海月
人からもらえるものなんて、たかがそんなもの。
優しさも愛も友情も、気分によっては押し付けと同情に変わる。
少女はひとり、本をめくる。
大きくて分厚いその本は、フワフワと少女の前で浮いていた。
「ん・ん~・・・このところ来客数が落ちてるなぁ~」
唇に指を当てながら、険しい表情をしたあと、少女は ぱたん、と本を閉じる。
「そういや最後にお客が来たのは300年前だったけ~?」
首をかしげて、どこにともなく話しかける。
「ねぇねぇ~どうすればいいと思う~?」
一瞬強い風がふいて、そこに少年が現れた。
「んなモン知らねーよ!」
めんどくさそうに吐き捨てる。
それを聞いた少女は、可愛らしい顔でにこっと笑って言った。
「キミ、最近生意気だよ?誰のおかげで存在できてると思ってるのかな?」
少したじろいで、少年も笑う。
「消したいなら勝手に消せばいいさ。無意味に存在してるよりはマシだろう」
満足そうにうなずいて、少女は ずいっ と少年の顔に自分の顔を近づけた。
「へへっ残念ながら冗談だよ?キミのおかげでボクは寂しくないんだから。感謝はしてるつもりだよ」
「あんな感謝があるか!」
顔を真っ赤にして2・3歩後ずさってから、少年は叫んだ。
「もうそろそろ動いてもいいんじゃねーのか!??」
話が戻る。
「やっぱりそれしかナイ??」
言いながら、少女は指をくるくると回して、空中に円を描いた。
「実はボクもちょこっとそんなコトを考えていてね」
少女の描いた円の中から、地図のようなものが出てくる。
「なんだ、俺に聞かなくても考えてんじゃねーかよ!!」
分かっていたことを文句ありげに言う少年を尻目に、少女はパチンと指を鳴らした。するとあたりに煙が立ちこめ、少女の前に大きな机が現れた。
少女はその上に地図を広げ、机と一緒に出したピンを地図にたてる。
「次の目的地は、ココだからね~~」
そう言って、もう書きなれた魔方陣を地図に書き込む。
「わかってたけど...。結局あの人は来てくれなかったねぇ」
悲しそうに笑う少女の頭に、少年はめいっぱい伸ばした手を ぽんぽん と軽くおいた。
「ふふっ慰めてくれてるの?」
少女は今度は嬉しそうに笑った。
「うっるせーな!!わーてるよそんなの!俺がかわりになれないことくらい・・」
また顔を真っ赤にして慌てて手を引っ込めた少年に向かって、少女は言った。
存在するもの全ては、全部が一斉に笑えないようにできてるんだ。だから大丈夫。今ボクが悲しむことで、世界のどこかの誰かが笑うってことができるんだから。
人からもらえるモノなんて、所詮そんなことなんだ。
勇気も誰かの為の行動も、見方によってはありがた迷惑だからね。
だからボクはこういう存在の仕方を選んだんだ。
けどキミを作るまでは寂しくてしょうがなかった。
ホントに感謝してるんだよ。ありがとう。
「・・・移動がすんだらまた呼べよ。」
少年は、またふいてきた強い風と一緒にどこかへ消えた。
「さて、次はどのくらいお客さん来てくれるかな~?」
最後に楽しそうに言って、少女は魔方陣から溢れてくる光に飲み込まれて消えた。
不思議な少女と作られた少年が営むその店は、今日もどこかである客の来店を待ち続ける。
海月
くらげ、と読みます。