出逢ったときの、

 私があの人と出逢ったのは、必然で運命だったのだと気づいたときには、もう遅くて・・・恋に落ちていた。
 あの日は、どうしようもない日だった。弟たちを守ることに必死だった。
 私たちの種族、ウサギの獣人たちは、オオカミの獣人たちの捕食に逃げ続けていた。戦う術を持たないから速く駆けることのできるこの脚で逃げて逃げて死ぬまで逃げるしかなかった。助かる道などないと当の昔に諦めていた。それでも、まだ幼い弟たちを死なせるわけにはいけないと、一番年上の私が守らなければと、思っていた。だから、失念していた。
 ・・・私たちを狩るのは、オオカミだけじゃないということを。
 「・・・・・・っ」
 もう、痛すぎて声もでない。このボロボロになった傷だらけの身体では、人間の仕掛けた罠から抜けられたとしても、次はないだろう。殺されるか、食べられるか、売られるか・・・例え、どれであったとしても、まともな生き方はできないし、そもそも上の二択の選択肢においては、私が死ぬことが決定している。
 オオカミだけではない。私たちのことを狙っているのは、人間もだ。最近は、オオカミから逃げることで精いっぱいで完全に忘れていた。弟が罠に引っ掛かりそうになって、とっさに助けたら、この様だ。随分と頑丈にできている罠から足を外すことができない。きつくしまってるから足を動かすと擦れて血が滴り落ちる。
 逃げられないかな・・・。なんて淡い期待をしていても、やはり逃げられない。もう大人しく死期を待つしかないのだ。最期に弟たちの顔を思い浮かべる。泣きそうに必死に助けようとして、そんな可愛い弟に私は最大の嘘をついた。
 「やっと死ねる・・・。あんたたちの子守りをしなくて済む・・・か・・・。」
 もう一度、同じ言葉を呟いて、小さく笑う。それは覚悟を決めた者の笑い方だった。
 ・・・嘘つき。そんなことないくせに。本当はー・・・・。
 ぽたりと滴がおちた。
 ガサガサを草むらの奥で音がする。びくりと本能的に身体が震えたが、もうそれも一瞬だった。草むらからでてきたモノを確認すると黙って俯いた。そう、オオカミだった。
 どうやって、食べられるのかな・・・やっぱり痛いかなぁ・・・・。
 ぼんやり考えていると、そのオオカミは無言で近づいてきて、罠に掛かっている方の足に触れてきた。
 「痛そうだな。すぐに外して手当てしてやる。」
 そう言って、そのオオカミは私の足を労りながら、罠を丁寧に外していく。
 「・・・え?」
 思わず声がでてしまった。このオオカミがしている行動が、かけてくれた言葉が理解できない。
 「どうした?痛いのか?ちょっと待ってろ、いま・・・。」
 「ま、まって!まって!!貴方、何してるの!!?」
 焦って驚いて、大きな声がでた。不思議そうにオオカミは首をかしげながら、私の足を罠から外すと、言った。
 「何って・・・罠を外しているんだろう?怪我、痛くないのか?」
 「痛いけど、そうじゃなくて!なんで私を助けるの!!?食べるんでしょう!!?」
 すると、オオカミは、物凄く微妙な顔をした。そして、無言になり、そのまま手当てを始める。そんな行動の意味が分からない私は絶句したまま、手当てを受ける。治療が終わると、オオカミは喋り始める。
 「そんなに飢えてない。それに、お前みたいな奴を食う気もしない。」
 「どういう意味?」
 「俺たちは、確かにお前たちのような獣人を好むが、別に普通に生活してれば、お前ら、ウサギの獣人を食わなくても生活には困らない。」
 じゃぁ、オオカミたちが私たちを追いかける理由はなぜ?
 その疑問が分かったのか困ったような、それでいて怒っているような表情に私は悟ってしまった。
 「楽しいってこと、?自分たちより弱い者を襲って、食べるだけじゃない、愉悦に浸ってるっていうの?」
 「・・・否定はできない。そういう奴らも多くいる。」
 なによ、それ。私たちは、ただオオカミたちに遊ばれていたの?命を軽んじられてただけ?おもちゃだったってこと?
 「ありがとう。」
 私はそれだけ言うと、立てない身体を起こして、動かない脚を引きずって、歩き出した。
 「おい、そんな身体でどこにいく?」
 さすがに私の行動に驚いた彼は、声をかけて私の腕を掴んだ。
 「離して、戻らないと。」
 「その身体では無理だ。死ぬつもりか?」
 私は、そんな言葉に何かの糸がきれた。
 「行くわ。弟たちを守らなければならないの。貴方たちにとっては遊びでも、私たちにとっては命がけよ。あの子たちは、必ず守り通してみせる。」
 不思議なくらい冷静だった。怒ってもいい。叫んでもいい。泣いてもよかった。でも、この優しいオオカミの前では泣きたくなかった。彼がオオカミだけれど、思慮深いことはすぐに分かった。だからこそ、弱いところは見せたくなかった。縋り付きたくもなかった。
 だけれど、それでも、頬を滑る涙を止めることはできなかった。
 この優しいオオカミは、そんな私の姿をみて、小さく溜息をつくと、握っていた腕をひいて、強い力で抱きしめた。
 「かっこよすぎなんだよ、お前は。」
 声がでる暇もなく、今の状況に驚いていて、そんなこともお構いなしに彼は言葉を続ける。
 「知ってる。みてた。あんたが弟をかばって罠にひっかかってたとこ。だから、俺の仲間に頼んで、お前の弟、全員保護した。ついでにここを拠点としてた奴らは全部潰しといた。あんたらみたいなのを守るのが、俺たち、オオカミの獣人の役目なのに、玩ぶことが赦されるはずがない。」
 「何いってるの、?」
 「さっきから気づいてなかったのか?お前、ずっと泣いてる。」
 知っている。分かっている。そんなこと自分が一番・・・。
 「どうして、助けてくれたの?」
 「さっきも言った。あんたたちみたいなのを守るのが俺たちだって。でも、こんなの建前だ。」
 首をかしげていると、彼は照れもせずに言った。
 「あんたの姿に一目惚れした。」
 ・・・・はい、?思考がとまった。
 「弟たちを守る姿も、遊ばれてる分かっていても立ち向かう姿も、誰にも頼らない凜とした姿も、何より泣いている表情があり得ないほど可愛い。」
 意味がわからない。何をいってるの。
 「泣いてる表情が可愛いってなに!!?」
 「ギャップ。・・・まぁ、いい。ついてこいよ。」
 そういって抱きかかえると、彼は歩き出す。反抗しようとする前に、彼は早口で自分の名を紡いだ。
 「俺は、リィル。お前は?」
 「・・・憂䒾(うい)よ。」
 彼、リィルはニッコリ笑う。 
 「よろしく、憂䒾」
 どうやら、反論も反抗も聞く気はないらしい。まぁ、どっちにしても彼の元に弟たちがいるのなら、彼についていくしか選択肢はないのだけれど。
 それから、私はリィルと一緒にさまざまな場所へ行くことになる。気が付けば、私の中でリィルの存在は大きくなっていて、いつしか、その気持ちが愛しいという感情に変わっていた。
 恋人になって、彼を想うようになって、ときどき思い出す。
 やっぱり、リィルと出逢ったあの日は、本当にどうしようもない日だったのだと。

出逢ったときの、

かけたー!!!書きたかった!ウサギとオオカミの恋愛小説!!!私が創作したキャラの中では気に入ってる、リィルと憂䒾です!!

出逢ったときの、

あの日は本当にどうしようもない日で、そんなとき貴方に出逢った

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-28

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