ジンライム
ジンライム
アメリカ、イリノイ州 シカゴ
空港に到着した1人の日本人男性、彼の名はジョー、ボサボサのざんばら頭に顎髭を蓄えている30歳の青年。
未だ独身、ジミヘンドリクスから入った音楽は上へ下へ色々なジャンルを浅く聞き渡り、アメリカ文化に憧れを抱いている言わばアメリカかぶれ。 夢にまで見たアメリカへ旅行に来たのだ。 今回の旅の目的はシカゴからルート66と言われていた国道を通りカリフォルニアまで向かう旅である。 このルート66もアメリカかぶれの彼にはただの優越感に浸るだけの目的だが、彼はこの旅に昔から馴染みのある友人を巻き込んでいた。
その友人達と現地で再会する事になっていたが、会うのは久しぶりだ。
ツイッターやフェイスブックといったSNSの普及で再会できた馴染みの友人達だ。 それぞれと合流するまでに彼には車を調達する事になっていた。 ショーウィンドウに映るボサボサなパーマ頭をチョンチョンとセットしなおし、ディアドロップのサングラスをその薄い顔にセットにレンタカー屋に向かうジョー。
『マスタングだ!絶対!』
凝り性のジョーは少し間の抜けたところがあるのがたまにキズ。ないのだ。 いや、マスタングはあるのだが、彼にはそれがマスタングじゃない。 初代を意識している7台目でさえ彼にはマスタングじゃない。彼のイメージはもちろん64年からの初代。
クラシック。ただそれだけの雰囲気を味わいたいかぶれた彼には必要不可欠な車だが、レンタカー屋でレンタルされているわけがないのだ。頭をかかえたジョーだったが、そこに一本の電話が入った。
『ジョー。シカゴに着いたの?場所を教えて〜。今から迎えに行く』
『ゆうや!車あるのか!?』
このゆうやと言うのがこれまたとても凝り性で、高円寺で古着屋を経営している。20歳のとき以来10年ぶりの姿だが、ヴィンテージと呼ばれる召し物を着込んで現れるのはジョーには目に見えていたが、まさか、いや、さすがと言うべきか。まさしくマスタング! それに乗ってジョーの前に現れた。
『久しぶりブリ〜』
のほほんとしたような、はたまたぼーっとしたようなポーカーフェイスにマッシュルームヘアー、ジョーの予想どおりの服装でマスタングの運転席からでてきた彼は、やっぱり少しキマッていた。
『相変わらずだなぁ』
古着の買い付けでたびたびアメリカに来て倉庫を周りに周っている彼はアメリカでの運転もへっちゃら。ハイでの運転もへっちゃらなのだ。
『この車どうしたんだ?』
『こっちの知り合いに頼んで借りてきたんだよ〜。 とりあえず何か食いに行く? てかとりあえずキメる?』
『いいよ俺は辞めたから。何か食いに行こう』
少し喋ってジョーは夢にまで見たマスタングの助手席に乗り込んだ。それがこれからあう災難の初めの一歩とは知らずにーー
ジャンクフード屋に入った2人。ハンバーガーのサイズが大きいだけでハイになっているジョーと実際ハイなゆうや。
『ジョーくんどうしてたの?』
『仕事しながら休みの日はギター弾いたりサーフィンしてたよ』
たあいもない話をしながらビックサイズのハンバーガーを食べる2人。
『夜にはあきのりが空港に着くよ。それまで時間を潰そう』
今回の旅は4人。ちょうど2ドア4シート分だ。 夕方に空港に着くあきのりもジョー、ゆうやと高校時代からの友人だ。今回のメンバーでもっともカリフォルニアが似合うであろう西海岸のパンクスタイルでニューエラーの帽子と短パンハイソックスがトレードマークの男前だ。 パンクロックが好きで最近は自作のdrum'n bassをYouTubeにアップしている。昼間からビールを飲むドランカー。ジョーら彼とはたまに飲みに行き、彼が締めに必ずジンライムを飲むのを真似て最後にジンライムを飲むようになっている。
『じゃあ夕方くらいには戻れるくらいでドライブしよう』
あきのりが来るまでドライブに出かけた2人。アメリカの街並みや標識を見るだけで浮かれるジョーの横でのんびり運転しているゆうや。
少しドライブした後ゆうやの案内で雑貨屋に入った。ゆうやは馴染みの店らしく流暢に英語で店員と話す。
ジョーは英語がわからないがなんとなく紹介された事に気付き軽く笑顔を見せた。
『ジョーくん少し待ってて』
そう言うとゆうやは店員と店の奥に入っていった。 マリファナをわけてもらうか何かだろうな。そのくらいの想像はついたジョーはしばらく店の中を見て回る。 レジカウンターの後ろには色んな写真が並んでいたが、ジョーは1枚の写真を見てサングラスを外して目を凝らした。
『…え?』
『どうしたの?』
しばらくして奥から戻ってきたゆうやはボケーっとしているジョーを見て不思議そうにしている。
『なんでもないよ。行こうか』
そういい店を出るとまたドライブをしながら空港に戻った。いい時間だ。 あきのりがそろそろ来る。
ジョーは写真の事が気がかりだが今は旅を楽しむ事でまだうきうきしている。あいつの事だ飛行機でもたっぷり飲んでるだろう。と思っていた矢先にあきのりが来た。
『おつかれー!』
やはり西海岸のパンクスタイルで登場した彼は遠くからでも姿が分かった。とりあえず3人揃った。旅は明日からだ。今日は飲む!
3人は近くのBARに入りとりあえずビールを頼んだ。
『乾杯ー!』
『そういえばヒロは?』
『ブルックリンに住んでて多分明日にはこっちにくるんじゃないかな?』
『楽しみだ』
ビールもどんどん進む中マスターが話しかけてきた。ゆうやが応える。
どうやら日本に来たことがあるとか、そんなたあいもない話をしていた。そしてあきのりと一緒にジンライムを頼んだ。
『やっぱ最後はジンライム!』
ジンライムはジンにライムを少々入れて氷をステアするカクテルだ。
酸味とアルコール、パンチの効いたカクテルでジョーも好きになっていた。 店員が言う。
『同じジンとライムでもシェイクするかしないかで違うカクテルになるんだ。多少入れるものが変わる店もあるが、ギムレットって言うんだ。
飲んでみるかい?』
せっかくだがジョーとあきのりはジンライムで締めたみたいでこれ以上は飲めない。ゆうやも酒とマリファナでできあがっている。
『またにしておくよ。ありがとう』
そう言い店を出ると3人はホテルに着いた。
ホテルのベランダでジョーがあきのりに話す。
『さっき雑貨屋でアヤカの写真を見たんだよ』
『嘘だろ? なんでアヤカがアメリカにいるんだよ』
『わからない日本で撮った写真かもしれない』
色々思い出しているジョー。 そうそのアヤカと言う女性はジョーと最近まで交際していた元カノだ。 まだひきずっている。
ポジティブが売りなあきのりはジョーを励ます。
『まぁ旅を楽しもう』
いつもあきのりのポジティブに助けられてきたジョーだが、ある違和感を覚えた。気にしすぎなのか。
『なんであきのりはアヤカがアメリカにいるとすぐ言ったんだろう?』
ーー
3日前ー
ジョーはアヤカといた。ストレートなロングヘアーにスレンダーな身体の看護師アヤカ。6年交際していた。
これからアメリカだと言うのにアヤカに別れをつげられたジョー。
『他に好きな人ができたの』
『ええーっ!?なんてタイミングで!?』
ジョーは何度も引き止めたが女と言うのは一度決めたらなかなかにドライだ。 ウェットなジョーは1日中泣いた。6年色々あった。遊園地、旅行も行き、喧嘩もし、結婚も考えていた。女は切り替えが早い。恐ろしいほどに。アメリカ3日前に言われたジョーは絶対外人とヤってやる!と泣きながら意気込んでいたーー
アメリカ2日目ー
朝ホテルを出た3人はさっそくヒロを迎えに空港に行こうとしたが、なんともみあげからつながる口髭をたくわえた坊主頭の日本人がホテルのロビーでジョーたちを待っていた。
『おおー!久しぶり!』
『ヒロー!!』
ジョーとあきのりは喜ぶ!
『なんでこのホテルが分かったんだ?』ジョーが聞くと
『ゆうやに昨日聞いたんだよ連絡あってさ』 ゆうやとはたまにこっちであっていたらしい。
とりあえず全員揃った!これからカリフォルニアに向けて出発だ!
全員乗り込んだマスタングが走り出す。ミズーリに向かうまで車中泊やキャンプも考えていた。
『まずRUN-DMCからだな』
『俺はビースティのが好きだ』
たあいもない会話で盛り上がるヒロとジョー。ひろはヒップホップのMCでニューヨークでLIVEをこなしている。そんなアンダーグラウンドな世界で頑張っているせいか200キロほど走った所でヒロがある事に気付いた。後ろの車がつけてきている。 これは少しやばいときづいた瞬間!こんな事があるのか!
撃ってきたんだ! 銃声が響いた!
『おいおいなんじゃこりゃぁあ』
『マジかーおい!撒こう撒こう!ゆうやとばせー』 ジョーとあきのりが叫ぶとゆうやはアクセルを全開にして右へ左へ逃げた。 銃弾がマスタングにかする。
『ちょっと、俺シラフじゃないんだけど…』 そんな事を言う余裕があるだけゆうやはまだ落ち着いている。
マスタングからはビースティのfight for your rightが流れているなか4人は慌てまくり叫んでいた。
『全然パーリーじゃねーっ!』
取り敢えず夜遅い。なんとか巻いた4人は近くのモーテルへ入っていった。 『日本人だから強盗にでもあったんだ。さすがアメリカ!怖えーっ』 安心してちょっとテンションの上がっているジョー。モーテルへ止まると皆それぞれの部屋で眠りについた。 興奮してなかなか寝付けないジョーはフラフラとマスタングに近づき撃たれた傷がないかチェックしていた。そしてトランクを開けた。…なんか変だ。トランクの荷物を取り出し下のシートをめくってみたジョーは 眠気がふっとんだ!
大量のコカイン!トランクいっぱいにだ!ありえない量だ! なぜこんなものが車に!
『知り合いから借りたんだよ』
そういっていたマッシュルームカットのポーカーフェイスを思い浮かべたジョー。
夜はふけていくーー
シカゴ集合3日前ー
とあるガレージの中
『いいか?カリフォルニアのお得意さんまできちんと届けるんだ』
中で話をしているサングラスをかけた黒いスーツの白人男性。マフィアの下っ端だろうか。
話を聞いているのはゆうやだった。
古着屋経営が上手く行ってないんだろうか、彼はアメリカに来てはたまにこういう運びのアルバイトをして金を稼いでいる。
今回の仕事はカリフォルニアまでコカインを運ぶ事。 都合のいい事にジョーに誘われ4人でカリフォルニアまで旅をするという。彼はいつものように事がいくと思っており、あまり深くは考えてないようだ。
ガレージを後にするゆうや。
するとスーツの男性は誰かに電話をしはじめた。
『上手くいきました。 後は手筈通りに』
ガレージを後にしたゆうやは電話をとりだした。
『もしもしー久しぶり〜アヤカちゃん』ーー
シカゴ集合3日前、アメリカニューヨークーー
『もしもしジョー?後3日か!楽しみやわー! ちょっと遅れるかもしれんけど絶対行くから!久しぶりに語ろうや!ほなまた』
電話を切るヒロ。 彼はニューヨークでヒップホップをしている。いわばラッパーだ。高校の時からよくフリースタイルだと言って即興でラップをして皆を盛り上げていた。それから大阪に行き今ではニューヨーク。すっかり関西弁と英語も堪能になっていた。沖縄の人かと間違うような彫りの深い顔にもみあげからつながる髭は10年経っても変わらず、笑いのセンスもあるリーダー的存在。
ニューヨークでイラストデザインのアルバイトをしながらヒップホップを頑張っている。
この日彼はジョーと電話を切った後ある人物と待ち合わせをしていた。
タイムズスクエアの真ん中これまた目立つ格好をした友人だ。ニューエラーの帽子に短パンハイソックスの男前。西海岸の格好をした友人が東海岸のタイムズスクエアでヒロを待っていた。
『久しぶりやなあきのり』
振り返る男前はニコッと笑い挨拶を返した。
『てかなんでもうアメリカおんねん!ジョーは知ってんの?』
ヒロの質問にあきのりがさっきまでの笑顔を隠して答えた。
『話があるんよね。アヤカちゃんの事なんだけど』
そうあきのりが言うと、ヒロは笑顔のまま答えた。
『アヤカ懐かしいな!ジョーとはまだ続いてんの?』
というヒロの問いにあきのりはさらに答えた。
『アヤカちゃんアメリカ来てたみたい』
…ヒロは笑顔を完全に消した。
『ヒロ少し用事を頼まれてくれないかな。ジョーやゆうやには俺は今はまだ日本にいる事になってるから』
『…とりあえず飲みに行こか。そこで聞くわ』
歩き出す2人。タイムズスクエアのネオンは相変わらずにぎやかで街はすぐに2人を見えなくしたーー
現在モーテルー
『ゆうや!なんだよこれは!』
ジョーがゆうやだけを呼び出して問い詰める。
『いや、ちょっとバイトで…』
マスタングを借りた知り合いの想像がついたジョーはさらに問い詰める。
『さっき襲われたのもこれが理由じゃないのか?』
『いや、関係ないでしょー!ただ旅行者を狙った強盗でしょー!』
『強盗があんな派手に撃ってくるか!? そもそも誰に渡すんだよ?』
『カリフォルニアでバイヤーと会う予定になってるよ』
『そのバイヤーに狙われて取られようとしたって事ないよな?』
ゆうやはだんまりをきめこんだ。
『おいおいおいおいー!バイト先に報告してなんとかしてもらえよ!』
『つながらないんよ。いつも出発と到着連絡以外はつながらない』
『まじか…』
しばらく黙ったがとりあえずゆうやの仕事の達成もこの旅の目的になった。 これ以上つべこべ言ってもはじまらない。ジョーも昔はマリファナを吸っていたこともあり、一般人よりはそのへんが柔軟であったが、撃たれるのは勘弁だ。もうない事を祈ろう。 今日は疲れたのか部屋に戻るとジョーはあっと言う間に寝てしまった。
朝目覚めたら早速マスタングに乗り込んだ。多少銃撃の擦りはあるが運転には問題ない。
『後半分でセントルイスだ!今日はツェッペリンかけてこうぜ』
『またロックやんNASあたり聴いてこうや』
ヒップホップを聞きたがるストリート育ちのヒロの意見を抑えてロックをかけるジョー。
セントルイスまでマスタングが走り出す。と思った矢先、ゆうやがいない!! 部屋を除くと置き手紙がありこう書かれている。
『セントルイスのBARタイガーまでブツを持ってこい。人質と交換だ』
…
『エェェェ〜!!!』
急いでマスタングに乗り込み走り出す3人!
『ブツってなんやねん!』
『向かいながら話すわ!』
猛スピードでセントルイスまで走り出す赤いマスタング。 トランクの下に大量のコカインを詰め込んでーー
シカゴ集合2日前
アルバイトの約束をすましたゆうやはある女性と待ち合わせをしていた。 ストレートのロングでスレンダーな美女だ。 年は26歳。日本では看護師の仕事をしていた。
『アヤカちゃん久しぶり』
『久しぶりゆうや君!』
笑顔がとても可愛らしく年より若くも見える。
『昨日ジョーと別れてそのままシカゴに着たんだよ』
『別れたの?何があったの?』
『好きな人ができたの』
『ふーんそっかー、まぁそういうこともあるよね』
『ゆうやくん、シカゴ出発したらまずどこ行くの?』
『んー、1日目だから200キロほど進んだらモーテルでも泊まるよ。アヤカちゃんはこれから何するの?』
…アヤカは顔を強張らせてゆうやに小声で話しかけた。
『なくさないでね…後ろの荷物♡』
ゆうやも真面目に答えた。
『わかってるよ。アヤカちゃんには大事な事だもんね』
『じゃあまたね』
そういうとアヤカはレストランから出ていった。 ため息をついたゆうやはしばらくぼけっとした後に席を立った。
『とりあえずガンジャ一服しよ』
ーー
1日前シカゴ レンタカー屋手前ーー
ゆうやが運転するマスタングに乗り込むジョー。その後ろに止まっている黒いシボレーの四駆。助手席の男はなにやら電話をかけている様子である。
『合流しました。では予定どおりに』
電話を切り終わると助手席の男は、運転席で寝ている男に怒鳴り散らす。
『おいトム!いつまで寝てやがる!予定どおりにしないと俺たちが殺られちまうんだぞ!』
『ん?わかったよヨーク兄ちゃん…起きるよぉ。 でも本当にやるの?銃なんか撃った事ないよ〜』
『いいか!?間違っても殺すなよ!この仕事が終われば大金が手に入る!女でも買って飲んでウハウハだわ!』 テンションが上がってくるヨーク。チョビ髭を生やした丸みのある男で少し額が広くなってきている事が悩みのチンピラだ。
『うまくいかなかったら?』
長身だが臆病な青年トムが不安そうに聞いた。
『うまくやるんだよ!いいから車を出せ!見失っちまうだろ!』
『わかったよぉヨーク兄ちゃん…』
アクセルを踏もうとしているトムを見てふぅっとため息をついたヨークは次の瞬間フロントガラスにその広い額をぶつけた。
『バカヤロウ!なんでバックするんだ!前に行け!』
そういうと急いでシートベルトをしめるヨーク。
『わかったって!行くよ〜』
ギアを切り替え直すトム。あやうく赤い初代マスタングを見失いそうになった黒いシボレーはようやくその場から進みだしたーー
セントルイスーー
セントルイス。ミシシッピ川とミズーリ川の合流地点に位置する商工業都市であり、ルート66の通過点だ。『なぁ?相手は俺たちの向かう先を知っててセントルイスに読んだのか?』ジョーが聞くと、あきのりが答えた。
『どのみちゆうやはカリフォルニアまでコークを持って行く予定だったんだろ? セントルイスで待ち伏せするんだろ。てか殺されるよな俺たち…』
しばらくの沈黙の後ヒロが答えた。
『奇襲するしかないやろ。こっそり忍び込んでゆうやを助けてトンズラや!』
持ち前のリーダーシップを発揮するヒロ。
『俺がコーク抱えて裏からこっそり入るから2人は正面から入ってーや。
ブツが手に入るまでは殺されたりせーへんと思うから』
2人はヒロの言う通りにと決断した。
マスタングはセントルイスに着き、
BARの近くのパーキングに停めた。せっかくの旅なのだから、ゲートウェイアーチを見て興奮したいところなのだが今はそれどころではない。
『じゃあまた後で』
ヒロはそう言い裏手に回るため歩いて行った。
『じゃあ俺らも行くかジョー』
あきのりがそう言い歩き出すと、その背中を見つめたジョー。その目は少しあきのりに対し疑惑を抱いていた。そう。アヤカの事だ。ジョーはあきのりが、アヤカがアメリカにいたのを知ってる事を疑っていた。
アヤカと何か密接な関係だったのか? 俺は何も知らないのに。と、こんなときにジェラシーを抱いているジョー。今はゆうやを助けることを考えよう…殺されるかもしれないんだから… と冷静さを取り戻し、あきのりの後を追って歩き出した。
時間は夜9時前後。外から見るとタイガーというBARはオープンしているか、していないか分からないほどこじんまりと、暗い印象だ。深呼吸をしたジョーとあきのりはドアを開けた。ジョーは心臓が破裂しそうだった。そして次の瞬間開いた口が塞がらなかった。金髪美女の喘ぎ声がする中、
『ジョーくん、あっくん、おつかれー』
ゆうやと金髪美女が全裸で、そう。真っ最中だった。
『はぁぁぁっ!?』ーー
モーテルーー
『よしいいぞ!もう撃つなトム!おい!聞いてるか!?』
『うわぁ!!』
『もう撃つな!俺たちの目的は誘導なんだよ!これから時間を待って運び屋を拉致っちまえばいいんだ!』
カチャカチャとトムの指は動きを止めない。
『お前安全装置外せよ!一発も撃ってねーじゃねーか!バカ!撃ってたの俺だけじゃねーか!』
トムの頭を叩いたヨークはため息をつき、その後2人は深夜を待った。
『よし、そろそろいくぞ』
運び屋の部屋にそっと進入したトムとヨーク。マッシュルームヘアーの運び屋はすやすやと眠っている。その運び屋の口と鼻にそっとクロロフォルムを染み込ませたタオルを押し付けた。
『!?ん!んーっ!ーー…』
『よし!後は書き置きを残して…』気を失ったゆうやをかついでシボレーの後部座席に乗せて走りだす。
『なははぁ!順調じゃねーか!なぁトム!』目がドルになっているかのような笑みで運転中のトムの肩に腕をかけるヨーク。そのままシボレーはセントルイスまで走って行った。
明け方運び屋を担いでタイガーに着くと、カウンターに金髪の女がグッタリとしていた。娼婦が飲みすぎたのだろうか。
『なんだこの女は?まぁいいとりあえず電話をして…』
ヨークが電話をかけはじめた。
『はい!?またつけるんですか!?何もしないと??まぁ分かりました』
『どうしたの?』トムが聞くとヨークは『 しばらく待機でまたマスタングをつけるんだとよ!何考えてんだか…日本の女は訳がわからねぇ』
そういい店を出たトムとヨーク。
ーー 何時間かたった後ゆうやは目を覚ました。そこには金髪の女がぼーっとこちらを見つめていた。
『キュートな子ね♡買わない?』
マイペースなゆうやはぼーっとした様子で、
『ここどこ?…まぁとりあえずやらして♡』 そういい服を脱ぎだしたーー
シカゴ集合3日前ニューヨークーー
『アヤカちゃんはたびたびアメリカに来てたんだよ』
あきのりはビールを飲みながらヒロと話している。
『ジョーは何も知らんもんな。アヤカが昔ギャングと付き合ってたなんて』
『アヤカちゃんがアメリカに来てる事は俺のこっちの知り合いに聞いたんだよ。雑貨屋でバイトしてるんだけど、アヤカとも仲良くなってさ』
あきのりがそう話すとヒロは店員にビールの追加を頼んであきのりに聞いた。
『で、頼みってなんやねん?』
『…アヤカちゃんがドラッグの密売に関わってるらしいんだ。雑貨屋のバイトから聞いたんだけど…それでジョーにバレないようにアヤカちゃんを説得したいんだ』
『…ギャング繋がりか…知り合いに当たってみるわ』
『うん。ジョーには内緒な。俺はこれから人にに会ってくるから』
『でも説得してどうなるん?ジョーとはもう別れたんやろ?』
ヒロにそう聞かれるとあきのりは答えた。
『俺が気になってるのはアヤカちゃんじゃなくてジョーの目的なんだよ』
『??』
『まぁよろしく頼むな。じゃあ3日後に』
店から出て行くあきのりを見送ったヒロはさっそく知り合いに電話をしだした。 それを店の外から見つめるあきのりは眉間にシワを寄せていたーー
現在BARタイガー ーー
『何してんだお前は!!』
ジョーとあきのりが怒鳴ると、ゆうやは服を着ながら答えた。
『いや、目が覚めたらそこの姉ちゃんがいて、誘われたから…』
ぼーっとした顔のゆうや。
『びびって損した!誰も来てないのか? 誘拐犯は?』
『いや、誰にも会わなかったけど』
キョトンとした顔でゆうやがそう話すと、
『来たわよ』
金髪の女が服を着ながら答えた。
『あんたを連れてきた2人組が帰った後、白人の男と日本人の女が』
『え!?』
日本人の女という言葉にハッとしたゆうや。 ジョーもあきのりも内心はびっくりしていたが、ゆうやの顔を見逃さなかった。
『てか、日本人の女ってまさか…』
ジョーがあきのりの顔を振り向いたと同時に裏口の扉から炎と煙が迫ってきた。
『おい!燃えてるぞ!!なんなんだよ!』
すると炎の中から目がぶっとんだヒロが出てきた!
『ヒロ!!』
『やばいやばいやばいゆうや!!コカインパクられた!てか何グラムか燃えて炙れたから俺は今から空を飛ぶ!!』
訳のわからない事を言っているヒロ。
『パクられたー!?』
急いで店を出ると黒いシボレーの四駆が店の裏から出てきて遠ざかっていく。
『あいつらやー!あいつらが俺のコカインを!』
『お前のじゃねーよ!』
『追わなきゃ!!』
『どこ向かってんだ!?』
『お前さっき女とヤッてたやろ!?んもーぅ!んもーぅ!!俺も抜く!!』
『おい!ラリッてる場合か!』
スボンのチャックを下ろして1人でしようとするヒロを捕まえて走ってマスタングに乗り込む3人。
『バイバーイ』
金髪の女が手を振って出て行った。
『取られた事が知れたら本気で殺されるって!』
ゆうやは必死で運転して追いかける。
『どないやねん!飛ばしすぎやろ!俺のマスタングも飛びたいっ!そう俺がヒーロー!!』
車はルート66を外れずに進んでいるーー
シカゴ集合2日前ーー日本
ジョーはBARで飲んでいる。ジョーの馴染みのロックBARでローリングストーンズのLIVEを見ながらジャックダニエルを飲んでいた。
『アヤカのやつ。これからアメリカ旅行だってときに下がる話しやがって…』
マスターが話しかける。
『ジョー君振られたのか?まぁまたすぐに出会いがあるさ』
『あぁ。向こうで本場モンのギャルとヤりまくってやろ…まぁプロ相手になるだろうけど』
しょぼくれてるジョーにマスターが言う。
『どっかメインで寄る観光地はあるのかい?』
『んー、特にないかな?考え中。でも面白い事は考えてるよ』
『なになに?』
『明日の夜にはアメリカに着くんだよ。皆には明後日に会うんだけど。
明日前乗りしてちょっと会う約束があってさ。』
『へー、何で前乗りするの?』
『…懲らしめたいやつがいるんだ!』
ニヤっと笑うジョー。氷が解けて薄くなったジャックダニエルを飲み干して言う。
『やっぱりロックが好きだな』ーー
BARタイガー
バックにコカインを入れてBARの裏手に回ったヒロ。黒いシボレーの四駆の前を通り過ぎていく。
『おいトム! あいつ運び屋の仲間じゃねーか!』
車の中で待機していたトムとヨーク。
『そうなの?助けに来たのかな?』
『おそらくな。それより見ろ!あいつが持ってるバック。ブツだぜ間違いなく!』
『でも1人だけじゃん。違うかもしれないよ…』
『違わねーよ! 他のやつはおとりだろ。車に乗っけたままじゃあパクられやすいからな。それよりどうだ?
あれを俺らがパクっちまえば手柄だぜ!代わりに運んじまえばさらに金が入る!』
『勝手にそんな事したらまずいよ〜。指示もないのに。』
『それか俺らが今度は取り引きするんだ!あの日本人女に!いいから俺の言う通りしろバカ!』
車から降りて運び屋の仲間に近づく2人。
運び屋の仲間は窓から何かを眺めている。
『ゆうやのやつ何やっとんねん!』
小声でキレる坊主頭に口髭のb-boyに銃を向けるトムとヨーク。
『おい。そのバッグを置いていけ!トム!トム!何してる!』
窓の中を覗いて下半身をもぞもぞさせている背の高いトム。
ヒロがその隙に逃げようとして裏口から中に入る。その瞬間バッグがつっかえた。ヨークはそのバッグをつかむとヒロとしばらくバッグを引っ張りあった。
『トム!手を貸せ!何してるバカ!』
トムが振り向いた瞬間トムの下半身から何かがふきだした!
『え?』
ヒロとヨークはそれを目で追いかける。トムの下半身から物凄い勢いで発射された何かがバッグに付いた瞬間、
『うわぁぁっ!!』
ヒロとヨークはおぞましい恐怖からか120パーセントの力を発揮し、対極から引っ張られたバッグは破られ、中のコカインを少し撒き散らした。 それを鼻で吸ってしまったヒロはそのまま裏口からBARのキッチンにはいりコンロに衝突し、コンロは火を噴いた。その上にさらにコカインが撒き散らされて、炙られていく。
『今だ!逃げろぉ!』
破れはしたがまだ大量のコカインが入ったバッグを抱えて走るヨーク。
『待ってよ兄ちゃん!』
ヨークを追うトム。そのまま2人は車に乗り込み走り出した。
『お前は何したと思ってるバカヤロー!まぁいいさ!このままオクラホマを目指すぞ!あいつらを撒いたらこっちからあの女に電話だ!ハハハー!』
『兄ちゃん俺あそこが痛いんだけど…ノーハンドだったから…』
『やかましい!!』ーー
BARタイガー
トムとヨークが出て行った後、しばらくして店へ入ってきた白人男性と日本人女性。
『あいつらに指示をしなくていいのか?』
男性は50歳くらいだが、髪の毛は白髪がすすんでいて、黒いスーツを着ている少し本職のような佇まいだ。
『いいの。予定どおりだから』
クロロフォルムで気を失っているゆうやを見下ろす日本人女性。黒髪のストレートなロングヘアでスレンダーな感じ、そうアヤカだ。
『ゆうやくんごめんね』
そういうとアヤカはゆうやのスボンのポケットにメモを書いた紙切れを1枚忍ばせた。そして、ボーっとして酔いつぶれていた金髪の女性に話しかけた。
『このあとここに3人ほど日本人が来るわ。そうしたらここに私達が来た事を伝えてほしいの。それだけでいいから』
そういい100ドル札を何枚か渡すアヤカ。 白人男性は溜め息をついた。
『さぁ、そろそろ行こうか。タルサへ。その日本人達には悪いがまだまだ動いてもらわんとな』
2人は店から出て行ったーー
。
な事になるのかな?』
『さぁな…実は昨日アヤカが来たんだよ。白人の男と入ってきて写真を撮って帰ったんだ。店に飾ってくれって言ってたな。 後、ゆうやが来たら伝えてくれって言ってたぞ。 あきのり には気をつけろ ってな…』
『!? …訳わかんないな。運びの仕事の話ならまぁバレないようにしてみるよ、あ、後ガンジャ少しわけてよ』
『吸いすぎには気をつけろよ』
マリファナを受け取ってゆうやは店の奥から戻ってきた。
『ジョーくんおまたせ〜』ーー
セントルイス〜〜オクラホマ タルサ
『くそっ!あいつら止まる気配がないぞ』
ジョーが言う。
『ガソリンが持たないからスタンドに寄らなくちゃならないぞ、俺らもあいつらも』
あきのりがジョーに答える。アメリカの大草原の中でのドライブはジョーにとっては楽しみの一つだったがまさかこんな形になるなんて…などと思っていた矢先、前のシボレーはガソリンスタンドに車を止めた。トムは給油し、ヨークは破れたバッグを抱えて店の中へ入っていった。
ヨークは店員に銃をつきつけた。
『騒ぐなよ!じっとしてろ!』
マスタングもガソリンスタンドに止まった。
『ゆうや!とりあえず給油してろ!おいあそこ!』
店のドアからヨークが銃をかかえて近づいてきた。
『まじかよー!』
手を挙げるジョー達。
『いいか!上からの伝言だ。バッグを返して欲しければオクラホマシティにあるパンサーというストリップ店へ来い!そこで仕事をしてもらうってよ!』
『お前ら運びの取引相手か?こんなことしたらドンパチになるやろ!』
ヒロが聞く。
『取引相手じゃないさ!まぁパクって逆に取引しようとは考えたがこっちの方が報酬がいい!とりあえず言う通りにしろ!トム!行くぞ!』
そして2人は走り出した。
『まじかよーめんどくせー!なんだよこの旅!』
文句をたれたジョーにあきのりが励ます。
『まぁなんとかなるよ!とりあえず買い出しして行こう!』
4人は買い出しをし、オクラホマ タルサを目指したーー
タルサ現在ーー
再び都会に訪れた4人。都会といってもセントルイスほどではないが、タルサも割と大きな都市である。4人はまたまた観光の余地もなくパンサーの前に来た。タイガーのときと同じ緊張感だ。殺されるような事にならなければと思うジョー。
『てかストリップってテンションあがるよね』
のんきなゆうや。
『今回は裏手もくそもないな。4人で入ろや』
ヒロが言う。4人はいっせいにパンサーの扉を開けた。開けた瞬間開いた口がふさがらなかった。
『ええええ!?』
『うわぁっ!』
そのストリップ台の上で全裸にサスペンダーとガーターベルトをした、ラテン系の男が四つんばいでこちらを見ていた。そうここはゲイ専用のストリップ店!
『キモォーーァ!!』
4人が叫ぶと、
『いらっしゃい坊やたち』
ほぼ全裸の男達に中へと連れて行かれた。皆よだれをたらしながらこちらを見ている。
『やばい…殺されるよりきつい…』
ジョーは泣き出そうだ。するとダンサーが入れ替わりミュージックも変わった。
『あ!あいつら!!!』
ほぼ全裸で出てきたダンサーはトムとヨークだった。
『助けてくれー!』そうこちらに向かって叫び出すヨーク。トムはまんざらでもない表情だ。
『ええええーー!??』
そう叫ぶ4人に店のマスターが近づいてきた。
『あの2人よりいいダンスをしたらコカインは返すわ。ダンス勝負よ!!』
4人は頭が真っ白になったーー
とりあえず4人のうち誰が行くのか。
それで4人は一心不乱になり揉めた。
『俺は絶対嫌だからな!ゆうやもともとはお前のせいなんだからやれよ!』
ジョーが言う。
『絶対嫌!』
のほほんとしたゆうやでもさすがに真剣だ。
『もうジャンケンするしかないな!』
ヒロが言うと4人はしばらく間を置いた後それに同意したかのように、
『最初はグー、、』
緊張が走る。
『ジャンケンポイ!!』
負けたのはジョーとあきのり。
『うわぁっー!マジかー!』
2人は膝からガクッと落ちたが休む間もなくマスターが2人をステージへ連れていった。
『さっきの2人よりチップを稼いだら勝ちよ!さぁスタート!!』
服を脱がされるジョーとあきのり。
『最悪だくそーっ!』
『ジョー!こうなりゃヤケだ!ストリップだから触ってはこないはず!本気でやろう!』
あきのりが全裸でセクシーポーズをきめる。客は喜びチップを投げ入れる。だがまだ全然足りない。さきほどのステージでまんざらでもなかったトムがそこそこ稼いだからである。ジョーも四つん這いになり客に尻を向ける。ジョーはもう泣きそうだった。
『ヒューヒュー!いいケツだ坊や!』ゲイの客がチップを入れる。
あきのりも陸上選手のスタートポーズをとり尻をあげる。負けじとジョーは四つん這いで自分の尻をたたき客を煽った瞬間、ドアが開いた!!
『ジョー!?』
『…アヤカ!!!』ーー
セントルイス〜〜タルサ
『あなたたちには倍出すからバッグはパンサーのマスターに引き渡して』
車の助手席に乗りヨークと電話するアヤカ。 運転席には前に話した50歳程度の白人が乗っている。
『トムとヨークにカリフォルニアまで行かせてもよかったんじゃないか?』
男性がアヤカに問いただすと、
『そうはならないよ。死人がでるとこだった。あのコカインはあの4人が運ばなきゃダメなの』
『つまりはいるんだな?4人の中に売人の黒幕が…』
アヤカはうつむいた。その表情はとてもギャングの女として薬物の売買に関わっているようには見えなかった。 アヤカは再び電話をかけだした。パンサーのマスターだ。
『もしもし。そっちに2人の男がコカインを持っていくの。それを預かってほしいの』
『あら?めんどう事はごめんだわ』
マスターの声が電話ごしに聞こえた。
『その後4人の日本人が訪ねてくるから渡して!それだけでいいから』
『日本人?ヘェ〜美味しそう』
『何もしたらダメだよ!じゃあよろしく!』
マスターは電話が切れると、
『それじゃあ楽しくないわねぇ』
と言いニヤリと笑っている。
アヤカは電話を切ると、
『4人の中の誰かなの…でもそれが分からない…』
そう運転席の男性に言った。
『カリフォルニアで待っている売人と今回の運び屋の黒幕、その取引がうまくいってしまえばウチが叩かれる。母さんのためにも…』
『絶対止めようねお父さん!』
車はオクラホマ州タルサに向けて走っている。ルート66を真っ直ぐーー
タルサ パンサー ーー
男というのは女よりウエットな人間が多く、失恋とは大概男の方が引きずるとよくいう。そして、もっといい女を捕まえてやる もっとでかい男になってフった事を後悔させてやる 等と思うものである。
ジョーもその1人だった。アヤカにフラれたとき、アメリカに行って一皮剥けた姿でも見せてやろうなどと思っていた。 そして今、別れた日以来に彼女が現れて完全に自分を見ている。しかしどうだ。今ジョーは四つん這いだった。全裸で。ゲイ専用のストリップ場で、そのステージの上で。ゲイたちにケツをむけて。
『ジ、ジョーくん元気そうだね』
アヤカの笑みは完全に引きつっていた。
『アヤカ!これは、その、』
ジョーはもう死んでもよかった。あきのりも陸上選手のスタートポーズのまま、ゴールを見つめるかのようにアヤカを見つめて、そのまま目だけジョーの方を見た。
『マスター!何もしないでって言ったでしょ!』
アヤカにそう言われるとパンサーのマスターは溜め息をついた。
『いいとこだったのに…わかったわ。コカインはあんた達に返すわ』そう言うと店の奥からバッグを持ってきた。
『あの、俺たちは…』
ヨークがおそるおそる聞いた。
『あんた達ももう帰っていいわよ』
ホッとするヨークと少し残念そうなトム。
『また連絡します!とりあえず出て行って』
アヤカが言うとトムとヨークは服を着ながら店から出て行った。
ようやくステージから降りて服を着だすジョーとあきのり。ヒロはずっと笑いをこらえていて、ゆうやは静かにうつむいている。
『アヤカお前なんでアメリカにいるんだよ!』
ジョーがそう聞くとアヤカはうつむいた。
『ごめんジョーくんあやかちゃんは俺の上司なんだよこの仕事の』
『は?』
ジョーは訳がわからない。
ゆうやはその後アヤカにも謝りだした。
『ごめん今度はちゃんと運ぶから!』
『違うのゆうやくん。私はその運びとは関係ないの…』
『え??』
『とりあえず私はマスターと話しがあるから何も聞かずに仕事を続けて』
アヤカはそういいマスターと店の奥へ入って行った。
『おい!待てよアヤカ!』
ジョーを無視しているアヤカ。そしてアヤカの父親はしばらく4人を睨みつけたのち店の奥に入って行った。
ぽつんとたたずむ4人。
『出て行きたくないの?』
『俺たちに可愛がってほしいのか?』
そういい近づいてくるゲイの客達にハッとして急いで店を出て行った。
『とりあえずアマリロを目指そう。
テキサスだー!』
テンション上げていうあきのりとヒロに対しテンションの低いゆうや。
赤いマスタングはアマリロを目指して進むーー
タルサ〜〜アマリロ ーー
一台の車は勢いよく走っている。お馴染みの黒いシボレーの四駆。
『くそーっ!俺たちまでとんだ目にあったな!まぁ倍の報酬だ!じっくり連絡を待つか』
自慢のチョビ髭を撫でる額の広いヨーク
『にいちゃん、俺悪くなかったかも…』
大柄で臆病のトムが答える。
『へんな気分に入ってんじゃねーよ変態ヤロー!正気を保て!』
ヨークがとむに叱咤する。そんな中電話がなった。 あのアヤカという日本人女性、今回の依頼人だ。運び屋を拐えと言ったと思えば何もするなと言ったりよく分からない女だ。
『今度は何ですか!?…あ?誰だ?』
電話の相手はアヤカではなかった。
『ジョーと言う男を殺せ さもないと2人とも殺す』
『はぁ?何言ってんだ!誰がタダで殺しなんかするか! お前は誰だ!?』
『ただのしがない雑貨屋の店員だよ。いいのか?言う事を聞かなければお前等を本当に殺すぞ?トムとヨークだろ? 俺たちのコークを盗みやがって…とりあえずアマリロまで来い。わかったな?』
『…わ、わかった』
ヨークは電話を切った。ブツの取引相手か、はたまた運び屋の上のモンか、やばい事になったな日本人女との関係もおそらくバレてる…でもなぜこんな短時間で… ヨークが考えていると、
『にいちゃん!なんて?』
トムが不安気に聞いた。
『殺しだとよ…』
『え?人なんか殺せないよーー!』
『うるせぇ!やるしかないんだよ!』
再びヨークがトムに叱咤した。そのとき、また電話がなったーー
タルサ〜〜アマリローー
赤いマスタングがアマリロを目指してルート66を進む。
『ゆうや、話してくれよ。アヤカの事を』
ジョーが助手席から運転しているゆうやの顔を真剣に見て聞いた。後部座席ではヒロとあきのりが目を合わせている。
『俺がたびたびアメリカに来て古着を買い付けをしてたのは知ってるでしょ? そのとき古着の倉庫でいい仕事があるって紹介されたのが運びの仕事でさ…』
ジョーは真剣に聞いている。ゆうやはまた話し出す。
『3回目くらいの仕事のときニューヨークで偶然アヤカちゃんに会ったんだ。でそのときは仕事を辞めるよう止めらてさ』
『なんでアヤカがそんなたびたびアメリカにいるんだよ!俺は何も知らないぞ』
ジョーが言うとあきのりが答えた。
『アヤカちゃんはギャングの娘なんだよ。さっき隣にいた白人のおっさんが親父さんだ』
『はぁ!?』
『ジョーに言うべきか相談されたよ。言うべきだって言ったんだけど…』
『あいつがハーフなのは知ってたけど…まさかギャングの娘なんて…』
ジョーはショックを隠しきれない。
『でも今回の仕事は関係ないて言うてたやん。どういう事やねん?』
ヒロがゆうやに聞いた。
『いや、アヤカちゃんにコカインなくなさいでって言われたからてっきりアヤカちゃんの組の仕事だと…いつもブツを預かるときサングラスをかけたイカツイ人にしか会わないから…ヒロくんごめん運転変わって!少し疲れた』
ゆうやがそこまで喋って黙った。そしてヒロと運転を変わってマスタングはまた走り出す。
『アヤカちゃんのギャング自体関係ないよ』
しばらくの沈黙の後あきのりが答えた。
ジョーは後ろを振り向いた。
『なんでそんな事分かるんだよ?』
『シカゴに知り合いがいてさ、雑貨屋の店員なんだけど、そいつがギャングに詳しくてさ。話してるうちにアヤカの組の話が出てさ。もしかしたらってアヤカに問い詰めたんだ。ジョーに言うべきだってね』
ジョーは頭が混乱しはじめた。
『え?じゃああきのりもアメリカ来たことあんの?』
『…あるよ。』
『英語は?』
『多少』
『…まじかよー!!初めては俺だけかー!!』
変なとこでテンションの下がるジョー。
『まぁとりあえず旅楽しみながら向かおうや!』ヒロが運転しながらそう言う。
『トランクにコカイン入ってるけどな…』
ジョーは少しふてくされて言った。
ゆうやは後部座席でぐったりしている様子だった。運びの仕事のストレスか運転もずっとしていたからか、大きくため息をついた。だがある違和感に気づいた。
『ん?』
ゆうやはズボンのポケットを弄った。そこには何か書かれた紙切れがあったのだ。!!? それを読んだゆうやは皆にバレないよう紙をポケットに戻し驚いた様子を隠すように目を閉じた。 そのときヒロがゆうやに話しかけた。
『ゆうやガンジャある?ちょっと分けてや!せっかくやし楽しく行きたいやん?』
『…ああ、いいよ。ジョイントでいい?はい。』
ヒロは巻いてあるマリファナに火をつけmos def を流しながら運転をはじめたーー
タルサ パンサー
『なによ話しって。ニック アヤカ』
パンサーの店の奥に3人。アヤカの父親はニックと言うらしい。
『母さんの容体が危ないの…』
『アケミが!?どうしたの?』
『内臓を移植しないといけないみたいで』
ニックが喋り出す。
『最近ニューヨークでヤクが大量に出回ってな。そのせいでコカイン中毒者に内臓をえぐられてな。そいつはその後自殺したが… ヤクの出回りのせいでうちのシノギも落ちていく一方だ。移植の金のためにもこれ以上ヤクの出回りを防ぎたいんだ』
『なにより同じ被害者をもう出したくないの!』
ニックに続きアヤカが言う。
マスターは不思議そうに答えた。
『ならなんであの子達にコカインを持って行かしたのよ?』
アヤカはしばらく黙った後、
『考えがあるの。その前にさっきここにやってきた4人に怪しい人はいなかった?うまく言えないけど、何か違和感を感じたりしなかった?』
セクシャルマイノリティーの勘のよさにでも期待したんだろうか?アヤカは問い詰めた。
『そうね〜、1人いたわ。勘だけど…』
それが誰か聞いた後アヤカは急いでトムとヨークに電話をかけた。
『さっき別のやつから殺しの依頼があったとこですわ!』
『やっぱり! いい!?これから言う事をよく聞いてね!!』ーー
シカゴ集合3日前
あきのりが店を出て行った後電話をかけているヒロ。
『もしもし、そっちは予定どおりか?』
『はい。予定どおりに』
ゆうやに運びの仕事を依頼した人物との電話だった。その電話を切った後また別の人物に電話をかけるヒロ。
『ヒロかい?』
電話の相手はシカゴにある雑貨屋の店員だった。
『多分ゆうやがそっちに行くと思うわ。アヤカが来たら写真でも撮らせて店にでも飾ってくれへんか?の方がアヤカとも親しい店って事でゆうやも信じやすいしな』
『了解ボス』
『後あきのりには気をつけろとアヤカが言ってた と伝えといてくれ』
『大丈夫ですけど、何か企みが?』
『俺はただグチャグチャしたもんが好きなだけや』
『ボスらしいですね』
『最後に一つ。時期が来たらジョーという男を殺せ』
『…了解です』
ニヤっと笑うヒロ。
『さぁ楽しいアメリカ旅行になりそうやなぁ!!』ーー
アマリローー
ーーパンサーマスターが言う
『1人だけ我関せずとばかり楽しんでた男がいたわ。冷静過ぎるというかーー
ーーアマリロ郊外にについたマスタング。
『テキサスだぜテキサス!』
テンションのあがるジョー。すると前に黒いシボレーが立ちはだかった。
『またあいつらだ…』
ため息をつくジョー。
すると黒いシボレーからヨークが発泡した。マスタングのボディに当たる。
『まじかよー!撃ってきやがった!』
『とりあえず出よう』
あきのりが言うと4人は手を上げて外へ出るすると現れたのはトムとヨークともう一人。男はジョー達が立ち寄ったシカゴの雑貨屋の店員だった。
『おい!お前!』
びっくりしているゆうやにあきのり。
『ごめんねー。店によく来てくれたのに』
『そういう事か…ヒロ』
ジョーがヒロを睨みつける。
『は?なんで俺やねん!頭おかしなったんか!?』
ヒロはしらばっくれる。
あきのりが言う。
『やっぱりヒロか…』
ジョーは間を空けずに答えた。
『シカゴ集合して次の日迎えに行くはずだったのにホテルまで来たよな? その兄ちゃんと会ってたんだろ?』
『なんの話やねん!』
『タイガーのとき1人で裏からまわったとき、実際にコカインパクられて焦ってたよな?言ってたじゃないか。俺のコカインがって。決定的だったよ。パンサーでアヤカに会ってから運転まで変わって飛ばしてアマリロまで来たしな。』
あきのりが言う。
『ジョー。何を企んでんだ?』
『これから分かるさ。』
ヒロは笑い出した。
『お前らの焦ってるとこ爆笑やったわ!俺の目的はジョーに運びの仕事手伝わせて取引相手ごと殺す事やねん! アヤカがパンサーに来やがったから急遽時間を早めへんとな!ジョー!!コカインの取引は俺が直接行けばいい、とりあえず俺の目的ははお前に消えてほしいんじゃ! 』
ヒロはジョーを睨みつける。ジョーも睨み返して答えた。
『お前に殺されるような事はしてねーよ!』
『アヤカは俺のもんじゃーっ!!』
『…!?』
『そうしたらあいつの組織とも敵対せんですむしな。ヤクも捌きやすいってもんよ! 殺れ!』
そう雑貨屋の店員に命令すると、雑貨屋の店員は銃をジョーに向けた。
『まじかーっ!』
ゆうやが目をつぶった。バン! と銃声がした。ゆうやが目をあけると男が引き金をひこうとした瞬間、ヨークが後ろから男の手を撃ったのだ!
『てめぇなにしやがる!』
『依頼人の命令でな!ジョーってやつの殺しは阻止させてもらう』
その隙にトムはヒロに向かって殴りかかる。 しかしトムは弱かった。
ヒロに殴り倒され銃を奪われたトム
『お前確かストリップのときその気になってたよなぁ? 脱げよ!ほらぁ!』
ヒロに脱がさ裸で仰向けに倒れているトム。
ヒロは少しマリファナでハイな様子だ。
『いいぞー!じゃあジョーも脱ぐかー?』
奪った銃をジョーに突きつける!
そのときヨークが叫ぶ!
『全員でそいつをぶっ倒せ!』
『でも銃が!』
『いいから信じろ!いけー!!』
ヨークの目はとても澄んでいた。
『もうやけくそだぁ!』
ヒロにつっかかる3人。
『アホが』
ヒロは引き金をひいた。カチャ カチャ !? 発泡しない。
『安全装置くらい外したら?』
仰向けでニヤっと笑うトム。
3人はヒロに突撃!しかしゆうやが途中でこけたせいで3人ともヒロの下半身にしか突撃できない! しかしヒロの両足をつかんで持ち上げた!
『うぉーーちょっと待てー!』
ヒロは両足を持ち上げられた事で頭から地面に叩き落ちた。いや、地面ではなかった。 そこは服を脱いだトムの下半身の上だ。 叫んでいたヒロの大きな口はそのままトムの下半身のウエポンを咥え込んだ!
『え?』
3人は目を丸くした。
もともとノーハンドでも発射でき、ストリップのステージで進化を遂げたトムにとってはその感触だけで充分過ぎた。トムはヒロの顔をおさえつけ、
『安全装置は外してあるからぁぁ』
そう。発射したのだ。
『うわぁっ!』
震え上がる3人。ヒロはもう白目を向いて気絶していた。
雑貨屋の男もそれを見てフラフラと逃げて行った。
『なにこれ?』
ジョーはあきのりにつぶやいた。ーー
アマリロ郊外ーー
『とりあえずヒロはここに置いてこう』あきのりが言う。
それに対してヨークが聞いた。
『コカインはどうすんだよ!』
ゆうやがいう。
『置いていこう。カリフォルニアでの今回の取引相手は警察だよ』
『なに!?』
『アヤカちゃんから手紙があってさ、そう書いてあってさ…』
『じゃあどっちみちヒロは捕まる運命じゃん』
あきのりが答える。ジョーはそれに答える。
『コカインもここに置いてこう。ゆうやも運びの仕事なんかするなよ』
『後さ、カリフォルニアじゃなくて警察もうすぐここに来るみたい』
『早く言えバカ!!』
急いで出発するマスタング。シボレーも慌てて出発した。
『兄ちゃん、俺最高だったよ』
『うるせー!変態が!だがまぁ報酬で俺らもウハウハよ!ハハハー!グアッ!』
シボレーのエンジンが止まった。
『こんなときにぃ〜!!』ーー
シカゴ集合1日前
空港に着くジョーのところに迎えが来た。 迎えのリムジンに乗り込むジョー。
『久しぶりだな。ジョー』
『ニックさん久しぶりです』
『アヤカに振られたんだって?はは、あいつもお前を巻き込むのには反対してたからな』
『そうなんですよね〜、俺は全部知ってるのに』
『犯人見つけてくれるな?』
『アヤカを傷つけたやつですからね。必ず見つけますよ。でもアヤカには俺は何も知らないって事でお願いします。心配かけさせたくないんで』
『わかっているよ』
『あの3人の誰かか…まぁ楽しい旅になりそうです』
ジョーはそう言いリムジンを降りた。
『皆に会うまでに風俗行っとこう』
街に消えていくジョー ーー
アマリローー
アマリロ。ルート66の大きな看板も見える洒落た田舎町。夜BARで飲んでいるジョーとあきのり。落ち着いた雰囲気のR&Bが流れていて上品な店だ。
『じゃあお前もアメリカ初じゃなかったの?』
あきのりがビールを飲み干して尋ねた。
『いや、初だよ。ニックが日本に来たときに会った事があるんだよ、ニックは日本語喋れるしな』
『俺はジョーが何か企んでると思ってたよ。だって急にアメリカ集合だもんな』
『いやいや、旅が1番の目的さ』
ジョーもビールを飲み干した。
『じゃあ締めにしますか?マスター、ジンライム2つ』
あきのりが英語で頼むとマスターが言った。
『同じジンとライムでもシェイクすれざ違うカクテルになるんだ。ギムレットって言うんだが、飲んでみるかい?』
ジョーとあきのりは互いを見て笑った。
『前にもどっかでそれ言われたよな』
『あぁシカゴでな。でも悪いけどシェイクは今はごめんだな』
『振りに振られてここまで来たもんな!まろやかで甘酸っぱかった』
2人は笑っている。マスターは不思議そうに2人を見ていた。
『マスタージンライムで!』
2人がそういうとマスターは笑顔でグラスにジンを注いだ。
『やっぱり酒は…』
2人がそろって言った。
『ロックが好きだ!』
『酔える方がいい!』
それぞれ違う意見だが2人は相変わらずと言った表情で笑った。
『ジョーくんあっくん!』
するとゆうやが慌てて入ってきた。
『なんだよ!ギムレットはごめんだぞ!』
ジョーがそういうと、もう一人ドアから入ってきた。
『アヤカ!』
アヤカは入ってくるなり3人に謝り、感謝した。
『本当にありがとう』
『なぁ、アヤカ…一緒に行くかサンタモニカまで』
ジョーはアヤカにそう言った。ストリップ場以来だからか少し気まずそうに。
『うん!』
夜はふけていき陽はまた昇る。4人を乗せた赤色の初代マスタングがサンタモニカを目指してルート66を進む。 これからはのんびりとした旅になるだろう。パンチが効きすぎない旅になるのを祈るばかりだーー
ジンライム