MOZART!
2005/6/6・7 『MOZART!』 梅田芸術劇場
脚本=ミヒャエル・クンツェ
音楽=シルヴェスタ?・リ?ヴァイ
演出=小池修一郎
キャスト
ヴォルフガング・モーツアルト=中川晃教
アマデ=黒沢ともよ
コンスタンツェ=西田ひかる
ナンネール=高橋由美子
ヴァルトシュテッテン男爵夫人=久世星佳
コロレド大司教=山口祐一郎
レオポルド=市村正親
アルコ伯爵=花王おさむ
エマヌエル・シカネーダー=吉野圭吾
セシリア・ウェーバー=阿知波悟美
この作品は3年前の初演の時、観劇を楽しみにしていたのに直前になって入院するはめになり断念したものだ。今回ようやくその願いが叶い『箱根強羅ホテル』と兼ねての3泊4日という、些か強行軍の遠征となったが充実した4日間だった!初演の時一緒に観る予定だった友人が行けなかった私の為に中川・井上両キャストのCDとプログラムを送ってくれたので、入院中にそれを聴きながら毎日リハビリーを行っていたので音楽はしっかり頭の中に入っている。
さぁ?どんな舞台に出会えるのだろう!ワクワクしながら開演を待った!
舞台装置は割りにシンプルで真ん中に大きな箱状の物がデーンと座っていて、この中が舞台奥に入る仕掛けになっている。
舞台は黒い服を着たマダムモーツアルトが墓を探している人達を案内してくる場面から始まったが今は再婚している彼女は墓への案内料を早く欲しいと言う・・・。その墓の主はヴォルフガング・アマデウス・モーツアルト!
場面が明るくなると中央の箱の上で赤い服を着た幼い子がピアノを弾いている。モーツアルトの幼年時代アマデ(黒澤ともよ)・・・、その天才振りを父のレオポルド(市村正親)が称えている。アマデは小さな箱を持っていて、その箱をよこせとレオポルドが迫るが、ヴァルトシュテッテン男爵夫人(久世星佳)が現れその箱は生まれながらにアマデのものよと♪星から降る金♪を歌う。久世さんの歌はCDで聴き込んでいるのだが私の感じではこの歌は久世さんのキーに合っていないのではないか?宝塚のトップスターまで勤めた久世さんにしては歌が弱いと思う。豪華な衣装を纏い気品溢れる佇まいは男爵夫人にピッタリなんだけどお顔が少々やつれて見えた。うぅ―ん 久世さんはとても好きなんだけどね・・・。
成長したヴォルフガング(中川晃教)はかなりのやんちゃ坊主らしい。そんな彼を諌める父と言い争うが彼の言い分は・・・♪このままの自分を愛して欲しい?!僕こそミュージック!
中川くんの生の声・・・、透明感のある素晴らしい伸びのある声!張りと艶やかさ・・・、やはりCDで聴くより生に勝るものはないとつくづく感じた!中川君、もうすこし背が高ければ申し分ないのにね、と私が言うと一緒に観劇した音楽に詳しい方のお話によれば背が高ければ喉が長くなって高い声が出ないのだそうだ。だから男性のテノール歌手の方は背が高くない人が多いらしい。ひとつ賢くなったよ(笑)
ここはコロレド大使の館、上手奥の階段からコロレド大使が赤い色の豪華で長いコートを翻しながら降りてくる・・・、その手つきはおぉ―トート閣下だぁ?!(笑) 今回はチョッと悪役気味のコロレド大司教を時にユーモラスな表現も交えながらとても迫力を感じる演技と歌声で演じている!そしてやっぱり山口さんの歌声は素晴らしいと思う。
姉のナンネールは弟の成功を夢みて歌い、レオポルドはヴォルフガングが傷つきやすく信じやすい世間知らずの我が子の行く末を思い父親の心を切々と歌う・・・(♪心を鉄に閉じ込め)
市村さんは今回はお得意のおどけた仕草は全くなく、どこまでも子の行く末を思い悩む父親の姿を切ないまでに表現していた。
そのコロレド大司教に逆らったヴォルフガングは追放されザルツブルグを離れて、母と共にパリへ行き其処でウエーバー家の家族と出会う。ウエーバー家の母親セシリアは欲の塊のような女性で4人いる娘達を稼ぎを当てにしているがコンスタンツェもその中の一人・・・。この母親がなんと「エリザベート」でも母親ルドヴィカ役を務めた阿知波さんなんだ(^^ゞ だがルドヴィカの面影は全然なくてとても厭らしく強欲な母親を逞しく演じていらっしゃるのに驚いた!腰を痛めたとかで「エリザ」から降りられた阿知波さんだったがとてもお元気そうに見えた。
パリでの成功は程遠く母を失くし世間の厳しさに打ちのめされ絶望してザルツブルクへ戻るが、そんな時劇作家でプロデューサーでもあるエマニエル・シカネーダ(吉野圭吾)に出会い、何時か大衆が喜ぶオペラを作ろうと約束する。
颯爽と登場した吉野さんはまるで宝塚の男役トップスターの如く・・・(笑)メーキャップも女性と見紛うばかりの華やかさで軽やかにお得意のダンスを踊る?!カッコイイ?ッ!(^^ゞ 吉野さんはやっぱり歌で勝負するにはちと弱いが今回のシカネーダーは見せ場もありかなり美味しい役どころ!私はこの隙のないカッコ良さを存分に発揮する吉野圭吾さんが好きなんだなぁ?(笑)
男爵夫人がヴォルフガングをウイーンへ連れて行きたいと提案する。ザルツブルグなんか大嫌いだと父と姉の反対を押し切ってウイーンへ・・・。
馬車で移動中のコロレド大司教はヴォルフガングがウイーンへ来るのを待ちかねているが陛下の前では演奏させない、自分が独占するのだとアルコ伯爵に言いながらヒョイと手を挙げると、止まれー!これは旅の途中で大司教がトイレへ行く場面なのだが・・・(笑) 手で合図すると馬車が止まり椅子と衝立が舞台にセットされその中に大司教が入って用を足し(顔だけは衝立の上に出ている(@_@;)、終われば壷から注がれる水で手を洗う。昔、日本でも参勤交代のとき殿様はこんな風にトイレを使ったのかなぁ?、とふと思った場面だった。 しかしこの舞台を観ながら度々疑問に思うこと・・・、コロレド大司教の事を家臣達は「ゲイカ」と呼ぶのだが・・・ゲイカ・・・?どういう意味だろう? どんな文字を書くのだろう? と帰ってから辞書で調べたら「猊下=高僧の敬称・人間の王の意」 だそうだ。だがパソコンでは変換しても文字が出てこないので私は大司教と呼ぼう(^^ゞ
ウイーンでは大司教の館に住んでいるヴォルフガングはウエーバーの家族と再会し家へ来ないかと誘われるが、見張っていたアルコ伯爵と大喧嘩になり ♪俺は並みの男子じゃない・・・、くそ食らえだぁ―と捨て台詞を吐く。だが俺はピエロだと自嘲するヴォルフガングをコンスタンツェ(西田ひかる)は大人じゃないけどそのままのアンタが好きなの・・・、だが大司教の館を出てウエーバー家に移り住むがその結果はすぐ現れた。音楽家が被る白い鬘を頭にちょこんと乗せたヴォルフガングが皇帝陛下の前で演奏する筈だったのをコロレドが妨害したと文句を言いに館に乗り込んできたが女性に囲まれた大司教はヴォルフガングの悪口に逆上しウイーンではもう演奏させないように手を打った、放り出せ、蹴飛ばしなてぁ?と絶叫する。山口さん、スゴイ迫力!
モーツアルト!お前はこれでおしまいだ―とアルト伯爵に言われたが、ザルツブルグへは帰らない、もう白い鬘は被らない、自分の力で生きていくというが・・・♪どうするれば自分の影から逃れられるのか・・・自由になりたい・・・、と歌う姿はとても哀しげだ。天才を自負しながらもその才能が報われない人生、その辛さがひしひしと伝わってくるアッキーの歌声は圧巻!どの歌も素晴らしいけど、やはりこの「影を逃れて」がやっぱり一番かなぁ!
それともうひとつ、この舞台を実際に観て衝撃を受けたのはアマデの存在だった!
白い髪に赤いコートを着たアマデはとても可愛い! 殆どの場面にヴルフガングと共に舞台上にいるが台詞は一言もない。だからCDを聴いていただけだは全くその存在は判らなかったが、どの場面でも茶色の楽譜と才能の詰まっているとされる小箱を脇に抱え、羽ペンを持ってチョンとインクを含ませる仕草をしながら楽譜を書き、嬉しげに微笑んで喜びを共有したり、時には暴走するヴォルフガングの服をひっぱって諌めたり、怒って突き飛ばしたり、羽ペンでヴォルフガングの腕を刺し血染めのペンで楽譜を書くなど、その存在感と演技力にしばしば目を奪われた!アマデはこの作品の中でモーツアルトの才能部分として別の人格を与えられ殆どの場面で楽譜を開き羽ペンを忙しく動かしながら作曲をしている。今日のアマデ役の黒沢ともよちゃんのくるくるとした目がとても可愛い!
2幕はモーツアルトの墓を探し当てシャレコウベを掘り出す所から始まる。
コロレドの手を離れたヴォルフガングはウイーンで成功を収めたように見えるが賛否両論あるようだ。
そんな折母親の仕打ちを逃れてコンスタンツェが匿って欲しいと駆け込んでくる。愛を確かめ合った二人だったが母親と義父が言い掛かりをつけ結婚してコンスタンツエの親を養う書面にサインしろと迫る。結婚資金がないとナンネールからの手紙にお金を送る積りがアマデが新曲を書き上げたと知るやシカネーダと共にその金で飲みに行くヴルフガング・・・、誰も居なくなった部屋にコンスンツェがコンツェルト書けた??と言いながらダンスパーティーから戻ってくる。作曲に没頭するヴルフガングに置いてきぼりの寂しさをダンスパーティーに行く事で紛らわせている悲しみを歌うコンスタンツェ・・・♪ダンスは止められない。
コロレドはヴォルフガングの楽譜を見てその才能に驚愕する。自分にあの暴言を吐いた倣岸無礼ないまいましい奴だが・・・、レオポルドを召しだしてザルツブルグへ戻って再び自分に仕えるなら恩赦を与えようと提案するがレオポルドはヴォルフガングよりもナンネールの息子を、と推挙する。
男爵夫人の尽力で皇帝陛下の前で演奏し成功を収めるがレオポルドはそんなヴォルフガングに自惚れ易いと不安を覚えている。お互いに思い合っているのに反発しあう哀しい父と子の行き違う感情
、♪このままの僕を何故愛せないの・・・?
今夜も一人、と乾杯するコンタンツェのもとへ「遅くなってゴメン!」 とヴォルフガングが帰ってくる。 乾杯?それともキス?・・・、この場面、私の耳には松たか子さんの涙の溢れそうなコンタンツェの声がこびりついていたものだから残念ながら西田さんのコンスタンツエに感動できなかった。その夜ヴォルフガングは父の夢を見たが正夢だったのか・・・、ナンネールが来て父が亡くなったと告げる。父と分かり合えなかった悲しみと自分の才能への不安をアマデにぶつける、お前が家族を引き裂いた?! だが冷たいアマデ・・・。しがらみから逃れようとするかのようにシカネーダの言うオペラ「魔笛」を書くためにシカネーダのアトリエで作曲に没頭する。この時舞台のスクリーンには平屋建てのその家が映し出されていた。そこへコンスタンツエが訪ねてきて其処に居た女性との間を疑うがそんな事に構っていられないヴォルフガングはやがて「魔笛」を完成させる。ある日父そっくりの仮面をつけた謎の人物が現れ「レクイエム」の依頼に訪れ自分の力で書くのだ言い残して去るが・・・、ヴォルフガングは自分の才能の限界を知り羽ペンを胸に刺して倒れその膝の上にアマデも倒れ、其処へ現れたセシリアはそんな二人を見ながらお金を奪って逃げていき・・・「レクイエム」は未完のままに終わる。
カーテンコールでは山口、市村の両ベテランが登場した後、一段高い箱の上からお揃いの赤いコートを着て手を繋いで現れた中川君と黒沢ともよちゃんに大拍手!本当にご両人は素晴らしかった!
そして中川くんの再演に寄せる思い等のご挨拶があったが、そんな中川君を二人のベテランさんは暖かい表情で見守っていた。
6日は中川君の初日とあって客席には小池修一郎さんやシルベスタリーヴァイさん達の顔も見えカーテンコールでは舞台に上がってのご挨拶もあった。
この「モーツアルト」 次は博多を予定しているが、できれば井上バージョンも観たいと思っている。男爵夫人を一路さんが演じられるの楽しみだし・・・。
MOZART!