お月さんとお天道さん

忘れることは新鮮でいられる

 もし君がお天道さんのせいで、火傷をして深い傷がついたのなら、僕はお天道さんを憎むんだろうか。もし僕がお天道さんがそうしたことで、いや、それがなくたって僕の奥深い瞳を焼きちぎったとして、僕はお天道さんを憎むのだろうか。
 そこまで睨み続けたことを、僕は後悔するのだろうか。
 
 もし君がお月さんのせいで、君を天空へと落っことさせて、この世界から引き抜いていなくさせたら、僕はお月さんを見るたびに、憎み続けるのだろうか。
 そこから返せよと、お月さんを見るたびに後悔するのだろうか。
 君とそうやってお月さんとお天道さんのもとで、隣にいた僕は、どうして止められなかったのか、防げなかったのか、後悔し続けるのだろうか。
 いつも規則正しく繰り返し交代交代に現れるお月さんとお天道さん。まるでメビウスの輪のような世界にいつのまにか誘って、入ってしまった僕は、ずっとそうしてしまうのだろうか。
 たぶん憎みつづけるのだろう。後悔し続けるのだろう。お天道さんがでてくれば、その膨大な存在を身体に感じて、思い出してしまい、そうするだろう。お月さんが毎晩お面をかえて、夜空の道化になっていても、その妖艶さに酔ってしまい、隠した怨恨を呼び戻させるだろう。
 けれど、メビウスの輪のようであっても、いくら規則正しそうに繰り返して現れて翻弄されても、人間の僕は人間だと言う事に、救われるだろう。いつもおなじように現れ続けるお月さんとお天道さん。その姿すらもほとんど変わらない。だからこそ、僕も毎日同じ行動パターンとして、そうし続けてしまう。けれど、僕はそのおかげで、見続けているという動作はあっても、なんで見ているのかを、忘れているだろう。僕の才能は忘れてしまうことだから。
 そして残った行動パターンだけが、今を映していく。そこでの僕の前にあるのは、”ある当時”と変わらないお月さんとお天道さん。それをずっと見続ける。そして、僕は気がつくんだ。なんて美しいのだろうかと。煌々と瞬くお月さんの滑らかな美しさに。さんさんと輝くお天道さんの大らかで激しい美しさに。
 確かに、僕の奥深い瞳は焼きちぎられたままだ。その痕跡は消えてはない。引き抜かれた事実は、どうしようもあって、君はいない。
 けれどわけを忘れてしまった僕は、それらのすべての痕跡も美しいとお月さんやお天道さんのもとで愛でているだろう。なぜなら忘れたからだ。忘れられるからだ。
 そうして、その美しさを感じながら、僕は堂々と同じようにぶつかっていくんだ。そしてまた失敗を繰り返すんだ。だけど、心もいれかえず、変節もせずに、何度も阿呆のように同じ心でぶつかっていくんだ。
 なぜなら忘れるからだ。忘れるから心はいつだってまっさらなままだ。卑しくなんてないんだ。だからお月さんもお天道さんも、誤摩化しもしないでいつも現れてくれるんだ。

お月さんとお天道さん

お月さんとお天道さん

明るさが君を傷つけたとして、僕はそれを恨むだろうか。暗さが君を引っこ抜いたとして恨むだろうか。 なんで隣にいて、何もできなかったか後悔するのだろうか。恨みもするし、後悔もする。 しかしその起伏を起こさせる物事は、常に規則正しく世界を回っている。 メビウスの輪のような世界に、いつの間にか誘われ入り込んでしまっている。 僕は、色んな葛藤をしていく。陰陽は常に、悠然とただ回っている。 見るたびに僕は思い起こすことになるけれど、いつか忘れて見ることという行動だけが、残る。 そしてなんて綺麗なんだと思うだろう。その両極があってこその世界なんだ。 そしてまた同じことを繰り返していく。それもまた綺麗なことだ。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • ミステリー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-31

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