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戦時中にタイムスリップした女子高生ととある青年の話。
終戦間近の日本を元にしたフィクションになります、不快に思う方はここまで、クリックしていただきありがとうございました。未来を知っている女の子が主人公なので戦闘の話は出て来ませんが当時の衣食住等史実と異なる点がわたしが未熟な為に出てくるやもしれません、あくまでフィクションです
前書きが長くてすみません、大丈夫だという方、どうぞ最後までお付き合い下さい。
2011、夏
「今日もあっついな〜」
学校の門を出て歩き慣れた道を歩く、駅まで5分、2駅乗ったら自宅まで自転車で10分。これが彼女の帰宅コースだ。今年の夏も例年通り暑く、蝉はお馴染みのリズムで鳴き続ける。
「夏休みなのに登校だなんて、だるい…」
独り言の多い彼女の名前は深澤真衣。普通科高校に通う2年生、帰宅部。そんな彼女は夏休み5日目の補習帰り、携帯片手にセーラー服で短いスカート、紺色の靴にローファー、どこにでもいるイマドキの女子高生だろう。
「数学なんて人生に必要ないね、あーアイス食べたい」
独り言が多い事を除けば
「なーつーがすーぎー、次なんだっけ」
自転車で自宅を目指す。駅からは2回の右折と1回の左折あとは直線、今は1回目の右折を過ぎた所で歌詞を忘れた所でもある。
「…風あざみ、だっけ?」
2回目の右折をし、ぼんやりと歌の続きを思い出した時だった、
タイムスリップといえば階段から落ちる、井戸に落ちる、気がついたら等があるが彼女の場合はこれも定番、角を曲がったらトラックが目の前に、最後に聞いたのはクラクションの音と自転車のタイヤがカラカラまわる音だった。
「…私、事故ったよね」
確かに彼女は事故にあい意識は飛んだ。通常次に目を覚ますなら病院のベッドの上だが彼女の場合は何故か木の下、丘の上。
「自転車ないや」
今ある荷物は制服の胸ポケットに入っていた携帯電話とスカートのポケットにあった溶けかけたガムと100円玉、自転車は勿論カゴに入れていた鞄も無い。だがイマドキの女子高生は携帯さえあればなんとかなる。彼女もその女子高生だ、携帯の安否を確認し連絡帳を開き親友に電話をかけようとするが圏外な事に気がつき口を尖らせ首を傾げる。この前買い換えたばかりのスマートフォン、もう壊れたのかちくしょうを言葉にせず表現したらしい。
「いやいやいや、違うだろそこじゃなくて」
何故事故にあったはずの自分がかすり傷ひとつなく丘の上、木の下に立っているのかを考えるべきだ。
「…ここは天国なのか」
そう考えれば携帯が圏外なのもかすり傷ひとつないのも頷ける。うんうんと頷き途端に涙が溢れた、自分は死んだのだという事を自覚すればする程涙は流れる。
何分そうしていたかわからないが少し日が傾いてきた時だった。
「大丈夫ですか?」
声を掛けられた。
髪の毛を左右に括り小柄な女の子、上は紺色のセーラー服なのに下にはもんぺを履いた天使、そう真衣には見えた。
ここは天国、きっと戦時中に亡くなった女の子だ、私より若いのにあの大変な時代を生きた女の子、そして犠牲になった女の子だろう。
「あの…」
真衣が黙っているので女の子がまた話し掛けた。
「あ、ごめんなさい、えっと私ここに来たばかりで良くわかんなくて、えっと」
天国ではどうやって暮らすのだろうか、死者同士で新しく家族つくり生活するなんて本も読んだ事があるがそれは物語だ、他にも幾つかあったなと真衣は考える。
「疎開、ですか」
「…」
ソカイとはなんだろう天国での決まりか何かかなとまた黙った真衣に女の子は
「とにかく山を降りましょう?日も暮れてきています」
と泣いた事により酷い顔をした真衣の手をひいた。
女の子は名前を花絵と言った。歳は13才、真衣より4つ下だ。
「深澤真衣です、えっと17才の女子高生してます」
少し変になってしまった自己紹介に花絵は「真衣さんは何処の生まれですか?」と聞き東京だと答えるとそうですかとだけ返ってきた、何か変な事を言ったかと戸惑うと
「空襲で東京は焼野原になってしまったと聞いて…ここは田舎だし、空襲はありませんが食糧不足で…これは何処も同じですよね、でも日本は必ず勝ちますよ、今日も学校で…すみません私ばかり喋ってしまい…ところで真衣さん、寒く無いですか?」
「え、あ、大丈夫です」
花絵はもうすぐ冬なのにもかかわらず薄い格好をした真衣に聞く。
「真衣さんの親戚はどの辺りに?」
「え?」
天国の仕組みがわからない、と言ってしまおうかと思った時に村に出た。目に入ったのは花絵と同じもんぺ姿の女性や軍服姿の男性ばかり、ますますわからなくなった時
「真衣さんはいいところのお嬢さんですし、垣野さんのお家かな」
花絵の独り言が聞こえた。
「いいところのお嬢さん?まさか!普通の会社員の娘だよ」
「そうなんですか?だって、その、スカートを履かれているから」
何故か小声の花絵はそう言った。
ますますわからなくなった頭にひとつ浮かんだのはここは天国ではないんじゃないか、だった。花絵が言ったソカイは疎開、戦時中空襲が激しくなった時に子供達を田舎の知り合いの所に疎開させたと歴史で習ったし、この時代は女性はスカートではなく動きやすいもんぺ等の国民服を身につける、軍服姿の男性ばかりなのもそうすれば納得出来る。
「まずい」
「え?」
「わ、私行く所を思い出したので…ありがとう花絵ちゃん!」
「真衣さん?」
真衣は走ってその場を離れた。
私は死んだんじゃない、タイムスリップしたみたいだ。走ってたどり着いたのは始めにいた丘の上の木の下で、息を整え座りこむ。空はほとんど暗くなり、真衣は寒さで震えた。タイムスリップだとしたら今は何年で何月なのだろう、蝉も鳴いていないし、蒸し暑くもない、死んだと思っていた時は感じなかった寒さが真衣を襲う。
「どうなってんの」
あの時は死ななかったけどこのままこの時代にいたら死ぬだろう。ふとポケットにガムが入っていた事を思い出し、口に運んだがすぐに捨てた、携帯を触るがやはり圏外で木に投げつけようと思ったがそれは出来なかった。現代と自分を繋ぐ物はこの携帯だけだと思ったからだ。
携帯を握り締めてうずくまった真衣はひたすら「戻れ戻れ」と唱えたのだった。
「真衣さん」
知った声に振り向く、ここで自分に大丈夫かと聞き、先程別れた花絵が何故か後ろに立っていた。
「山の方に走っていくからやっぱり心配で、ねぇ真衣さん」
「ほっといてよ!」
花絵の言葉を遮るように真衣は叫んだ。
「私、ここの人間じゃないの!この時代に私の居場所はないの!私1994年生まれ、わかる?今が何年かしらないけど何十年も未来の人間なのよ」
殆ど怒鳴り声だった、信じてもらえるわけがない、これで花絵も不気味がって家に帰るだろう。
「昭和19年、1944年」
「…」
「やっぱり真衣さん、未来から来たんだ」
「…」
「これ、走ってた時落としましたよ」
そう言いながら花絵が見せたのは昭和50年と書かれた100円玉だった。
ガムと一緒に入っていた100円玉、花絵の話によれば昭和19年には100円玉なんて無く、100円札だがこの時代の100円は大金だと真衣にもわかった。だとしてもそれだけで未来からきたという事を信じるだろうか…その異なるを花絵に伝えると
「真衣さん、なんだか不思議で…何と言えばいいか整理出来ませんが、それに格好もやっぱり綺麗だし、さっきのお話聞いて完全にではないですが真衣さんが未来から来た事、信じます私」
「花絵ちゃん…ありがとう、本当に」
「真衣さん泊まる所ありますか?良かったら家に来て下さい」
「え、でも」
「大丈夫です!私に考えがあります」
花絵は4人家族だと言った。戦地に向かった父、母、美術学校に通う兄、そして花絵。父は不在、兄も学校に泊まる事が多く帰ってこないから母にさえ言えば大丈夫だと。
記憶喪失で彷徨っていた所を花絵が発見、近所には疎開でこちらに来たと言えばいい。勿論真衣はその話に頷き、今花絵の家の門をくぐった。
「疎開途中に記憶喪失、大変だったわね。何も出せないけど思い出すまでいてもらって大丈夫よ」
花絵の母、美智枝は承諾してくれた。
現代と比べれば少ない量の夕飯を食べ終えた時だった、ガラガラと玄関の引き戸が開いた。
「ただいま」
「幸仁、美術学校のほうは?」
「当分休講になった、ところでお客さんですか?」
花絵が話していた兄、幸仁だった。幸仁は真衣を客人と思ったらしい。
「こちら真衣さん、東京の人なんだけどねこっちに疎開中に記憶喪失になってしまって、迷っていたから家に来てもらったの」
花絵は母に説明したように幸仁に話した。
「…深澤真衣です、よろしくお願いします」
「…今日はもう暗い、家で休んでいけ。明日には出てもらうからな」
「兄さん!」
「当たり前だ、記憶喪失?嘘だったら?工作員や憲兵かもしれない」
「そんな!私違います!」
「とにかく、父さんに家を任された。俺は必ずこの家を守る」
幸仁は居間から出ようとする。
「幸仁、ご飯は食べたの?」
「食べてきました、部屋で荷物を片付けてきます」
幸仁が去ったあと、花絵が謝って来た。
「花絵ちゃん、いいの。わたし怪しい者に間違いないし」
「真衣さん!」
「真衣さん、お座敷にお布団敷いたから使って頂戴」
「ありがとうございます」
座敷には綺麗に布団が敷かれていた。壁にかかっていたカレンダーは1944年11月25日。布団に入り寝て起きたら平成にもどっているんじゃないかと思いながら目を瞑った。
だからといってすぐ眠れるわけではない。幸仁という青年は真衣を疑っていたし、朝になったら出て行けと言われた。
「普通はそうだよな」
寝返りを打ち呟く。寧ろ花絵や美智枝のほうが不思議だ。花絵は真衣が未来から来たという事をあっさりと信じ、美智枝は記憶喪失な女をこんな時代に家に入れた。
携帯の電源を入れてみた。こんな物は未来から来た事を知っている花絵以外に見られたらまずい、脱いだスカートにくるんでおいた。ちなみに真衣は今花絵の寝巻きを借りている。
「73%」
呟いたのはバッテリー残量、大事に使わなければ。もしかしたら突然現代から電話がかかって来るかも知れない。
「寝なきゃな」
この部屋に時計はない、今は何時なのだろうかと考え目を瞑った。
真衣は布団の中でトントントンとリズム良くなる包丁の音で目が覚めた。
「我が家では聞けない音だな」
深澤家、つまり真衣の家の朝食は自由に摂ることになっていて、母が朝包丁を握る事なんてなかった。各々パンを焼き、コーヒーや紅茶、牛乳を注いで慌しく食べる。そして各自学校、職場へ出掛けるのだ。
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