四重夢

覚めても覚めれも、まだ夢の中

 あるフェンスが沿ってある深夜の道。辺りは街灯もなく真っ暗。
 僕は今日の分のドラマの撮影が終わり、スタッフさんたちにお疲れさまの挨拶を告げて現場を後にした。
 隣には今回初共演する女性と、談笑しながら歩いていた。たまたま仕事上がりが同時になったのだ。
 辺りの暗闇とは真逆に、楽しく和やかに会話は弾んでいた。
 曲がり角をまがった所で、彼女は「ここらへん幽霊でるらしいよ」と楽しい軽い口調のまま、イタズラに僕の前で振り返って投げかけた。そうなんだ、と言おうとする間もなく、こっちを振り返っている彼女は、急に悲鳴をあげた。
 青ざめた血相でパニックになった彼女を反射的に抱きかかえて、その場を離れた。その間、彼女は体を震わしながら、「幽霊が、女の顔が」と端々にこぼしていた。その女の名前まで言っていた…。
 街灯の明かりが静かに注ぐ所で、真夜中なのに悲鳴を聞きつけたらしく人々が集まってきていた。
 大丈夫かと介抱していた。
 そこで僕は、これは夢だと分かった。こういった気づきはもう慣れっこだ。僕は平凡に寝ているなと、夢の中で確信した。
 すると今の今までいた人々はいなくなり、布団の感触を覚えた。今日はどんな寝相になっていたのやらと、眠くぼんやりする頭で巡らしていた。状況を確認するため携帯をまさぐって探した。布団の感触、そしてメガネを眠気眼にかけ、やっと見つけた携帯で、暗い部屋を照らそうとした。
 けれど携帯は切れていた。「はぁ何か変な波長で切れたんかな」と、驚くこともなく電源を入れた。
 照らされた辺りは、自分の部屋ではなかった。恐怖がこみ上げてきた。起きているのに、違う。変だと。まるで今が霊のイタズラの真っ只中だと知らしめるように。
 ここで僕はやっと本当に現実に起きられた。夢の中でこれは夢だと認識し、起きたと思ったが、それも夢だったのだ。

 最近こういう、夢の中でこれは夢だと認識し、起きたと思っても、それもまた夢だという疑いを持てるようにまでなっている。
 僕は、その疑いを持たないで、夢の中で“起きた”と思ったままだったら…、と思うと背筋に寒気を覚える。
 今ここに現実に戻れていること、その安堵感で、また眠気が襲うのだが………。

四重夢

四重夢

夢の中で、夢と気づき、けれどそれもまた夢の中。 昔の話し。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-28

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