雑草という名の

花はいろいろある。

 一本の草がありました。砂漠のような砂地のところに。その草はただ、ひと茎だけしかなくて、葉っぱも二枚だけ。
 その草の茎も葉も、深い深い濃い緑です。ただの雑草です。あたりに点々と、似たような草が生えています。それらと、見た目はなんらかわりません。けれど、他の草たちはどんどん背を伸ばしていきました。

 何日たっても、新しく支軸も伸びませんでした。風は吹き通り、それによって細かな砂がぶつかっています。たまに降る雨も、すぐに太陽によって干されて、地面は砂っぽいままです。
 その草だけが背の丈も風貌もかわりません。
 ある日、トカゲが問いかけてきました。
 「お前さんはなんで、花を咲かす準備をしないんだ? みんなとおにのっぽになってるぞ」
 その草は答えた。
 「わからないんだ。僕の花を咲かすには、どうすればいいのか」
 トカゲは言った。
 「じゃあお前さんは、これからずっとそうやっているのか?」
 「わからないよ。僕だって花を見せたい。けどわからない」
 トカゲは去っていきました。面白くなかったから。その草はそれから何日経とうとも、背丈は一向にかわりませんでした。けれどよくよく、それもしっかり見ないと分からないけれど、深い緑がさらに深まっているようにみえます。茎も葉っぱも、前より太く厚くなっているように見えます。
 風が吹くと花の香りが、その花を包みました。どうやら遠くにある草だったものたちは、花を咲かせているようです。しっかりと成長して、華麗になっていました。

 ある日、一段と強い風が吹き荒れました。砂嵐です。
 その草にもいつも以上に、砂や石ころまでもがぶつかります。何もかも吹き飛ばして、あたりは砂煙の壁ができるほどでした。
 トカゲも、このときは一人じゃ心もとないのか、その草の下にうずくまって、丸まって耐えていました。
 そして、砂嵐は去りました。トカゲは何も言わず、ふりかえりもせずに去っていきました。けど、しばらくしてその草のもとに帰ってきてこう言いました。
 「なんてこどだよ」
 「どうしたんだい」と、その草は聞き返しました。
 「いままで咲いていたやつら、ひとつも残っていないんだ…。まったく痕跡もなく、どっかに吹き飛ばされちまってる…」
 その草も驚きました。けれど、トカゲはまた驚いていました。
 「お前さんはなんで葉っぱ一枚も飛ばされていないんだ?」
 その草は多少の傷は負っていても、姿かたちは前とかわらないままでした。それだけでなく、また太く厚くなって、色も濃くなったようでした。
 トカゲは言いました。
 「お前さん、どんだけ根っこ深いんだ?」
 「わからないよ。ただわからないから、ずっと根っこばかり下げていたんだ」
 するとトカゲは急にその草にしがみついて、上りました。けれどびくともしませんでした。先ほどの嵐が嘘のように、空は澄みきっていました。
 トカゲは上から飛び降りて、こう言いました。
 「なんだ。お前さんはずっと咲いていたんだな」
 「えっ?」その草は聞き返しました。
 「いいよ。なんでもない」
 そういって立ち去ろうとしました。そして去り際に、
 「またお前さんをみにくるよ。次に会うのが楽しみだ」
 そう言い残していきました。

雑草という名の

雑草という名の

更地に草が生えていました。単なる雑草でしたが、ある一つのものだけ、ほかのものがグングン背を伸ばしているにもかかわらず、同じ背丈でした。 いっこうに伸びもせず、花を咲かす準備もしません。 それを不思議に思ったトカゲはそれを問うと、どうもどう咲かすのかが分からずに、そのままでいるらしいのです。 途方にくれているうちに、周りの同じ草たちは、花を咲かせました。 それなのにその草は、大きな成長は見てとれません。 けれど、嵐が過ぎ去った日のこと、ほかの草たちは全部風に吹かれてしまっていたけれど、その草だけが無事にいました。 驚いたトカゲはその草の今の花が何かを感じ取ったらしく、挨拶をして去りました。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-29

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