転がっている

紡ぐものたち

殺風景。なにもかんもが味っけなくなって、無機質になって。あぁこのままじゃいかんのやろなぁと思いつつも、どうしたらいいのか分からなくて、そうしている間もどんどん心にはなにかいかんものが溜まっていってて。

 人としてのなにか大事なものが蝕まれていってるって分かってるのに、どうしようもなくて、これまた無機質なカチカチという時計の音が、ぼんやりと脳内に歪んで反響してる。それで何か刺激的なものを求めて歩きさまようけど、そんなんはどこにもなくて、刺激的だよーというものはかえって変にぐちゃぐちゃにして、いっそうわけ分からんくなってしまっていって。

 それでとぼとぼとなんか一人、たった一人で何もヘンテツもないところで足が止まって。ヘンテツもないっていっても、いつも知ってる風景だったりして。それだからか、地べたにも腰を下ろせるぐらい、ここで寝てもいいやと思えるわけで。なのに、それなのに、そんなときに限って、同じように、いやもっと何でもないようなものに目がとまって。それが一気に今までの心の中でつまって、硬直して、乾いていた感覚が音をたてて崩れて、もう涙が止まらなくなって。嗚咽なんてものも通り越して、叫びにもならない叫び声がとめどなく溢れてしまってくる涙をふるわせてて。

 どんだけ泣き続けたんやろうってわからんくて。こんときはなにがどうだかそんな話しはどうでもよくて。勝手に大切なもんを探しに心の針が微かに動いていって。何に目がとまったのかって、泣いたあとには、あまり判然としなくて。あーたぶんこれだったんだろうなぁって具合で。

 けどそれはしっかりと確かめたくて。そう心がいってくる。そこで焦って乱暴にわしづかみにしてしまったら、それこそ一瞬で粉々になって逃してしまうのはわかってるようで。けどいつまでも同じようにはいてくれないのも知ってる。慎重に、それをゆっくりとやさしく掬い上げるように手にしてみる。

 すると、それらは本当に何のヘンテツもない、なんでもないものを掴んでた。けどそれはじんわりと心を、からだを芯から温かくしてくれている。
 消しゴムの消しくずだったり、ほこりを被った型くずれした本だったり、また色あせた写真だったりする。道ばたに並ぶ同じような草木のどれか、同じような空と雲、時間で呼び名が変わるお日様、なにかまっすぐに語ってきてくれていたんだ。

 なんでもないようなヘンテツもないのものに、心ひかれて何時間もそれを愛で、眺められる。そんなことができる人が、やっぱり物語を紡いでいくんだと思う。

転がっている

転がっている

心が硬直して、かさかさになって、訳が分からなくなって、けれど何か大切なものがどんどんこぼれていくような気がする。 そんな時、あがいていろんなことしてみるけどしっくりこない。歩いてもみる。 いつもの光景の道。けれど、何かに目が留まって、一気にこみあげてくる人間的な思い。 その息吹があるから生きられているようなもので、だけど、それが一体なんなのか、定かではない。 だから掴もうとそっと手を出す。なかなか難しいその作業。 けれど、それは大そうなものじゃなく、ほんとそこら辺に転がっているもので。 なんでもない変哲のないものを愛せるものが、言葉を物語を紡げるのだと思う。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-29

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