オンナ嫌いな俺の学園生活
プロローグ 【四面楚歌】
『自殺じさつ』
……そんなことをする人間は所詮、心が弱いんだと思っていた。
しかし、事ここに至って自分の考えが間違っていたのだと痛感させられる。
今なら『自殺』という最悪の選択肢を選んでしまう人間の気持ちがわかる気がする。
現実に耐えられなくなり『あの世』への〝逃避〟。自分をイジメていたやつからの逃亡であり、自分をイジメていたやつに対して実質的な『敗北宣言』ではないか。
――そう、思っていた。
でも、違う。現実から〝逃避〟するわけではなく〝敗北宣言〟でもない。
将棋に例えるのなら、俺は今まで『自殺』は〝投了〟だと思っていた。
実際はそうではない。
対局を開始する前に自分だけ王将以外の全てのコマを無理矢理捨てられ、「その状態で勝ってみろ」と言われているようなもんだ。無理に決まっている。そんな勝負できるわけがない。
この対局を降りることは〝逃げる〟わけでも〝投了〟したわけではないはずだ。
「戦わない」
それしか選択肢がないのだ。そんなもの勝負にすらなってない。
それが今、俺が置かれている状況。
――四面楚歌しめんそか。
『自殺』という選択肢が頭をよぎる。そしてその選択肢を無理矢理かき消す。
ここ最近はその作業を常に繰り返している。
俺は今、四人の女に呼び出されて体育館裏にいる。
大きな体育館の影になっていて残暑の残る九月とは思えないほどコンクリートは冷たい。
痣あざと生傷なまきずだらけの身体が幾分いくぶんか癒されるような感覚。
そう、俺がここに呼び出されたのはけして、俺がモテモテで四人の女に同時に告白されようとしているわけではない。
「お前さぁ。アタシらが『遊んで』あげてるに……ぼーっとしてんじゃねえよ!」
女の声とは思えないほど、ドスの効いた声と共に一切容赦のない蹴りが鳩尾みぞおちを突き刺す。
「ウチさぁ、昨日電話で彼氏とケンカしてイライラしてんの」
鳩尾を蹴り飛ばされた痛みと苦しみで蹲って《うずくま》いる俺の上からさっきとは別の女の声が聞こえる。
「だからアンタ、憂さ晴らしにウチらにボコられて?」
そう言うと、蹲っている俺の背中を上から思い切り踏みつける。
手足をつき辛うじて四つん這いになっていた俺の身体は体育館裏の平らな地面に叩きつけられた。
痛みと屈辱で反射的に俺は踏みつけた女を睨みつける。
「あぁ? お前、なに? その目。マジむかつくんだけど」
まるで、自分の腕から血を吸い上げている蚊でも見つけた時のような。俺に対して、嫌悪や怒り以外の感情は何一つないような顔で、俺を睨みつける。
「ウチにそんな目していいと思ってんの? 殺すよ?」
そう言って睨みつける俺を潰すかのように顔の左側を思い切り踏みつけた。おいおい、そんなに強く踏みつけたら俺の奥歯が折れちまうぞ。まぁ、もうとっくに折られてるんだけど。
地面には夥おびただしい量の血が溜まっている。まさかコンクリートが出血しているわけがない。女の誰かに突然生理がきたわけでもないだろう。恐らく、俺の頭から流れ出た血が冷たいコンクリートを汚す。
(おいおい、マジで死ぬぞ……)
女の脚は踏みつけた後すぐに、顔面を蹴り上げようとする。俺は反射的にガードした。
それが気に食わなかったのか、その場にいる四人の女全員が一斉に思い思いの罵声を浴びせながら俺に蹴りを浴びせる。
よくもまぁ、そんなに色んな種類の罵声が思い浮かぶものだと関心する。その語彙力を普段の会話にも活かしたらどうだろう。俺は心の中でひっそり提案してみた。
俺がマゾならどれだけ良かったか。四人の女子高生に囲まれてボコボコにされているこの状況も『ご褒美』とでも思えただろう。
所詮女子高生。体力はない。はぁはぁと息をあげて『ご褒美』を中断する。
「相変わらずお前ら、容赦ないな。今ので左手折れたかも」
俺はぼそりと呟いた。
「お前、なに口利いてんの?」
尚も激しい運動で不足した酸素を補給して息を整えようとしている女が冷たい声で言う。
「お前らに殴られ始めて約三十分。そろそろ昼休み終わるんじゃないか?」
「は? お前なに言って――」
――キーンコンカーンコーン……。
〝試合終了〟を知らせるチャイムが鳴る。
「な? 今日はもう終わりでいいんじゃねえかな。もう満足しただろ」
「……ッチ。明日も同じ時間にこいよ。アタシらがまた『遊んで』あげるから。――ねっ、〝統志朗くん〟」
「ウチもまだ満足してないしぃ、明日もよろしくねっ」
乱れた制服を直しながら、スイッチでも切り替えたかのように満面の笑みを向ける。
私もー。休み時間終わるの早すぎぃ。と後の二人も続く。
「じゃあね~。また明日」
手を振り、冷え切ったコンクリートに倒れる俺を気に掛ける素振りすら見せずに四人が去っていく。
「ちょっと待てよ」
「……何? ウチらに文句でもあんの?」
何日にも渡って繰り返される『遊び』によって痛めつけられ、断末魔のような悲鳴をあげる身体を無理矢理起こして去っていく女達を呼び止める。
「……彼氏と仲良くしろよ。後うちの学校、一応男女交際禁止らしいぞ。〝みかりん〟」
「……は?ケンカ売ってんの?」
この場を去ろうとしてた脚がくるりと向き直り勢いよくこっちに向ってきた。
「調子に……乗ってんじゃねえよ!」
生まれたての小鹿よろしく、ぷるぷると震えながら上半身を起こしている俺の身体にトドメでもさしてやろうかという勢いで脚を振り上げる。
「ちょっ、みかりん! やめなって! もう授業始まっちゃうって!」
「明日またやろ? こんなゴミの言葉なんて聞かなくていいって!」
慌てて二人の女が止めに入る。
「美香。もういこ。明日倍返しにしてやればいいじゃん」
もう一人の女にも止められ、〝みかりん〟は暴れていた身体をゆっくり元に戻す。
「……覚えとけよ。明日殺すからな……」
ッペ、と俺の顔に唾を吐きつけ三人に連れられ校舎へと向っていった。
四人が体育館裏の角を曲がり、姿が見えなくなると同時に、必死に持ち上げていた俺の上半身が崩れ落ちる。
……また、コンクリートの冷たさを全身で感じる。
「……ッテェな。ホントに容赦ねぇよなぁ……。マジで骨折れたんじゃねぇか?」
『折れていてもおかしくない』と自分の身体が痛みで答える。
「にしてもアイツらマジで女かよ……。力強すぎんだろ……」
女ってもっとこう。『スマホ以上の重さのものなんてもてな~い』とかいうもんじゃねぇの? スマホどころか家にある冷蔵庫ぐらいなら平気で持ち上げれるだろ。この力は。
ふぅ、と息を吐き悲鳴をあげる身体に鞭を打ち、地を這い体育館の壁に背中を預けてなんとか座りこむ。
傷だらけの腕を眺めながら、入学してからのことを思い返す。
「やっぱ……、〝女〟に関わったのが原因だよなぁ」
そう、俺が今の『状況』に陥った原因は〝女〟に関わったせいだ。
「しかも、『昔』と全く同じ状況じゃねぇか……」
その『昔』の失敗から学び、女を避け、できるだけ関わらないように生きてきた。
結果、『この学校』に転入するまでは平穏無事に過ごして来れた。
それが、『この学校』に来て女と関わったことにより、今の『状況』に転がり落ちた。
「……っはぁ」
相手は四人とはいえ、所詮は女だ。男である俺が全力を出せば、そう苦労せずに倒せるだろう。
でも、もし仮に〝アイツら〟を倒したとして何になる。状況は変わらない。むしろ〝以前〟の状態に戻ってしまい今より悪くなることは明白。それでは、何週間もアイツらの『遊び』に付き合ってきた意味が無くなってしまう。
俺にはその危険で終わりのない『遊び』に付き合う以外の選択肢はないんだ。
先生に助けを請うか? 友達に助けてくれと泣きつくか?
そんなことできるはずがない。
先生は俺の味方ではない。敢て『遊び』に参加してくることはないが、傍観。楽しそうに遊んでいる生徒を〝ほほえましく〟眺めているだけ。
まぁそれも女に関わったせいか……。
友達に助けを求めたら、もしかすると味方してくれるのかもしれない。
しかし、自慢じゃないが俺は友達が少ない。たかが数人では結局巻き込んでしまうだけ。どうしようもない。
――四面楚歌。
『自殺』という言葉がまた、頭を過よぎる。そして、かき消す。
この繰り返し。
終わりは見えない。
もう一度、今度はさっきよりも大きく、「……っはあ」と深くため息を吐く。
「授業は……この身体じゃ無理だな。……保健室にでも行くか」
そう呟き、最期の力を振り絞り立ち上がった。
保健室へ向おうと歩き出すが、足が思うように動かない。
「血、結構出てたもんな……」
意識が朦朧もうろうとする。視界が霞かすむ。『ヤベェな……』と呟いたつもりがその声すら出ない。
あれ……? 俺、死ぬのか? 自殺するまでもなく、ここで力尽きるのか?
それはそれでいいのかもしれない。人を殺したとなれば、〝アイツら〟もただでは済むまい。退学。いや少年院に入れられるかもしれない。なら。たぶん。恐らく。〝アイツ〟がまたイジメられることもないだろう……。
全身に力が入らなくなる。
地面に倒れこもうとする自分の身体をまるで俯瞰ふかんで見ているような感覚に陥おちいる。
段々と近づいてくる冷たかったコンクリートがスローモショーンのように映る。
走馬灯だろうか。薄れ行く意識の中で、俺は。これまでの人生を。さっきより鮮明に思い出していた。
第一話 【沈黙】
――ここは【聖ベルサレム学園】
通称――べル学――
この学園には一二〇〇人を超える生徒が在籍している。
所謂いわゆる、『マンモス高』というやつだ。
ミッション系の学校で、全寮制になっている。小中高とエスカレーター方式になっているようだが、小中の校舎は少し離れた場所にあるらしい。
男女共に制服は深緑のブレザー。胸元には校章が縫い付けられている。男子はネクタイ、女子はリボンを首元につける。学年ごとに色が異なり、一年生は黄色。二年生は赤。三年生は青となっている。
〝ベル学〟は山の一部を切り拓いて建てられており、広大な敷地を有している。
なんでもこの学園を設計したのは有名な建築士らしく、ヨーロッパ風の造りになっていて殆どの建物にレンガの装飾を施してある。
古風な見た目とは裏腹に、学園の中は最新の設備が取り揃えられている。
敷地内の殆どの施設がバリアフリーになっており、エレベーターも取り付けられていて、身体に障がいを持っている生徒にも対応している。
ミッション系の学園だからなのか、敷地内に〝教会〟も立っている。
そして、敷地内の全ての建物が完璧に〝シンメトリー〟になっているらしい。どこか〝非対称〟になっているところはないか。爆破されてしまわないか心配だ。
この学園は以前『女子校』だった。
一年前に理事長が替わり、それを期に共学になったようだ。
さっき言ったように、全校生徒数が一二〇〇に及ぶ『マンモス高』なのだが……。
約一二〇〇人中、男子生徒数は三人。
今年一人男子が入学するらしいから、合わせて四人。
そして、二年から転入してきた俺を含めても五人しかいない。
ここに来る前の学校でここに転入することを野郎共に伝えると、みんな血の涙を流して羨ましがっていた。『いずれ、殺しに行く』と真顔で殺人予告されたのも鮮明に覚えている。……ヤツの目は本気だった。
話は逸れたが、ここまでが俺がパンフレットを見て仕入れた情報。
野郎共の話しでは、ここは所謂『お嬢様学校』と言うものらしく『ご機嫌よう』とか『ごめんあそばせ』とか『ちょっと私わたくし、お花を摘つんで参まいりますわ』などと言う奇怪きっかいな喋り方をするらしい。ちなみに『お花を摘む』とは〝大便〟のことらしい。俺も知らなかった。
そして俺は今、二年E組の教室前で待たされている。
どうやらここが俺のクラスらしい。
『私が呼んだら入ってきてねぇ』と担任の先生に言われ数分、騒がしい教室の声をドア越しに聴き続けている。
……それにしても綺麗な学校だな。俺が前通ってた学校とは大違いだ。
元バレーボール選手の大林○子と川合俊○が並んで横になってもまだ、アホの坂○ぐらいなら入るんじゃないかというほど広い廊下には、真っ赤な絨毯じゅうたんが敷き詰められている。……アホの坂○は無理かな。池野メ○カならいけそうだ。
そして染み一つない真っ白な壁と天上。授業中に染みを眺めるという現実逃避もできそうにない。
いつ呼ばれるのだろう……そんなことを考えていると、教室の中がなぜかいっそう騒がしくなった。
その声にかき消されないよう、大声で叫ぶ声が聞こえた。
「入ってきていいわよぉ!」
やっとか……。緊張で汗ばむ手をズボンでさっと拭い、教室のドアを開けた。
――キャー! と黄色い歓声があがる。
「男じゃん! 男じゃん! 男じゃん! しかも意外とイケメンじゃね?」
「やばーい! ちょっとタイプかもぉ」
「あーしはパァース。なんかこいつナルシストっぽいし」
ワーキャーと教室中あちこちで色々な声が聞こえてくる。今パスつったやつの顔はしっかり覚えたからな。テキトーなイメージで勝手にフるんじゃねぇ。
……ん? あれ? 『ご機嫌よう』は? 『お花を摘み』に行くんじゃないのか? どの辺がお嬢様なんだよ。ガセネタ掴ませやがって。ちょっと楽しみだったのに。
……まぁ、何にしても。意外と歓迎されているようだ。
教室を見渡すと廊下同様、真っ赤な絨毯が敷き詰められた広い教室には、〝学校〟とは到底思えないダークブラウンのいかにも高級ですといわんばかりの机と椅子がずらりと並べられている。
……生徒は三〇人ぐらいか。男はいないな……。女子だけ。っはぁ、とため息をついてうな垂れる。
「静かにしてぇ! みんな気持ちはわかるけど静かにぃ!」
先生が一五〇センチないのではいかという小柄な身体と幼げな容姿には似つかわしくないスーツの裾をぴょんぴょんと跳ねさせながら、騒ぐ生徒たちを必死に、しかしゆったりとした口調なだめている。
「静かにしてよぉ、お願いだからぁ」
先生は全く聞く様子のない生徒たちに心を折られてしまったのか、小動物のようにしゅんとして小学生のように幼い顔を歪ませて泣きそうになっている。
「ほらみんな! 〝ミニ子ちゃん〟泣きそうになってるからそろそろ静かにしてあげて!」
そんな先生を見かねたのか一番前の席に座っていた、栗色のショートヘアの生徒が髪を弾ませ立ち上がり、騒ぐクラスメイトをなだめる。
すると、飛び跳ねながら必死に叫ぶ先生の声は意に介さなかった教室がすぐに静かになった。
「さすが委員長ぉ。頼りになるねぇ。でも私の名前が『祥子しょうこ』だからって〝ミニ子ちゃん〟はやめてねぇ」
祥子……〝小〟子……〝ミニ〟子……。
……なるほど。名前と低い身長をかけたのか。すごく考えられているようで、全く考えらていないあだ名だな……。
栗色の委員長(命名)は、ぺろっと舌を出すと、イタズラっぽい笑みを浮かべながら席についた。 そのまま自分の後ろの席の女子と小声で喋っている。女子は少し引きつったような笑みを浮かべていた。
……なんだ?
「それじゃぁ、みんなもう気付いてると思うけどぉ、ついにこの学校に五人目の男の子が転入してきましたぁ」
イエーイ! という歓声と共に拍手が起こった。
「このクラス〝唯一〟の男の子で~す」
そうミニ子ちゃんが言うと先程の歓声よりさらに大きなイエーイと拍手が起こる。
「じゃあぁ……八園寺はちおんじくん。自己紹介お願いできるかなぁ?」
俺はこくりと頷くと、〝ミニ子ちゃん〟の方を向いていた顔をクラスメイトに向きなおした。
「八園寺はちおんじ 統志朗とうしろうです。よろしく」
『……』
……さっきまであれほど騒がしかったとは到底思えないほど、教室はしーんっと静まりかえった。
……俺、何かおかしなことを言ったかな?
「……八園寺くぅん。もしかして、もう自己紹介終わりぃ?」
「そうだけど?」
「うーんっとぉ……。ちょ、ちょっと短すぎるんじゃないかなぁ……」と元々垂れている眉をさらに垂れさせ困った顔をしている。
「と、言われても。これ以上俺について紹介することはないぞ」
「そっかぁ……。だ、そうですぅ」
そう言ってミニ子ちゃんは困った顔のまま、唇の先に人差し指を当て少し悩むと、未だしーんっとしている教室へ投げかけた。
「『だ、そうですぅ』じゃないよ! 転入生から根掘り葉掘り〝あることないこと〟聞き出すのはミニ子ちゃんの仕事でしょ!」
先程の栗色の委員長がミニ子ちゃんに投げ返す。
根掘り葉掘りはまだしも、〝あることないこと〟って。ないことは言えんだろ。
「えぇ? そうなのぉ? 先生の仕事にそんなの含まれてなかったと思うんだけどなぁ……」
「いいから! ミニ子ちゃんの仕事なの!」
「そっかぁ……じゃあ……好きなものはなんですかぁ?」
ベタすぎっ! と教室の後ろの方すぐにからツッコミが入ると、教室中からギャハハハっと笑いが起こる。
『お嬢様』の欠片も見受けられない下品な笑い声だ。
「読書だな。漫画やゲームもたまにするぞ」
へぇー。となんとも微妙な反応が返ってくる。まぁ、そうなるだろうな。
ミニ子ちゃん次! とでもいうように、アゴをクイクイとしゃくりあげる。
「うんっとぉ……さっきのはベタって言われちゃったからぁ……じゃあ……。付き合ってる人はいるんですかぁ?」
唐突すぎっ! 今度は唐突すぎるよミニ子ちゃん! とまた、教室の後ろの方からツッコミが入る。そしてギャハハハっと笑いが起こる。
「いねえよ」
簡潔に事実を伝える。
すると窓際の真ん中辺りに座っていた一人の女子が椅子を蹴るようにて勢いよく立ち上がった。
「マジ!? チャンス? これ私チャンスなんじゃね? 初彼氏ゲットじゃね?」
実は俺もお前のことが気になっていた。教室に入ったその瞬間。お前に目を奪われていた。
なぜならお前のその――。
「お前には無理だわアゲハ。今時ガングロの女子高生なんていないっしょ!」
……そう。黒光りした肌その肌に。
キューティクルを自らかなぐり捨てたかのように痛んだ金色の髪に。
田舎の婆ちゃんの家で見たでっかい蛾の模様のような化粧に。
目を奪われていたんだ……。
「はぁ? 何言ってんだし。お前らが遅れてんだろーが! これが流行の最先端だっちゅーの!」
「それが最先端って、お前何十年前の雑誌呼んでんだよ」
先程から後ろの席に座っている女子から〝蛾〟(命名)に鋭すぎるツッコミを入れている。
「まぁまぁ落ち着いてぇ。ケンカはダメだよぉ。めっ! だよ。めっ!」
ミニ子ちゃんが二人をなだめて〝蛾〟に座るよう促す。教室内はまだ、先程の笑いの余韻に包まれいたが、このままじゃ一向に進まないと思ったのかミニ子ちゃんが先へ進める。
「じゃあぁ、次の質問ねぇ。唐突すぎって言われちゃったしぃ、やっぱり初心に返ってぇ……嫌いなものはなんですかぁ?」
またベタに戻っちゃったよ! と、またまた後ろの席の女子がツッコミを入れる。
どうやらこのクラスの後方には〝ツッコミマシンガン〟(命名)がいるらしい。
例によって教室が笑いに包まれる。
「嫌いなものねえ……」
「どうしたのぉ? あっ、もしかして嫌いなものとかない人ぉ? すごいねぇ」
パチパチパチと満面の笑みでミニ子ちゃんが拍手を送ってくれた。
「いや、一つ……死ぬほど嫌いなものがある」
いつ言うか迷っていたが、早く言うに越したことはないか……。
「え? そうなのぉ? 先生ちょっとがっかり……」
勝手に決め付けて勝手にがっかりされても困るのだが。
「なになにー? 死ぬほど嫌いなものってよっぽどだよね」
一番前に座っている栗色の委員長が机に身を乗り出し、無邪気な笑顔で聞いてきた。
「……」
俺は教室中を見渡した。なかなか答えないせいか、教室中が答えを期待して黙ってこちらを見つめる。
俺は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出して言った。
「――〝オンナ〟だ――」
『空気が凍りつく』とはこのことだろう。俺の言葉が理解できないのか。理解できた上で耳を疑っているのか。数秒、いや数十秒にすら感じされる〝沈黙〟。
栗色の委員長も。
その後ろで引きつった笑いを浮かべていた女子も。
蛾も。
あれだけ即座にツッコミを入れていたツッコミマシンガンも。
恐らく、俺の〝答え〟を聞いていなかったであろうミニ子ちゃんも異様な空気を察したのか、うな垂れていた頭をあげて「なに? なに?」と慌てた様子で教室を見渡す。
ミニ子ちゃんを除く、教室中の全生徒が絵に描いたような『ハトが豆鉄砲を食らったような顔』をしている。
一番最初に口を開いたのは栗色の委員長だった。
「……オンナ?オンナって……オンナ?」と自分を指差す。
そうだ。と栗色の委員長の怪訝そうな目をしっかり見据えて返す。
「俺は〝オンナ〟が嫌いだ。利己的で、自意識過剰で、自己愛に満ち溢れ、嫉妬し、なんの躊躇もなく他者を蹴落とす。そんな〝オンナ〟が大嫌いだ」
生徒達が、さらにはミニ子ちゃんまでもが。よりいっそうマヌケ面づらで俺を唖然と見つめている。
「これまで俺は〝オンナ〟になるべく関わらないようにして生きてきた。色々あって〝こんな学園〟に来てしまったが、それはこれからも変わらない。だからお前らに一つだけ頼みがある」
「俺に一切関わらないでくれ!」
そういって俺は深々と頭を下げた。
「さっき自己紹介で『よろしく』などと言ったがよろしくなどしてくれなくて結構だ。俺からお前ら〝オンナ〟に関わることはない。お前らも俺に関わろうとしないでくれ! ……頼む!」
……深く、深く頭を下げた。
……沈黙。
教室中が静まりかえり、まるで音のない世界にいるような……。そんな感覚に苛さいなまれた。
第二話 【友達】
「俺からお前ら〝オンナ〟に関わることはない。お前らも俺に関わろうとしないでくれ! ……頼む!」
深く頭を下げた。
……沈黙が流れる。
誰も喋ろうとはしない。
ただただ……、沈黙が流れる。
自ら作り出した空気とはいえ、耐え難いものがある。
――すると。
「え、えっとぉ、八園寺くんはとりあえず頭をあげてくださいぃ」
沈黙を破ったのミニ子ちゃん先生だった。
「なんかぁ、自己紹介の空気でもなくなったのでぇ、とりあえずホームルームは終了しまぁす」
八園寺はちおんじくんの席は一番後ろの窓際にある空いてる席ねぇと告げると、逃げるようにタッタッタッとミニ子ちゃんは教室を出て行った。
俺は頭を上げ、クラスメイトの顔を敢あえて直視しないように、可及的速かきゅうてきすみやかに自分の席に向った。
俺が席に座るってしばらくすると、ちらほらと。そしてぼそぼそと話し声が聞こえ始めた。
聞こえはしないが内容は明白。俺について。俺の〝異常な告白〟についてなのは確かだ。
こちらに向けられる冷ややか視線がなにより物語っている。
居心地はけして良くはない。
しかしこれでよかったのだ。こうするしか。〝昔の過ち〟を繰り返さないためにはこうするのが一番だ。
自分で自分に言い聞かせるように、心の中でそう呟いた。
すると……、栗色の委員長が数人の女子を引き連れてこっちにやってきた。
引き連れられている女子の中には引きつった笑顔を見せていた女子も混ざっていた。
「あの……統志朗くん? さ、さっきのって冗談だよね……?」
栗色の委員長は未だに理解できないというような、不安そうな表情で話しかけてきた。
まぁ、そう思われても仕方ないだろう。
『本気であんなこと言うやついるわけない』
そう考えるのが普通だ。
だからこそ敢あえて冷たく、突き放すように言った。
「冗談でもなんでもない。俺は本気だ。関わるな」
「あんた! せっかくあんたのためを思って――」
俺の態度が我慢できなくなったのか取り巻きの一人が突っかかってきた。
「望! やめて! いいの。関わるなって言ってるのに私が話しかけちゃったから……、ごめんね、統志朗くん」
……震えた声でそう言って顔を伏せる。涙が溜まっていたのか、ブレザーの袖で目を拭いもう一度、また震えた声で「ごめんね」と言って教室の外へ走り出した。
「あっ、ちょっと! 待ってよ!」と言うと、取り巻きたちも慌てて栗色の委員長の後を追っていった。
少し悪い気がしないでもないが、仕方がない。これでもう、本当に俺には関わらなくなるだろう。
ふぅっとため息をつくと自分の前にまだ一人の女子が居たことに気付く。
あぁ、引きつった笑顔を見せていたやつか……。
よく見ると、制服を改造しこれでもかとスカートを上げて、金髪の長い髪に派手なメイクをしているものの、綺麗で整った顔立ちをしている。いかにも〝ギャル〟っぽい出で立ちだ。
……そういえばさっきのやつらも栗色の委員長以外はそんな感じだったな。
〝スマイリー〟の髪留めで前髪を束ねているが、表情はけして〝スマイリー〟とは言えない。ずっと暗い顔をしている。
「あ、あの……」といったまま俯いてしまった彼女を見て、なんとなく〝自己紹介〟の時から気になっていることを聞いてみた。
「お前、さっきの〝委員長〟に話しかけられた時、なんであんな顔が引きつってるんだ?」
「――っえ?」
俺が何気ない疑問を口にすると、青ざめた表情で聞き返してくる。
「な、なにが? ぜっ、全然普通だけど?」
明らかに動揺している……。
「お前〝委員長〟となんか――」
――あったんじゃないのか、と言いかけて止める。
俺はオンナに関わらないと誓ったんだ。遠い昔に。
ついさっきも宣言したばかりではないか。
たとえこのオンナがどんな状況に置かれていようと、俺の知ったことではないはずだ。
そう自分にいい聞かせ、強引に話題を逸らした。
「で? 俺になんか用か? 俺は『関わるな』って言ったはずだけど」
「あっ、そうだった……、さっきの子。鮫島さん」
「鮫島?誰だよ」
「あっ、君が〝委員長〟って呼んでる子」
あぁ、はいはい。栗色の委員長ね。
「――あの子には……あんまり逆らったりしないほうがいいと思う……」
と、さっきよりさらに暗く、心配そうな表情で彼女は言う。
「どういうことだよ?」
「いや、あの……詳しくは言えないんだけど……」
そういったまま、また俯うつむいてしまった。
恐らく、彼女の笑顔が引きつっていたことに関係しているのだろう。
大体予想はつくが……。
でも、俺にしてやれることは何もない。俺はオンナには関わらないと決めたんだ。
「そっか、まぁもう関わることもないだろうし、一応頭の片隅には入れとくよ」
「う、うん……」
「で、お前は追わなくていいのか?」
「えっ、なにを?」
なにをってお前……。
「〝委員長〟」
「あっ! ごめん! ウチ行くね!」
そう言って慌てて教室の外へ走っていった。騒々しいやつ……。
と思っているとすぐにまた出て行ったドアから彼女が入ってくる。全速力で俺のところまで走ってきた。
「あ、あのっ、ウチ、嬉野うれしの喜子きこって言うの! 嬉しいに野原の野で嬉野、喜ぶに子供の子で喜子ね。それじゃ! ウチ急ぐから!」
言い終えるや否やいくつもの机や椅子に激突しながら、またさっき入ってきたドアから教室の外へ駆かけていった。
な、なんだアイツは……。
呆然としていると、廊下のほうからキャーキャーと叫ぶ女子の声が聞こえてきた。
なんだ? さっきの喜子きこが何かやらかしたんじゃないだろうな。
「ウィーッス! ここか? 男が入ってきたってクラスは」
教室のドアから顔を出したのは長めの茶髪をカチューシャで留めた、いかにもチャラそうな〝男〟だった。
この学園にきて初めて男を見たな……。
「恭介、邪魔」
〝恭介〟とは恐らくチャラ男のことだろう。チャラ男を押しのけ、脇から顔を覗かせたのは、またもや男。
携帯ゲームと思おぼしき物を手に持っていて、それから目を離さないせいかメガネをかけているせいなのか、顔をはっきり確認することができない。
「お前俺を無理やりどかしたわりに見てねぇじゃないか」
「僕、男に興味ないし」
「じゃあわざわざ押しのけるんじゃねぇよ!」
もっともな反論だチャラ男。
教室にいた女子たちが入ってきた男たちを見て顔をしかめている。
「アンタたちなにしに来たの? キモいんだけど」
「いきなり『キモい』だってよ? 明あきら言われてんぞ」
「恭介に言ってるんだと思う」
「バカ、お前に言ってんだよ」
「まぁ僕、三次元には興味ないからどっちでもいいけど……。二次元だけでいい」
「そういうとこが『キモい』って言われるんだよ」
どっちもだよ! という女のツッコミは二人には聞こえていないようだ。
「いいから自分の教室戻りなさいよ。キモいから」
「そういうなよぉ~。ヒカルも連れてきてるからさぁ」
えっ! 先に言ってよ! と教室にいたほとんどの女子が一斉に反応する。
「あれ、そういやヒカルはどこいった?」
「向こうで女子に捕まってる」
チャラ男が「またかよー」と言うと何かを探すように首を振っている。
「おっ、いたいた! おーい! ひかる、早くこっちこいよ!」
チャラ男はそう叫ぶと手招きをしてなにかを呼んでいるようだ。
「いやー、ゴメンゴメン。女の子に囲まれちゃってさ」
教室のドアの陰になっていて声の主を確認することはできないが、呼ばれていたのはどうやら男のようだ。
「うるせぇよ! ズルいぞ! お前ばっかりモテやがって」
チャラ男はオーバーアクションで悔しそうな素振りそしている。
「大丈夫さ。恭介、オレは恭介かっこいいと思うぞ」
「やめろ。お前に言われるとなんか怖い」
「恭介、卒業おめでとう」
「なにを!? オレっちなにを卒業しちゃうの!?」
「ところで、新しい〝仲間〟はいたのか?」
「あぁ、そうだった。えーっと……」
チャラ男はまた、改めて教室を見渡すと俺と目が合った。
数秒、見つめ合った後のち。
「いないみたいだわ――」
「――いやいや、いるだろ! 今俺と目合ったよなお前!」
……しまった。思わずツッコミを入れてしまった。
静まりかえる教室。他の男子が来たことで中断されていた『俺を白い目で見ながら陰口を言う』作業を再開する。
「なかなかいいツッコミ。合格」
先程から持っているゲーム機から一切目を離さない〝メガネ〟がぼそりと呟いた。
「……は?合格?」
「いやー、お前見所あるな! いいツッコミだった!」
親指をグッと立てながらチャラ男とその後ろから他二名が俺に近づいてくる。
さっきはドアの陰になっていて確認することができなかった〝ヒカル〟と呼ばれる人物もようやく目視することができた。女子たちもキャーキャーと騒いでいる。
身長は俺より五センチほど高いか?一八〇センチぐらいはありそうな身長に長い足、しっかりとセットされた黒髪に小顔ときたもんだ。……なるほど。〝モテ男〟か。
「なにを……言ってるんだお前?」
「いやさぁ、俺ら三人ともボケみたいなもんだからさ。良いツッコミを探してたんだ」
「なにを……言ってるんだお前?」
俺は全く同じ問といを繰り返した。
「繰り返された! 繰り返されちゃったよ!」
チャラ男が必死にオーバーアクションでツッコミを入れてくる。
「一八点」
「恭介、お前はカッコイイとは思うがやっぱり、ツッコミはイマイチだ」
メガネとモテ男はチャラ男をばっさりと切り捨てる。
「マジかよ……。今のは結構イケてたと思ったんだけどな……」
チャラ男はがっくりと肩を落として見せた。
――何なんだこいつら。何がしたいんだ……。
「本当に何が言いたいんだ? 俺に何か用なのか?」
「冷たいこと言うなよ~。ほら、今年入学してきた一年生の男を入れても〝この学校〟って俺ら五人だけだろ? だから男同士仲良くしようぜ」
チャラ男が俺の肩に腕を回し、肩を組んでまた親指をグッっと立てて言う。
「防衛のためにも」
メガネが添える。
「オレは〝別の意味〟でも『仲良く』して貰いたいけどね」
モテ男が爽やかな笑顔を向け俺に言う。なるほど。この笑顔で女を籠絡ろうらくしているのか。
発言の内容は気になるが……。
「な? いいだろ? オレっちたち三人ともボケみたいなもんでさぁ。うまいツッコミできるやつ探してたんだよ」
「仕方なく恭介がツッコミ役を兼ねていたが、恭介のツッコミはイマイチだからな」
「ヒカル! 二回も言わなくてもわかってるよオレっちのツッコミの微妙さは!」
「九点。長い」
「下がった!? さっきより下がっちゃった!?」
……騒々しいやつらだ。
「お前らは『コント集団』かなんかなのか」
「違う違う、オレっちたちはただ楽しく学園生活を送りたいだけだって」
「まぁ、ツッコミは置いておくとして、どうだい? オレたちと友達になってくれないかな? いや、オレはもちろん君が望むのであれば『特別な関係』でも構わないけどね」
「は? 『特別な関係』ってなんだよ」
「あぁ、コイツ〝ホ○〟なんだよ」
……。俺の聞き間違いだろうか。サラっと物凄い爆弾をぶつけられた気がしたが。
「……お前今なんて言った?」
「〝○モ〟なんだよ」
「さっきと隠すとこ変わってるじゃねえか!」
「七八点。なかなか」
「いやー、やるねぇ!」
「なんか恥ずかしいからやめろ! いや、そんなことはどうでもいい! なんだよ〝ホ○〟ってあの〝ホ○〟か!?」
「他に何があるんだよ」
当たり前だろ、という顔をしてチャラ男が言う。
「お前マジか!? マジで〝ホ○〟なのか!?」
モテ男よ嘘だといってくれ。
「本当だよ?オレ男にしか興味ないんだ」
……。
何を言っているんだコイツは。
理解の追いつかない頭を振って脳を強引に刺激する。
冷静になれ。もし仮に、仮にだ。コイツが、モテ男が本当に〝ホ○〟だったとして、それをたった今知り会ったばかりの俺に告白するだろうか? 答えは――否いな。
そんなことするはずがない。
いや、確かに現代社会で『同性愛』は認められつつある。某軍事大国では洲によっては『同性愛者同士の結婚』も合法化されたと最近ニュースで見た記憶がある。今では『同性愛』というのはそう隠すべきものでもないのかもしれない。テレビでもそういうタレントを毎日のように見る。
がしかし、やはり納得できない。
――コイツら、俺を担かつごうとしているな。
「お前ら、何も知らない俺を騙だまして笑い者にしようとしてるんだな」
俺は得意げに腕組みをし、『貴様らの策謀暴いたり!』と言ってやった。
「いや、ヒカルは本当に〝ホ○〟だ」
「うん。〝○モ〟」
「そうだとも! オレは! 〝ホ○〟だ!」
「〝ホ○〟〝ホ○〟連呼するんじゃねぇ! 隠すとこも統一しろ!」
こんな短時間で〝ホ○〟って単語をこれだけ聞いたのは初めての経験だ……。
「で、どうなのよ? オレっちたちと友達になってくれるん?」
……あぁ、そうだった。そういう話だったな。
「それは別にいいぞ、よろしくな」
「随分ずいぶんサラっとオッケーしてくれたな」
「もっと渋ると思った」
「それはオレと『特別な関係』になってくれるって解釈でいいのか? いいんだよね? よし、保健室に行こう」
整った顔をキラキラと輝かせながら俺の手を引っ張ってどこかに連れて行こうとする。
「やめろ、触るな! そういう意味じゃねぇ!」
「え? じゃあどういう意味なんだい?」
「『友達になる』って意味だよ! 当たり前だろ!」
なん……だって……。っとガクッと膝から崩れ落ちる。
「そりゃそうだろ。『おホモ達』にはならねぇだろ普通」
「そりゃそうだな。 まぁヒカルは置いといて、アリガトな! これからよろしく!」
そういってチャラ男は手を差し出してくる。
「あぁ、よろしく」
俺はその手を取り握手をした。
「君。ゲームする?」
尚もゲーム機から目を離さないままメガネが言った。
「おう。結構なんでもやるぞ。アクションとかRPGとか」
俺がそう答えるとすぐさまチャラ男と同じように手を出してきた。
「よろしく」
「お、おう。よろしく」
自分と趣味が合うかどうかってことの確認か? もし俺がゲームしないって答えてたらどうなっていたんだ……。
「お前もよろしくな」
今も尚、ガックリと膝をついているモテ男にも一応挨拶をしておく。
むくりと起き上がり、サッとさっきの爽やかな笑顔に戻ると手を差し出してきた。
「あぁ。『お友達』からよろしく!」
「それは遠慮しておく」
俺はモテ男の手だけは取らなかった。恐らく、いや間違いなく何か別の意味が含まれている。
「とりあえず自己紹介だな、オレっちは――」
自分の紹介をしようとしたチャラ男を遮って俺は順番に指差していった。
「恭介、明、ヒカルだろ?」
「え? なんで知ってんの? エスパー!?」
「いや、お前ら教室のドアのとこに居たときから名前で呼んでただろ。普通わかる」
三人はハッ! と驚いた表情見せ、オーバーにビックリしてみせる。
「……脅威の新人」
「……そうか、その発想はなかった……」
「恐ろしい洞察力……。ますますオレは君のことが気にいったよ」
「誰でもわかるわ。……面倒くせぇ」
何なんだコイツらは……。友達も考え直したほうがいいかもな。
俺も一応、簡潔に自己紹介を済ませた。
「ところで」
さっき膝から崩れ落ちた時に付いたのであろうズボンのホコリを、パンパンと払いながらヒカルが喋りだした。
「……この雰囲気は何なんだい? なぜみんなが統志朗を見ながらコソコソしているんだい?」
そう。今のバカなやり取りの最中も教室にいる女子からの〝白い目〟は止んではいなかった。
「ヒカルがホ○ったからじゃねぇの?」
「たぶん。そう」
「なんだって! オレが統志朗をこのような状況に落としいれたというのか……!」
「わかったら反省しろよ」
「正座」
ごめんなさい……と正座をしようとするヒカルを制止する。
「違うんだ」
え? とヒカルが顔を上げる。
「じゃあなんでなんだ?」
恭介がバカっぽく小首を傾かしげて聞いてくる。
明も目線はゲーム機に向けられたままだが耳だけは傾けているのが分かった。
「俺の自己紹介のせいだ」
自己紹介?とさらに首を傾げる。
「……まぁ、なんだ。『俺は女が大嫌いだ。だからお前は俺に関わるな』って言ったんだよ」
「……」
三人はぽかーんっと口を開けている。
まぁ、そうだろうな。そんなこと自己紹介で言うやつ、そうそういないだろう。
その結果、今の状況だ。自業自得というか。バカというか。自分で望んだ状況ではあるが……。
「お、お前……」
恭介が驚愕の表情を崩さないまま俺を指している。
「そうなんだ。バカだと罵ののしってくれても構わない。俺が自分でこの状況を作ったん――」
「――お前も〝ホ○〟なのか……?」
「違うわ! 一緒にすんじゃねぇ!」
はあっとわざとらしく大きなため息を吐つく。
……コイツらと付き合っていくのは少し大変そうだ。
――キーンコンカーンコーン
授業の開始を告げる鐘がなる。
第三話 【髪留め】
――キーンコンカーンコン。
四時間目の授業の終わりを告げる鐘がなった。
「やっとか昼休みか……」
ため息交じりにぼそりと呟く。
朝の一件いっけん以来、俺へ向けられる〝怪訝な目〟とコソコソと話す声は殆ど止むことはなかった。
中学生の時も前の学校の時も、俺は同じように『女が嫌いだ。俺には関わるな』と言い、最初のうちは白い目で見られていたものの、数日。数週間。数ヶ月と時ときが経つにつれ『八園寺はちおんじ 統一郎とういちろうとはそういう人間なのだ』と男女共に受け入れ、男子は他と同じように接してくれるようになったし、女子は特に俺を意識せず、俺には関わらないようになっていった。
今回も同じ。
いや初日で男の友達ができただけでも〝前例〟よりマシと言えるだろう。
今は俺に〝白い目〟を向けている女子達もそのうち慣れてくれるだろう。
いつになるかはわからないが……。
昼休みということで、昼食を摂とるわけだが、俺は弁当を持ってきていない。
学食か購買に行くか。……どこだったかな。などとぼーっと考えていると。
「キコー! 今日もよろしくー」
と〝栗色の委員長〟鮫島の取り巻きが、ピンク色の可愛らしい弁当を取り出し開けようとしている喜子きこにニコニコと、意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
「え、あっ、うん。わかった。みんな何がいいの?」
空けかけていた弁当の蓋を閉めなおし、慌てて椅子から立ち上がりながら欲しい物を聞く。
「あーし、カレーパンとイチゴミルク」
「アタシは、メロンパンとミックスジュース」
取り巻きの二人がダラダラとスマホを弄いじりながら希望を言っているようだ。
それを喜子は小声で復唱しながら慌ててメモに取っている。
「……さ、鮫島さんは? 何を買ってくればいい?」
喜子に尋ねられ、前の席でスマホを弄っていた鮫島は後ろを振り向く。その時一瞬。こっちを横目で見たような気がした。
「でも、悪いよー。いつもキコに買いに行ってもらってるし」
と、申し訳無さそうな顔をして喜子に言う。
「……え? あっ、い、いや大丈夫! 全然ダイジョーブ! ウ、ウチ、体力には自信あるし、ウチが行ってくるから大丈夫だよ!」
一瞬、面食めんくらったような顔をした喜子は慌てて言いながら、ガッツポーズをしてみせる。
「ホントに? ごめんね、いつもいつも」
じゃーあ……と唇くちびるに人差し指を当てて迷う素振りをした後。
「ダイエット中だから、なんかテキトーにサラダお願い!」
「えー! 全然太ってないじゃん」
「ダメダメ、最近ちょっと太ってきちゃって……」
そんなことないよー! と取り巻きが否定している。実に女子らしい会話だ。
喜子はそれをメモに取り、ブレザーのポケットに放り込むと。
「わかった! 行ってくる!」といって教室の出入り口に向って走りだした。
「ソッコーでよろしくー」
取り巻きがスマホから目を離すことなく走っていく喜子の背に向け言う。
「そんなに慌てなくていいからねー」
鮫島はさも喜子を心配しているようにもう姿が見えなくなっていた喜子に向って叫んでいた。
パシリ……ね。怖いねぇ、オンナって。
……さて、俺もそろそろ行くか。購買のちょっと先に学食があったはずだからどっちにするかは行ってから考えよう。
確か一階だったよな……。とパンフレットに乗っていた地図を思い出す。
ここは二階のちょうど真ん中辺りだから……うわぁ結構遠いな。
まぁ、この学園がそもそも規格外に大きいからどこ行っても遠いか。
赤い絨毯の敷かれた階段を降りる。木製のオサレな装飾の施された手すりがあり、階段の壁には値段はわからないが、高級そうな額縁がくぶちに入れられた風景や花などを題材にしたよくわからない『絵』が飾られている。
ちなみに階段の脇にはエレベーターが設置してあるのだが、そこは大きな荷物を運ぶ時と、身体に障がいのある生徒以外は使用してはいけないらしい。
一階に降りるとちょうどそのエレベーターに乗り込もうとしている車椅子の女子が見えた。
そっか、いるんだな。そういう子も。
一二〇〇人も生徒がいれば、一人や二人そういう子がいてもおかしい話ではない。
購買へ向うため一階の、赤い絨毯じゅうたんの敷しかれた広くて長い廊下をダラダラと歩いていると、すれ違う女子たちの目が集まる。
まぁ、俺を含めて五人しかいないんだもんな、男子。
しゃーない。
気にはなるが我慢する他ないだろう。話しかけられてるわけじゃないんだし。
そんなことを考えながらぼーっと歩いていると――。
「――どいてどいてどいてー!」
なにかを叫びながら高速で近づいてくる〝物体〟が目の前にあった。
――ドン!
「――うわっ!」
「ぎゃあっ!」
避けようとしたが間に合わず、その〝物体〟にぶつかってしまった。
ぶつかった衝撃で俺と〝物体〟は弾き飛んでしまった。
その場面を目撃したであろう生徒たちがざわついている。
「ッテェな……」
「ッイテテ……ってうわあぁっ! ごごご、ごめんなさい! ウチ急いでて、ちゃんと前見てませんでした! 大丈夫ですか!?」
ん? この声聞き覚えがあるな。
ぶつかった衝撃で痛めた尻を擦さすりながら、声のするほうを見るとそこには申し訳なさそうに、アタフタとしながらペコペコ頭を下げる。喜子が立っていた。
「あ、あれ? 八園寺はちおんじくん?」
「お前か……。慌あわただしいやつだな、ホントに」
「ご、ごめん! で、でもどうして八園寺くんがここにいるの? お弁当は?」
「どうしてもクソも、購買に行く途中だ。後あんまり俺に気軽に話しかけるな」
「あっ、そっか! 八園寺くんも購買か。そりゃそうだよね。確かに」
ぽんっと手を叩いて納得したようにコクコクと頷うなづいている。
バカなんだな、コイツ。
「ハッ! こんなことしてる場合じゃなかった! ごめんね八園寺くん! ウチ急いでるから!」
思い出したように言うと、恐らく〝三人分〟の食事が入った買い物袋を手にダダダダッとまた走っていってしまった。
アイツは〝歩く〟という移動手段を知らんのか。
普通に話しかけてくるし。
残された俺は立ち上がりパンパンとホコリを掃って、ざわつく女子たちの視線を浴びつつ、未だ痛みのひかない尻を擦さすりながら購買に向かおうとした。
その時、足元に何かあることに気がついた。
……? 髪留めか。
俺は〝それ〟を拾って確かめる。
〝スマイリー〟の髪留め……。
喜子のか。ぶつかった衝撃で落としたんだな。
後で渡してやろうと思いブレザーのポケットに入れようとして気が付く。
これは〝オンナに関わる〟行為ではないか……?マズイ。それはマズイぞ。
〝オンナに関わる〟それも自らなんて絶対あってはならない。
どんな形であれ、オンナに関わると訪おとずれる結果は―不幸。
どうしたものか……と悩んでいると俺に向けられる視線を思い出した。
俺はとりあえず〝スマイリーの髪留め〟をポケットに入れると視線から逃れるように早足で購買へと向った。
第四話 【変貌】
購買に着くと、そこには長蛇ちょうだの列が出来ていた。
おいおい、マジかよ。
世間一般より遥かに大きい購買の3つもあるレジが全て埋まり、その後ろにはたくさんの生徒が並んでいる。
これに並ぶのは苦行くぎょうだな……。
仕方ない学食で食べるか。
購買から大きな広間に通じており、そこが学食になっているようだ。
見渡す限りのオンナ。オンナ。オンナ。
ここで食うのか……。でも腹減ってるし、仕方ないよな。
俺は覚悟を決め、学食の列に並ぶ。時間が少し遅かったせいか、少し
無難にカレーにしとくか。俺はカレーをお盆に乗せ、料金を支払うためおばちゃんのいるところへと向かう。
「カレーね。二八〇円」
混んでいるせいもあってか、おばちゃんは事務的に仕事をこなす。
レジに置かれた皿の上に二八〇円を乗せた。
「ちょうどだね。ありがとさん」
どうもっと簡単に頭をさげ座れる席を探した。
…やっぱ、空いてないよなぁ。
そこら中が女子で埋め尽くされている。
ちらほら空いた席は見受けられるが、女子に挟まれて食べるのはさすがに俺には難易度が高すぎる。
どこか、角にあって二人以上空いている席が連なっているところ……、とキョロキョロしながら探していると。
「おーい! 統志朗! こっちこっち!」
不意に、どこからか俺を呼ぶ声がした。
「こっちだよこっち!」
声のする方を向くとそこには、朝友達になったばかりの、恭介、明、ヒカルともう一人……。
綺麗に整った顔と大きな瞳。流れるように綺麗な髪。透き通るような白い肌。絶世ぜっせいの美女。……って、あれ? アイツ男子の制服着てねぇか?
「なんだよー! 統志朗も学食来てたのか!」
「まぁな。……それより〝ソイツ〟は?」
俺はお盆で塞がった両手の代わりにアゴでくいっと絶世の美女(仮)を指す。
「あぁ、こいつは一年の――」
〝ソイツ〟紹介しようとする恭介を遮るように立ち上がり、モジモジしながらも話し始める。
「は、はじめまして! ボ、ボクは一年生の【春野 千尋】です。よ、よろしくお願いします」
ペコッっと頭を下げる。容姿も去ることながら仕草まで女子みたいだ。
「おい、コイツ男なのか?」
「ボ、ボクはれっきとした男です! ちゃんと〝下〟もついてます!」
そういって男子にしては低い身長と華奢な身体で胸を張っている。
「信じられないと思うけどコイツは男だよん。オレっちが〝確認した〟から間違いない」
「確認したのか!?」
「した」
相変わらずゲームから目を離さない明も同調どうちょうする。
「そうさ! 千尋くんを見たとき! オレの心はトキメいた! それはつまり千尋くんが男であるという何よりの証明!」
まるで劇団員のような、大げさな動きで感動を表すヒカルを見て千尋は何のことかわからないのか、不思議そうに首を傾かしげている。
「そ、そうか。なんかゴメンな」
「いえいえ、ボクにはわからないのですが、なぜかよく女の子に間違われるんですよね。ボクはこんなにも男らしいのに!」
いや、それはどうだろうか……。
ハハッっと恭介も苦笑いを浮かべている。
「そうだ。統志朗も一緒に食おうぜ! 一人じゃ寂しいだろ」
そういえばと恭介が俺を誘ってくれる。
「そうだな。席が空いてなくて困ってたんだ。助かる」
俺は厚意に甘え、空いていた椅子に座った。
「統志朗はカレーにしたんだね」
俺のお盆の上にあるカレーを見てヒカルが言う。
「あぁ、初めてだし無難にな」
「ここの飯は全部うまいんだぜ! なかでもカレーのうまさはピカイチだ。何を隠そうオレっちも今日はカレーだ!」
「恭介先輩の場合『今日は』じゃなくて『今日も』ですけどね」
自分の前に置かれたサンドイッチに噛かじり付きながら千尋がツッコミを入れる。
「そうだったのか」
「僕はハンバーガーが好き」
右手にはゲームを持ち左手にはハンバーガーを持っている明が呟く。器用なやつだ。
「オレもカレーは好きだが、中でも『ソーセージカレー』が一番好きだね」
「お前が言うと変な意味にしか聞こえねえよ」
ハハハッと恭介が笑う。
「あっ、そういえば」
俺はさっき廊下で拾った〝スマイリー〟の髪留めのことを思い出した。
「これ」っといってブレザーのポケットから取り出し、手のひらに置いて見せる。
「あれ? これキッコちゃんのじゃね?」
「キッコちゃん?」
「そうそう。嬉野喜子。あれ? 確か統志朗と同じクラスじゃなかった?」
「あぁ……喜子のこと知ってたのか」
見渡すと恭介と明、そしてヒカルも頷いている。
「もちろん知っているさ、彼女は〝有名人〟だからね」
有名人? あの喜子が? いつも走っていて想像しいからか?
横を見ると千尋は知らないようで首を傾げている。
「千尋くんは知らなくても無理ないよ。一年生だからね。しかし二年生以上で知らないものはいないだろうさ」
俺と千尋はさらに首を傾げる。
「キッコちゃんは去年のインターハイで〝全国優勝〟したんだぜ」
全国で優勝だと? 全国騒々しい選手権高校生の部でか? それなら納得できるが……。
「何の競技ですか?」
「剣道」
「剣道!? あの喜子がか!?」
さらっと言う明に思わず大声で聞き返してしまう。
大きな声に反応して、近くで昼食を食べていた女子たちの視線が俺に集まる。
ミスった……。
「剣道ってあの剣道か?」
「他にどんな剣道があるんだよ」
信じられない。騒々しいことは追いとくとしても。長い金髪にギャルギャルしいメイク。もう殆ど意味を成なしていないほど短くされたスカート。
そんな喜子が剣道なんて。
「まぁ、〝今の〟嬉野さんからは想像つかないかも知れないね」
「〝今の〟ってどういうことだ? 前は違ったのか?」
「ぜーんぜん違ったぜ、綺麗で長い黒髪で化粧も全くしてなかった」
うんうんとヒカルも頷いている。
「そうだったのか……」
あの喜子がねぇ……。
「どうして変わっちゃったんですか?」
千尋が不思議そうに尋ねる。
「どうして、ねぇ……」
「……」
「うむ……」
三人とも眉間みけんに皺しわをよせ黙ってしまう。
「え? えっ? ボク、何かまずいこと聞いちゃいました?」
千尋が慌てて俺に確認してくる。
「いやまぁ……なぁ」
なんとなく想像はつく。なぜ突然そこまで劇的な変貌へんぼうを遂げたのかはわからないが、恐らく。俺の〝想像していること〟が当たっているのであれば、それに関係することだろう。
「いつからなんだ?」
俺は『関係ない』とは思いつつも尋ねてしまっていた。
「なにがだい?」
ヒカルは惚とぼけているのか、本当にわかっていないのか。聞き返してくる。
「嬉野喜子が〝イジメ〟られ始めたのはいつからだ?」
恭介とヒカルが驚いた表情を見せる。明は表情こそ変わらないものの、肩がピクッと動いたのを俺は見逃さなかった。
「知ってたのかよ、今日転入してきたばっかなのに」
「イジメているのはうちのクラスの〝鮫島とその取り巻き〟だな?」
「どうして、そこまで……」
恭介とヒカルはさらに驚いた表情を強めた。
「朝、鮫島に話しかけられて引きつった笑顔している喜子を見た」
「それだけで?」
明が言う
「それだけじゃない。さっき鮫島とその取り巻きの〝パシリ〟に使われるところも見たんだ。俺が喜子とぶつかったのはその〝パシリ〟の帰りだ」
なるほど……と二人が頷く。
「で、いつからなんだ? イジメられている原因は?」
「原因はわからないし、いつからかもオレっちは詳しく知らねぇんだけど……」
「急に見た目が変わったのは、去年の九月ぐらいだね」
九月。インターハイの後か。
「そこ頃から。雰囲気。変わった」
「雰囲気って、見た目のことか?」
「違う。中身。暗くなった」
「確かになぁ、それまではいつもニコニコしてて明るいこだったのになぁ」
明の言葉に腕を組み苦い顔をしながら恭介が頷く。
「今も彼女は必死で明るく振舞ってはいるけど、正直隠せてないね」
ならば恐らくその頃に〝イジメ〟が始まったと見て間違いないだろう。
「前はもっと可愛かったのになぁ……」
恭介がぼそりと呟いた。
「恭介、告って振られた」
「はあ? 喜子にか?」
「バカッ! おめぇそれ言うんじゃねぇよ! ハズいだろ!」
恭介は顔を真っ赤にしてゲームをしている明の頭をヘッドロックしている。照れ隠しか。
「恭介だけじゃないさ。当時は彼女、色んな男子によく告白されていたよ。全員フられたみたいだけどね」
「「そうなのか!?」」
俺と恭介の声が重なった。
「……いや、恭介。お前も知らなかったのかよ」
「全然知らなかった……」
まぁいい話を戻そう。
「喜子と鮫島の関係は?」
「同じ剣道部だよ」
「取り巻きもか?」
そうだよとヒカルが頷く。
……なるほど、見えてきたぞ。
俺は椅子の背もたれにドスっと体重を預けると吐き出すように言った。
「やっぱオンナって怖えな。関わりたくねぇわ」
「どうしたんですか? 統志朗先輩」
それまで重い空気を察してか、黙っていた千尋が尋ねてくる。
「いや、喜子が『鮫島と愉快で不快な仲間達』にイジメられている〝理由〟がわかった。恐らくだが」
そう、あくまで想像の粋いきをでない仮説だ。
別に証拠はないしな。
「なんだよなんだよ、どういうことだよ」
恭介が問い詰めてくる。
別に難しい話じゃない、と前置きをして俺は話始めた。
オンナ嫌いな俺の学園生活