの後に続く。アルバートはセシルのように速くは歩けない。そのせいで距離が少しずつ空いていく。アル、はやく! そう言われる自分もなんだか情けなかった。
「あ、そか。アル。大丈夫? 苦しくなったりしてない?」
 セシルが足を止めた。振り向いてアルバートをじっと見る。顔色を見ているようだ。アルバートは頭をふる。
「大丈夫さ。このぐらい」
「ほんとに? あーでも、アルの体調が悪くなっても困るし、少しゆっくり歩くね」
「すまない」
「そういえばさ、アスベル様、大丈夫かな?」
 父、アスベルの体調は、最近よい状況ではなかった。体調を崩しては寝込んでおり、執務は溜まっていく。さらには最近発生した強力な魔物(モンスター)がラント領付近に出没し、剣豪として知られるアスベルは最前線で戦いに出ることもあった。無論、アルバートも手伝いしていたが、どうしてもアスベルでないとできない執務は溜まっていく一方だった。
 今回アルバートにリチャード陛下への謁見の仕事がまわってきたのは、父の体調不良と溜まる一方の執務のせいだろう。
「父さん、あまりよくなさそうだ。奇病なもので、治療すらできないみたいだし」
「ねえ、アスベル様ってどこが悪いの?」
「それすら分からないらしい」
「アスベル様、まだ死なないよね?」
「不謹慎なこと言うなよ」
 アルバートは咳をする。少し感情が昂ってしまったらしい。長い距離を歩かなければならないのだ。ここでセシルに迷惑をかけるわけにはいかない。
「アルバート! あまり無理しちゃあよくないし、休む?」
「大丈夫。少しセシルの発言にびっくりしただけだ。それに、バロニアへの連絡港が見えてきた」

 バロニアへの連絡港につくと、焼き鳥丼の匂いが漂ってきた。母の好物だ。アルバート自身は脂っこそうな匂いがどうしても苦手で、好きになれない。隣に売っている親子丼は好きで堪らないのだが。
「ああ! 親子丼なんて食べてる時間ないよ! 食べるなら船内の食堂だからね!」
「船内の食堂は高いじゃないか」
「じゃあ、バロニアまで我慢だね」
「食べるとも言ってないけどな」
「あ、拗ねたでしょ。とにかく、早く船に乗ろうよ」
「そうだな」
 
 二月ぶりに来たバロニアは、きらきらと輝いて見えた。
 バロニアへは、何度も訪れたことがある。アルバートの体を医者に診てもらう為だ。幼い頃は、バロニアに来たことがうれしくて堪らなかった。その為、はしゃいでベッドの上で兄と二人で跳ねて、母がよく怒鳴っていたことを覚えている。マイペースな姉は、怒鳴られるアルバートと兄を尻目に本を読んでいた。
 今日は、アルバートが幼い日に感じていたように輝いてみえる。医者にあれこれ言われる為に来たのではなく、ラント領主の代理としてバロニアに赴いたからだ。
「アル。手え、震えてるよ。緊張してるんだねえ」
「あ、当たり前だろう? リチャード陛下と面会するんだ」
「小さい頃、遊んでもらったじゃない」
「そ、それは、そうだけど」
 これは公務だが、そう堅くならなくてもいい。いつも通りのアルバートなら大丈夫だ。父の言葉がふと頭を過る。大丈夫だ。アルバートは自分にそう言い聞かせ、深呼吸をする。
 陛下と謁見し、書状を見てもらうのだ。その後の指示は陛下に従えば良い。これほどにまで胸が高鳴っているのだ。普段以上にきっと公務をこなせる。デール公とバロニアで仕事をさせて頂いた時も誉められたではないか。
「アル。顔色よくないけど、大丈夫?」
「よし! やるぞ! 大丈夫。僕は大丈夫。早まるな。落ち着け、アルバート!」
「……アル。まあ、いいけど。私、騎士団本部に顔を出さないといけないから。肩の力抜いてね」
「え、あ、まあ、そうだな。はは」
 バロニアの町の中にセシルは消えていく。アルバートも、よし。と言うとバロニア城を目指して街の中に踏み出した。

 玉座にはリチャードが座っている。隣には皇太子であるヘンリが立っていた。
 アルバートは謁見の間の荘厳さに思わず感嘆の声を漏らしそうになったが、ぐっと飲み込んだ。
「久しぶりだね、アル」
「ご無沙汰しております、リチャード陛下」
 緊張で声が強ばる。ヘンリがふふっと笑う声が聞こえた。
「顔を上げてくれ、アル」
「はい」
 言われるがままに顔を上げると、目と鼻の先にヘンリがいた。ヘンリはにこりと笑ってアルバートの瞳の中を覗いた。
「うわあ! な、なんだよ、ヘンリ。じゃなかった。ヘンリ様。どうなさいましたか?」
 ヘンリがけらけらと笑う。
「どうなさいましたか。って。君らしくもないね。アル。ぼくたちは誓いの友じゃないか」
「い、いや。ここはそういう場ではありません。殿下。ここは謁見の間であり、陛下もいらっしゃいます。ですから」
 リチャードは玉座から立ち上がり数歩足を進めるとアルバートに微笑みかけた。
「僕は構わないがね。ヘンリとアルが友達として親しく接してくれるのを見ると、ほっとするよ。親として、息子に唯一無二の親友がいてくれることは嬉しいことさ」
「陛下。しかし」
「それで、用件はなんだい?」
 意地悪くにこにこと笑うリチャードとヘンリにアルバートは苦笑いしそうになったが、飲み込む。仕事だ。この場でふざけるわけにはいかない。
「は。ラントより書状を持って参りました。どうかこの場でお読み頂きたく思います」
 リチャードはありがとうと言って書状を受け取ってくれた。書状の中身を、アルバートはよく知らない。気になってアスベルに聞いてみたが、はははと笑って誤魔化されただけだった。
「なるほどねえ」
 リチャードはそう言いながら短い書状を読んで頷いている。
「ヘンリ。任務だ。セイブル・イゾレにいるパスカルという女性をラントの領主邸につれていって欲しい」
「はい。父上」
「そして、アルバート。君は神聖術が使えるそうだね」
「はい」
「その力でヘンリを守ってくれ。セシルと共にな」
「かしこまりました」

 城の外に出ると、セシルが待っていた。騎士団の白い制服を着ている。先程会った時とはどこか雰囲気が違うようにアルバートは感じた。

リディアの空

リディアの空

緑豊かな土地、ウィンドル王国ラント領でアルバートは領主の父アスベルを手伝いながら穏やかな日々を送っていた。ある日、アスベルの命でウィンドル国王リチャードに親書を渡す為アルバートはバロニアに赴く。旅の中、出会ったのは片言の少女だった。※テイルズオブグレイセスの世界をお借りして完全なるオリジナルストーリーを展開しております。話の中心は本作中のキャラクターの子どもです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-31

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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