ありんこと僕
いっぽいっぽ歩む
「ありんこ君、君はどこへいくんだい。そんな自分より大きい荷物を背負ってどこへいくんだい」
枯れた松葉に地面を敷き詰められ、ありんこ君にとっては激しい高低差。四方八方のデコボコを上がって下がって。しっかりと自分の倍はある荷物を落とさずに、せかせかと素早くあるいている。
僕は身動きひとつせずにしゃがんだまま、目だけを動かし、そのありんこをおっていた。
僕にとっては、指人形でもひとっ飛びの距離を、今にも汗が飛び散って来るかのようにあわただしく運んでいる。
そのありんこの住処は少なくとも僕には見当たらない。僕の足元をジグザグに素早くあるいている。松葉にぶつかっては乗り越え、乗り越えてはぶつかってを繰り返し、時に松葉に覆われ見え隠れするありんこ。またも上がってさがって、ぶつかってかわして。
砂上に敷き詰められた松葉。ずっと高い枝から風に吹かれ、また加わる。ぽつりぽつりと一つずつ。針のように地面を刺すかのように。僕の頭にも見境無く。それがいつの間にか絨毯になっていたんだ。
僕は地面に手のひらを当ててみる。
僕を包む生ぬるい風と木漏れ日の暑い太陽光。それとは異なり、手のひらにはひんやりとしっとり感が伝わってくる。荷物を運んでいるありんことは別のものが僕の手の山を登りいったりきたり。そして下山。地面の肌触りはざらざら。手のひらを返して見つめる。松葉はすぐに落ちるけど、砂は少し手のひらにくっついたままだ。
じっと見つめる。手についた砂。砂。新たな風が通り、頭に松葉が降ってくる。構わない。当たっても落ちるから。手のひらの砂。次第に風で湿気を奪われていく。手のひらの上で砂が踊り出す。
指の隙間からこぼれるもの、平のくぼみに集まるもの。その差は何。
気づけば手のシワに沿って砂の線ができていた。既に引かれた線に、砂でさえ沿うのか。シワもないのっぺりとしたところには何もない。そこにこそ、砂はくっついていたのに。けどもう今は何もない。何も。
僕は手について線になった砂も、両手ではたき落とした。もう一度手のひらをみる。もう砂はどこにもついていない。ただ、乾いた肌の感じだけが残って。僕はその手を強く握りしめた。さっきのありんこはもうどこかへと消えていた。
ありんこと僕